水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十二回)

2012年01月21日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十二回
「おお君か! もう来るだろうと思ってな。まだ六時半だから、今日はゆっくりしてるよ」
 上山はそう云って、ミルクの入ったマグカップを、ひと口、啜(すす)った。
『あの…、もういいんでしょうか?』
 恐る恐る、幽霊平林は訊(たず)ねた。
「ははは…、そんなに気を使わなくたっていいよ。云ってくれ」
『はい、それじゃ。寝室で話した続きなんですが、人は武力では食べられない、と霊界番人様が仰せのところでしたね』
「ああ、そうだったな。じゃあ、すべてのCO2排出物を止める前に、というより、そういうことより先に何をすりゃいいんだ? ってことになる」
『はあ…。それを課長と考えないと、と僕には思えたんですよ』
「だろうな…。話が抽象的過ぎだからなあ」
「はい…」
 二人は溜息(ためいき)をついた。
『独裁者連中の発想転換でいきましょう!』
 急に明るい声を出し、幽霊平林が陰気に云い放った。
「んっ?! どういうことだ?」
『だから、僕が調べた霊界万(よろず)集に載っていた独裁的国家の指導者連中二十名ほどへの念力ですよ』
「その二十ほどの独裁国家のトップを洗脳するってことか?」
『洗脳? じゃあないんですが、まあ、結論は、そういうことです。彼等の発想を変えさせるんですよ、如意の筆の荘厳な霊力で…』
「出来るんなら、それに越したことはない。是非、やってくれ、君」
『はい。じゃあ、もう一度、それらの独裁国家と思われるリストと指導者をピックアップしましょう。どうします? これからだと、ちょいと無理、でしょうから…』
「そうだな、私は今日、仕事だから、夕方にでもまた、現れてくれ」
 上山は腕を見て云った。時計の針は七時前を指していた。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十一回)

2012年01月20日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十一回
『いえ、それが、そうでもないんです。僕も初めは、そう思えたんですが…』
「違うってことでもないのか?」
『ええ、そこはそれ、霊界のトップが仰せのことですから、それなりに意味があろうかと…』
「それを、この朝早くから云いに現れたのか?」
『はい、僕も今一、意味が分からないもので、それを課長と考えようと、ご相談を…』
「そんなことを朝っぱらから考えさせるなよ!」
 上山は少し怒れた。
『はあ…。もう一度、出直しましょうか?』
「いや、せっかく現れてくれたんだから、適当に待っててくれりゃいいけどな。今は寝起きだから、脳が活性してないからさ」
『ああ、そりゃそうですね。一時間ほど漂ってます』
「いや、二、三〇分も待ってくれりゃいい。もう、そんなに眠くないから、少し早いが起きるか…」
 そう云うと、上山はベッドから出て、着替え始めた。出勤前に来ているいつものラフな格好に、である。幽霊平林は、それを見ながらスゥ~っと透過して応接室へ入った。むろん、六時過ぎだから、室内は暗い。幸い、窓の採光があるから、次第に室内は明るくなっていた。二、三〇分という感覚はファジーで、飽くまでも大よそである。幽霊平林に幸い、待つという行為が生前のようにイラついたり辛くなることはなかったから、別段、苦にならなかった。その大よその二、三〇分が経った頃、ふたたび幽霊平林は透過した。今、上山がどこにいるかは、これも大よそ分かっているから、そうと思える洗面台方面へと透過した。しかし、上山の姿は、もうなかった。蛇口から出た水跡が洗面台に残っているのに気づき、厨房(キッチン)へ行った後か…と、幽霊平林は思った。案の定、上山は厨房のテーブル椅子に、レンジで温めたミルクを飲みながら座っていた。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十回)

2012年01月19日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十回
 上山の家の構造は、何度も現れているから頭の中に刻まれている。闇夜だろうと何だろうと、幽霊平林が迷うことはない。…、まあ、今の平林は、幽霊平林として、ある意味で迷うことは迷っているのだが、その意味の迷いではない。
 さて、幽霊平林が上山の寝室へと透過すると、やはり上山は寝息を掻いて爆睡中であった。スゥ~っと近づいて、幽霊平林は上山のベッドの真上で声をかける間合いを探った。
『課長! 課長! 僕です…』
「… … んっ? … …」
『課長! 起きて下さいよ!』
「… … なんだ、君か…」
 眠そうに目を擦(こす)りながら、上山は半身を起こした。
『早朝から、すみません!』
「なんだ? 急ぎの用か?」
『いえ、そんな訳でもないんですが…』
「だったら、こんな早くなくったって…」
 不平を露(あらわ)にして上山は云った。
『はあ…。この前、といっても昨日のことですが…。さっそく、霊界の専門家に訊(き)いてきましたので、お伝えしようと思いまして…』
「ああ、昨日、云ってたことか…。そんなに急ぐことでもなかったんだが…。まあ、いい」
『そのままで結構ですから、お聞き下さい』
「ああ、分かった。…六時前じゃないか」
 上山はベッドの置時計を見ながら、ボソッと吐いた。
『霊界番人様の仰せでは、人は武力では食べられない、ということでした』
「なんだ、それは? 私が訊き)いてくれといった内容とは、まったく違うじゃないか…」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九回)

2012年01月18日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第九回
『…、食物は作らねば、と云われますか?』
『そうよ。それが本来、そなた達が生前、経済と呼びおる基(もとい)よ! 分かるか!』
 霊界番人の荘厳な声に、諭(さと)すような優しさが加わった。とはいえ、幽霊平林にしては、霊界番人が云ったことが余りに抽象的で、さっぱり分からなかった。禅問答ではなく、霊界番人は飽くまでヒントとなる暗示を幽霊平林に与えたのだった。
『ではのう…。励めよ!』
 霊界番人の声が途絶えると、光輪は導きの光線上を静かに昇っていった。そして、その光線は下方より少しずつ消え失せた。
『人は武力では食べられないか…』
 食べられなければ、生活は出来ない。それは道理に適(かな)った話で、ちっとも間違っているようには思えない。しかし、そうだとして、自分と上山がどうすればいいのか、までは幽霊平林には分からない。そうだ! ともかく、この話を課長に報告して、今後の策を練ろう…と、幽霊平林は考えた。
 人間界へパッ! と現れた幽霊平林が辺りを見回すと、外は、薄っすらと早暁の兆(きざ)しが空を染め始めた頃で、人々は、まだ寝静まっていた。慌(あわ)てたためか、幽霊平林が現われたのは上山の家の屋根上で、ギコギコと自転車を繰る新聞配達の少年が垣間見えた。幽霊平林は一瞬、しまった! と思った。慌てて現れたのが運の尽(つ)きで、うっかり、霊水瓶(がめ)の計測を怠っていたからだ。当然、人間界の時間は想定出来るはずもない。そんなことで、幽霊平林は上山の家の屋根づたいをプカリプカリと漂いながら、上山を起こすべきか、はたと迷った。上山に熟睡中の真夜中は困るぞ、とは釘を刺されてはいたが、今はもう、白々と夜が明け染める早暁だった。
『思い切って、起こそうかな…』
 独(ひと)りごちて、幽霊平林はスゥ~っと家の中へと透過していった。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八回)

2012年01月17日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第八回
 ここは霊界である。上山と別れ、人間界へ戻った幽霊平林は、さっそく霊界番人を呼び出すことにした。人間界と違い、時間経過という煩(わずら)わしい流れがない霊界は、こんな場合には大層、便利だった。しかも睡眠という生理的な欲求もないから、呼び出したり、行ったり、買ったりするのが即座に出来て重宝なのだ。まあ、それはともかくとして、幽霊平林は霊界番人を呼び出そうとした。方法は以前、やっているから、同じ方法で出来ると踏んだのである。だから当然、如意の筆を手にすると、念じ始めた。そして、幽霊平林が軽く一、二度、如意の筆を振ると、どこからともなく光の筋が射し、幽霊平林の住処(すみか)を向け、光輪が下り来たった。紛(まぎ)れもなく霊界番人様だ…と、幽霊平林はその光輪を見て思った。
『おお! そなたか。また、儂(わし)を呼びおったな。呼ばれるのは別に構わぬが、用もなく呼び出されては困るぞよ! 儂は相変わらず忙しいでな。…して、今度(こたび)は、いかがした?』
 霊界番人の荘厳な声が響いた。
『はい。実は僕、いや、この私めと、上司である上山の二人で、番人様が仰せになった社会悪をなくそうと、日々、努力していたのでございますが、今現在、つまらないことで壁に突き当っておるのでございます』
『…そなたが云っておることは、大よそ見当がつく。社会悪をなくせ、とは申したが、それは飽くまでも霊界司様のお云いつけを儂(わし)がそなたに伝えただけなのじゃ。儂個人としては、余りに漠然としておる故、そなたらが孰(いず)れ限界に至るであろうことは疾(と)うに分かっておったわ。で、詳しく申さば、どのようなことに突き当って悩みおるのじゃ?』
 霊界番人の言葉は、いっそう荘厳さを増した。
『と、云われますと、なにか手立てがあると?』
『あることはある。が、細やかなことまでは霊界の決めで云えぬ。それは、そなたと上司の考えることじゃからのう。ひとつ云えるとすれば、人は武力では食えぬ、ということじゃ』


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七回)

2012年01月16日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第七回
「ああ…。まあ、死んでる君が悪く云われることはないだろうし、私にしても、まさかそんな夢のような力があるとは思われないだろうからな」
『そうでしたね。そんな心配より、念じる内容を考えましょうか?』
「いや、その前に、君にひと働きしてもらおう」
『働くって、なにをするんです?』
「この辺りで君の方の霊界司さん、いや、霊界番人さんに訊ねてみちゃどうだろう」
『あっ! なるほど。元々、僕と課長に命じたのは、あの方達ですから』
「そういうことだ。ちょうど、この辺で経過報告をせにゃならんだろうし、ついでに訊(き)いてさ、さらに、そのついでに、な」
『そりゃいいアイデアです。分からなければ、専門家に訊きゃいいんですよね』
「ははは…専門家はいい! 上手い例(たと)えだ」
『いやあ~、冗談は抜きにして、そうしましょう』
 幽霊平林は決まりポーズを崩して、片手でボリボリと頭を掻いた。その姿を見て、上山は様にならない幽霊姿だ…と、笑いを堪(こら)えて思った。
「それじゃさっそく、アチラへ戻って訊いてくれ」
『分かりました。それじゃ…』
「あっ! 今度は、いつ現れてくれてもいいぞ。…とはいえ、熟睡中の真夜中は困るがな」
 上山は消えようとする幽霊平林を呼び止めて云った。
『はい。なるべく、ご帰宅されてからにします。霊界にいても、ある程度、こちらの時間が分かる工夫をしましたから…』
「ほう…。やはり田丸工業の元キャリア組だけのことはあるな!」
『いやあ…』
 照れを隠すように幽霊平林は、はにかみながら、格好よく消え失せた。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第六回)

2012年01月15日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第六回
『僕だって同じですよ、課長。念じてはいますが、今度は事が事だけに…』
「だよな。君と私が地球上で走る車やら工場の煙突から出る煙、原油の噴き出しで昇る油井炎なんかすべてを止めるんだからな!」
 上山は興奮ぎみに云った。幽霊平林はそれには答えず、無言で頷(うなず)いた。
『事がなったとして、果してそれで僕と課長は正義の味方になったんでしょうか?』
「いや、それは…」
 上山は口籠った。確かに地球温暖化を促進する温室効果ガスの発生は消滅するだろう。だが、それだけで、人類が、いや地球上のすべての生物が絶滅することなく幸せになれるんだろうか…と、上山には思えたのである。
『まあ、そんなシビアに考えず、とにかくやってみますか?』
「いや、待て! 確かに君が云うとおり、事がなったとして、それイコール人類が救われる、とは限らんな。当然、世界の産業生産は衰退するし、世界の経済や金融が極端に疲弊するのは必然だ。結果、人々の暮らしは貧困を余儀なくされるだろう」
『発想がネガティブになりますけど、確かにそうですよね。その策とか手立てを考えないと、僕と課長は正義の味方どころか、人類の敵になってしまいます』
「ああ…。すでに軍事産業に壊滅的打撃を与えたからなあ…。そのことも、この先、どうなるのか私達には分かっていない」
『ええ…。影響を与えた以上、マイナス効果が生じるようなら、その対応をせねばなりません』
 いつになくトーンを下げ、学者のような口調で幽霊平林は云った。
「私には分からんよ…」
『どうします?』
「どうしますって、それが分からんから弱ってんじゃないか」
「課長と僕が世界を悪くした、ってなりゃ困りますしねえ」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第五回)

2012年01月14日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第五回
『そりゃ、まあ、そうですが…』
 幽霊平林も釣られて、陰気に笑った。
「で、どうしようか?」
『どうしようかって、僕に訊(き)かれても…。そこは、課長がリーダーシップをとって下さいよ』
「ん~っ! …じゃあ、まず二つの部分に分けよう」
『どういう風にです?』
「CO2を排出している物と、過大に排出したり、そういう物を製造する企業のメンタル面だ」
『発生物と企業心理ですか?』
「ああ…」
 上山は徐(おもむろ)に頷(うなず)いた。二人は、いつもの要領で念じる内容を詰めていった。その纏(まと)めが完成したのは十日ばかり先である。そして、上山の家で幽霊平林が念じることになった。
『課長! 霊界での訓練で随分、この精度は高まりました』
 幽霊平林は胸元から如意の筆を引き抜くと、上山の前へ示して云った。
「ああ、そうか…。しかし、私は、よすよ。国連ビルの上の悪夢がトラウマになってるからな」
『すみません…。あの時は、ご迷惑をおかけしました。でも、もう心配ないです。ここからでも念じられますから…』
『そうだったな。如意の筆の霊力は絶大だった…』
 上山は、ほっとしたように湯呑(ゆのみ)の茶を啜(すす)った。その姿を見ながら、幽霊平林は無言で両瞼(まぶた)を静かに閉じ、念じ始めた。そして終わるや、いつもの仕草でニ、三度、如意の筆を軽く振った。
『今日は、企業のメンタル面を浄化しました。これで、自己反省する経営陣で溢(あふ)れ返ることでしょう。次回は排出物の停止でしたね。これは全世界にかなりの衝撃が走るはずです。なにせ、車とか、一切の温室効果ガスが一瞬にして止まるんですから』
「いやあ~。私には、まだそのことが信じられんのだよ、君。いくら荘厳な霊力といったって、一瞬にして科学を否定する事態を起こすしなあ…」
 上山は怪訝(けげん)な表情で幽霊平林に云った。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第四回)

2012年01月13日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第四回
『皆さん、よい意味で発想がアグレッシブになったってことですね』
「ああ…、ポジティブ思考へ発想を変えさせるんだから、その霊力は大したもんだ」
 上山は、幽霊平林の胸元を指さして云った。如意の筆はピカリピカリと金色に光り輝いて眩(まばゆ)い。
『そうなると、人類は一歩前進したことになります』
「ああ、霊力が一過性のものじゃなければな…。いつやら従兄弟が云ってたからさ。人類の歴史は戦争の歴史だと…。まっ! ひとまず争いごとはこれでいいと…。次は地球環境の早急な是正だ」
『コップでも、何やら各国の思惑が違ってモメてましたからねえ』
「ああ…。コップでもグラスでも、
いいんだがな」
『課長! 上手い!』
「ははは…冗談云ってる場合じゃないんだが…」
『地球温暖化防止っていいますけど、二酸化炭素の排出量を減らしても、根本的な解決にはなりませんよね』
「ああ…。世界中の車は、今の段階でも相変わらず化石燃料でCO2を撒き散らしてるしな」
『ええ…。霊界では霊達が飛び交ってますが、車は走ってないですから…』
「ははは…上手い! そうきたか。今度は私がやられたよ」
『いやあ、冗談云った訳じゃないんですが…』
 幽霊平林は幽霊お決まりのポーズを崩し、片手でボリボリと頭を掻いた。
「雑談はこれくらいにして、さて、目に見えない温室効果ガス問題をどうするかだ…」
 上山が両腕を組んで考え始めると、幽霊平林も追随して腕を組んで従った。その姿を見た上山は、思わずニタリとした。
『また、ノートに書かれますか?』
「ああ、これは大きな問題だからな。コツコツと原因を紐解いて、解決の手立てを講じよう」
『はい! 念じるのは僕に任せて下さい』
「任せるって、私は念じられんからな、ははは…、無論だ」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三回)

2012年01月12日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第三回
 幽霊平林が云ったとおり、念力の結果がでたのは、その二日後だった。マスコミ各紙は世界各地で生じている紛争の消滅と、国連で武器売却禁止条約がすべての国々の賛成で批准されたことを伝えていた。普通では百パーセント起こり得ない事態で、各国が利害から解き放たれ、地球規模の平和を模索する動きが、わずか二日で条約の批准まで進んだのだ。それを可能にしたのは、如意の筆の荘厳な霊力によるもの以外、考えようもなかった。
 上山は幽霊平林を居間へ呼び出していた。卓袱台(ちゃぶだい)の上には、武器売却禁止条約の批准を報じる大見出しが掲載されていた。
「こんな時間に申し訳ない…」
『いやあ、僕に夜昼は関係ないですから…』
 幽霊平林は陰気にニタリと笑った。辺りは、すでに夕闇が迫っていた。冬場だから日没も、かなり早い。五時前だというのに、もう暗闇のベールが辺りを覆っていた。上山は勤務を終え、帰宅したところだった。実は、朝刊を手にした時点で気になっていたのだが、お得意先との重要な会合があり、どうしても幽霊平林を呼び出せなかったのである。
「これだよ!」
 上山は、幽霊平林の目前に新聞を広げて差し出した。
『うわぁ~! 効果があったようですね』
「あったって、君ね、こりゃ想定外だよ!」
『荘厳な霊力って絶大なんですねぇ~』
「ああ、まあよかったよ。武器輸出禁止条約が、わずか二日で、だよ!」


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