御機嫌よう、読者諸賢。ハウリンメガネである。
ヤブから棒だが、
ホンダの軽自動車「Z」をご存知だろうか。
1998年に発売された車だ。そしてそのCMはこうだ。
「Z!Z!Z!」という掛け声とともに画面に映し出されたるは岩だらけの砂地を駆け抜ける車と、お揃いのZシェイプのギター&ベースを抱えたサンタクロース髭にグラサンの男二人。そして聴こえてくるのは映像と見事にマッチした骨太すぎるブギーロック!
これがテキサスが誇るパワートリオ、ZZトップと私の邂逅である。
そして、そのZZトップのベーシスト、
ダスティ・ヒルが亡くなったというニュースが流れたのは
チャーリー・ワッツの死去が伝わる少し前のことだ。
ビリー・ギボンズ(g,vo)
ダスティ・ヒル(b,vo)
フランク・ベアード(dr)
という不動のラインナップのまま、
一度のメンバーチェンジもなく1969年から50年以上走り続けたZZトップ。
80年代の「エリミネーター」、「アフターバーナー」
に代表されるブギーロックにシンセサイザーを導入したサウンドや
MTVで流れたコミカルなPVが有名な彼らだが、
元々はマディ・ウォーターズやボ・ディドリーから直接薫陶を受けた
筋金入りのルーツミュージックガイズであり
その実力が演奏、パフォーマンスともに発揮されるのはやはりライブ!
(そもそもZZトップという名前はB.B.キングとZZヒルにヒントを得て命名されたことをお忘れなく!)
今回はダスティを悼み、彼らの魅力が満載のDVD、
「Mescalero in New Jersey」
(2003年に行われたツアーのライブ・ブート)
を観ながらZZトップの魅力に触れていこう。
ビリーはグレッチのサンダーバード
(ボ・ディドリーの特注モデル!なんとビリーはそのオリジナル個体をボから譲り受けているが、ステージで使っているのは自身でグレッチにオーダーしたリシュー。近年では彼のトレードマークになっている)
を、ダスティはフェンダーのオリジナルプレシジョンベースを手に
ステージへ登場!
(現在、一般にプレシジョンベースと呼ばれるベースはこのオリジナルプレシジョンをブラッシュアップした二代目プレシジョンベース。二代目もカッコいいが初代プレシジョンの無骨さはルックス、サウンドともにダスティに大変似合っている。なお個人的にオリジナルプレシジョンが似合うユーザといえば、スティングかダスティの二択であります)。
フランクの叩き出すシンプルかつタイトなビートに乗り、
分厚く歪んだビリーのギターと、ミドルの強いクランチでプレイされる
ダスティのベースが一丸となって奏でられる
「お得意のロッキンブギー」はまさにパワートリオの一つの到達点!
(クリームやエクスペリエンスの魅力が火花の散らし合いから生まれる奔放なグルーヴなら、ZZトップの魅力はブラザーフッドが生み出す一枚岩のグルーヴだ)
ベースという楽器はリズム隊として、
ドラムとのコンビネーションが重要なのはいうまでもないが、
それと同時に弦楽隊として、ギターともコンビネーションしていることを
決して忘れてはいけない。
(それ故にベースという楽器は難しいのだけど)
ビリーとダスティはまさに二人で一つ!
の弦楽隊として機能するようプレイしており、
その音は何故か私にレッド期のキング・クリムゾン・・・
そこでのジョン・ウェットンとフリップ先生のコンビネーションを思い出させる。
それはどういうことか。
時折、ギターとベースのどちらが出している音なのか分からなくなる・・・
そんな瞬間が訪れる、つまり、ギターとベースが互いに混ざり合い、
単なる「合奏」ではなく、「一つの楽器」として聴こえる瞬間、
これこそが「バンドサウンド」であり、ZZトップの魅力に他ならない。
そしてそれを試しているのは間違いなく
ビリーとダスティのコンビネーション!
それは演奏だけに留まらず、
例のステージでのパフォーマンスにも現れている。
特に「3.ウェイティン・フォー・ザ・バス」
での二人の動きを見てほしい。
脚運びからギター、ベースのネックの上げ下げ、
マイクへ向かうタイミングまで同じアクションを一分のズレもなく繰り出す!
(何故かこの動きを見ると笑えてしまう)
ライブの間二人は絶えず動いているが、
合わせ鏡の如く同じ動きをしたかと思えば
スッと相手の動線を避けたりと、
まさに長年の付き合いが生み出す円熟の芸である。
こういう動きにこそグルーヴは現れるのだ。
いやいや、冗談ではなく。
全く同じリズムで体を揺らすことがどれだけ難しいことか。
しかも彼らは笑いながらそれをこなしている。
このコンビネーションこそがゴキゲンなブギを鳴らし続けた
そんな「ZZサウンドのキモ」なのだ。
(歌のコンビネーションも良い。ビリーのハスキーな声に対してダスティは少し高めのトーンなのだが、この組み合わせが彼らの曲にいい具合の彩りを添えている。10.ではマディのキャットフィッシュ・ブルースが取り上げられているが、ダスティのメインボーカルがマディへのリスペクトを感じさせる歌い方でこれもまた良い)
ジェリーズ関係者であるDr.ユウタは
アメリカでビリーとダスティが揃って
二人でレストランに来たところに出くわしたことがあるという。
50年の付き合いを経て、プライベートでも行動を共にできる関係、
それはあまりにも稀有で尊いものだ。
大きすぎるものを失った彼らはそれでも活動を続けることを表明した。
(長年彼らのギターテックを勤めていたエルウッド・フランシスがベースを務めるとのこと。ダスティ自身の推薦だったらしいが死期を悟っていたのか……)
最後までZZトップのベースマンであり続けた
そんなダスティ・ヒルに拍手と冥福を。
そして走り続けることを決意したZZトップに幸多かれ!
《 ハウリンメガネ筆 》