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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [37]

2023年02月18日 00時00分00秒 | #小説

「そうなんだよ。お堅いのはいいが、良(よ)し悪(わる)しでね…」
『ところで、今日、お伺いしたのは、他でもない、僕達ウイルスの話なんですが…』
「いや、実は僕の方も今度、夢で逢ったら訊(たず)ねてみようと思っていたところなんだよ」
『なんでしょう?』
「いや、僕はあとでいいから、君の話から聞こう」
『そうですかぁ~? それじや僕の方から…。実は、所長の蛸山さんと二人で開発された治験中のモレヌグッピーなんですが…』
「ああ、所長が抗生物質的で一過性のような気がすると弱腰の経口治療薬かい?」
「はい、そうなんです。そのモレヌグッピーなんですが、もう一(ひと)工夫、加えていただければ、かなり有効なんじゃないかと思いましてね』
「… The reason why?」
『おっ? 英語で来ましたねっ!』
「少しは学のあるところを、君にも見せておかないとね」
『ははは…国立研究所勤務の学者さんなんですから、学のあるのは十分、分かってますよっ!』
「ははは…冗談はさておいて、その理由なんだが?」
『実は治験中の僕の友人が、いいところまではいってるけど、少し違うかな…って言ってましたので』
「いいところまでいってるって?」
『はい、…だ、そうです』
「方向性は間違ってないんだね」
『ええ、惜しい…っていう話です。100点満点の95点くらいだそうですよ』
「少し違うのか…。ソレが何かっていうことだね?」
『はい。ソレはお二人の今後の研究次第ってことになる訳ですが…』
「君からカクカクシカジカとは言えないんだ」
『はい、僕から言えるのは、飽くまでもヒントです。僕達の仲間には、相当悪いのが一杯いますからね…』
「これ以上言えば、君にも害が及ぶと?」
『ええ、まあそんなところです』
 レンちゃんは、数少ない、いいウイルスなのである。

                   続


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SFユーモア医学小説 ウイルス [36]

2023年02月17日 00時00分00秒 | #小説

「それはそうと、話を戻(もど)しますが、所長のお隣(となり)の奥さんの旦那さんの親戚の犬なんですが、チワワでしたっけ?」
「ははは…よくは知らんが、そうらしいな」
 海老尾は、知らんのかいっ! と思ったが、暈(ぼか)して愛想笑いした。
 その日の夜、眠りについた海老尾は夢を見た。例のウイルス、レンちゃんだった。
『お久しぶりです…』
「んっ!? ああ、レンちゃんか…」
 海老尾は夢を見ていた。見てはいたが、その映像は今、寝ているベッドの中に違いなかった。現実の海老尾は夢を見て眠っているのだが、夢の中の海老尾はベッドに上半身を起こした。寝室の暗闇の空間を朧気(おぼろげ)に漂う薄明るい存在、その存在から発せられるテレパシーで海老尾とウイルスは会話していた。
『所長の複雑な関係の犬が捻挫(ねんざ)したそうですねっ?』
「ははは…よく知ってるじゃないか」
『そりろゃそうですよ。僕はあなたの夢の中のウイルスなんですから』
「ああ、そうだったな…」
『ところで、小難しい話はさて置いて、研究は進んでられるんですかっ?』
「ああ、まあな…。鳴かず飛ばず、ってとこだよ」
『余り進んでないんですね?』
「いや、進むことは進んでるんだ。ただ、組織がお役所仕事だから、認められるまでが大変なんだよ」
『分かります。お役所は民間と違って融通が利きませんからねぇ~』
 レンちゃんは相槌(あいづち)を入れた。

                   続


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SFユーモア医学小説 ウイルス [35]

2023年02月16日 00時00分00秒 | #小説

 数日後の研究所である。
「治療してくれたらしいね? 有り難う」
「僕が治療した訳じゃないですから、所長…」
「ああ、赤鯛君だったね。まあ、君の根回しのお蔭でもあるんだから、礼は言っておかんとな…」
「その後、どうですか?」
「ああ、少しよくなったそうだよ。まだ、ぴっこを引いてるそうだが、歩けることは歩けるそうだ」
「ははは…それにしても、飼い主じゃなく犬が捻挫(ねんざ)とは…」
「ははは…世の中ってのは、そうしたもんだよ、海老尾君!」
「瓢箪から駒・・って言いますからねっ!」
「そうそう! 瓢箪から駒・・これが発明、発見の元ということさ。既成概念にとらわれちゃいかん!」
「AIにお伺いを立てる時代ですからねっ!」
「よく考えてごらん。AIをプログラムしたのは人、AIにデータを集積させたのも人なんだ。そのデータがもし、ごく僅(わず)かでも間違っていたら、どうなる?」
「AIは無限大に先を読みますから、誤差極限に達しますよね」
「そうだっ! で、間違ったAIが出した結果を、人が鵜呑みして信じる」
「参考にするだけならいいですが、信じて、その通りにしますよね…」
「そうっ! 世の中はとんでもない間違った方向へ進むってことさ」
「人が機械を作ったんですからねっ!」
「私達は生存しようと強(したた)かに変異するウイルスに学ばねばならんのだよ」
「人間自身で試行錯誤するってことですねっ?」
「そうそう! 君も分かるようになってきたな…」
 蛸山に褒(ほ)められた海老尾は、少し自慢げな顔をした。

                   続


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SFユーモア医学小説 ウイルス [34]

2023年02月15日 00時00分00秒 | #小説

 「リンゴ三個とは、ははは…笑わせるねぇ~」
 赤鯛は、このことを海老尾に言ったものかどうかと思わず苦笑いした。
 その頃、海老尾は行きつけのレストラン・ロプスターでいつもの日替わり定食を食べていた。照らされた店の中庭に映える色づいた紅葉を愛でながら、もうこんな季節か…と一年の過ぎ去る早さを海老尾は芸術家のように思った。その途端、ナイフで切ってフォークで刺したはずのステーキの一片がフロアーへ落ちた。海老尾は辺りに人の気配がないのを確認すると、フロアーへ落ちたステーキの一片を素早く突き刺し、モグモグと口に放り込もうとした。そのとき、マナーモードにしておいた携帯が,ブレザーの内ポケットで激しく振動した。赤鯛からだった。
『俺だ…』
「ああ、どうだった…」
『行っといたよ。今、帰りの地下鉄の前だ…』
「そうか、有難う。これで所長への顔が立った。孰(いず)れ、礼はさせてもらうよ…」
『礼はいい。ははは…』
「どうした?」
『いや、なんでもない。ははは…』
 赤鯛の携帯から聞こえる笑い声が海老尾には訝(いぶか)しかった。
「じゃ~なっ! 今、ロプスターで食ってる最中だ…」
『悪かったな。一応、連絡しておこうと思ってな…』
「いや、有難う。明日、研究所で…」
『ああ…』
 赤鯛の携帯が切れたのを確認し、海老尾はフロアーへ落ちたステーキの一片をモグモグと口に放り込んだ。すっかり冷えていた。

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SFユーモア医学小説 ウイルス [33]

2023年02月14日 00時00分00秒 | #小説

 海老尾が蛸山から聞いたややこしい関係[蛸山所長の隣の奥さんの旦那さんの親戚]の家を赤鯛が治療に出向いたのは、その二日後だった。
「あの…蛸山所長からお聞きして来ました赤鯛と申します」
「ああ、獣医さんのっ!」
「はあ、まあ…。今は研究所の所員なんですが…」
「態々(わざわざ)来ていただいて恐縮ですわ、ほほほ…」
 赤鯛は、ほほほ…は余計だろう…とは思ったが、口には出来ず愛想笑いでスルーした。
「ワンちゃんが散歩中に捻挫(ねんざ)されたんでしたね、確か…」
「はい、この子ですのよ、ほほほ…」
 よく見れば、とても捻挫しそうにないチワワだった。
「どれどれ…」
 赤鯛は包帯を巻かれたチワワの右前足を目視した。
「ああ、この程度でしたら、私が来るほどのこともなかったですね…。ギブスは必要ありません。固定治療と念のため、痛み止めをお出ししましょう」
「有り難うございます、助かりますわ、ほほほ…」
「はあ…」
 また、ほほほ…かよ…と、赤鯛は、ふたたび思った。
「あの…治療費は、いかほど?」
「いえいえ、そんなものは頂戴できません。私、これでも研究所勤めの公務員ですから…」
「あら、そうでしたわ。失礼しました…」
 帰り際(ぎわ)、赤鯛は、ややこしい関係[蛸山所長の隣の奥さんの旦那さんの親戚]の家の奥さんから手渡されたリンゴ三個入りの袋を手に帰り路についた。

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SFユーモア医学小説 ウイルス [32]

2023年02月13日 00時00分00秒 | #小説

「ややこしい話だな…」
 赤鯛は鬱陶(うっとう)しそうに、少し赤い顔になった。
「その親戚の犬が散歩の途中で捻挫(ねんざ)したそうだ…」
「ははは…犬が捻挫したのか?」
 赤鯛は鬱陶(うっとう)しそうな顔をした。
「ああ、人じゃなく犬が、だっ」
「それで?」
「ここまで言えば、お前にも分かるだろうが!」
「俺に治療依頼か…」
「まあ、そういうところだ」
「近くに動物病院があるだろうがっ!?」
「そりゃ、あるんだろうが、そこがお隣の奥さんの浅はかなところだ。どういう訳か、お隣りの所長が浮かんだんだろう…」
「所長は国立微生物感染症化学研究所だぜ。犬の捻挫が治せるとっ!?」
「浅はかだから、早口言葉のように覚えていたのが、ふと浮かんだんだろう」
「なるほどっ! で、希望日はいつだ?」
「出来れば数日以内って言っておられた…」
「よしっ! なんとかしよう」
 赤鯛は獣医師の厳(おごそ)かな声で、格好よく頷(うなず)いた。

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SFユーモア医学小説 ウイルス [31]

2023年02月12日 00時00分00秒 | #小説

 海老尾は仕事帰りに赤鯛へ携帯をかけた。
『ああ、分かった。もうすぐ終わるから、エントランスで待っていてくれ。10分ほどで行くから…』
 海老尾はエントランスの椅子に座り、赤鯛を待つことにした。よく見るセキュリティ会社の警備員、平目(ひらめ)が愛想よい笑顔で海老尾に一礼する。平目は常駐らしく、週に二、三度は必ず見る警備員だった。
「誰か、お待ちですか?」
「ちょっと、友人を…」
「さよ、ですか…」
 それ以上、平目は訊(き)かなかった。
 しばらくして、赤鯛が早足でエントランスへ出てきた。
「すまん、すまん! 待たせたな」
「いや、なに…」
 二人は話しながら研究所を出た。
「で、話というのは?」
「実は所長の頼みで、お前にひと肌、脱いでもらいたいんだ」
「ひと肌でもふた肌でも脱ぐが、いったいなんだ?」
「いや、そう言われると、どうも切り出しにくいんだが…。所長も頼まれたらしい」
「誰に?」
 赤鯛は鬱陶(うっとう)しそうな顔をした。
「隣の家の奥さんだそうだ…」
「で!?」
「正確には、隣の奥さんの旦那さんの親戚なんだが…」

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SFユーモア医学小説 ウイルス [30]

2023年02月11日 00時00分00秒 | #小説

「仕方なく風呂から上がって、隣の奥さんの話を聞かされる破目に陥(おちい)った・・という訳さ」
「その奥さんの親戚ですか?」
「いや、旦那さんの親戚らしいんだ…」
 益々、ややこしいじゃないかっ! と海老尾は少し怒れた。話をもっとコンパクトに纏(まと)めてくれっ! とでも言いたい気分である。
「旦那さんの親戚の犬ですか?」
「ああ、その家の犬が、数日前、捻挫(ねんざ)したってさっ!」
「犬が捻挫ですか!っ?」
「ああ、散歩の途中で捻挫したそうだ…」
「それで赤鯛に?」
 弱い犬だな…と海老尾は思わず笑いそうになり、グッと堪(こら)えた。
「ああ、診てもらおうと思ってね」
「で、僕から話を?」
「ああ、紹介してもらえると有難いんだが…」
「いいですよっ! ヤツの都合次第ですが、話してみてみましょう」
「有り難う、宜(よろ)しく頼むよ」
「はいっ!」
 海老尾は快(こころよ)く引き受けた。
「私も、とんだ災難だよ、近所というだけでさっ!」
 海老尾は、僕の方が災難ですっ! と内心で思ったが、そうとも言えず、笑って暈(ぼか)した。
「数日以内に頼みたいそうだ…」
「分かりました…」
 海老尾は、すぐに動物病院へ連れてった方が…と、思った。加えて、犬が可愛そうだろっ! と怒れた。

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SFユーモア医学小説 ウイルス [29]

2023年02月10日 00時00分00秒 | #小説

「僕のような者が所長の傍(そば)で研究させていただけるだけ有難いです…」
「ははは…そこまで恐縮することはないよ、海老尾君」
「いえ、所長に拾っていただけなかったら、僕は今でも大学の一講師のままでしたから…」
「まあ、それは、そうだが…」
 否定せんのかいっ! と海老尾は少し怒れたが、事実なのだから仕方がないか…と諦(あきら)めた。テンションが下がらないのは、SF紛(まが)いの現実に遭遇したからだった。そのことを所長は知らない。そう思えば、むしろ北叟笑(ほくそえ)みたいくらいだった。
「それはそうと、赤鯛君は君と大学が同じだったよね?」
「はい、同期の友人です。それが何か…?」
「獣医科学部と聞いたが…」
「はい、元々は獣医師です」
「いや、実は家(うち)の隣の家(いえ)の親戚のポチの様子が少し怪(おか)しいんだ…」
「所長の家の、隣の家の親戚の犬ですか? 複雑な話ですね…」
 海老尾は思わずニヤけた。
「ああ…昨日は日曜だったろ?」
「はあ…」
「ゆっくり寛(くつろ)ごうといい湯加減のバスに浸かっていたら突然、隣の奥さんが飛び込んできたんだ」
「はあ…」
 海老尾は、完全に聞く人になっていた。
「家内が『あなた、ちょっと!』って、声をかけてさ…」
「はあ…」
「ゆっくり浸かってる訳にもいかんじゃないか…」
「はあ…」

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SFユーモア医学小説 ウイルス [28]

2023年02月09日 00時00分00秒 | #小説

 次の日、海老尾は、いつもの研究所で研究に奮闘していた。レンちゃんに出逢った昨日までの研究姿勢とは違い、意識はしていないのだが気分がアグレッシブになっていた。
「どうしたんだ、海老尾君? 何かいいことでもあったのか?」
 蛸山が海老尾の雰囲気の違いを、つぶさに察知して訊(たず)ねた。
「えっ!? 僕、どこか違いますか?」
 海老尾はギクッ! として一瞬、暈(ぼか)した。暈しはしたが、レンちゃんのことを気づかれたんだろうか…と気がかりでならない。よくよく考えれば、そんなことがある訳もないから、しばらくして、ひとまずは安心した。すぐ安心するのが普通人だから、海老尾は、まあ、そういう男なのである。
 朝が過ぎ、昼がいつものように過ぎて夕方が近づいていた。
「海老尾君! 操作の方は明日にして、今日はこの辺にしよう…」
 珍しく、蛸山の方からチャイムが鳴る前に声がかかった。いつもは、海老尾が、かけるのである。それも、チャイムが鳴ったあと、遠慮気味に、である。それが、今日は蛸山からだ。
「は、はいっ!」
 海老尾は即答したが、少し訝(いぶか)しかった。
「実は、私の研究が論文として世界へ紹介される運びになったんだ。こんなことを自分から言うのはなんだが、我ながら少し嬉(うれ)しくてね、ははは…」
「そりゃ、すごいじゃないですかっ! 所長、おめでとうございますっ!」
「んっ! ありがとう…。まあ、君の一助もあっての論文なんだがね」
「いや、僕は何も…」
「そうなんだよ。何もしてくれてないんだが、ちゃんと私と一緒に研究してくれたからね…」
 蛸山が軽く言った。海老尾としては、そんな言い方はないでしょ! と不満に思えたが、とても口に出来ない。それも、研究所で蛸山の研究を手助けしていただけなのは確かだった。

                   続


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