アメリカのATACMSミサイル BBC
圧倒的に多い「自由民主主義国」の軍事費
2024年4月22日、ストックホルム国際平和研究所SIPRIは、2023年の世界の軍事費を公表した。それによると、世界全体で2兆4430億ドル 、前年比は6.8%増加し、統計を取り始めた1988年以降で最大となっている。現実に、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルによるジェノサイドを含めたイスラエル・近隣アラブ諸国での戦争、スーダンを始め中東・アフリカ諸国での内紛・内戦は鎮まるどころか、激しさを増している。戦争の世紀だった20世紀が終わったが、21世紀も戦争の世紀であることが明らかになりつつある。
国別の比較で言えば、アメリカが突出しているが、上位15位以内に、所謂西側の9ヶ国が入っており、これら「自由民主主義国」を自認する国が世界の軍事費の70%を占めているのである。これらの国は、国の数で世界の10分の1以下であり、人口でも10分の1以下、経済の大きさでも、4分1程度にしか過ぎないにもかかわらず、である。
かつて、「軍国主義」という言葉があった。強大な軍事力行使することで、国家の利益を追求する国家のことである。そして、それを推し進めたのは、主に極右のタカ派である。しかし、現在では、軍事力で外交問題を解決しようと企図しているのは、自称「自由民主主義者」たちなのである。
「自由民主主義者」たち
自称「自由民主主義者」とは、典型的な例を挙げれば、ジョー・バイデンのアメリカ民主党主流派のことであり、ヨーロッパでは、マクロン始め政権についている中道派のことである。日本では、朝日新聞とこの新聞に投稿する「知識人」のことであり、根っからの戦争屋である右派の「自由民主」党に色々な理屈をこねて外交では事実上追随している連中のことである。
バイデンは世界を「自由民主主義国」と「権威主義・強権主義国」に分け、その戦いを始めようと叫び声を挙げた。それが、「権威主義」のロシアとのウクライナでの代理戦争なのである。ヨーロッパでも、「民主主義」の敵のロシアの侵略から守るため、ロシアとの戦争をエスカレートさせている。2022のロシアの侵攻当初には、ウクライナには、F16を始め、西側最新鋭戦闘機を供与するのを戦争の拡大を恐れて禁止していたが、いつの間にその禁止は解かれている。そして、最近では供与した長距離ミサイルのロシア領内攻撃も許可し、バイデンは国際条約で禁止されいる対人地雷さえもウクライナ供与を許可した。
この動きは、ヨーロッパではもっと大きく、フランスのマクロン大統領や英国の労働党新首相キア・スターマーは、(英国労働党は、ジェルミー・コービンなど左派を追い出し、ほとんど保守党と変わらない中道派になった。)バイデンより強硬なウクライナへの強力な軍事支援とウクライナへの自軍の派兵まで検討し始めている。
この動きの背景にあるのは、ロシア・中国・イランなどの「権威主義・強権主義国」は絶対的な悪である、というイデオロギーである。したがって、これらの国との戦争は正義の闘いなのである。イスラエルのパレスチナ人に対する迫害・ジェノサイドは、イスラエルが「自由民主主義国」の仲間なので、自衛権として断固支持される。抵抗勢力のハマスもヒズボラも、「悪の」イランの手先なのだから、その戦争は正義であり、何人パレスチナ人を殺そうが、飢餓に追い込もうが、イスラエル政府は擁護されるのである。
「自由民主主義国」の仲間に入れたいインドは、「世界最大の民主主義国」であり、首相のナレンドラ・モディがイスラム教徒を迫害しようが、インドの特殊部隊がカナダで、シーク教指導者のハーディープ・シン・ニジャールを暗殺しようが、不問に付されるのである。(因みに、海外ネタはアメリカ経由の日本のメディアは、この事件を片隅にしか報道しない。)
元来、軍事力優先主義は極右の共和党だと思われがちだが、アメリカでは民主党は結党当時は、黒人奴隷制維持の差別主義濃厚な右派であり、共和党の方が今で言う「リベラル」だった。それが、様々変化を経て、極右の共和党、中道右派の民主党に変身したのである。ベトナム戦争は民主党のリンドン・ジョンソンが始め、共和党のリチャード・ニクソンが泥沼化させたのである。また、2003年イラク戦争は、共和党のジョージ・W・ブッシュの戦争である。両党ともに、軍事力による外交問題解決志向が強いのは、歴史的には変わらない。
参照:サイトJacobin「新たな冷戦の超党派的起源」The Bipartisan Origins of the New Cold War
抑止力という名の軍事力正当化
軍事力を防衛力と呼ぶようになったのは、最近のことである。英語では、military power の替わりにdefense powerと言い換えられている。各国政府もマスメディアも軍事費という言葉は防衛費に、軍事産業は防衛産業に言い換えられている。今や、「死の商人」という言葉は、完全に死後となっている。
このようなことが起こるのは、敵と見做す国や勢力の軍事的脅威から自国安全を守るという「抑止」という思想からである。抑止とは、敵と見做す相手に、相手側の攻撃から守る軍事力を維持し、その軍事力を使用する能力と意思を見せつけることである。敵と見做された相手側も同様に、「抑止力」を高めるので、この「抑止力」は高ければ高いほど望ましいことになる。
そうなれば、果てしない軍拡競争を意味する「軍拡の罠」に陥るのだが、それでも、抑止力の拡大、つまり軍事力の拡大を正当化するのが、相手側を徹底した「悪」と見做すイデオロギーである。まさにそれが、バイデンの「自由民主主義国」対「権威主義・強権主義国」の正義の闘いである。
バイデンは西側諸国を「自由民主主義国」と自画自賛するが、実際に西側諸国で行われている政治は、バーニー・サンダースが言うように、大金持ちと大資本に有利な「寡頭政治」に過ぎない。バイデンの真意は、この「寡頭政治」を守ることであり、外ならぬ台頭する中国に、経済的政治的利益を奪われつつあるのを何とか阻止したいというものなのである。
その政治への庶民階層の不満の現れ、現状の政治への異議申し立てが、アメリカでは「トランプ現象」であり、ヨーロッパ中に吹き荒れる極右勢力の台頭である。勿論、極右は寧ろ、「自由民主主義者」より「大金持ちと大資本」に実際には忠実であるが。
その極右は、トランプは、「戦争を1日で終わらせる」と言い(実際には、何をしでかすか分からず、「予測不可能」だが)、ヨーロッパの極右、例えばは、ハンガリーのオルバン・ビクトール は、これ以上の戦争拡大は危険だとウクライナへの軍事支援に反対している(したがって、政権やメディアからは「親ロシア派」と呼ばれる。)。
その理由は、トランプの「アメリカファースト」で分かるとおり、「自国ファースト」であり、「他の国など知ったこっちゃない」という発想からくると思われる。しかし、理由はどうあれ、戦争を終わらせろ、という主張は「自由民主主義者」よりも強いことは確かである。
結局のところ、「自由民主主義者」たちは、そのイデオロギーから逃れられず、敵対する「権威主義・強権主義国」の「悪」はやっつけろ、という戦争屋と化してしいるのは、間違いないことだ。