夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「ウクライナの反転攻勢は進展せず。戦争は長期化」は西側の共通認識となった

2023-09-30 11:00:07 | 社会
西側メディアの報道 
 ウクライナ政府高官は「ウクライナ軍は領土を奪還している」と公言し続けているが、その言葉とは裏腹に、多くの西側メディアはウクライナの反転攻勢が遅々として進まず、領土を奪還していないことを認め始めている。日本のマスメディアは、国際関係には「周回遅れ」の記事しか報道しないが、2月19日に英国BBCは、客観的な情報から反転攻勢は進んでいないと報じ、9月28日には、ニューヨークタイムズが同様の記事を配信した。
 ニューヨークタイムズは、9月28日に「今年、誰が領土を得たのか? 誰でない」と上記の記事を載せた。記事は「両軍とも野心的な攻撃を開始しているが、前線はほとんど動いていない。18か月にわたる戦争を経て、突破口はこれまで以上に困難になりそうだ。」と言う。


 この中で、ロシア・ウクライナ双方が獲得した領土を表す図を載せているが、これを見ると、今年の6月からのウクライナ反転攻勢以降、双方とも獲得した領土面積はほとんど変化が見られないことが、一目瞭然で分かる。1月以降で見れば、ウクライナは143平方マイルを得たが、ロシアは331平方マイルを得ており、むしろロシア側が支配した面積の方が大きいのである。といっても、その大きさの規模は小さく、せいぜいニューヨーク市の面積程度だというのである。そして記事は、次のような文を載せている。
「キングス・カレッジ・ロンドンの戦争研究の博士研究員マリーナ・ミロン氏によると、ロシア軍は急速な利益を求めるよりも、すでに支配している領土を維持することに満足しているようだ。」
「戦場ではロシア軍の兵力はウクライナ軍のほぼ3対1を上回り、より多くの人口を補充することでロシアは防衛の長期化が自国の利益にかなうと考える可能性がある。」
「ウクライナにおける全体的な戦略は、ロシア人がウクライナ人をこれらの防御に逆らわせ、できるだけ多くの人を殺し、できるだけ多くの西側の装備を破壊することだ、と彼女は付け加えた。」
 この文面を読めば分かるが、ロシア側は、ウクライナ軍がある程度の西側最新鋭兵器を伴って攻撃しているが、それは織り込み済みで、それに備えて防御を固め、攻撃してくるウクライナ兵を撃破するという戦い方をしているのである。そしてそれは、BBCの報道内容とも合致している。そしてこのことは、ジョン・ミアシャイマーが言うように、ウクライナ兵の消耗率(戦死、損傷率)の方が、ロシア側よりも高いことを示唆している。単純化すれば、攻撃してくるウクライナ兵を、ロシア軍は待ち構えて殺せばいいからである。現在の消耗戦は、ロシア側に有利に動いているのである。それだからこそロシア側は、いくらかの余裕を持ち、ラブロフ外相は9月23日にゼレンスキー大統領が提唱する「10項目の和平案」について「完全に実現不可能だ」と拒否したのだ。 
 
 9月23日の英国エコノミスト誌は、次のような記事を載せている。
 「再考の時。ウクライナは長期にわたる戦争に直面している。コース変更が必要。速やかな勝利を祈るが、長期にわたる闘争を計画すべき」というものだ。要するに、ウクライナが短期に勝利することはあり得ず、西側支援国は、
「ウクライナが長期にわたる戦争を遂行するための持続力を確保 」するために、さらなる強力兵器の供給などの軍事支援と経済再建のための多額の財政支援を継続して行うべきだ、ということである。

「戦争は長期化」は西側の共通認識
 しかしこのウクライナ戦争が長期化するという見方は、もはや西側の共通認識と言っていい。 9月19日、ロイターは「主要7カ国(G7)はロシアがウクライナ戦争の長期化を想定しており、ウクライナへの持続的な軍事的・経済的支援が必要なことを認識していると、米高官が19日、G7外相会合後に述べた。 」という記事を配信している。そしてこのことは、西側が大量の最新兵器をウクライナに供与しても、1,2年でロシア軍を排除できるとは考えていないということも意味している。
 当然、この「長期化」は、西側のウクライナへの軍事・経済支援も長期化することを意味している。既にNATOは、これまで軍事費をGDP比率2%を上限目安としていたのを、それを超える軍事費支出を各国で目指している。ウクライナへこれまでとは比較にならないほど大量に兵器・弾薬・砲弾を送らなければならないし、軍事力には軍事力で対抗するという方向に向かい、自国の軍事力をも強化しなければならないからだ。これには、バイデンの言う「民主主義対権威主義」の闘いから、中国に対する予防的軍事力強化も求められ、際限のない軍事力強化に進みざるを得ない。

「懸念は、支援疲れ」
 この戦争の長期化とは、5年なのか10年なのかは分からないが、それまで西側が結束してウクライナ支援を継続できるのかは疑わしい。上記のエコノミスト誌の記事も、既に起き始めているNATO諸国の「支援疲れ」を念頭に書かれていると思われる。2024年のアメリカ大統領選で共和党が勝てば、アメリカの支援は減ることはあっても増えることはない。また、今までの軍事支援積極派のポーランドやスロバキアでは、軍事支援を停止する動きも出ている。エコノミスト誌は、そのような「懸念」を払拭し、西側を鼓舞する目的もあって書かれていると思われる。
 だがしかし、土台、そのような戦争「支援」は極めて困難なのである。原料値上げ、食料不足に見舞われているグローバルサウスは、もとより西側に同調していないし、西側社会自体も特にインフレで多くの生活困難者が出ているなど、経済の弱体化に見舞われている。そこに、膨大な額の軍事費支出が加われば、政治的混乱は避けられない。
 経済もBRICSに抜かれつつある西側の「地盤沈下」が、このまま行けば、さらなる深みに嵌っていくのは、もはや避けようがない。
 
ウクライナ人とロシア人の大量死だけは確実
 しかし、西側メディアは、さまざまな情報を流しているが、そこでは決して触れられないことがある。ウクライナ人と強制的に徴兵されるロシア人が被る死と傷である。「いつ終わるかわからない戦争のために、また、本当に勝つかどうかも分からない戦争のために、ウクライナ人やロシア人が何人死ねばいいのか、何人傷つけばいいのか?」ということである。
 現在行われている消耗戦は、双方の大量の死傷者に、精神的、物理的に持ちこたえられるかどうかも大きな問題である。
 ウクライナもロシアも死傷者は公表しないが、堅固なロシアの防衛線突破を目論むウクライナ側の方が死傷者が多いのは、容易に想像できる。そもそも、戦地はウクライナ領土であり、破壊と殺傷はウクライナで行われているのである。そして、人口はウクライナの方が少ないのであり、同胞の死傷はロシア側より身近に感じられる。例え、ウクライナ側にロシアに対する憎悪がどんな大きくても、ロシアとの戦い拒否は「非国民」の扱いを受けようとも、恐らくはウクライナの方が先に忍耐の限度を超えるだろう。ウクライナの悲劇は、「支援疲れ」の西側どころではないからである。
 

 

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ウクライナ戦争 英BBCによる現時点の戦況分析

2023-09-22 10:01:58 | 社会
ロシアの「龍の歯」

 9月19日現在、日本の新聞には、ウクライナ側がバフムト近郊の小さな村をいくつか奪還したという記事が載っている。しかし、実際の戦況はどうなっているのだろうか? それについて、9月18日英国BBCは「最前線に沿って 9 つのソーシャルメディア動画 」を検証し、かなり客観的な実際の戦況を報じている。
 
英国BBC「反転攻勢は進んでいるのか?」
 1.ウクライナ軍の反転攻勢は大きくは進んでいない
ウクライナ軍の反転攻勢が開始されて3か月になるが、9月になってウクライナ軍は、南部におけるロシアの第一線の防衛線を「突破」したと述べた 。その意味は、この方向からアゾフ海に向かって攻撃することに成功すれば、ロシアの都市ロストフ・ナ・ドヌとクリミアを結ぶロシアの補給線が遮断される可能性があり、ロシアのクリミア巨大駐屯地の維持は困難になる。
 しかし、SNS動画を分析すると、ロシア軍の一部の防衛施設を突破しているウクライナ軍は歩兵だけであり、装甲部隊が占領保持しているのではない。つまり、ウクライナ軍の反転攻勢が進んでいないということである。
 
2.ロシア軍は、多層防御を構築した
 ロシア軍は、数ヶ月で障害物、塹壕、掩蔽壕、地雷原が連なった多層防御装置を施設した。その中の「ドラゴンの歯」はコンクリートの対戦車障壁である。
 ウクライナ軍が6月に攻撃したが、失敗に終わり、多数の死傷者を出した。 それ以来、ウクライナ軍はこれらの地雷を徒歩で、しばしば夜間に、時には砲撃の下で除去することに頼らざるを得なくなった。西側供与の戦車、装甲は、広い道の確保とロシア側砲兵が制圧できないと進撃できないが、そこまではまったく進んでいない。
 
3.ロシア軍は、増援を進めている。
 ウクライナ軍は、一部の村を奪還したが、ロシア軍は、精鋭空挺部隊であるVDVがヴェルボヴェの町の近くに展開しているなど、ウクライナ軍はロシア軍の抵抗に直面し続けている。ウクライナ軍はアゾフ海岸までの距離でかろうじて10%以上進んでいるが、現実は厳しく。

4.数週間後に雨季が到来し、反転攻勢はさらに厳しい
 もしウクライナ軍がロシア軍の残りの防衛を突破してトクマクの町まで到達できれば、ロシアのクリミアへの鉄道と道路の補給路が大砲の射程内に入るだろうが、数週間後に雨季が到来し、道路がぬかるみになって、さらにウクライナ軍の進撃は困難になる。 
 
5.戦争は終結しない
 戦争は2024年まで、あるいはさらに長く続く可能性が高い 。

反転攻勢は進んでいないという現実
 ウクライナ軍の反転攻勢については、「英軍制服組トップのトニー・ラダキン国防参謀総長は、ウクライナが勝ち、ロシアが負けつつあると述べた」(BBC9/11)というような「希望的観測」もあるが、米軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長は、「 失敗はしていないが、領土奪還という大きな目標については非常に高いハードルに直面している」(AFP9/18)と言っている。それらを考慮しても「反転攻勢は順調には進んでいない」というBBCの報道は現実に即していると言える。そしてこのことは、シカゴ大学のミアシャイマーの「ウクライナは負けるべくして負ける」(9/3)という主張を裏付けている。
 
 反転攻勢が順調に進んでいないことを、ゼレンスキーやNATO諸国の積極的軍事支援強硬派は、西側の最新強力兵器の供与が遅れているせいだ、としている。
 確かに、アメリカのM1エイブラムス戦車やF16戦闘機など、西側最新兵器はウクライナ兵の高度の操縦技術訓練と前線への輸送に数ヶ月から数年かかる。それらがウクライナ軍の標準的兵器となれば、来年、再来年の攻勢にはプラスに働くだろう。しかし、その動きはロシア側も見据えているので、それに対抗する措置を講じることになる。支配地域に協力な多層防御を施設したように。また、今まで最も積極的な武器支援国ポーランドが、最近になってウクライナの穀物輸出問題がこじれ、武器輸出をこれ以上しないと言い始めたように、また、アメリカで来年の大統領選で軍事支援に消極的な共和党大統領が誕生した場合には、NATOの支援は弱まることになることや、さらには多額の軍事支援は各国財政を悪化さることなど、NATOのこれまで同様の強力な軍事支援がいつまで続くのかは不透明である。
 それらを考えれば、ウクライナの軍事力による領土奪還は夢物語のようなものだ。また、いくらロシア軍は撤退しろと大声で叫び続けたところで、また、経済制裁で政策を変更した国など歴史上存在せず、制裁はその国の弱者をさらの困窮させるだけであり、ロシア側がウクライナから撤退することなどあり得ない。
 要するに、ウクライナ人がこれ以上死なないためには、停戦交渉を始める以外に道はないのである。
 
 
 
 
 
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フランス公共放送「ウクライナ戦争。戦線から逃れようとする兵士たち」

2023-09-20 16:02:24 | 社会
 フランス公共放送フランス2の9月19日20時のニュース
<多くのウクライナ人が前線へ送られるのを避けるために国外へ逃亡しようとしている。>
<銃を持ち警備しているのは、ウクライナとルーマニア国境の国境警備隊。
ウクライナは18歳から60歳までの個人が特別な許可なしに出国を禁止しているが、彼らは国外に逃亡しようとする男性を1日平均30人追跡している。「逮捕すると、前線に行きたくないことを認める人もいれば、海外にいる家族と合流したいと言う人もいます」と若い警備隊員は打ち明ける。>
<無駄に死ぬのか? 
逮捕された男性には200ユーロの罰金が科せられ、動員可能な男性のリスト(優先的に前線に送られる)に載ることになる。不法横断は実際のビジネスを生み出しており、1回の横断につき仲介業者に2,500~10,000ユーロが支払われる。フランス2チームは30歳の医師に出会った。戦争が始まったとき、彼は前線に行く準備ができていました。今日、彼は何としてでもこの状況から逃れたいと考えています。「このシステムを観察して考えが変わりました。塹壕で腕や足を失うような可哀想な人の一人にはなりたくないです」と彼は語った。 >

 フランス2は、ウクライナでは、国中に「国のために戦え」という看板と、亡くなった兵士を英雄として称える大きな遺影の看板で溢れている光景を映し出す。
 ナレーションは、ウクライナ人の成人男性は、否応なしに徴兵され、前線で死亡または、重症を負う。その前線に送るための徴兵を担当する部局の人間は嫌われ、そこでは徴兵逃れの汚職が蔓延し、担当部局は解任が相次いでいる、という。

フランス公共放送らしいニュース
 フランス公共放送フランス2は、2022年夏、西側のメディアで初めてドンパスの親ロ派支配地域に取材班を入れ、そこに住む住民の声を報道した。住民は、ロシアを味方と信じている者、ロシア軍や親ロ派武装勢力に隠れてロシアを非難する者に分かれていたが、「どちらが勝とうが、とにかく戦争はやめて欲しい」という者も多数いたことを報道した。恐らく、これが親ロ派支配地域の住民の本音だろう。そこで取材していたロシア以外の他の外国メディアでは、中国メディアしかいなかったのだが、西側メディアでは、その後もフランス2以外ではほとんど報道されない。勿論、その報道は西側に都合の悪い「真実」を映し出すからである。
 世界各国の公共放送は、その国の政治的状況から無縁ではない。英国BBCの国際関係ニュースは親米色が濃く、日本のNHKは、単なる日本政府広報のようものになっている。それは、特に国際関係での最大の問題であるロシアのウクライナ侵攻での扱いで、それぞれの国はそれぞれの政治状況を色濃く反映し、報道される。
 その中でもフランス公共放送は、大統領のマクロンが2023年3月、「フランスはアメリカの同盟国だが、それはアメリカの属国であることを意味しない」と発言した。フランス公共放送は、国際関係ニュースでは、この発言を反映するかのように、アメリカ一辺倒の報道はしない。それが、ウクライナの徴兵逃れの実態を報道する姿勢にも現れている。

誰も死にたくないし、傷つきたくもない。誰も殺したくはない。
 ロシアの徴兵逃れで多くの人が海外逃亡を図っているニュースは、西側メディアでは度々報道される。ウクライナに無理やり送られ、そこで、死にたくもないし、傷つきたくもない、そして誰も殺したくはないからだ。だが、それはロシア人だけでなく、ウクライナ人も同じだろう。
 ウクライナでは、成人男性は徴兵から逃れることはできない。公に反対すれば、ロシアの手先として逮捕される。 
 2023年8月、ウクライナ平和主義運動事務局長ユリー・シェリアジェンコ 
が当局に「ロシアの侵略を正当化する」として逮捕された。
       国際反戦組織World Beyond Warのニュースサイトより

 勿論、戦争に反対し逮捕されるのは、圧倒的ロシア側に多い。しかし、ウクライナ側にも、戦争に反対し、交渉を優先すべき、という意見を持つ者もいるのである。

 ゼレンスキーは、国連でロシアの侵略を非難し、軍事支援を要請している。しかし、ウクライナ人はすべてゼレンスキーと同じ気持ち、ではないのである。
 
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バーニー・サンダース「民主主義でなく寡頭制」(2)

2023-09-17 10:53:19 | 社会

                                                                        The Gurdian 9/15より
 
 このサンダースの演説は、アメリカの現在の状況を如実に反映している。1970年代以降、新自由主義に変容した政治的統治が、「経済的理性」だけが政治的理性に置き換わり、基本的な政策がすべてそれによって決定される。それが、民主党主流派、共和党の基本的方針となっている。この「経済的理性」とは、言葉の意味としての「経済領域における理性」というものではなく、現状の資本主義システムにおいて経済を増強させることが、社会的に最も必要とされることだというイデオロギーに、多くの人びとがまったく疑うことなく同意するという「理性」なのである。経済の増強は、資本の利潤を最大化することが求められ、それは結果として、新自由主義に基づく政策をすべてに優先させる統治を行なうということに繋がっていく。(これは、西側だけではなく、現在の中国共産党指導部も同じ方向性をもっている。)

 新自由主義は、経済政策の全体を自由市場の肯定という根本原理に合致させるという性格を持つが、その結果、資本の利潤増大が至上命令となり、それによって莫大な富を獲得できる富裕層はより裕福になり、労働者を中心とする庶民階層はより貧困化するという状況が常態化する。
 このことは、ウェンディ・ブラウン(カリフォルニア大学バークレー校教授)の「いかにして民主主義は失われていくのか――新自由主義の見えざる攻撃 」に通じている。ブラウンは、この著書で「民主主義的な国家の平等、自由、統合教育、立憲主義のコミットメントが、今や、経済成長、競争原理の獲得、資本の増大といったプロジェクトに従属させられている」と記しているが、それがサンダースの言う「労働者の収入は減り続けているが、億万長者はさらに裕福になっている」現状を生み続けているのである。

民主主義ではなく、寡頭制
 サンダースはこういった現状を「民主主義ではなく、寡頭制」だと言い続けている。2023年2月に英紙The Guardianのインタビューでこう語っている。
“One of the points that I wanted to make,” he says, “is yeah, of course the oligarchs run Russia. But guess what? Oligarchs run the United States as well. And it’s not just the United States, it’s not just Russia; Europe, the UK, all over the world, we’re seeing a small number of incredibly wealthy people running things in their favour. A global oligarchy. This is an issue that needs to be talked about.” 
 (「私が言いたかった点の一つは、もちろんオリガルヒがロシアを運営しているということです。しかし、どうでしょう? オリガルヒは米国も運営しています。そして、それは米国だけでなく、ロシアだけではありません。ヨーロッパ、イギリス、世界中で、信じられないほど裕福な少数の人々が彼らに有利なことを実行しているのです。それはグローバルな寡頭制です。これは話し合う必要がある問題です。」)
 
 日本も含めた西側は、形式的には言論の自由があり、自由選挙による代表民主主義制度で統治するという制度で成り立っている。経済システムからくる著しい不平等は貧困を増大させるので、選挙で勝利した政権党は不平等の是正処置をとる。これが社会福祉政策なのだが、新自由主義化の現代では、それは不平等を引き起こすシステムをそのまま残した形で行われる。
 第二次大戦後のヨーロッパ諸国での社会民主主義的な高度福祉社会の基本は、スウェーデン社会民主労働党や英国労働党が、経済部門の公有化を目指していたことで示されるように、資本主義システム下においても、できる限りの経済の社会化により、経済成長を図りながらも、完全雇用、所得の平準化、社会的富の平等化を目指していた。これは、ヨーロッパ諸国のみならず、日本など他の先進資本主義国においても、方向性は同じだった。しかし、1970年代以降のインフレと失業率の増加などの経済の低迷から、「経済の効率化」が求められるようになり、規制緩和、公的経済セクターの民営化で象徴される新自由主義化が始まった。
 この世界的な新自由主義化には、デヴィッド・ハーヴェイが言うところの「同意の形成」がの大きな要因となっている。あらゆる政策は、民衆の政治的同意がなければ、政権党は選挙に勝利することができず、実行することは不可能である。それが可能になったのは民衆の「政治的な同意」が必要なのだが、その形成をデヴィッド・ハーヴェイは次のように説明している。
「新自由主義への転換を正当化しうるのに十分な民衆的同意は、どのように生み出されたのか? これに至る回路は多様だった。企業やメディアを通じて、また市民社会を構成する無数の諸機関(大学、学校、教会、職業団体)を通じて、影響力のある強力なイデオロギーが流布された。かつて1947年にハイエクが思い描いた新自由主義思想は、こうした諸機関を通じた『長征』を経て、企業が後援し支援するシンクタンクを組織し、一部のメディアを獲得し、知識人の多くを新自由主義的な思考様式に転換させて、自由の唯一の保証として新自由主義を支持する世論の気運をつくり出した。こうした運動はその後、諸政党をとらえ、ついには国家権力を獲得することを通じて確固たるものになった」(ハーヴェイ「新自由主義」)
 これは新自由主義が確固たるもになった現在でも、新自由主義を維持するために行われていることだ。世論は、カネと権力 のある者が、かれらに都合いい情報を大量に流すことによって、容易につくり出せるのである。その実態を捉えれば、そんなものが民主主義であるはずはなく、「寡頭制」なのである。

主要マスメディア
 情報が量的には溢れる現在においても、世論に最も大きな影響を与えるのは、主要マスメディアがどう報道するか、である。今では、インターネットのSNSなどがあると言うが、SNSは所詮マスメディアが報道したものを、あれやこれやと反響しているものに過ぎない。ロシアのウクライナ進攻を始めた知ったのはSNSを通じて、という者もいるだろうが、もともとのSNSの情報源の始めはマスメディアが報じたからである。
 ロシアによる侵攻に例をとれば、マスメディアは「ロシア100%悪→中国もロシアと同じ専制主義国で悪→悪の中国はロシア同様侵攻してくる可能性がある→悪とは戦わなければいならない」と流布し続けている。このような報道が
当然に自国の軍事力(防衛力)強化を正当化する結論を導き出し、日本だけでなく、西側諸国の世論を形成しているのが実態でる。

 そのマスメディアを「米国では、8 つの大手メディア複合企業が、米国民が見聞きするもの、読むものの 90% を支配している。そして、この種の所有権の集中は世界中で一般的だ。たとえば、右翼の億万長者であるルパート・マードックは、非常に多くの国で主要なメディア媒体を所有している」のである。
 このようなマスメディアが、その所有者に都合の悪いことを報道できないのは、誰の目にも明らかである。

日本はなおさら深刻
 アメリカやヨーロッパ、隣の韓国でも、ストライキを中心とした労働運動は、国民生活の困窮化に抗して激しくなっているが、日本の労働運動は、連合路線に合わせた「戦わない労組」が主流となり、企業利益に貢献し、その「おこぼれを頂戴する」方針が一般的となっている。世界中で、恐らくは中国(ゲリラ的ストライキはあるのだが、公式にはないことになっている。)・北朝鮮についでストライキがない国だろう。
 サンダースの言うとおり、アメリカでは「労働者は反撃」しているが、日本の労働者は、意気消沈し、生活苦にひたすら耐えるているとしか言いようがないのである。

 日本のマスメディアも、政権党と広告主である企業に「忖度」する報道しかできない。その傾向は、メディアの経営悪化からますます強まり、カネと権力に「忖度」する傾向が強まっている。
 例えば、右傾化し、自民党に親密度を増す朝日新聞は、米UAW傘下大手自動車3社労組のストライキにバイデンが理解を示したという記事の終わりの文章は「米国経済に冷や水を浴びせかねない」(9月16日)と、ストライキを否定的な表現で結んでいる。言外にストライキは「良くないこと」と言いたいのは明らかだ。

 日本の一部野党を取り込んだ自民党長期政権は終わりそうにない。公明の次は、国民民主、その後には、維新も控えている。それに合わせ、主要マスメディアは、ますますカネと権力に忖度し、それがさらに自民党長期政権を長引かせる。この悪循環は永遠に続くのか。 

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バーニー・サンダース「民主主義でなく寡頭制」(1)

2023-09-16 16:29:24 | 社会
 

 バーニー・サンダース上院議員は、2020年にアメリカ大統領選民主党候補をバイデンと争ったが、2024年の大統領選は、民主党候補はバイデン一色となっており、サンダースが民主党候補として出馬する見通しはない。それはあたかもアメリカ民主党内でバイデンらの主流派が圧倒し、党内左派の弱体化を表しているように見えるが、しかしそれでも、サンダース自身は、アメリカ左派の類まれな政治家として、労働者を中心とする庶民階層のために不屈の戦いを続けている。
 2023年8月27日、バーニー・サンダースはフィラデルフィアで開催されたUNIグローバルユニオン世界大会で2,000人の労働組合活動家を前に「前例のない企業の貪欲さの時代に、前例のない労働者の対応が必要だ」と演説した。 (アメリカ労働組合活動家メディアサイトLabor Notesから抜粋)
 サンダースは、「現代史において、労働者が結集し団結することが今ほど急務となっている時はない」と前置きし、以下の要旨の演説した。

 以下は演説要旨である
前例のない不平等
 アメリカでは現在、社会の下層半分を超える富を3人が所有している一方、何千万人の人びとが、まともな衣食住と教育を得るのに苦労している。
 生産性が大幅に向上し、テクノロジーが進歩したにもかかわらず、労働者の収入は減り続けているが、億万長者はさらに裕福になっている。そしてこの傾向は世界的である。
 
民主主義ではなく寡頭制
 所有権の集中が進み、富と所得の不平等が拡大するにつれて、支配階級側の政治力やメディアの力も増大している。
 米国では、億万長者はスーパー PAC と呼ばれるものを通じて、合法的に政治運動に好きなだけ支出できるため、政治プロセスにおいて大きな役割を果たしている。億万長者は、自分たちの政策を支持する候補者を選出し、自分たちの政策に反対する候補者を倒すために、無制限の金額を費やすことができる。これは民主主義ではなく寡頭制だ。
 米国では、8 つの大手メディア複合企業が、米国民が見聞きする 90% を支配している。そして、この種の所有権の集中は世界中で見られる。
これらの企業メディアの主な役割は、働く人々の生活の現実から注意をそらし、何が起こっているのかを真に理解することを妨げ、労働者が共通の利益のために組織することを困難にすることだ。たとえば米国では、この国の労働者階級、つまり国民の大多数は「階級」として定義されることさえない。「労働者階級」という表現がメディアで言及されることは事実上一度もなく、なぜ金持ちがより金持ちになり、他の人は皆より貧しくなるのかという理由も語られない。
 それは簡単なことではありませんが、メディアを所有する億万長者層だけでなく、労働者階級のニーズを反映する強力な国際メディアを育成する必要がある。
超富裕層の財産は2倍になった
 コロナ危機で世界中で600万人以上の命が奪われたが、亡くなった人や病気になった人のほとんどは、大企業のCEOや1パーセントではなく、多くの勤労者たちだ。彼らは、看護師、医師、倉庫労働者、工場労働者、警察官、消防士、バス運転手、ホテル労働者、食品サービス労働者、その他世界中で日々他者と接触している多くの人たちだった。
 何千万人もの労働者が病気になり、多くが亡くなった一方で、パンデミックの最初の2年間で、世界で最も裕福な10人の資産は7000億ドルから1兆5000億ドルへと2倍以上に増えた一方で、人類の99パーセントの収入は減少し、さらに1億6千万人が貧困に追い込まれた。

グリーンジョブ
 もう一つ無視できない問題は、気候変動だ。そして再び、世界が暖かくなり、熱波、干ばつ、洪水、森林火災、異常気象の混乱が増えるにつれ、最も被害を受けるのは地球上の労働者階級になるだろう。富裕層は自分自身と家族をよりよく守ることができるからだ。
 したがって、私たちの仕事は、気候変動と闘い、炭素排出量を大幅に削減するだけでなく、エネルギー効率と持続可能なエネルギーへの移行に伴い、世界中で何百万もの雇用を創出することだ。適切な計画があれば、私たちはクリーンで汚染のない世界経済を創造することができ、経済を弱めるのではなくより強くすることができる。
 その努力の一環として、私たちは前例のないレベルの国際協力を必要としている。米国、中国、その他世界の軍事費にさらに何十億ドルも費やすのをやめること、つまり冷戦を繰り返さないことが求められる。私たちは、エネルギーシステムを変革し、気候変動と闘い、地球を救うために世界を団結させるために最善を尽くす必要がある。

週の労働時間を削減する
 私たち全員が注意を払うべきもう 1 つの大きな懸念は、新しいテクノロジーと人工知能の爆発的発展だが、これらのテクノロジーは人類に多大な利益をもたらす可能性を秘めている一方、何千万もの労働者に壊滅的な苦痛を与える可能性もある。問題は、何が起こるかについて誰が決定を下し、その決定から誰が利益を得るかということだ。
 良いニュースは、テクノロジーの恩恵が単に 1%の人間とそのテクノロジーを所有する人間だけに渡らないように、私たちが力を合わせて取り組めば、私たちが達成できる可能性は無限にあるということだ。
 ロボット工学と人工知能によって生産性は向上し、その生産性の向上は、そのテクノロジーを所有し管理する企業だけでなく、世界中の労働者にも利益をもたらすはずだ。
 つまり、新しいテクノロジーが仕事を奪うからといって労働者を路上に放り出すのではなく、収入を失わずに週労働時間を大幅に短縮することを要求すべきだということだ。
 米国では過去 80 年間、週 40 時間労働がフルタイム労働の法的定義となってきたが、私たちは週労働時間を大幅に短縮し、労働者により多くの余暇、家族の時間、教育の機会を与えることを検討することがでるし、そうすべきだ。
 これらの新しいテクノロジーは、労働者階級にとって災害となる可能性も、すべての男性、女性、子供がまともな生活水準を得る機会を生み出す可能性もある。大企業の CEO だけでなく、労働者がこのテクノロジーの使用方法について意見を得ることが不可欠だ。

労働者は反撃している
 今日の経済には懸念すべきことがたくさんあるが、非常に良いニュースもいくつかある。それは、今日、私たちは労働者が立ち上がって、ここ数十年で見たことのない形で反撃しているのを目の当たりにしているということだ。
 アメリカでは、より多くの労働者が労働組合への加入を希望し、昨年だけで27万3,000人が労働組合に加入するなど、より多くの労働者が労働組合に加入し続けている。これまで見られなかったほど多くの労働者がまともな賃金と福利厚生を求めてストライキに参加し、それらの組合の多くは良好な労働契約を獲得している。
 その点で、好戦的な態度と進歩的なリーダーシップにより、大幅な昇給と労働条件の改善を勝ち取ったチームスターたちに祝福を送りたい。
 ブルーカラーだけでなく、今年だけでも、全米電気労働組合は 14,000 人以上の大学院生を組合に組織しました。高学歴の学生は、名門大学での教育と身長にもかかわらず、搾取から免れないわけではないという事実に気づき始めている。

変化は起きている
 エンターテインメント業界の作家や俳優が、大きな勇気を持ってストライキを起こし、公平な取り分を要求しているのを私たちは目にしている。
 今年は、Apple、Sega、Activision Blizzard、Google などの企業で、より多くのホワイトカラー労働者が上司と対決し、テーブルに着くことを要求する様子が見られた。
 労働者は何が起こっているのかを理解している。
 私たちは、不誠実、無責任、傲慢なことが多く、平均的な労働者のことをあまり考えていないCEOによる前例のないレベルの企業貪欲に突き動かされた支配層に立ち向かっている。そして、反労働者の活動の一環として、彼らは大規模かつ違法な組合潰し戦術に従事している。アメリカ企業は昨年だけで4億ドル以上を費やしてコンサルタントを雇い、職場に来て労働者を脅して組合に反対票を投じさせた。
 このような前例のない企業の貪欲な時代に、従業員による前例のない対応が必要なのだ。
 人々は変化を望んでいる。そして変化が訪れるだろう。問題は、どのような変化が起こるのかということだ。富裕層や権力者に利益をもたらすような変化か? 対立を煽り、女性を自分で重要な決定を下すほど賢くない二級市民として扱う権威主義に私たちを移行させる変化か?
 しかし、別の種類の変化が起こる可能性がある。そしてそれは、愛、連帯、思いやりに基づいた、より公平で、より公正で、より民主的な社会を生み出す変化だ。経済的、社会的、人種的正義の原則に基づいた変化だ。その選択すべき道は明らかだ。

 
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