夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

戦争屋と化した自称「自由民主主義者」たち。

2024-11-30 14:05:22 | 社会

アメリカのATACMSミサイル BBC

圧倒的に多い「自由民主主義国」の軍事費
 2024年4月22日、ストックホルム国際平和研究所SIPRIは、2023年の世界の軍事費を公表した。それによると、世界全体で2兆4430億ドル 、前年比は6.8%増加し、統計を取り始めた1988年以降で最大となっている。現実に、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルによるジェノサイドを含めたイスラエル・近隣アラブ諸国での戦争、スーダンを始め中東・アフリカ諸国での内紛・内戦は鎮まるどころか、激しさを増している。戦争の世紀だった20世紀が終わったが、21世紀も戦争の世紀であることが明らかになりつつある。

 国別の比較で言えば、アメリカが突出しているが、上位15位以内に、所謂西側の9ヶ国が入っており、これら「自由民主主義国」を自認する国が世界の軍事費の70%を占めているのである。これらの国は、国の数で世界の10分の1以下であり、人口でも10分の1以下、経済の大きさでも、4分1程度にしか過ぎないにもかかわらず、である。
 かつて、「軍国主義」という言葉があった。強大な軍事力行使することで、国家の利益を追求する国家のことである。そして、それを推し進めたのは、主に極右のタカ派である。しかし、現在では、軍事力で外交問題を解決しようと企図しているのは、自称「自由民主主義者」たちなのである。

「自由民主主義者」たち
 自称「自由民主主義者」とは、典型的な例を挙げれば、ジョー・バイデンのアメリカ民主党主流派のことであり、ヨーロッパでは、マクロン始め政権についている中道派のことである。日本では、朝日新聞とこの新聞に投稿する「知識人」のことであり、根っからの戦争屋である右派の「自由民主」党に色々な理屈をこねて外交では事実上追随している連中のことである。
 バイデンは世界を「自由民主主義国」と「権威主義・強権主義国」に分け、その戦いを始めようと叫び声を挙げた。それが、「権威主義」のロシアとのウクライナでの代理戦争なのである。ヨーロッパでも、「民主主義」の敵のロシアの侵略から守るため、ロシアとの戦争をエスカレートさせている。2022のロシアの侵攻当初には、ウクライナには、F16を始め、西側最新鋭戦闘機を供与するのを戦争の拡大を恐れて禁止していたが、いつの間にその禁止は解かれている。そして、最近では供与した長距離ミサイルのロシア領内攻撃も許可し、バイデンは国際条約で禁止されいる対人地雷さえもウクライナ供与を許可した。
 この動きは、ヨーロッパではもっと大きく、フランスのマクロン大統領や英国の労働党新首相キア・スターマーは、(英国労働党は、ジェルミー・コービンなど左派を追い出し、ほとんど保守党と変わらない中道派になった。)バイデンより強硬なウクライナへの強力な軍事支援とウクライナへの自軍の派兵まで検討し始めている。
 この動きの背景にあるのは、ロシア・中国・イランなどの「権威主義・強権主義国」は絶対的な悪である、というイデオロギーである。したがって、これらの国との戦争は正義の闘いなのである。イスラエルのパレスチナ人に対する迫害・ジェノサイドは、イスラエルが「自由民主主義国」の仲間なので、自衛権として断固支持される。抵抗勢力のハマスもヒズボラも、「悪の」イランの手先なのだから、その戦争は正義であり、何人パレスチナ人を殺そうが、飢餓に追い込もうが、イスラエル政府は擁護されるのである。
 「自由民主主義国」の仲間に入れたいインドは、「世界最大の民主主義国」であり、首相のナレンドラ・モディがイスラム教徒を迫害しようが、インドの特殊部隊がカナダで、シーク教指導者のハーディープ・シン・ニジャールを暗殺しようが、不問に付されるのである。(因みに、海外ネタはアメリカ経由の日本のメディアは、この事件を片隅にしか報道しない。)
 
  元来、軍事力優先主義は極右の共和党だと思われがちだが、アメリカでは民主党は結党当時は、黒人奴隷制維持の差別主義濃厚な右派であり、共和党の方が今で言う「リベラル」だった。それが、様々変化を経て、極右の共和党、中道右派の民主党に変身したのである。ベトナム戦争は民主党のリンドン・ジョンソンが始め、共和党のリチャード・ニクソンが泥沼化させたのである。また、2003年イラク戦争は、共和党のジョージ・W・ブッシュの戦争である。両党ともに、軍事力による外交問題解決志向が強いのは、歴史的には変わらない。
 参照:サイトJacobin「新たな冷戦の超党派的起源」The Bipartisan Origins of the New Cold War

抑止力という名の軍事力正当化
 軍事力を防衛力と呼ぶようになったのは、最近のことである。英語では、military power の替わりにdefense powerと言い換えられている。各国政府もマスメディアも軍事費という言葉は防衛費に、軍事産業は防衛産業に言い換えられている。今や、「死の商人」という言葉は、完全に死後となっている。
 このようなことが起こるのは、敵と見做す国や勢力の軍事的脅威から自国安全を守るという「抑止」という思想からである。抑止とは、敵と見做す相手に、相手側の攻撃から守る軍事力を維持し、その軍事力を使用する能力と意思を見せつけることである。敵と見做された相手側も同様に、「抑止力」を高めるので、この「抑止力」は高ければ高いほど望ましいことになる。
 そうなれば、果てしない軍拡競争を意味する「軍拡の罠」に陥るのだが、それでも、抑止力の拡大、つまり軍事力の拡大を正当化するのが、相手側を徹底した「悪」と見做すイデオロギーである。まさにそれが、バイデンの「自由民主主義国」対「権威主義・強権主義国」の正義の闘いである。
 
 バイデンは西側諸国を「自由民主主義国」と自画自賛するが、実際に西側諸国で行われている政治は、バーニー・サンダースが言うように、大金持ちと大資本に有利な「寡頭政治」に過ぎない。バイデンの真意は、この「寡頭政治」を守ることであり、外ならぬ台頭する中国に、経済的政治的利益を奪われつつあるのを何とか阻止したいというものなのである。
 
 その政治への庶民階層の不満の現れ、現状の政治への異議申し立てが、アメリカでは「トランプ現象」であり、ヨーロッパ中に吹き荒れる極右勢力の台頭である。勿論、極右は寧ろ、「自由民主主義者」より「大金持ちと大資本」に実際には忠実であるが。
 その極右は、トランプは、「戦争を1日で終わらせる」と言い(実際には、何をしでかすか分からず、「予測不可能」だが)、ヨーロッパの極右、例えばは、ハンガリーのオルバン・ビクトール は、これ以上の戦争拡大は危険だとウクライナへの軍事支援に反対している(したがって、政権やメディアからは「親ロシア派」と呼ばれる。)。
 その理由は、トランプの「アメリカファースト」で分かるとおり、「自国ファースト」であり、「他の国など知ったこっちゃない」という発想からくると思われる。しかし、理由はどうあれ、戦争を終わらせろ、という主張は「自由民主主義者」よりも強いことは確かである。
 結局のところ、「自由民主主義者」たちは、そのイデオロギーから逃れられず、敵対する「権威主義・強権主義国」の「悪」はやっつけろ、という戦争屋と化してしいるのは、間違いないことだ。

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ロシアの進攻から1000日。数十万人の死は、すべて無駄死にか?

2024-11-24 12:32:42 | 社会

 家族の死を嘆き悲しむウクライナの母子 BBC
 
 ロシアのウクライナ進攻から1000日が経過したが、戦争はさらにエスカレートしている。アメリカと英国は、ウクライナに供与した長距離ミサイルのロシア領内への攻撃を許可し、ウクライナはすぐにそれを実行した。そして、当然にもロシア側は報復として、ウクライナへ新型中距離弾道ミサイルを撃ち込んだ。これは、プーチンによれば、秒速数十キロの速さで飛行するので、西側の防衛システムでは迎撃できないという。
 ロシアによる侵攻以来の間の死者数は、ロシア・ウクライナともに公表されていないが、双方で兵士と民間人合わせて数万人から10万人以上であり、関連死という味方で言えば、数十万人にのぼるは間違いない。それは、プーチンの愚かしくも残虐な選択と、ゼレンスキーの徹底抗戦方針と西側政府の軍事支援でもたらされたものである。
 しかし、今まで和平交渉がなかったわけではない。2022年2月24日から始まった侵攻直後の2022年3月に、トルコのイスタンブール等で和平交渉が行われた。その和平交渉は失敗に終わったが、停戦を妨害したのは、直接的には、英国のボリス・ジョンソンである。その交渉のさなかに、キーウでゼレンスキーにNATO諸国の軍事支援を餌に停戦反対へ誘導したことが、西側メディアでも暴露されている。それは勿論、ジョンソンひとりの考えではなく、ロシアの脅威を軍事力で抑え込みたい米欧政府全体の意図でもある。
 もし米欧政府が中立の立場でいれば、それが成功し、停戦が実現した可能性は高い。そして、それら数十万人の死は免れただろう。

 現実の戦況はロシア側が優勢であり、西側供与の長距離ミサイルをウクライナが使用しても影響が小さいことは、西側メディアで専門家の意見として掲載されている。ロシア側が使用するミサイルや航空部隊は、西側供与のミサイルより射程距離も航続距離も長く、ウクライナのミサイルの射程距離外に部隊を移動させれば、済むからである。(北朝鮮の派兵も戦況に影響しないことが、専門家の意見として西側メディアに掲載されている。言葉も通じず実戦経験もない北朝鮮兵士は、ロシア軍には足手まといなだけだと指摘されている。これは、むしろ、ロシアの支援を得ることで米日韓の軍事的脅威を減らしたいキム・ジョンウンの意向が反映しているだけということだろう。)

和平交渉しか道はない
 米欧の軍事支援を継続しても、実際のウクライナ側の劣勢は際立っている。それは、BBCが11月10日に「ロシアの勢力拡大が加速するにつれ、ウクライナ戦線は『崩壊』する恐れがあると専門家が警告」 という記事を載せたことでも明らかである。
 
 また、一向に好転しないウクライナ国民の悲惨な状況を反映し、ウクライナ国民自身の意識の変化している。11月19日、アメリカの世論調査会社のギャラップが、2024年8月と11月に実施したウクライナでの世論調査を公表している。
 これによれば、 戦争開始時には「戦争に勝つまで戦い続けるべきだ」が、73%だったが、今ではわずか38%にまで減少している。2022年2月には、「できるだけ早く戦争を終わらせるための交渉を行うべきだ」が22%であり、2023年になっても、27%だった。しかし最近では52%と、初めて過半数を超えている。 

 こういった時間の経過とともにウクライナの劣勢が際立ってくる状況を反映して、西側メディアでは、和平交渉を検討すべきという意見がたびたび掲載されるようになった。
 ガーディアンは、11月21日「ウクライナ戦争の西側諸国による無謀なエスカレーションは、戦略的利益をもたらさず、さらなる苦しみをもたらすだろう」というオピニオンを載せた。そこでは、「今こそ平和のために妥協すべき時である」と記されている。

 さらに同日に「ウクライナ戦争は激化しているのか、それとも終結に向かっているのか?」というオピニオンでは、「トランプが大統領に就任してわずか数週間で、ウクライナ戦争は4年目に入る。その後すぐに、戦争は米国が第二次世界大戦で費やした時間よりも長く続くことになる。何十万人もの人々が亡くなり、何百万もの人々の人生が破壊された。戦闘によってヨーロッパの安全は改善されていない。世界的に見ると、戦争はロシア、中国、イラン、北朝鮮の間の危険な、緊密な関係を助長した。クレムリンは依然として戦争の責任を負っているが、米国、ヨーロッパ、そして世界のために、戦争を終わらせるために真剣な措置を講じ始める時が来ている。」と締めくくられている。
 
 11月17日には、アメリカ国内に大きな影響力のあるニューヨーク・タイムズですら「トランプはウクライナの不可避な事態を早める可能性がある」というオピニオンを載せている。これは勿論、「戦争を1日で終わらせる」と豪語するトランプ大統領の再登場を意識してのものである。そこでは「最終的には和解が必要になる 」として、「次期副大統領のJ・D・ヴァンス氏は、ウクライナに対し、占領した領土をロシアに引き渡し、平和と引き換えにNATO加盟の嘆願を取り下げるよう求めている。」としても、「 トランプ氏はいずれにせよそれを実行すべきだ。 」としているのである。
 
 上記に挙げたものは、日本の和田春樹らの主張する「即時停戦論」
(和田春樹会員をはじめとする有志による声明「ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか」(2022/3/21))ではないが、以前の西側主要メディアでは、あり得なかった論調である。以前の論調は、ウクライナへの強力な軍事支援によってロシア軍を敗退させるべき、というものがほとんどだった。停戦への交渉を持ち出せば、それはロシアを利するだけだ、というものばかりだった。その交渉すべきという主張者を「プーチンの手先」とまで言う論調もあった。最も愚かなのは、ナチスドイツとプーチンのロシアは同じと主張し、1938年の英仏独伊四国首脳のミュンヘン会談になぞらえたものだ。その時の英仏のドイツへの融和策がナチスの侵攻を招いたことを取り上げ、侵略者のロシアには徹底的に軍事力で対抗すべきだというものである。こういう馬鹿げた主張をする者は、その軍事力で対抗することとは、米欧軍が直接的に交戦することだいうことを忘れている。それは、世界大戦以外の何物でもないことを忘れているのである。

 ドイツのショルツ首相は、11月15日に2年ぶりにプーチンと電話会談を行った。これには、国内外から批判が浴びせられたが、交渉せざるを得ない方向に向かう変化の兆しには違いない。

 徐々に明らかになりつつあるのは、軍事力でロシア軍を排撃させるには、NATO軍の直接的交戦以外にはないことである。勿論、それは世界大戦級の戦争を意味する。その選択ができない限り和平交渉を始めるしか道はないのである。いくら、日本の平和団体のように、国際法違反のロシアを非難したとしても、それだけでは現状は好転しない。(因み、これらの団体は、その後ダンマリを決め込んでいる。あたかも、ウクライナでの戦争は終わったかのように)

 世界情勢に絶大な影響力を持つアメリカ大統領にトランプが再登場しても、「予測不可能なトランプ」が何をするか、本当のところは分からない。しかし、情勢に挙げたような影響力の大きい西側メディアの論調は、間違いなくに西側首脳の政策に影響する。主戦論から和平交渉を検討すべきという変化。それは、戦争が継続すればするほど、殺戮と破壊が長引くだけという誰にも否定できない現実を反映しているのである。
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アメリカ大統領選挙結果に対するバーニー・サンダースの声明全文

2024-11-12 09:29:49 | 社会


 11月5日のアメリカ大統領選では、カマラ・ハリスは惨敗、ドナルド・トランプが圧勝したが、その直後に民主社会主義者のバーニー・サンダースが声明を発表した。この声明は、現在のアメリカ民主党を支配している主流派には、痛烈な批判となっている。
 全文を掲載する。

「労働者階級を見捨ててきた民主党が、労働者階級からも見捨てられたことに気付くのは、さほど驚くべきことではない。最初は白人労働者階級だったが、今ではラテン系や黒人労働者も見捨てられている。民主党指導部が現状維持を擁護する一方で、アメリカ国民は怒り、変化を求めている。そして、彼らは正しい。今日、大富豪が驚くほど裕福である一方で、アメリカ人の60%は給料日前に生活しており、所得と富の不平等はかつてないほど拡大している。信じられないことに、平均的なアメリカ人労働者の実質的なインフレ考慮週給は、50年前よりも今の方が実際に低いのだ。
 今日、テクノロジーと労働者の生産性が爆発的に向上しているにもかかわらず、多くの若者の生活水準は両親よりも劣っている。そして彼らの多くは、人工知能とロボット工学が悪い状況をさらに悪化させるのではないかと心配している。今日、他の国々よりはるかに多くの一人当たりの支出があるにもかかわらず、私たちは依然としてすべての人に医療を人権として保証していない唯一の裕福な国であり、処方薬に世界で最も高い価格を払っている。主要国の中で、有給の家族休暇や病気休暇さえ保証できないのは私たちだけです。今日、大多数のアメリカ人の強い反対にもかかわらず、私たちは過激派のネタニヤフ政権によるパレスチナ人に対する全面戦争に何十億ドルも費やし続けており、その結果、大規模な栄養失調と何千人もの子供たちの飢餓という恐ろしい人道的災害が発生している。民主党を支配している大金持ちと高給取りのコンサルタントは、この悲惨な選挙戦から何か本当の教訓を学ぶでしょうか? 彼らは何千万人ものアメリカ人が経験している痛みと政治的疎外を理解するでしょうか? 経済的、政治的に非常に大きな力を持つ、ますます強力になっている寡頭政治にどう対抗できるかについて、彼らには何かアイデアがあるのでしょうか?  おそらくないのでしょう。今後数週間、数か月の間に、草の根民主主義と経済的正義に関心を持つ私たちは、非常に真剣な政治討論を行う必要があります。お楽しみに。」
出展:Occupy San Francisco(翻訳はグーグル機械翻訳を若干修正した)
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「何をしでかすか分からない男」ペテン師トランプの再登場

2024-11-09 09:28:09 | 社会

NHKより

 事前の世論調査報道を覆して、ドナルド・トランプが47代アメリカ大統領選に圧勝した。さっそくマスメディアでは、トランプが行うであろう政策をまじえて、トランプ評が盛んに掲載されている。政策としては、大統領選で繰り返し訴えた移民強制送還、輸入品への新たな関税の導入、気候関連規制の凍結、連邦保健機関の改革などが行われるだろうということである。それに加えて、多くの批評の中で、言葉に表れているかは別にして、トランプに対する共通した認識は、「何をしでかすか、その時になってみなければ、分からない」という予測不可能性である。

ペテン師トランプの再登場
 それは主に、トランプが、選挙戦で大声で語ったのは、「脱線と誇張と虚偽話、最終盤のトランプ氏演説一段と奔放に」とロイターの記事(10/30)にあるように、相手の候補をこき下ろすためのものが多く、どこまで本心で語っているのか疑わしいからであり、実際には、その掲げた政策の実現可能性は極めて低いからである。
 それは、例えば移民の強制送還でも「巨大な収容所を建設し、前例のない規模で大量国外追放を実施し、国境警備隊員を数千人増員し、軍事費を国境警備に注ぎ込み、1798年の外国人敵対者法を発動して麻薬カルテルや犯罪組織の構成員と疑われる者を法廷審問なしで追放すると誓っている 」が、「不法移民を具体的にどのように取り締まるのか、またその計画に資金をどのように投入するのかという質問には答えていない。 」(POLITICO11/6)し、移民を取り締まる国境警備隊を増加させること自体が困難なことに加え、(POLITICO11/6)移民が低賃金労働者としてアメリカ経済を支えているので、反対する者も多いなど、その実現には、多くの障壁がある。また、「3兆ドル相当の米国製品輸入すべてに10~20%の一律関税を課し、すべての中国製品に60%の関税を課す」(同上)と 言っているが、それは、中国のみならず、EUや日本などの西側同盟国とも「世界的な貿易戦争を引き起こす」(BBC11/6)恐れがあり、アメリカ共和党内からも大反対の声が上がるだろう。

 このように、トランプは選挙で勝つためなら、「何でもあり」の公約をまき散らす、所詮ペテン師なのである。
 
「何をしでかすか分からない男」の最も危険なこと
 トランプの当選で日本の石破茂も含め、世界各国の首脳は電話等で祝意を伝えた。しかし主要国の中で、ロシアのウラジミール・プーチンは、直接祝意を伝えなかった。中国の習近平国家主席が7日、祝電を送ったことと比べれば大違いである。プーチンは、ロシア南部ソチでの国際会議で、質疑に答える形で「私はアメリカ国民から信頼される国家元首であれば、どのような元首とも協力すると言ってきた」(NHK11/8)と述べ 、祝意と対話の用意があるという意思を示しただけである。2016年のトランプ第1期の大統領選勝利には、プーチンは他の国の指導者より早く祝意を表明したことと比べても大違いである。
 西側マスメディアは、プーチンはハリスよりもトランプが好ましいと考えていると報道していたが、実際には、プーチンはトランプの人間性を疑っているのである。
 プーチンが示した祝意に拘わらず、2017年にトランプが大統領に就任してからは、ロシアには制裁を強化し、ウクライナへはジャベリンミサイルを供与したのである。 11月6日、クレムリンの報道官ドミトリー・ペスコフ氏は トランプに対し、「我々が話しているのは、直接的にも間接的にも我が国に対する戦争に関与している非友好的な国だということを忘れてはならない」 (アルジャジーラ11/7)と言ったが、それは、ロシア政府全体のトランプに対する不信感を表している。
 要するにロシア政府は、ハリスの政策は予測可能だが、トランプは予測不可能であり、多くの西側メディア同様に「何をしでかすか分からない男」と見ているのである。

 トランプは、度々「ウクライナ戦争を1日で終わらせる」と豪語しているが、どうやって終わらせるのかについては、まったく口にしない。しかし、トランプはロシアとウクライナは交渉すべきと主張しているが、そのヒントが垣間見えることがある。
 ロイター は6月5日、「ドナルド・トランプ米大統領の主要顧問2人が、大統領選挙でトランプ氏が勝利した場合、ウクライナにおけるロシアの戦争を終わらせる計画をトランプ氏に提示した。計画には、ウクライナが和平交渉に参加した場合にのみ米国から武器が提供されると伝えることが含まれている。同時に、米国はモスクワに対し、交渉を拒否すればウクライナへの支援が強化されることになる、と警告するだろう、とトランプ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官の一人、キース・ケロッグ退役中将はインタビューで語った。」と報じている。
 その後も、西側メディアで数多く報じられているのは、トランプはゼレンスキーとプーチンを交渉のテーブルに着かせようとしているのは間違いないということである。その交渉の条件は「ウクライナは領土の一部を放棄し、一定の軍事力の強化をアメリカは支援するがNATO加盟は諦める。ロシアは、占領したウクライナ東部の一部を返還し、今後の侵攻をしないと確約する、というものになるだろう」という。そして、トランプは戦争をやめさせた勝者として、自らを誇る、というものだ。
 確かに、この推測の信憑性は高い。しかし、この条件は、ウクライナ側が今まで固執し、徹底した抗戦を続けてきた理由の「領土の不可分」を認めないものであり、ゼレンスキーが飲むとは考えられない。アメリカの支援がなくても、ヨーロッパ諸国の支援が増大すれば、戦闘は可能だと主張するだろう。また、この案にヨーロッパ諸国は反対するのは目に見えている。
 和平案が通らなければ、「何をしでかすか分からない男」は、正反対の強力な軍事力の行使を模索する。「力による平和」を合い言葉にしているトランプが選択するのは、交渉がダメなら「力」の行使である。トランプは、バイデン政権がしなかったこと以上の決断するだろう。まず、バイデンが認めなかった、ゼレンスキーが再三要求した長距離ミサイルのロシア深部への攻撃を許可する。また、アメリカ共和党内の強硬なタカ派が主張してきたように、米軍の直接派兵である。ロシアを軍事力で圧倒し、屈服させ、「戦争を1日で終わらせる」。上記のキース・ケロッグは、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、トランプはかつてプーチンに「もしお前がウクライナを攻撃するなら、お前は信じられないくらい激しく攻撃する。モスクワのど真ん中でお前を攻撃してやる」と言ったことがあると語っている。
 このシナリオが、実行された時に起こることは、言うまでもない。核大国同士の世界大戦である。
 「 何をしでかすか分からない男」ペテン師トランプは、本当に何をしでかすか分からない。
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