夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

看板だけの「自由民主主義」が戦争を引き起こす

2024-04-27 10:51:04 | 社会


 2024年4月8日、首相岸田文雄は、国賓待遇で公式に訪米し、10日にはジョー・バイデン大統領と日米軍事同盟の深化を明白にした共同声明を発表した。た。そこでは、日本の軍事費の増大、「敵基地攻撃」能力の保有を「歓迎」し、 「作戦及び能力のシームレスな統合を可能」にするため「それぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と明記されている。この声明は、「未来のためのグローバル・パートナー」 と題され、「自由で開かれたインド太平洋及び世界を実現するために、日米両国が共に、そして他のパートナーと共に、絶え間ない努力を続けることを誓う。 」と記されている。
 要するに、東アジアでの主に対中国を念頭に、「自由民主主義」を守るために、米日共同で軍事力の強化を図る、というものである。

「自由民主主義を守るため」の戦争
 「自由民主主義を守るために」というお題目は、米日だけでなく、ヨーロッパででも使われる。「自由民主主義を守るために」ロシアと戦うというスローガンが、ウクライナへの強力な軍事支援を行うために使われる。ゼレンスキー自身も「民主主義国家は手を引いてはならない」とNATO諸国の軍事支援継続を要請した。
 NATO諸国のウクライナへの軍事支援に最も熱心なのは、概して好戦的なタカ派の多い極右派ではなく、「リベラル」な中道右派・左派である。日頃は好戦的な極右のハンガリー首相のオルバンの与党「フィデス・ハンガリー市民連盟 」、ドイツAfD、イタリアのメローニ率いるFDI「イタリアの同胞」などは、
軍事支援には反対しないまでも消極的であるのは否めない。
 アメリカでも、概して中道右派に近いバイデンの民主党主流派政権は、ウクライナへの軍事支援は他のNATO諸国より圧倒的に強力に実施しており、民主党よりはるかに右のトランプの共和党は、ウクライナ支援の予算に反対するなど消極的姿勢が際立っている。
 その理由は、アメリカ共和党がウクライナ支援予算を、移民規制のための壁を作る方に回せと言っているように、また、トランプがアメリカ・ファーストと叫んでいるように、概して極右は、自分たちさえ良ければ、他の国などどうでもいい、という利己主義的性格がと強いからだとも考えられるが、最大の理由は、戦争の正当化に「自由民主主義を守るため」という理由付けをしているからである。端的に言えば、このイデオロギー化した「自由民主主義」を最も強く信奉しているのが、西側の中道右派・左派なのである。だから、極右よりも「自由民主主義を守るため」の戦争を、全面的に推進せざるを得ないのである。

 この「自由民主主義を守るため」という戦争の正当化の論理が、アメリカにおいて、最も大きく叫ばれたのは、ベトナム戦争である。その論理は、北からの共産主義の浸透を防げなければ、反「自由民主主義」の共産主義は、ベトナムだけでなく、その周辺国に及び、いつかはアメリカにまで到達してしまい、アメリカも共産主義に侵されるというものである。いわゆる「ドミノ理論」であるが、アメリカ軍がベトナムから排除された後も、共産主義勢力はベトナム戦争とは直接無縁の一部の周辺国で政権を奪取したが、それ以上の広がりはなかったのは、言うまでもない。

 しかし、この間違いが明らかな「ドミノ理論」が、西側の「自由民主主義者」によって、対ロシアとの戦争には、性懲りもなく使われているのだ。ウクライナでロシアの進攻を阻止できなければ、権威主義・強権主義のプーチンの「ロシア帝国」は、さらに西のヨーロッパ諸国に侵攻し、やがてはヨーロッパ全土が、「ロシア帝国」の進攻にさらされるというものだ。「ドミノ理論」が間違いなのは、歴史が証明しているが、この論理は、ウクライナのロシア軍を軍事力で排撃しても、「ロシア帝国」が軍事的能力を保有している以上、他のヨーロッパ諸国に侵攻しないという理屈にはならず、「ロシア帝国」の軍事的無力化するか、あるいは、プーチンだけでなく、ロシアの民族主義者を打倒することなしには、侵攻はやまないことになる。それには、第二次世界大戦終了時のように、勝者のNATO諸国によるロシアの占領以外に方法はないのである。
 そもそも、この「ロシア帝国」の進攻という見方には、2022年以前のウクライナでのウクライナ民族主義者とウクライナ人ロシア語話者の間の、数万人の犠牲者を生んだ紛争が完全に無視されているし、NATOがロシアの国境付近まで拡大し、それがレッドラインを超える脅威だというロシア側の警告を黙視した西側政府の行動を一顧だにしていない。単に、自分たちの敵は「悪魔のようなものだ」と言っているようなもので、それ以外のことは一切考えないという固定化した思考によるものなのである。
 
なぜ、アメリカは戦争ばかりしたがるのか?
 2023年2月、バーニー・サンダースは、英紙ガーディアンのインタビューで、「ロシアでは、寡頭政治が行われているが、同様にアメリカも寡頭oligarchsが動かしている」と述べた。Bernie Sanders: ‘Oligarchs run Russia. But guess what? They run the US as well’
 サンダースは、続けて「それはアメリカだけではなく、ロシアだけでもない。ヨーロッパ、英国、世界中で、少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めているのを目にする」と言う。
 本来の民主主義では、多くの一般大衆が国の政策に関与し、「人民の、人民による、人民のための統治」が行われるはずである。しかし、現実の政治は、「少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めている」とサンダースは、言うのである。

 2014年政治学者のマーティン・ギレンズとベンジャミン・I・ペイジは、英ケンブリッジ大学出版部Cambridge University Press のオンライン論文で、そのアメリカの政治を実証的に分析し、結果を公表している。
 その分析の結果として、「経済エリートとビジネス利益を代表する組織グループは米国政府の政策に大きな独立した影響力を持っているが、平均的な国民と大衆ベースの利益団体は独立した影響力はなく、ほとんど、またはまったく影響を与えていないことが判明した。」と記し、「私たちの分析は、アメリカ国民の多数派が実際には政府が採用する政策に対してほとんど影響力を持っていないことを示唆しています。アメリカ人は、定期的な選挙、言論と結社の自由、広範な選挙権(まだ議論があるとしても)など、民主主義統治の中核となる多くの特徴を享受している。しかし、政策決定が強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人によって支配されている場合、民主主義社会であるというアメリカの主張は深刻に脅かされると私たちは信じています。」と結論づけている。
 この分析は、「平均的な国民、経済エリート、利益団体の政策への影響」を数値化して調査したものだが、政策決定には、「平均的な国民」は影響力を持たず、「経済エリート、利益団体」に支配されている、ということである。言い方を変えれば、アメリカは形式として様々な民主主義的制度があるにしても、サンダースの言うように、現実の政治は、「少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めている」のである。
 経済エリートとビジネス利益を代表する組織グループとは、大資本・大企業であり、中でも、世界で群を抜く大きさのアメリカ軍事産業が、政策決定に大きな支配力を有していることは、想像に難くない。ロシア・ウクライナ戦争によって、アメリカ軍事産業、軍事関連企業、原油価格の上昇で石油業界、穀物輸出業者などは莫大な利益を上げている。この構造が、ウクライナへの軍事支援強化を支え、でき得る限り長期にわたる戦争を継続させる圧力となっていると考えられる。
 アメリカでは、軍事部門の民間委託は膨大であり、そこから莫大な利益を得る軍事産業は、政界へのロビー活動も活発に行う。アメリカブラウン大学の調査によれば、兵器メーカーのロビー活動費は、2001年以来25億ドル以上におよぶという。
  (「公的資金の防衛業者への回転ドア」Jacobin2024.4.23)
 この構造が「平均的な国民と大衆」が望まない戦争へと進む大きな影響力を持つのである。


西側がつくり上げた「国際秩序」
 岸田文雄は、アメリカ議会で演説し、「米国は経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくった。自由と民主主義を擁護し、各国の安定と繁栄を促した。」「今日、日本は米国のグローバル・パートナーであり、この先もそうあり続ける。」と誇らしげに語った。しかし、現実のアメリカは、「政策決定が強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人によって支配されている」のであって、それがつくり出した「国際秩序」も、「強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人」にとって好都合なものに過ぎないのである。それを岸田は「自由と民主主義」だと言っているのである。

  第二次大戦後、何年経過しても、サウスグローバルの国とそこに住む人びとが相変わらず貧しいのは、アメリカが牽引する西側がつくり上げた「国際秩序」によるところが大きい。その「国際秩序」は、豊かな西側が、永久に豊かであり続けることが、暗黙に組み込まれているからである。
 経済の面では、1944年にアメリカを筆頭として、連合国通貨金融会議を開催し、ドルを基軸通貨とする固定相場制という国際金融体制をつくりあげ、また世銀IMFと国際復興開発銀行IBRDの発足を決定した 。このブレトン・ウッズ体制は、1973年に変動相場 に移行し、終わるが、基軸通貨としてのドルによる世界への経済支配力は今も強大である。
 この自由貿易体制を基本としたアメリカが牽引する西側による経済的世界支配は、資本主義の不均等発展で遅れ、また、戦前まで西側による植民地支配で疲弊したままのアジア・アフリカ諸国も、自由主義経済として、同じ土俵で競争することが求められる。当然のように、それでは、遅れた地域の側に勝ち目はない。それが、グローバルサウスが永続的に「後進国」であり続ける、本質的な理由である。
 しかし、「後進国」の側も、そのままではあり得ない。その状況から脱出する努力と西側に対する抵抗は次第に強化されていく。それが、BRICSであり、ASEANであり、アラブ諸国であり、その他のアジア・アフリカ・中南米諸国である。
 その中の中国は、自由貿易体制の「恩恵」で、経済大国となったのは間違いない。しかし、その手法は、西側とは異なる強権的国家管理による資本主義である。日本を一人当りGDPで遥かに超えるシンガポールも、形式的は自由選挙が行われているが、野党、主に労働党に対する徹底した抑圧政策を通じた人民行動党による事実上の一党独裁が続いている。中国を超える経済成長率のインドは、首相のナレンドラ・モディによるイスラム教徒の弾圧、野党政治家の逮捕、シーク教指導者のカナダにおける暗殺など、明らかに西側とは異なる強権で国を支配している。このように、経済成長を「誇る」国の多くは、西側の言うところの「権威主義」である。
 
アメリカによる世界の二分
 バイデンは民主主義サミットを開催したように、世界を「民主主義国対権威主義国」に二分している。しかし、この分割はアメリカのご都合主義的であり、その区分けは、アメリカの政治的・経済的利益に合致するか否かで決められている。そこから来る外交政策は、単に対中国・ロシア・イランといったアメリカの利益を阻害する国々を敵視から生まれている。インドのモディ政権は、上記のように民主主義とは極めて疑わしいが、「自由で開かれた」国として、仲間に引き入れたいという願いから、モディ政権を批判することは避けている。ベトナムは中国同様「一党独裁」国だが、中国との対抗から、アメリカの急接近は著しい。そもそも、アメリカはアメリカ民間団体が「独裁国家」とする国々に数多くの軍事基地を置いている。これらのアメリカご都合主義は枚挙に暇がない。
 
 戦争をするためには、大義名分がいる。その「大義名分」が「自由民主主義を守る」なのである。この「自由民主主義を守る」という大義名分には、日頃「リベラル」、「民主主義を語る」ニューヨーク・タイムズなどの影響力の大きな主要メディアも、逆らえないどころか、戦争へ先頭に立つことになる。そのことは、「共産主義に侵食される」というドミノ理論を基にしたベトナム戦争でも、フェイクの「大量破壊兵器」を口実としたイラク侵攻でも、ニューヨーク・タイムズなどのメディアが賛成の論陣を張ったことでも明らかだ。
 そして今でも、右派のFOXも「リベラル」のアメリカ主要メディアも、ロシア・ウクライナ戦争では戦争継続の旗を振り、イスラエルのジェノサイドを否定する言説を繰り返している。

 バイデンであれ、岸田であれ、「自由民主主義」を唱えながら、自国の民主主義には無関心である。そのことも「自由民主主義」は、戦争の単なる口実に過ぎないことを表わしている。彼らの関心事は、莫大な軍事予算を獲得し、それによる経済効果であるのは間違いないだろう。勿論、それは、福祉関連予算を抑制させ、「平均的な国民」の生活を悪化させる。しかし、国民の生活などは、彼らにとっては、政策の優先事項ではない。そのことだけは、誰が見ても明らかだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシアのウクライナ侵攻で、世界は軍拡競争へ突き進み、日本は平和主義を投げ捨てる。(2)

2024-04-06 15:05:46 | 社会

アメリカの平和集会「ガザとウクライナに即時停戦を」

 第一次大戦時、ドイツ社会民主党が、軍事予算の増加に賛成したことを、ウラジミール・イリイチ・レーニンは、それを知った当初、左派に属する社会民主党が軍事予算の増加に賛成することなど、あり得ないと信じなかった逸話が残っている。なぜなら左派にとって、平等主義とともに、平和主義は決して譲れない根幹をなすものだからだ。その左派に属する社会民主党が、戦争への加担に通じる軍事予算の増加に賛成することが、レーニンには理解できなかったのだ。
 レーニンは、第一次大戦は、帝国主義どうしの戦争であり、祖国防衛のためであっても、戦争には反対する立場を鮮明にした。
 しかし、2022年のロシアの軍事侵攻は、単純に「帝国主義どうしの戦争」とは言えない。そのことが、西側左派の平和主義を大混乱に陥れている。
 

戦争を終わらせる二つの選択肢
 現実に起きている戦闘を終わらせるには、二つの選択肢が存在する。一つ目は、和平交渉により、停戦するというものである。停戦は、確かに戦争終結とは言えないが、それでも、戦禍は治まり、永続的な戦闘停止に導かれる端緒となり、戦争終結への道を開くことができる。そして二つ目は、相手に戦争で勝つことである。
 イスラエルのガザ侵攻の場合は、西側左派の立場は一つ目の選択肢である「即時停戦」で完全に一致している。この戦争の実情が、イスラエルによるパレスチナ人への一方的なジェノサイドとも言うべき大虐殺だからであり、その前提にあるのが、ガザへの「アパルトヘイト」的抑圧体制だからである。しかし、ウクライナ侵攻は、ガザほど単純ではなく、この二つの選択肢の前で、西側左派の平和主義は大混乱に陥っているのである。

(1)「北欧の理想の終焉」
 200年にわたり中立政策を貫いてきた北欧のフィンランド、スウェーデンの2ヶ国は、正式にNATOに加盟した。その過程とそれが意味することをヘルシンキ大学のHeikki Patomäki がThe NationとLe Monde diplomatique紙上で解説している。
 長い間、北欧のこの二か国は、反軍国主義のモデルとして、その理想はNATO加盟と両立しないと主張していた。それが、ロシアのウクライナ侵攻により、180度の方針転換が決定的となったのである。
 両国とも、1920年代頃から社会民主党が政権入りし、福祉国家とともに、中立政策を基本とする平和主義に基づく国際主義を推進してきた。フィンランドは、1948年に西側諸国で初めて、ソ連と友好協力相互援助協定を結んだ。
 ソ連の崩壊後、アメリカ主導の新自由主義が世界中に蔓延する中、多国籍企業の台頭や労働賃金の低下、石油危機などの混乱で経済の低迷が襲い、社会民主党は力を失った。また、ソ連(全体主義)との妥協とされた「フィンランド化」は、徹底的な攻撃を受け、中立政策を否定する動きをは加速された。
 経済の低迷は、新自由主義を加速し、市場統合の動きから1995年に両国はEUに加盟することになる。これは、北欧モデルを捨てたことを意味し、新自由主義の浸透により、従来の社会民主主義は変更を余儀なくされ、緊縮財政、減税、民営化、アウトソーシングなどのさらなる右傾化に進む。
 1994年以来、フィンランドとスウェーデンはNATOの平和のためのパートナーシッププログラムに参加してから、2000年代と2010年代にはNATOの「平和支援」活動に参加し、NATOホスト国支援協定を締結した 。 冷戦期、北欧諸国は各国間で多元的な安全保障共同体を実現し、対外関係において連帯と共通善を推進したが、戦争を防ぐ目的として、軍事力の向上による抑止力重視に変更したのである。
 これらの動きの中で、ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアに対する恐怖を増大させ、抑止力重視の観点から、「防衛力」増強の必要性は高まり、正式なNATO加盟となったのである。
 以上が、Patomäki の解説の要旨だが、冷戦後、唯一の超大国となったアメリカは、「テロとの戦争」で中東、アフガニスタンでの軍事行動を推し進めた。その結果、「テロ」は北欧にとっても脅威となり、また中国の台頭で、西側諸国対それ以外の国の対立が進んだことも大きな影響を与えたことは間違いない。バイデンは西側の結束を強調しているが、数十年前から、西側は結束した抑止力を持つ必要に迫られていたのである。結束した抑止力の象徴がNATOであるのは言うまでもない。

 中立の立場にいたこの2か国に、ソ連時代もロシアも直接攻撃するという動きは見せなかった。しかし、NATOに加盟したことは、ロシアにとっては、脅威であり、敵と見なされ、戦争への危険性は増大したと言える。当然、Patomäki は、正当に、最後に「NATOへの加盟を決定したフィンランドとスウェーデンは現在、歴史の誤った側on the wrong side of history にいる。 」と結論づけている。
 
 (2)欧米左派の混迷
 北欧の中立主義は、主に中道左派の社会民主党が主導してきたが、それが大転換したのである。そして、この社会民主党の政策転換の動きは、他の社会民主主義政党でも、同様な傾向が見られる。首相でもあるオラフ・ショルツのドイツの社会民主党は、NATOの強化、軍事力の拡大に踏み切っているし、他の欧州中道左派のフランス社会党、英国労働党なども、GDP2%を超える軍事費増加に賛成している。
 これらの動きは、戦争を終わらせる選択肢の二つ目、相手に戦争で勝つことを、左派の一部である社会民主主義政党が選択したことを表わしている。
EU議会社会民主主義党会派ホームページHome | Socialists & Democrats(参照)
 この社会民主主義勢力の選択は、ウクライナが戦争に勝つための軍事支援を惜しまないという中道右派やさらに右の諸政党と同様の立場である。

 では、欧米の社会民主主義政党より左に位置する、または強固な平和運動は、どのような立場なのだろうか? 
 そこには、上記のような社会民主主義政党の「戦争で勝つことで」ロシアの侵攻を終わらせるというはっきりとした立ち位置をとれない苦渋がにじみ出ている。
 平和への政策を研究するアメリカノートルダム大学クロック研究所のデビッド・コートライトは、その苦渋を言葉にしている。
 「今は平和支持者にとって困難な時期です。ウクライナにおけるロシアの残忍な侵略と、米国および世界中で高まる軍事化に直面して、私たちは何をすべきか悩み、確信が持てません。 」で始まるこの寄稿文は、「20年前、何百万人もの人々がイラク戦争に反対して行進しましたが、今日ではほとんど沈黙しています。この危機においても平和運動は意味があるのでしょうか? 」と続いている。
 その理由は、「ソ連の崩壊とワルシャワ条約機構の解散後、軍事ブロックの拡大は対立的であり不必要」であり、NATOの東方拡大は、ロシアにとっては脅威と見なされ、「それらの懸念が現実 」となった結果がロシアの進攻であったとしても、また、「米国も国際法に違反し、イラクや他の国々に対して侵略行為を行っているのは事実だが、だからといってロシアの侵略が道徳的」にも、国際法に照らしても、許されるわけではない。それ故に、自衛の「ウクライナの闘争は確かに正義の戦争としての資格がある 」のであり、そのウクライナへの軍事力を含む支援は正当かつ必要だと考えられるからである。
 
 この論理は、多くの左派の共通した論理だとも言える。欧州議会内の左派の連合会派European Leftもロシアの進攻には、この立場を表明している。European Leftは、フランス共産党、統一左派(不服従のフランス)、イタリア共産党再建派、ドイツのDie Linkeなどの連合組織である。アメリカでも民主社会主義党も同様である。そして、言ってみれば、日本共産党もこれらの左派政党と同様の立場だと考えられる。
 
 しかし、このウクライナの抵抗が「正義の戦争」という立場は、現実には極めて宙ぶらりんの曖昧な立場に自分たちを置くことになる。ロシア軍が自ら撤退することはあり得ず、NATO諸国の軍事支援を継続させ、ウクライナの受ける戦禍を継続させることに繋がるが、それに賛成も反対もできないということになるからだ。だから、現実に起きている戦争に論評することができない。フランス左派のメディアL'Humanité紙 もアメリカ民主社会党のJacovin紙も、日本共産党の赤旗も、あたかもそんな戦争は起きていないかのように、ロシア・ウクライナ戦争に関する記事は、年に数回しか見られない。立場が曖昧なので、現状では記事にできないのである。
 
(3)欧州左派の変化
 2024年3月11日、ローマ教皇フランシスコが、今月放送予定のスイスの放送局RSIのインタビューで、ウクライナにロシアとの戦争を終わらせるために交渉し、「白旗を揚げる勇気」をもつべきだと発言した(英BBC)と報じられた。この発言には、ウクライナのゼレンスキーだけでなく、NATO諸国の首脳から、特に「白旗を揚げる」という言葉に、批判が殺到した。ゼレンスキーはNATO諸国にさらなる強力な軍事支援を要請し、NATO諸国首脳は、その軍事予算の捻出に苦労している最中だからである。
 
 このローマ教皇の停戦交渉を強く促す言葉に反応して、NATO諸国首脳とは正反対に、欧州左派European Leftの欧州議会議長候補のウォルター・バイアーは、ウクライナ戦争終結を「交渉」する時がきたと語った。
 そこには、ロシア・ウクライナ戦争は2年を超え、NATO諸国が軍事支援を続けても、ウクライナ軍がロシア軍を排撃することが不可能であることが明らかになりつつあるという現実がある。その現実に、フランスのマクロンは、「我が国の兵士をウクライナに送る可能性を排除しない」と発言したが、NATO諸国の軍隊を派兵しなければ、ウクライナ軍は自分たちの力だけでは勝てないことを、マクロンはようやく認識し始めたのである。勿論、マクロンの「地上軍派遣」を他のNATO諸国首脳は強く否定した。それは、NATOが直接ロシアと交戦することを意味するからだ。
 
 現実のロシア・ウクライナ戦争は、戦争拡大の方向に向かっている。NATO諸国は、軍事費を大幅に増加し、さらに強力な軍事支援と自国防衛に力を入れ始めている。ロシアは、大量の兵器・弾薬を製造できる体制に向かっている。
アジアも、「民主主義対権威主義」戦争の準備に突入し始めた。このままの状況は、ひたすら破滅に向かって突き進んでいるかのように見える。だから、ローマ教皇は、「白旗を揚げる勇気」を持ち、戦争終結への交渉を始めるべきだと発言したのだ。
 
 フランスでは、マクロンの発言に左派も反発し、危険な状況を生む出せかねないこれ以上強力な軍事支援に反対する声が増え始めている。ようやく、欧米の左派勢力も、停戦に向けた交渉に向かうべきだと声が主流になりつつある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする