夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ロシア・ウクライナ戦争:勝てないウクライナに、NATOの全面参戦が一歩手前まできた

2024-05-20 11:28:29 | 社会

ウクライナの戦死者の埋葬は、毎日続く(BBC)

 2024年5月、ロシア軍はウクライナ北東部の国境から進軍し、ハリコフ州北部の10以上の集落を占領した。ロシア軍は、ウクライナ東部のドンパス地域などでも攻勢を強めているが、さらに北東部でもウクライナ軍を圧倒し、進軍を続けていることを示している。ロシア・ウクライナ戦争は、全体として、ウクライナの劣勢が際立ち、ロシア軍は、じわじわと占領地域を拡大しつつある。
 このウクライナ軍劣勢の要因は、兵員不足と砲弾不足だとウクライナの軍部高官も認めている。それは、ロシアとウクライナの、徴兵のための人口と軍事産業の大きさにおいて、ロシア側が圧倒的に優位にあることことから、容易に想像がつく。そこで、「砲弾不足」つまり兵器・弾薬等の供給支援を強化すれば、二つの要因の内、一つは解決することになると考え、NATO諸国は軍事支援強化に力を入れ始めている。最近の、アメリカの長距離ミサイル供与のニュースなどがそれに当たる。

NATOの派兵論の増加
 しかし、2024年になってから、軍事支援だけでは、ロシアの攻勢を抑えられないのではないかという意見が出始めた。2月には、それまでロシアとの交渉を模索する姿勢を見せていたフランスのマクロン大統領が、「(NATO諸国の)地上軍派兵の選択を排除すべきでない」と発言したことが議論を呼んだ。これには、、NATOのストルテンベルグ事務総長やドイツのショルツ首相など多くのNATO諸国の首脳が即座に否定したが、このNATO諸国による直接的軍事介入論が、消え去ったわけではない。

 5月14日、元NATO欧州副最高司令官サー・リチャード・シレフ将軍(元英国陸軍上級将校)がBBC に「ウクライナの同盟国が十分に強化していない、西側諸国のウクライナ支援戦略には『根本的な転換』が必要だ」と述べた。ウクライナ軍の劣勢の理由に軍事支援の遅れが指摘されていることを念頭に、「 たとえ米国の援助がより早く到着したとしても、ウクライナに『自国を守るのに十分な量だけ』を与えるという戦略は機能しないだろう。」 そして、「最良の防御形態は攻撃である。」と言った。(BBC)
 NATOの最高司令官は、常に米軍将校なので、副司令官はヨーロッパ側の代表と言える。そのヨーロッパ側軍部の意見として、この発言は重要な意味を持つ。
 ウクライナへのNATO諸国の軍事支援は大部分をアメリカが占めており、米軍の軍事情報を駆使してウクライナ軍は戦っている。それが、アメリカの代理戦争と言われる理由の一つ(2014年以降のアメリカのウクライナでの政治的工作が最大の理由だが)なのだが、そのアメリカは、ドナルド・トランプを擁する共和党がウクライナ支援に懐疑的であり、そのためしばしば軍事支援の予算通過が遅れる。さらに、11月の大統領選でトランプが勝利すれば、ウクライナへの支援は後退するのは目に見えている。そのような情勢の中、この元英国陸軍将校は、「たとえ米国の援助がより早く到着したとしても、」ウクライナ軍が単独で勝てる見込みはなかったと言い、「支援戦略には『根本的な転換』が必要だ」というのである。
 また、英紙ガーディアンには、外交評論家のサイモン・ティスダルの「ウクライナを救えないNATOに実存的な疑問が湧く」と題したウクライナ戦争への積極的介入論が載った。(2024.5.19)
 ティスダルは、「NATOは最初からロシアの侵略を阻止するために断固として介入すべきであった 」と言うのである。そして「NATOは7月にウクライナの完全加盟を急ぐべきだ」と主張する。 ウクライナがNATOに加盟すれば、加盟国はウクライナ防衛の義務を負い、法的には、2022年2月のロシアの進攻前にロシア語に編入された地域も含め、ウクライナ全土に進駐するロシア軍に対し、NATO軍の攻撃が可能になる。
 さらに、アメリカの外交専門誌Foreign Affairsには「NATOではなく欧州はウクライナに軍隊を派遣すべきだ」という論考が掲載された。(2024.4.22)
 これら多くのNATOの直接介入論には、ティスダルが言うように、政治家は今のところ否定的だ。しかし、それでも、ウクライナ軍の劣勢は目に余るものがあり、今まで禁じていた長距離ミサイルや重火器の供与に積極的になり出している。また、NATOの供与した兵器のメンテナンス部隊や通信傍受部隊などの少数の軍関係者が、既にウクライナで活動していることは、西側メディアでも報道されている。政治家も、直接参戦の圧力に抗しきれない状況に陥っているのが実態なのである。

 NATOが兵器・弾薬の供与をいくら増やしたところで、ロシア側は完全に軍事優先経済を立脚し、軍事部門の製造を最優先にしているので、対抗する兵器・弾薬の供給を増加させる体制を整えている。NATOが支援を強化したところで、最も肝心なウクライナ軍の兵員不足は、補うことはできない。ウクライナ国民は、既に648人が国外に脱出し(2月18日時点 UNHCR)、開戦後2万人以上が、兵役拒否で国外へ逃れている(BBC 2023年11月)。
 このような状況下で、ウクライナが単独でロシア軍を排撃することなどできないのは、誰の目にも明らかになりつつある。
 それでも、ウクライナのゼレンスキーは、アメリカのブリンケン国務長官 に、NATOの軍事支援で「戦場で続くロシア軍の攻勢に対し、これで状況は大きく変わる」と述べ、オリンピック休戦も拒否するなど、戦争継続の姿勢を変えない。NATOの首脳も、停戦は眼中になく、ロシアを敗北させるという強硬策を変える意向を見せない。しかし、そこから導き出される答えは、もはや、NATO軍の派兵しかあり得ない。

アメリカの代理戦争から、ヨーロッパ全体の戦争へ
 アメリカは、11月にトランプ再選が濃厚であり、例え再選されなくても、共和党側のウクライナ支援に消極的な影響力は大きい。そもそも、アメリカにとっては、対中国との軍事対立の方が重要な課題なのは明らかである。
 ヨーロッパ首脳が、「ロシアは帝国主義的侵攻をやめる意図はなく、ウクライナで負ければ、次はヨーロッパ全体がロシアの進攻の脅威にさらされる」というロシア脅威論を捨て去らない限り、ロシアをウクライナ全土から放逐するまで戦争を継続するという方針は変えられない。それは、ウクライナが単独でできないならば、ヨーロッパの直接参戦しかないのは明らかだ。
 その時は、アメリカは、対中国との対立から、参戦はできず、ヨーロッパへの支援しかできない。
 ロシア側も国家の存立がかかっていると考え、総力を挙げて戦うことになるだろう。最終的には、核兵器使用も視野に入る。
 それは、ウクライナは消滅し、ヨーロッパもロシアも壊滅状態になることを意味する。まさに、「そして、誰もいなくなった」なのである。それが、一段と近づきつつある。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SNSも主要マスメディアも、嘘ばかり。

2024-05-05 14:26:14 | 社会



 「最近、SNSを悪用した詐欺事件が後を絶たない。すべて、SNSを通じて言われたことを信用し、騙されたというものである。これらの詐欺事件だけでなく、SNSの情報は、概ね正しいのだが、嘘も数多く混在している。」
 と、主要マスメディアは報道している。勿論、これらの情報は本当のことだと思われる。主要マスメディアとは、テレビ、ラジオ、全国・地方の新聞、それに通信社のことだ。しかし、これら主要マスメディアは、嘘をつかないかと言えば、そうではなく、全国紙で民間商業新聞としては、世界最大の発行部数を誇る(世界的な信頼度は別にして)読売新聞が捏造記事を配信したのである。
 4月6日の読売新聞夕刊に、「社会部主任」が、健康被害を出している機能性食品を販売した小林製薬の関連企業の社長の談話を捏造して記事にしたのである。そしてその後、当然、関係した読売新聞社員は懲戒処分を受けた。

 このような捏造記事が掲載されるのだから、主要マスメディアは嘘ばかり、というのではない。主要マスメディアで捏造記事が報じられるのは、極めて稀だからだ。通常、記事は作成者の上部で真偽はチェックされ、「嘘」がそのまま報道されることはない。主要マスメディアは、それぐらいのジャーナリストとしての倫理は持っているはずである。
 問題は、そのようなことではない。読売新聞の記事作成記者は、捏造した理由を次のように述べている。
「社会部が求めるトーンに合わせたいと思った」 
また、原稿のとりまとめをした社会部の主任も、次のように述べている。
「岡山支局から届いた原稿のトーンが、自分がイメージしていたものと違った」 
 問題なのは、この「トーン」なのである。読売新聞大阪本社社会部は、小林製薬の起こした健康被害事件に対し、一定の「見方」を持っており、それがこの「トーン」なのである。捏造記事を掲載するのは言語道断の論外だが、「トーン」に合わせた記事を作りたいというのが、新聞社の記者たちに潜む心理なのは明らかである。それが、素直な表現「トーンに合わせたい」で露呈したのである。

 この「トーン」は、論調という言葉に置き換えられる。日本の全国紙で言えば、産経、読売、日経、朝日、毎日の順で、自民党の主張に近いことを、否定する者はいないだろう。それが、各新聞社の論調でもある。逆に言えば、各新聞社は、その新聞の論調に合わせた記事を掲載しているのである。
 
 マスメディアは「嘘」の報道は、原則的にはしない。しかし、実際には、マスメディアは、自分たちの論調に適合した事案を記事化し、言葉遣いもその論調に合わせて報道する。論調に合わない事案は記事しないか、片隅の小さな扱いとなる。
 5月3日、国際NGO「国境なき記者団」は、2024年の「報道の自由度ランキング」で、 日本は180カ国・地域のうち70位、アメリカは55位と発表した。「国境なき記者団」の基準でも、日本の成績は悪い。しかし、欧米の報道も、実際には、褒められたものではないのである。

欧米主要マスメディアの報道ぶり
 アメリカの場合、バイデンの民主党主流派に極めて近いニューヨーク・タイムズやCNNなど世界的に大きな影響力をもつメディアは、ロシア・ウクライナ戦争もイスラエルによるパレスチナ人へのジェノサイドも、バイデン政権に都合のいい報道を大量に流している。
 独立系の非営利で、「汚職や不正を暴露する」ことを主眼とするインターネット メディアのインターセプトThe Interceptは、「流出したNYTガザメモは、ジャーナリストに対し『大量虐殺、民族浄化、占領地』という言葉を避けるよう指示している。」という記事を報じた。
 このメモは、ニューヨーク・タイムズの経営幹部による報道指針なのだが、『大量虐殺、民族浄化、占領地』という言葉を避ける理由を、そのメモでは「私たちの目標は明確で正確な情報を提供することであり、熱烈な言葉遣いはしばしば事実を明確にするどころか曖昧にしてしまう可能性があります」としている。しかし、これらの言葉は、イスラエルによるパレスチナへの長年にわたる政策と軍事行動を表現した言葉であり、その言葉を避けるのは、イスラエルが過去に何をしてきて、現在何をしているのかを隠す効果があるのは明らかである。つまり、ニューヨーク・タイムズの幹部は、イスラエルがしていることをカモフラージュしたいということなのである。それは、ニューヨーク・タイムズの幹部自身が、イスラエルの蛮行を実際には認識していることを暗に示しており、「熱烈な言葉遣いはしばしば事実を明確にするどころか曖昧にしてしまう」と正当化しているが、「事実を明確にするどころか曖昧にしてしまう」のではなく、「曖昧」にしているのは、真実の方なのである。要するに、ニューヨーク・タイムズのイスラエルを擁護する報道姿勢が露呈したということである。
 また、インターセプトの記事では、「1月、インターセプトは、 10月7日から11月24日までのニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズの戦争報道の分析を発表した 。この期間は、タイムズの新しい指針が発表される前の期間がほとんどだった。インターセプト分析の結果、主要新聞は「虐殺」、「大虐殺」、「恐ろしい」などの用語を、イスラエルの攻撃で死亡したパレスチナ民間人ではなく、ほぼもっぱらパレスチナ人によって殺害されたイスラエル民間人に限定していることが判明した。 」……「分析の結果、11月24日の時点でニューヨーク・タイムズ紙がイスラエル人の死を『虐殺』と表現したのは53回、パレスチナ人の死は1回だけだったことが判明した。記録されている殺害されたパレスチナ人の数が約15,000人に達したにもかかわらず、「虐殺」の使用の割合は22対1であった。 」と暴露している。
 CNNには、英紙ガーディアンが、2月24日に「CNNスタッフ、同局の親イスラエル的傾向は『ジャーナリズムの不正行為』にあたると発言」。「内部関係者らは、上層部からの圧力がイスラエルの主張を信じたまま報道し、パレスチナ人の視点を沈黙させる結果となっていると語る」 という記事を報じた。そして、今でもCNNは、全米の親パレスチナ学生の学内占拠の報道では、占拠の違法性だけを声高に問題にする専門家に執拗にコメントさせている。これも、イスラエル寄りの報道に変わりはないことを示している。
 勿論、これらの報道は、徹底して親イスラエルのトランプに近いFOXニュースに比べれば、「遥かにまし」なのは、言うまでもない。しかし、そのことは、アメリカ主要マスメディアが、自分たちの論調に適合した事案を記事化し、言葉遣いもその論調に合わせ、論調に合わない事案は記事しないか、片隅の小さな扱いとして、親イスラエル・反パレスチナの報道を繰り返し、多くのアメリカ国民に多大な影響を与えていることを否定できるものではない。
 
 フランスの独立系メディアであるル・モンド・ディプロマティークは、ヨーロッパでも、主要マスメディアは、現在の政権寄りの報道姿勢が目立つと警鐘を鳴らしてきた。ロシア・ウクライナ戦争では、ドイツでも英国でもフランスでも、すべての主要マスメディアは、NATOのウクライナ軍事支援強化を鼓舞してきたと指摘している。2023年10月以降は、イスラエル擁護報道一色となっているが、それを日本語版では、3月号で報じている。

 
 これらが、欧米主要マスメディアの「報道指針」であり「トーン」、「論調」なのである。上記のことは、それが真実の報道をいかに歪めているかを表している。
 
日本は、欧米よりもさらに深刻
 上記の「国境なき記者団」は、日本の報道の現状を「伝統の重みや経済的利益、政治的圧力、男女の不平等が、反権力としてのジャーナリストの役割を頻繁に妨げている」と記しているが、それが日本の主要マスメディアの「トーン」、「論調」なのである。
 
 個々のジャーナリスト自体が持つ、その固有の世界観を否定することはできず、その「世界観」による「報道指針」や「トーン」、「論調」は、基本的に自由であり、それをもって報道が歪んでいると言っても、それも「報道の自由」である。現実の主要マスメディア、特に日本では、「権力とカネを持つ勢力」に都合のいい事実だけを大量に流しているとしても、それが主要マスメディアが持つ固有の「世界観」が、「権力とカネを持つ勢力」の「世界観」と一致しているだけであり、その「世界観」による「報道指針」や「トーン」、「論調」は、苦情を言われる筋合いはない、と言い募ることもできる。

 また、本質的には、報道には公平や客観性はあり得ず、何らかのイデオロギーや階級性から自由ではあり得ない。だからこそ、「報道の自由」には、ある勢力にとって都合のいい事実だけでなく、別の数多くの事実を報道するメディアが必要なのだ。それが、日本にはあまりにも少ない。そのことが、問題なのである。
 
 欧米には、主要マスメディアとは異なる「世界観」を持ち、主要マスメディアを批判できる能力を有する独立系メディアは、アメリカだけでも上記のインターセプトやAnti-War,The American Conservbative等、数多く存在する。その記事を書いているのは、専門の大学研究者であったり、ジャーナリズム関連の賞の受賞歴のあるジャーナリストたちである。しかし、日本には、主要マスメディアと異なる「論調」のメディアはあると言えばあるが、それは、文春系や日刊ゲンダイなど、出版社が経営するもので、独立系メディアとまでは言い難い。せいぜい「長周新聞」などが、孤軍奮闘しているだけである。
 このメディアの貧弱さが、日本のジャーナリズムの問題なのは、間違いない。なぜなら、メディアの貧弱さゆえに、一つの「世界観」が圧倒的な力で流布され、自民党の事実上の一党支配を永続させているからである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

看板だけの「自由民主主義」が戦争を引き起こす

2024-04-27 10:51:04 | 社会


 2024年4月8日、首相岸田文雄は、国賓待遇で公式に訪米し、10日にはジョー・バイデン大統領と日米軍事同盟の深化を明白にした共同声明を発表した。た。そこでは、日本の軍事費の増大、「敵基地攻撃」能力の保有を「歓迎」し、 「作戦及び能力のシームレスな統合を可能」にするため「それぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と明記されている。この声明は、「未来のためのグローバル・パートナー」 と題され、「自由で開かれたインド太平洋及び世界を実現するために、日米両国が共に、そして他のパートナーと共に、絶え間ない努力を続けることを誓う。 」と記されている。
 要するに、東アジアでの主に対中国を念頭に、「自由民主主義」を守るために、米日共同で軍事力の強化を図る、というものである。

「自由民主主義を守るため」の戦争
 「自由民主主義を守るために」というお題目は、米日だけでなく、ヨーロッパででも使われる。「自由民主主義を守るために」ロシアと戦うというスローガンが、ウクライナへの強力な軍事支援を行うために使われる。ゼレンスキー自身も「民主主義国家は手を引いてはならない」とNATO諸国の軍事支援継続を要請した。
 NATO諸国のウクライナへの軍事支援に最も熱心なのは、概して好戦的なタカ派の多い極右派ではなく、「リベラル」な中道右派・左派である。日頃は好戦的な極右のハンガリー首相のオルバンの与党「フィデス・ハンガリー市民連盟 」、ドイツAfD、イタリアのメローニ率いるFDI「イタリアの同胞」などは、
軍事支援には反対しないまでも消極的であるのは否めない。
 アメリカでも、概して中道右派に近いバイデンの民主党主流派政権は、ウクライナへの軍事支援は他のNATO諸国より圧倒的に強力に実施しており、民主党よりはるかに右のトランプの共和党は、ウクライナ支援の予算に反対するなど消極的姿勢が際立っている。
 その理由は、アメリカ共和党がウクライナ支援予算を、移民規制のための壁を作る方に回せと言っているように、また、トランプがアメリカ・ファーストと叫んでいるように、概して極右は、自分たちさえ良ければ、他の国などどうでもいい、という利己主義的性格がと強いからだとも考えられるが、最大の理由は、戦争の正当化に「自由民主主義を守るため」という理由付けをしているからである。端的に言えば、このイデオロギー化した「自由民主主義」を最も強く信奉しているのが、西側の中道右派・左派なのである。だから、極右よりも「自由民主主義を守るため」の戦争を、全面的に推進せざるを得ないのである。

 この「自由民主主義を守るため」という戦争の正当化の論理が、アメリカにおいて、最も大きく叫ばれたのは、ベトナム戦争である。その論理は、北からの共産主義の浸透を防げなければ、反「自由民主主義」の共産主義は、ベトナムだけでなく、その周辺国に及び、いつかはアメリカにまで到達してしまい、アメリカも共産主義に侵されるというものである。いわゆる「ドミノ理論」であるが、アメリカ軍がベトナムから排除された後も、共産主義勢力はベトナム戦争とは直接無縁の一部の周辺国で政権を奪取したが、それ以上の広がりはなかったのは、言うまでもない。

 しかし、この間違いが明らかな「ドミノ理論」が、西側の「自由民主主義者」によって、対ロシアとの戦争には、性懲りもなく使われているのだ。ウクライナでロシアの進攻を阻止できなければ、権威主義・強権主義のプーチンの「ロシア帝国」は、さらに西のヨーロッパ諸国に侵攻し、やがてはヨーロッパ全土が、「ロシア帝国」の進攻にさらされるというものだ。「ドミノ理論」が間違いなのは、歴史が証明しているが、この論理は、ウクライナのロシア軍を軍事力で排撃しても、「ロシア帝国」が軍事的能力を保有している以上、他のヨーロッパ諸国に侵攻しないという理屈にはならず、「ロシア帝国」の軍事的無力化するか、あるいは、プーチンだけでなく、ロシアの民族主義者を打倒することなしには、侵攻はやまないことになる。それには、第二次世界大戦終了時のように、勝者のNATO諸国によるロシアの占領以外に方法はないのである。
 そもそも、この「ロシア帝国」の進攻という見方には、2022年以前のウクライナでのウクライナ民族主義者とウクライナ人ロシア語話者の間の、数万人の犠牲者を生んだ紛争が完全に無視されているし、NATOがロシアの国境付近まで拡大し、それがレッドラインを超える脅威だというロシア側の警告を黙視した西側政府の行動を一顧だにしていない。単に、自分たちの敵は「悪魔のようなものだ」と言っているようなもので、それ以外のことは一切考えないという固定化した思考によるものなのである。
 
なぜ、アメリカは戦争ばかりしたがるのか?
 2023年2月、バーニー・サンダースは、英紙ガーディアンのインタビューで、「ロシアでは、寡頭政治が行われているが、同様にアメリカも寡頭oligarchsが動かしている」と述べた。Bernie Sanders: ‘Oligarchs run Russia. But guess what? They run the US as well’
 サンダースは、続けて「それはアメリカだけではなく、ロシアだけでもない。ヨーロッパ、英国、世界中で、少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めているのを目にする」と言う。
 本来の民主主義では、多くの一般大衆が国の政策に関与し、「人民の、人民による、人民のための統治」が行われるはずである。しかし、現実の政治は、「少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めている」とサンダースは、言うのである。

 2014年政治学者のマーティン・ギレンズとベンジャミン・I・ペイジは、英ケンブリッジ大学出版部Cambridge University Press のオンライン論文で、そのアメリカの政治を実証的に分析し、結果を公表している。
 その分析の結果として、「経済エリートとビジネス利益を代表する組織グループは米国政府の政策に大きな独立した影響力を持っているが、平均的な国民と大衆ベースの利益団体は独立した影響力はなく、ほとんど、またはまったく影響を与えていないことが判明した。」と記し、「私たちの分析は、アメリカ国民の多数派が実際には政府が採用する政策に対してほとんど影響力を持っていないことを示唆しています。アメリカ人は、定期的な選挙、言論と結社の自由、広範な選挙権(まだ議論があるとしても)など、民主主義統治の中核となる多くの特徴を享受している。しかし、政策決定が強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人によって支配されている場合、民主主義社会であるというアメリカの主張は深刻に脅かされると私たちは信じています。」と結論づけている。
 この分析は、「平均的な国民、経済エリート、利益団体の政策への影響」を数値化して調査したものだが、政策決定には、「平均的な国民」は影響力を持たず、「経済エリート、利益団体」に支配されている、ということである。言い方を変えれば、アメリカは形式として様々な民主主義的制度があるにしても、サンダースの言うように、現実の政治は、「少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めている」のである。
 経済エリートとビジネス利益を代表する組織グループとは、大資本・大企業であり、中でも、世界で群を抜く大きさのアメリカ軍事産業が、政策決定に大きな支配力を有していることは、想像に難くない。ロシア・ウクライナ戦争によって、アメリカ軍事産業、軍事関連企業、原油価格の上昇で石油業界、穀物輸出業者などは莫大な利益を上げている。この構造が、ウクライナへの軍事支援強化を支え、でき得る限り長期にわたる戦争を継続させる圧力となっていると考えられる。
 アメリカでは、軍事部門の民間委託は膨大であり、そこから莫大な利益を得る軍事産業は、政界へのロビー活動も活発に行う。アメリカブラウン大学の調査によれば、兵器メーカーのロビー活動費は、2001年以来25億ドル以上におよぶという。
  (「公的資金の防衛業者への回転ドア」Jacobin2024.4.23)
 この構造が「平均的な国民と大衆」が望まない戦争へと進む大きな影響力を持つのである。


西側がつくり上げた「国際秩序」
 岸田文雄は、アメリカ議会で演説し、「米国は経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくった。自由と民主主義を擁護し、各国の安定と繁栄を促した。」「今日、日本は米国のグローバル・パートナーであり、この先もそうあり続ける。」と誇らしげに語った。しかし、現実のアメリカは、「政策決定が強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人によって支配されている」のであって、それがつくり出した「国際秩序」も、「強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人」にとって好都合なものに過ぎないのである。それを岸田は「自由と民主主義」だと言っているのである。

  第二次大戦後、何年経過しても、サウスグローバルの国とそこに住む人びとが相変わらず貧しいのは、アメリカが牽引する西側がつくり上げた「国際秩序」によるところが大きい。その「国際秩序」は、豊かな西側が、永久に豊かであり続けることが、暗黙に組み込まれているからである。
 経済の面では、1944年にアメリカを筆頭として、連合国通貨金融会議を開催し、ドルを基軸通貨とする固定相場制という国際金融体制をつくりあげ、また世銀IMFと国際復興開発銀行IBRDの発足を決定した 。このブレトン・ウッズ体制は、1973年に変動相場 に移行し、終わるが、基軸通貨としてのドルによる世界への経済支配力は今も強大である。
 この自由貿易体制を基本としたアメリカが牽引する西側による経済的世界支配は、資本主義の不均等発展で遅れ、また、戦前まで西側による植民地支配で疲弊したままのアジア・アフリカ諸国も、自由主義経済として、同じ土俵で競争することが求められる。当然のように、それでは、遅れた地域の側に勝ち目はない。それが、グローバルサウスが永続的に「後進国」であり続ける、本質的な理由である。
 しかし、「後進国」の側も、そのままではあり得ない。その状況から脱出する努力と西側に対する抵抗は次第に強化されていく。それが、BRICSであり、ASEANであり、アラブ諸国であり、その他のアジア・アフリカ・中南米諸国である。
 その中の中国は、自由貿易体制の「恩恵」で、経済大国となったのは間違いない。しかし、その手法は、西側とは異なる強権的国家管理による資本主義である。日本を一人当りGDPで遥かに超えるシンガポールも、形式的は自由選挙が行われているが、野党、主に労働党に対する徹底した抑圧政策を通じた人民行動党による事実上の一党独裁が続いている。中国を超える経済成長率のインドは、首相のナレンドラ・モディによるイスラム教徒の弾圧、野党政治家の逮捕、シーク教指導者のカナダにおける暗殺など、明らかに西側とは異なる強権で国を支配している。このように、経済成長を「誇る」国の多くは、西側の言うところの「権威主義」である。
 
アメリカによる世界の二分
 バイデンは民主主義サミットを開催したように、世界を「民主主義国対権威主義国」に二分している。しかし、この分割はアメリカのご都合主義的であり、その区分けは、アメリカの政治的・経済的利益に合致するか否かで決められている。そこから来る外交政策は、単に対中国・ロシア・イランといったアメリカの利益を阻害する国々を敵視から生まれている。インドのモディ政権は、上記のように民主主義とは極めて疑わしいが、「自由で開かれた」国として、仲間に引き入れたいという願いから、モディ政権を批判することは避けている。ベトナムは中国同様「一党独裁」国だが、中国との対抗から、アメリカの急接近は著しい。そもそも、アメリカはアメリカ民間団体が「独裁国家」とする国々に数多くの軍事基地を置いている。これらのアメリカご都合主義は枚挙に暇がない。
 
 戦争をするためには、大義名分がいる。その「大義名分」が「自由民主主義を守る」なのである。この「自由民主主義を守る」という大義名分には、日頃「リベラル」、「民主主義を語る」ニューヨーク・タイムズなどの影響力の大きな主要メディアも、逆らえないどころか、戦争へ先頭に立つことになる。そのことは、「共産主義に侵食される」というドミノ理論を基にしたベトナム戦争でも、フェイクの「大量破壊兵器」を口実としたイラク侵攻でも、ニューヨーク・タイムズなどのメディアが賛成の論陣を張ったことでも明らかだ。
 そして今でも、右派のFOXも「リベラル」のアメリカ主要メディアも、ロシア・ウクライナ戦争では戦争継続の旗を振り、イスラエルのジェノサイドを否定する言説を繰り返している。

 バイデンであれ、岸田であれ、「自由民主主義」を唱えながら、自国の民主主義には無関心である。そのことも「自由民主主義」は、戦争の単なる口実に過ぎないことを表わしている。彼らの関心事は、莫大な軍事予算を獲得し、それによる経済効果であるのは間違いないだろう。勿論、それは、福祉関連予算を抑制させ、「平均的な国民」の生活を悪化させる。しかし、国民の生活などは、彼らにとっては、政策の優先事項ではない。そのことだけは、誰が見ても明らかだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシアのウクライナ侵攻で、世界は軍拡競争へ突き進み、日本は平和主義を投げ捨てる。(2)

2024-04-06 15:05:46 | 社会

アメリカの平和集会「ガザとウクライナに即時停戦を」

 第一次大戦時、ドイツ社会民主党が、軍事予算の増加に賛成したことを、ウラジミール・イリイチ・レーニンは、それを知った当初、左派に属する社会民主党が軍事予算の増加に賛成することなど、あり得ないと信じなかった逸話が残っている。なぜなら左派にとって、平等主義とともに、平和主義は決して譲れない根幹をなすものだからだ。その左派に属する社会民主党が、戦争への加担に通じる軍事予算の増加に賛成することが、レーニンには理解できなかったのだ。
 レーニンは、第一次大戦は、帝国主義どうしの戦争であり、祖国防衛のためであっても、戦争には反対する立場を鮮明にした。
 しかし、2022年のロシアの軍事侵攻は、単純に「帝国主義どうしの戦争」とは言えない。そのことが、西側左派の平和主義を大混乱に陥れている。
 

戦争を終わらせる二つの選択肢
 現実に起きている戦闘を終わらせるには、二つの選択肢が存在する。一つ目は、和平交渉により、停戦するというものである。停戦は、確かに戦争終結とは言えないが、それでも、戦禍は治まり、永続的な戦闘停止に導かれる端緒となり、戦争終結への道を開くことができる。そして二つ目は、相手に戦争で勝つことである。
 イスラエルのガザ侵攻の場合は、西側左派の立場は一つ目の選択肢である「即時停戦」で完全に一致している。この戦争の実情が、イスラエルによるパレスチナ人への一方的なジェノサイドとも言うべき大虐殺だからであり、その前提にあるのが、ガザへの「アパルトヘイト」的抑圧体制だからである。しかし、ウクライナ侵攻は、ガザほど単純ではなく、この二つの選択肢の前で、西側左派の平和主義は大混乱に陥っているのである。

(1)「北欧の理想の終焉」
 200年にわたり中立政策を貫いてきた北欧のフィンランド、スウェーデンの2ヶ国は、正式にNATOに加盟した。その過程とそれが意味することをヘルシンキ大学のHeikki Patomäki がThe NationとLe Monde diplomatique紙上で解説している。
 長い間、北欧のこの二か国は、反軍国主義のモデルとして、その理想はNATO加盟と両立しないと主張していた。それが、ロシアのウクライナ侵攻により、180度の方針転換が決定的となったのである。
 両国とも、1920年代頃から社会民主党が政権入りし、福祉国家とともに、中立政策を基本とする平和主義に基づく国際主義を推進してきた。フィンランドは、1948年に西側諸国で初めて、ソ連と友好協力相互援助協定を結んだ。
 ソ連の崩壊後、アメリカ主導の新自由主義が世界中に蔓延する中、多国籍企業の台頭や労働賃金の低下、石油危機などの混乱で経済の低迷が襲い、社会民主党は力を失った。また、ソ連(全体主義)との妥協とされた「フィンランド化」は、徹底的な攻撃を受け、中立政策を否定する動きをは加速された。
 経済の低迷は、新自由主義を加速し、市場統合の動きから1995年に両国はEUに加盟することになる。これは、北欧モデルを捨てたことを意味し、新自由主義の浸透により、従来の社会民主主義は変更を余儀なくされ、緊縮財政、減税、民営化、アウトソーシングなどのさらなる右傾化に進む。
 1994年以来、フィンランドとスウェーデンはNATOの平和のためのパートナーシッププログラムに参加してから、2000年代と2010年代にはNATOの「平和支援」活動に参加し、NATOホスト国支援協定を締結した 。 冷戦期、北欧諸国は各国間で多元的な安全保障共同体を実現し、対外関係において連帯と共通善を推進したが、戦争を防ぐ目的として、軍事力の向上による抑止力重視に変更したのである。
 これらの動きの中で、ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアに対する恐怖を増大させ、抑止力重視の観点から、「防衛力」増強の必要性は高まり、正式なNATO加盟となったのである。
 以上が、Patomäki の解説の要旨だが、冷戦後、唯一の超大国となったアメリカは、「テロとの戦争」で中東、アフガニスタンでの軍事行動を推し進めた。その結果、「テロ」は北欧にとっても脅威となり、また中国の台頭で、西側諸国対それ以外の国の対立が進んだことも大きな影響を与えたことは間違いない。バイデンは西側の結束を強調しているが、数十年前から、西側は結束した抑止力を持つ必要に迫られていたのである。結束した抑止力の象徴がNATOであるのは言うまでもない。

 中立の立場にいたこの2か国に、ソ連時代もロシアも直接攻撃するという動きは見せなかった。しかし、NATOに加盟したことは、ロシアにとっては、脅威であり、敵と見なされ、戦争への危険性は増大したと言える。当然、Patomäki は、正当に、最後に「NATOへの加盟を決定したフィンランドとスウェーデンは現在、歴史の誤った側on the wrong side of history にいる。 」と結論づけている。
 
 (2)欧米左派の混迷
 北欧の中立主義は、主に中道左派の社会民主党が主導してきたが、それが大転換したのである。そして、この社会民主党の政策転換の動きは、他の社会民主主義政党でも、同様な傾向が見られる。首相でもあるオラフ・ショルツのドイツの社会民主党は、NATOの強化、軍事力の拡大に踏み切っているし、他の欧州中道左派のフランス社会党、英国労働党なども、GDP2%を超える軍事費増加に賛成している。
 これらの動きは、戦争を終わらせる選択肢の二つ目、相手に戦争で勝つことを、左派の一部である社会民主主義政党が選択したことを表わしている。
EU議会社会民主主義党会派ホームページHome | Socialists & Democrats(参照)
 この社会民主主義勢力の選択は、ウクライナが戦争に勝つための軍事支援を惜しまないという中道右派やさらに右の諸政党と同様の立場である。

 では、欧米の社会民主主義政党より左に位置する、または強固な平和運動は、どのような立場なのだろうか? 
 そこには、上記のような社会民主主義政党の「戦争で勝つことで」ロシアの侵攻を終わらせるというはっきりとした立ち位置をとれない苦渋がにじみ出ている。
 平和への政策を研究するアメリカノートルダム大学クロック研究所のデビッド・コートライトは、その苦渋を言葉にしている。
 「今は平和支持者にとって困難な時期です。ウクライナにおけるロシアの残忍な侵略と、米国および世界中で高まる軍事化に直面して、私たちは何をすべきか悩み、確信が持てません。 」で始まるこの寄稿文は、「20年前、何百万人もの人々がイラク戦争に反対して行進しましたが、今日ではほとんど沈黙しています。この危機においても平和運動は意味があるのでしょうか? 」と続いている。
 その理由は、「ソ連の崩壊とワルシャワ条約機構の解散後、軍事ブロックの拡大は対立的であり不必要」であり、NATOの東方拡大は、ロシアにとっては脅威と見なされ、「それらの懸念が現実 」となった結果がロシアの進攻であったとしても、また、「米国も国際法に違反し、イラクや他の国々に対して侵略行為を行っているのは事実だが、だからといってロシアの侵略が道徳的」にも、国際法に照らしても、許されるわけではない。それ故に、自衛の「ウクライナの闘争は確かに正義の戦争としての資格がある 」のであり、そのウクライナへの軍事力を含む支援は正当かつ必要だと考えられるからである。
 
 この論理は、多くの左派の共通した論理だとも言える。欧州議会内の左派の連合会派European Leftもロシアの進攻には、この立場を表明している。European Leftは、フランス共産党、統一左派(不服従のフランス)、イタリア共産党再建派、ドイツのDie Linkeなどの連合組織である。アメリカでも民主社会主義党も同様である。そして、言ってみれば、日本共産党もこれらの左派政党と同様の立場だと考えられる。
 
 しかし、このウクライナの抵抗が「正義の戦争」という立場は、現実には極めて宙ぶらりんの曖昧な立場に自分たちを置くことになる。ロシア軍が自ら撤退することはあり得ず、NATO諸国の軍事支援を継続させ、ウクライナの受ける戦禍を継続させることに繋がるが、それに賛成も反対もできないということになるからだ。だから、現実に起きている戦争に論評することができない。フランス左派のメディアL'Humanité紙 もアメリカ民主社会党のJacovin紙も、日本共産党の赤旗も、あたかもそんな戦争は起きていないかのように、ロシア・ウクライナ戦争に関する記事は、年に数回しか見られない。立場が曖昧なので、現状では記事にできないのである。
 
(3)欧州左派の変化
 2024年3月11日、ローマ教皇フランシスコが、今月放送予定のスイスの放送局RSIのインタビューで、ウクライナにロシアとの戦争を終わらせるために交渉し、「白旗を揚げる勇気」をもつべきだと発言した(英BBC)と報じられた。この発言には、ウクライナのゼレンスキーだけでなく、NATO諸国の首脳から、特に「白旗を揚げる」という言葉に、批判が殺到した。ゼレンスキーはNATO諸国にさらなる強力な軍事支援を要請し、NATO諸国首脳は、その軍事予算の捻出に苦労している最中だからである。
 
 このローマ教皇の停戦交渉を強く促す言葉に反応して、NATO諸国首脳とは正反対に、欧州左派European Leftの欧州議会議長候補のウォルター・バイアーは、ウクライナ戦争終結を「交渉」する時がきたと語った。
 そこには、ロシア・ウクライナ戦争は2年を超え、NATO諸国が軍事支援を続けても、ウクライナ軍がロシア軍を排撃することが不可能であることが明らかになりつつあるという現実がある。その現実に、フランスのマクロンは、「我が国の兵士をウクライナに送る可能性を排除しない」と発言したが、NATO諸国の軍隊を派兵しなければ、ウクライナ軍は自分たちの力だけでは勝てないことを、マクロンはようやく認識し始めたのである。勿論、マクロンの「地上軍派遣」を他のNATO諸国首脳は強く否定した。それは、NATOが直接ロシアと交戦することを意味するからだ。
 
 現実のロシア・ウクライナ戦争は、戦争拡大の方向に向かっている。NATO諸国は、軍事費を大幅に増加し、さらに強力な軍事支援と自国防衛に力を入れ始めている。ロシアは、大量の兵器・弾薬を製造できる体制に向かっている。
アジアも、「民主主義対権威主義」戦争の準備に突入し始めた。このままの状況は、ひたすら破滅に向かって突き進んでいるかのように見える。だから、ローマ教皇は、「白旗を揚げる勇気」を持ち、戦争終結への交渉を始めるべきだと発言したのだ。
 
 フランスでは、マクロンの発言に左派も反発し、危険な状況を生む出せかねないこれ以上強力な軍事支援に反対する声が増え始めている。ようやく、欧米の左派勢力も、停戦に向けた交渉に向かうべきだと声が主流になりつつある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシアのウクライナ侵攻で、世界は軍拡競争へ突き進み、日本は平和主義を投げ捨てる。(1)

2024-03-30 11:15:21 | 社会


歯止めがかからなくなった日本の軍拡
 2024年3月26日、日本政府は「英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の日本から第三国への輸出を解禁する方針を閣議決定し、国家安全保障会議(NSC)で武器輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定した。(東京新聞2024年3月26日) 政府は「歯止め」という言葉を使うが、軍事力強化への歯止めはまったくかかっていない。
 日本政府は、武器輸出を抑制してきたのだが、2023年末の弾薬や弾道ミサイルなどの輸出緩和に続き、高い殺傷能力を持つ戦闘機の解禁で、武器輸出を含む軍事大国へと、さらに進んでいる。
 日本の軍事能力は、既に世界第7位にまでなっている(米軍事力評価機関 Global Firepower )。もはや、憲法の平和主義など、完全に空文化していると言っていい。憲法は戦争の放棄を謳うが、現実には、放棄しているのは平和主義なのである。

世界中を席捲する軍事力強化による侵略の「抑止論」 
 日本国際問題研究所の佐々江賢一郎理事長(元駐米大使)は、「 ウクライナ侵略『日本の武器輸出は紛争終結の手段として必要』」(産経新聞2024年2月25日)と述べている。その中で佐々江は、「日本など各国の指導者は自国民に対し、ウクライナが敗北すれば自国民の生活、安全、国益に影響がおよぶと説明し、ウクライナ支援に対する理解を得るための努力が引き続き必要だ。」 「ウクライナが軍事侵略を受け、領土を取られたままで決着が付いてしまうと、 日本にとっても明日はわが身となる。」と言う。その意味するところは、「西側は軍事力で、ロシアの軍事侵攻を止めなければならない。それには西側全体の軍事力強化が求められる。そのために、同盟国への軍事協力が求められ、武器輸出は必要だ。日本の場合は、ロシアと同盟関係にある中国からの軍事侵攻を抑止するために、もっと軍事力の強化が必要だ。」というものである。
 
 日本政府の軍事力強化方針は、ロシアによる軍事侵攻より、はるか以前からあり、戦後、長い間掲げられてきた日本の平和主義が、放棄されたのではないか、という懸念が、海外メディアで報じられて10年近くになる。英国BBCは、2015年には、「日本は平和主義を放棄したのか?」という記事を載せている。Is Japan abandoning its pacifism?
 2015年9月に、野党が戦争法と呼んだ「平和安全法制」が成立し、自公政権が「集団的自衛権の行使」や「後方支援・武器使用の拡大 」等の軍事拡大方針を法的にも明確にしたことからの記事である。そこには、極右・タカ派色の濃い安倍晋三が首相であり、過去の侵略戦争を肯定的に解釈する歴史修正主義への批判も含まれている。
 問題は、その日本政府の軍事力強化方針が、ロシアによる軍事侵攻により、さらに加速したことである。上記の佐々江賢一郎の主張は、その正当化であり、理屈付けの一例なのである。
 ロシアによる軍事侵攻で、アメリカと同盟関係にある西側諸国全体が軍事力強化に突き進んでいる。NATO諸国政府は、ロシア・ウクライナ戦争には、一切の和平交渉には反対し、ウクライナへの強力な軍事支援によってのみ、ロシア軍を排撃すべきだという方針を崩さない。そのため、ウクライナ支援と権威主義との闘いと称した自国防衛のため、GDP2%を超えの軍事力強化に邁進しているのである。
 その流れの中で、むしろ率先し、日本は軍事力強化を加速させている。ロシアの軍事侵攻が、「防衛力」強化に賛成する意見の増加傾向を加速させ、その世論の後押しを受け、自公政権は軍事力強化に邁進しているのが実態なのである。

動かない日本の平和運動
 2023年4月5日、ロシア・ウクライナ戦争に対し、日本の和田春樹ら学者・ジャーナリスト約30名が、即時停戦を呼びかけ、日本政府に和平交渉の仲介となるよう要請する声明文を発表した。これには、東京外大の伊勢崎賢治や岩波書店の岡本厚・元社長 、ジャーナリスト田原総一朗、東大の上野千鶴子名、法政大の田中優子らが名を連ねている。
 これに対して、長い間、平和主義に基づいて運動を行ったきた日本の平和運動諸団体は、ロシア・ウクライナ戦争には、「ロシアの即時撤退」を訴えるだけで、この声明を完全に無視している。原水協、原水禁、日本平和委員会、日本平和学会、9条の会等、すべて同様の立場を崩さない。
 これらの諸団体は、2022年2月のロシアの軍事侵攻直後、ロシアは「即時撤退」すべきと声明を出したきり、ロシア・ウクライナ戦争には、ウクライナへの物資と精神的支援をしているが、現実の毎日多くの人びとが殺されている戦争をどうやって終わらせるのかについては、一切言及していない。
 
 「ロシアの即時撤退」は、アメリカを筆頭に、イスラエルに大規模な軍事支援を行っているNATO諸国政府も要求していることである。しかし、ロシアがそれに応じないから、軍事力で戦争に勝つことで、ロシア軍を排除しようとしているのである。ただ単に、「即時撤退」と1億回叫んだところで、ロシアは応じる訳もなく、まったく意味をなさない。ではなぜ、このような意味を成さない立場をとるのだろうか?
 そこには、上記の声明を出した諸団体を牽引してきた日本共産党の方針がある。

曖昧さに終始する日本共産党
 2024年2月25日、日本共産党幹部会議長の志位和夫は、「『即時停戦』を主張するわけにはいかない 」と語った。そして、「『国連憲章守れ』の一点で、全世界がロシアの蛮行を包囲することが必要」「戦争を終わらせるには世界が団結すること」だと続けた。 志位も「現状でそうした団結がつくれているとはいえない」 と認め、その理由を「米国が、(1)『民主主義か専制主義か』という価値観で分断してきたこと、(2)ロシアの侵略を批判する一方でイスラエルのガザ攻撃に正面から批判せず事実上擁護してきた『二重基準』をとっていること 」だとしている。(以上、赤旗2月25日)
 しかし、米国の『民主主義か専制主義か』は、主に中国・ロシアを敵視し、西側同盟を強化して、そのための軍事力強化を図り、戦争も辞さないという態度を見せつける論理なのである。『二重基準』は、ウクライナへの軍事支援だけを続ける欧米への批判である。これらは、いわゆグローバルサウスから徹底して批判されていることであり、西側以外の世界のすべてが、欧米に同調しない理由の大きな要因である。これらのことは、「団結がつくれているとはいえない」理由なのではなく、西側以外の全世界が「団結」している理由なのである。
 志位の主張は、論理的に意味不明であるとしか、言いようがない。はっきりさせなくてはならないが、西側以外の全世界が求めているのは、ブラジルの大統領ルーラ・ダシルバ が言うように、「西側にも戦争の責任がある。戦争をやめろ」なのである。
 
 日本共産党は、ウクライナへの日本の軍事支援には反対していることは明らかだ。しかし、NATOのウクライナへの軍事支援については、否定も肯定もしていない。NATO諸国政府は、最新鋭戦闘機の供与など、さらなる軍事支援を続けている。現実の戦争は泥沼化しており、戦闘はエスカレートする一方で、NATOとロシアへの直接交戦も懸念される。第3次世界大戦を懸念する研究者もいる。その間にも、ウクライナ側もロシアも側も、とてつもない数の死傷者と生活の破壊は終わることなく続き、今まで以上に悲惨なものになる。
 
 それでも、「『即時停戦』を主張するわけにはいかない 」とは、完全に現実に起きていることを無視している。そうでなければ、「停戦」でなく、戦争継続を主張する論理を明らかにすべきである。欧米に同調し、ロシアを敗北させなければ、『民主主義か専制主義か』の闘いに負けると考えているなら、そう主張すべきである。
 
 赤旗には、ガザの悲惨な状況とイスラエルの蛮行を非難する記事は溢れている。しかし、ロシア・ウクライナ戦争の記事は、ほぼ皆無である。あたかも、そんな戦争は地球では起きていない、かのようだ。このことは、日本共産党の曖昧な姿勢を浮き彫りにしている。

 しかし、「ロシアの即時撤退」だけを振りかざしているのは、日本共産党だけでなく、実は、西側左派の多くは、その立場なのである。
    
 (続く)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする