夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

官僚接待「賄賂・役得文化。実は、接待する方も、人のカネで飲み食いのさもしい根性」

2021-02-28 11:31:23 | 社会


 総務省幹部に対する東北新社の贅沢飲食接待に続き、農水省次官らに大手鶏卵会社「アキタフーズ」 の会食接待があったとマスメディアは報じている。信じがたいことに、代劇の悪代官とその権力の庇護の下、暴利を貪る豪商の「おぬしも悪よのう」という図式と変わらないことが、日本では21世紀でも行われている。


 官僚個人と商人のお互いの利益が一致し、それが公にならないと本人たちが思っているから、このようなことが行われる。総務省の例で言えば、週刊文春が報じなければ、問題にされることもなかっただろう。また、官僚が職務と利害関係のある業者との会食自体が禁止されているわけではないので、官僚からすれば、情報交換、業務をスムーズに遂行するためのコミュニケーション等の理屈こねるか、挙句の果ては利害関係者とは知らなかったなどの言い訳をすれば、いくらでも可能になる。確かに、国家公務員倫理規程で、利害関係者からの「供応接待」は禁止されており、その飲食費の負担に関しては、原則自己負担(所謂割り勘)で事細かい制約が課されている。しかし、それを告発するのは誰かと言えば、公務員同士の身内である。役所の中で検察が見張っているわけではない。下っ端の役人なら、告発されるだろうが(だから、下っ端役人は、ほとんどこのようなことは、なくなったという)、人事権を持つ局長級や審議官など、それに類する幹部を、身内が告発できるはずはないのだ。下手をすれば、逆に飛ばされるのである。接待した側の競合他社が密告するか、今回のようにマスメディアにでもバレない限り告発されることはないので、その本人の「倫理観」しだい、なのである。

 公務員に対する贈収賄は刑法で禁止されている。また、民間でも、会社法で「内967条、取締役等の贈収賄罪 」という法もあり、民間役員の禁止されてはいる。実態としては、さすがに、金銭を含む物品を賄賂として使うことは、激減しているし、また、賄賂の一部である接待もコストパフォーマンスの考えから以前と比べれば、減ってはいる。しかし、そこに見過ごされているのは、法以前の、人のカネで飲み食いするさもしい根性である。その「根性」は脈々と生き続けている。

 山田真貴子内閣報道官は、一度に7万円もの飲食接待受けたのだが、自分のカネならそのような高額な料理と酒を注文するのだろうか? 2000~3000万程度の年収があると推定されるが、その程度なら余程の理由がない限り、飲食に一人7万も身銭は切らないだろう。人のカネだから、家族や友人とはめったに行かない高級料理店に誘われても、ホイホイついて行き、ただ喰い、ただ酒を楽しむのである。

 接待する方も会社のカネで楽しむ
 接待する方も、自分のカネではめったに行かない店だろう。実は、接待する方も高級料理、高級ワインを楽しむのである。それは、相手が公務員でも民間でも同じことだ。さらに、通常、接待が終わったら、そのまま帰ることはあり得ない。当然、酔いも手伝って、「反省会」があるのである。「反省会」も、身銭など切るはずはない。すべて会社の経費である。会社のカネなのだから、ケチな居酒屋などいく必要はない。銀座・赤坂・六本木の高級クラブ側も心得ており、会社の経費で落ちるように、うまく領収書を切ってくれるのである。(最も劣悪な例を挙げれば、接待する相手を性産業に連れて行き、自分も性産業で「楽しむ」というものだ。)

 そこにあるのは、「役得」という意識である。業務上の権限がある接待を受ける側は、民間なら特に、その業務に携わる「役得」だと思う。その個人が美味しい料理や酒を味わったところで、会社の利益にはならない。むしろ、接待をしかけてくるのにはそれなりの理由があり、会社にとっては、何らかの不利益があるかもしれない。しかし、その個人にとっては「役得」だから、接待を受けなきゃ「損」なのである。そこには、不正義という倫理観はない。

 江戸時代の悪代官と豪商と現代との違いは、豪商は個人経営なので、賄賂は自分のカネだが、現代の賄賂の出どころは会社のカネという点である。会社のカネで、相手を接待し、ついでに自分も会社のカネで楽しむ、ということである。接待する会社役員・社員は、その部門以外では、そのようなカネを使うことはできない。だから、目いっぱい会社のカネを使うのである。それが「役得」なのである。
 賄賂・役得文化、それについて書いているマスメディアは、皆無である。おそらくマスメディアでも、それが行われているのかもしれない。だから、そのようことは書かない。そう考えたくもなる。
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愛知県知事リコール「大量不正署名は、いつものネトウヨ的手法」

2021-02-25 11:48:57 | 政治
 愛知県大村知事に対するリコール(解職請求)で、43万筆署名されたものの中に無効と思われるものが、36万筆83%も発見された。

 この運動の「リコールの会」の会長が高須克弥であり、中核となって動いたのが、河村たかし名古屋市長、会の事務局長「日本維新の会」愛知支部長田中孝博などである。その「応援団」が下の月刊誌「Hanada」を始め、百田尚樹、有本香、武田邦彦、竹田恒奉らの所謂「ネトウヨ」や維新の吉村洋文大阪府知事らである。

 要するに、自分たちの極右思想に反するものは、すべて「反日」と攻撃する「ネトウヨ」(極右)集団が集結したのである。
 会長の高須克弥は、ナチス礼賛発言でアメリカ美容外科学会から追放された(本人は自主的退会と主張)「筋金入り」の極右歴史修正主義者である。欧米ならば、レイシスト(差別主義者)、ファシストとみなされ、公の場に登場できない人物である。それに呼応して、全国的に「ネトウヨ」が集まったのだから、「ネトウヨ」的な手法で署名活動をするしかないのである。
大量不正は、いつもの「ネトウヨ」的手法 
 そもそも、署名活動には、それに賛同する多くの熱心な市民が必要で、その人たちが、直接、街頭や個別の訪問で署名をお願いして集めるという形をとる。しかし、「ネトウヨ」には、その「熱心に」動く市民がいないのである。多くの人々を主体とする市民運動とは正反対の立場にある「ネトウヨ」には、土台、署名活動は不得意なのである。
「ネトウヨ」が、インターネット上でも、同一の少数の者が、多くのアカウントをとり、大量に投稿・拡散することで、さも多くの人間が極右に賛同しているかを装うのは、研究者によって明らかになっている。(ネトウヨは「男性7割」で「平均年齢42.3歳」 | 反中・反韓のネット右翼はどこまで深刻か) (ネット利用者の2%に過ぎないネトウヨの威力の「なぜ」|正木伸城|note
 「リコールの会」はクラウドファンディングで4000万円を集めている(東京新聞2月19日)。人の集まらない「ネトウヨ」は、カネは集められるのである。コロナ危機の最中でもあり、署名活動自体も動きが難しい状況で、カネがあるのだから、それを使って何とかしようと考えるのは、自然な発想とも言えるだろう。アルバイトを雇い、署名を偽造すれば、大量に集まったことになる、と考えたのだろう。既に、このアルバイトに1000万円以上使われたことが明らかになっている(日テレニュース2月25日)。
 刑事事件として告発され、警察が捜査に入っているが、事務局長の田中は、既に証拠を隠滅したのか「佐賀県でのアルバイトは知らない」と言っている。また、高須克弥や河村たかし名古屋市長の刑事責任を問うのは難しいだろう。しかし、「ネトウヨ」の手法・やり方が「不正も厭わない」のが、多くの人たちの知ることになったのは間違いない。


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コロナ危機「世界各国のワクチン接種は、その国の政治的経済的な力を見せつける」

2021-02-21 10:58:21 | 社会
 ワクチン接種の加速
世界でコロナワクチン接種が加速している。
NHK 2月18日
 しかし今のところ、接種が上図が示すように、進んでいるのは、欧米、中国、ロシア、インド、中東の一部だけである。これらは、イスラエルを除き、ワクチン製造国(地域)であるので、自国に先に供給するのは自然なこととも思われる(インドも自前でワクチンを製造している)。また、これらの国では、中国を除き、あまりに多くの犠牲者を出し、今も感染の脅威が続き、ロックダウン等の行動制限が厳しく行われているので、ワクチン投与により、いち早く感染を抑え込むためだと考えられる。しかし、一見して分かるのは、これらの国は、所謂、国力の大きな国、つまり経済的、政治的、軍事的な力の大きな国でもある。

 イスラエルが世界で5番目の速さで接種を実施しているのが、その典型である。イスラエルは、悪く言えば、カネの力でワクチンを買い溜めし、ネタヤエフ政権の権力基盤の強さからの方針即決と、欧米のユダヤ人ネットワークから大手製薬会社への強力なコネクションを使うという政治力が実を結んだ形だ。

Our World in Data 2月19日
 上の表は2月18日現在の100万人当たりの死者数である。概して、死者数が多い国が、ワクチン接種を急いでいるのが分かる。表にはないが、イスラエルも、100万人当たり619人の死者数を出しており、日本の10倍である。

ワクチン争奪戦
しかし、世界各国での接種状況はかなり偏っている。  
 国連のアントニオ・グテーレス事務総長 が2月18日、「世界で供給されている新型コロナウイルスワクチンのうち、75%がわずか10カ国で接種されていて、130カ国以上は1回目の接種も受けられない状況にある 」(CNN)と言ったとおり、アフリカや東南アジア、南米では供給が遅れている。


 BBC2月14日
 上図は供給されている国の数である。ワクチンは、中・ロ製は僅かであり、ファースなど欧米製薬会社が9割以上の供給を行っているのが分かる。明らかに、供給は、アメリカファースト、EU・英国ファーストであり、それにアラブの裕福な国などが買い溜めに走っているという状況が見える。

中国の「ワクチン外交」 
 そこで、遅れているアフリカ、東南アジア、南米に対して、中国はワクチンを無償供与を始めた。それを、西側メディアは「ワクチン外交」と呼ぶが、それは、有名人が貧困層に多大な寄付をすることを「売名行為」と非難することに等しい。自分は何もしないで、困っている人を支援する人たちを非難する、その時に使われるものである。
 
 最近、供給不足のEUも、ロシアのスプートニクVを使い始めた。また、中国シノ  ヴァックは、ブラジルで数十万人に投与されたが、大きな問題はない。西側は、中・ロのワクチンは安全性・有効性に問題があると叫んできたが、最近では、問題がないことがだんだん証明されてきた形だ。
 
 2月20日になってG7は、国際的な接種事業「COVAX」 にワクチン供与を表明したが、自国が供給不足なのに、他国に大量供給することなどできそうもなく、「かっこつけ」だけで終わるだろう。

日本は政治力弱小国なので、遅れるしかない
 逆に、OECD加盟国で比較的裕福な国で、ワクチン接種が遅れている国がある。日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドである。韓国、オーストラリアは、死者数が人口比で日本の半分、ニュージーランドは、日本の10分の1であり、対策としてワクチンへの取り組みの優先順位が低かったと思われるが、それでも韓国では、この遅れが政治問題化し、政権批判が大きくなっている。
 
 問題なのは、日本である。日本は死者数も東アジア・オセアニアと比較して多く、感染確認数も減少したとはいえ、すぐに拡大する恐れは大きいからだ。そもそも、日本政府は、GoToなど感染拡大策を選択し、予防策は後回しにしてきたのだ。感染を抑え込む「政治力」は極めて貧弱なのである。
 
 過去に、テレビは「日本は凄い」という番組を数多く流してきたが、コロナワクチンすら自国で製造できないでいる。「日本は凄い」のは、はるか昔なのである。科学の基礎研究をないがしろにし、公的研究部門と医薬品メーカーを弱体化してきたせいである。ワクチン争奪戦が起きている世界で、日本政府の政治力では、欧米の「お流れを」待つしかないだろう。
 
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コロナ危機「今こそ、積極的疫学調査でなく、積極的PCR検査を拡充すべきだ」

2021-02-09 09:27:08 | 政治
 積極的疫学調査は「やってることになっている」
 最近の感染確認数の減少に、特に東京都の場合に、積極的疫学調査による検査数を減らしたからではないか、という疑念がネットの投稿を中心に起きている。積極的疫学調査とは、本来「発生した集団感染の全体像や病気の特徴などを調べることで、今後の感染拡大防止対策に用いることを目的として行われる調査」(厚生労働省)だが、事実上日本では、これを中心に感染拡大防止策として行われている。クラスターが発生した場合に、その濃厚接触者を追跡し、その先の感染を防止するということである。その対象範囲を、1月8日に厚生労働省が縮小するよう地方自治体に通知したのである。昨年8月以降、この濃厚接触者全員にPCR検査を行うことになったので、その範囲を縮小すれば、検査数が減り、その影響で発見される陽性者も減るのではないか、という疑念である。これについて、東京新聞2月7日に「専門家は無関係」と言っている記事が掲載されている。また、朝日新聞2月9日夕刊にも同様な記事が出ている。新聞の記事の理屈では、その追跡範囲をせばめたことが原因で感染確認数が減る場合には、感染経路不明者と判明者で、判明者の方が減る割合が高くなると考えられるが、データでは両方とも同様に減っているので、ほとんど影響はない、というものだ。記事では、そもそも保健所は、積極的疫学調査による検査など、物理的に時間も人手も不足しているため、充分にはやっていなかったというのだ。「やってることになっている」だけだったのだ。それは現場のひっ迫状況を考えればれば理解できる。実際には、追跡が徹底して行われていたのではないのだから、影響は極めて少ないというのは、納得できる理屈である。
 日本のPCR検査などの行政検査の対象は、厚生労働省が決めているが、疑いのある症状を呈した者と濃厚接触者や疑いのある正当な理由のある者(1人でも陽性者が出た高齢者施設等の全員)である。要するに、疑う理由がある者ということである。しかし、実際の検査を受けた者が、どの理由で検査されたのかは、集計されておらず、不明なのである。だから、上記のように「やってることになっている」としても、実態は分からないのである。

 PCR検査数は増えていることは、確かだが
 厚生労働省オープンデータによれば、日本の1日当りの月別PCR検査数と感染確認数は以下のとおりである。
  1日当りPCR検査件数 感染確認数(人)
2020年2月 144     212
   3月 978     1885
   4月 3811    12361
   5月 3968    2488
   6月 4033    1748
   7月 10134    15793
   8月 19923    32000
   9月 18915    15091
  10月 17733    17588
  11月 25727    47132
  12月 41095    85891
2021年1月 60757   152585
 これを見れば、検査数が増えれば、陽性者も増える、または、陽性者が増えれば、検査数も増える、という相関が分かる。数字上ではどちらが先か分からないが、行政検査の対象が「疑う理由がある者」なのだから、「疑う理由」の最も多い感染の症状うを呈した者は増えたので、検査が増え、結果として陽性者が増えた、と考えるのが論理的だ。「疑う理由」がないのに、検査はしないのだから、先に増えたのは「感染の疑い」であって、検査が増えたのは後なのである。
 上記からも分かるように、PCR検査数が徐々に増えたのは確かであるが、「疑いのある者」が減れば、検査数は減っていく。
 1月22日(東京都の積極的疫学調査縮小通知日)の検査数は101,273で、最も多く、1月1~22日の1日平均92,244、23日~2月7日は51,723となっている。明らかに、減っている。このことのせいで、検査減による陽性判明者減の疑念をもたれたのだが、検査数が減ったのは、積極的疫学調査の対象縮小せいではなく、「疑いのある者」が減ったせいで、検査数も減ったのである。
 
PCR検査を積極的、戦略的予防手段として使う
 日本政府は積極的疫学調査を中心に、感染防止対策を講じた。(それについては、上昌広氏の論考が詳しい厚労省「PCR拡充にいまだ消極姿勢」にモノ申す | 新型コロナ、長期戦の混沌
 日本政府には、積極的なPCR検査によって、その先の感染を予防するという日本以外では普通に行われている予防対策の意思はなかった。だから、感染確認数が減れば、検査数も減る。しかし、確認された感染者だけが、実際の感染者ではない。それ以外に多くの無症状の感染者がいるのである(例えばロサンゼルス市の保健当局は、3倍いると言っている)。その先の感染を止めなければ、一度下がった感染確認数は何度でも、また上がる。それには、無症状感染者を見つけ出すための大規模複数回PCR検査が必要なのである。
 国が本腰を入れないが、幸い、多くの専門家や野党が拡充を強く主張しているせいもあり、続々と地方自治体がPCR検査拡充を始めている。世田谷区、墨田区、松戸市、広島県などその他多くの自治体が厚生労働省の決めた検査対象者以外に、無料、検査費の補助といった様々な形でPCR検査の拡充に乗り出している。
 感染が減少傾向にある時こそ、無症状感染者を見つけ出し、拡大を予防するチャンスなのである。減少傾向にあれば、発見された陽性者の療養などの対応もやり易くなる。そのために、積極的疫学調査以外の大規模複数行政PCR検査の拡充、つまり積極的、戦略的検査が重要なのだ。
 
 
 


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「五輪 東京、北京、パリ、ロス、すべて正常に開催できない可能性」

2021-02-07 10:35:34 | 社会
 森発言で、東京はさらに中止の方向へ
 ただでさえ、東京オリンピック・パラリンピックの開催が危ぶまれていたが、森組織委員長の女性蔑視発言で中止が濃厚になった。森喜朗を辞めさせられない日本に、海外の政府もマスメディアも、このままの状態で開催すべきだと言うことは絶対にできない。否定しないことは、性差別を容認していると見做されるからだ。
 東京の開催に事実上最も強い影響力を持つバイデン政権は、コロナ対策、対共和党対策など国内問題に手一杯で、五輪には態度を明らかにしていない。アメリカ五輪委員会は開催されれば、選手団を派遣する意向だが、出入国管理という国家の問題がからむので、バイデン政権の判断で当然、一変する。開催を強行したいIOCと日本政府は、開催判断をできるだけ伸ばし、コロナ収束の兆しを期待しているようだが、実際には不可能に近い。4、5月には、ワクチン接種も日本以外では進み、世界的には感染も減少しているだろうが、せっかく減少している状況で、「スーパースプレッド(超拡散)」の最大のリスクである五輪を強行すべきとはならない。ウイルス変異種の拡散リスクもあり、元の黙阿弥になる恐れを選択することはできないのだ。
 1月に豪州で実施された国際テニス大会でも、入国選手は2週間の完全隔離が義務付けられた。実施された場合の7月の東京でも、入国管理は緩めることはできず、数万人規模のPCR陰性証明、選手・関係者隔離、健康把握の完全な追跡など不可能である。それでも、強行すれば、ごく一部の海外選手と、日本選手、それに政治的思惑から大量に選手を派遣する中国選手との2か国+α競技大会のようなものになるだろう。もはや、オリンピック・パラリンピックではない。
 北京冬季五輪は、西側ボイコットが濃厚
 北京で2022年1月に冬季五輪が開催が予定されているが、モスクワ五輪の時以上にボイコットする国は多いだろう。理由は中国政府の香港への民主主義弾圧と新疆ウイグル自治区への人権抑圧問題である。
 香港は、法的な意味で中国領土の内政問題と言えなくもない。しかし、ウイグル自治区での人権抑圧は、内政干渉などと言えるものではない。人権抑圧は、国家の枠組みを越えて許されないというのが、国際的な認識になっているからだ。CNNは、2月5日に180の人権団体がウイグル人等への人権侵害を理由にボイコットを呼びかける書簡を発表したと伝えている。また、英BBCは3日、ウイグル人への組織的レイプや性的虐待を受けたという収容所女性たちの証言を報じている。それ以前に、アメリカ政府もウイグル族の人口増加が止まったことを根拠に、新疆ウイグル自治区でジェノサイド(集団虐殺)が起きていると認定しているのだ。ジェノサイドとは、ナチスが行ったことでもある。
 バイデン政権も国内問題が一段落すれば、五輪に対する態度を明らかにするだろう。東京に対しては、小規模の選手派遣は容認するとしても、中国の人権問題は黙認できない。「分断」しているアメリカで、中国批判だけは民主党も共和党も一致できるからだ。
 今のところ、反中国の急先鋒は、英国、オーストラリア、カナダである。EUは反ロシア一本で、昨年末に中国と投資協定を結ぶなど中国批判は抑えている。しかし、アメリカ政府が中国人権問題を大々的に取り上げたら、無視することはできない。西側メディアは、国連主導の第3者調査を受け入れない中国を徹底して批判することになる。
 1980年7月のモスクワ五輪をアメリカがボイコットを提唱したのは、半年前の1980年1月である。来年2月の北京での開催まで、1年もある。モスクワの時は、英国、フランス、イタリアなど欧州諸国は参加した。それは、ソ連のアフガニスタン侵攻への抗議としてのボイコットが、年がら年中戦争をしているアメリカは批判できないというものだった。しかし、今回は人権問題であり、絶対に容認することはない。中国と相対的に親密なアフリカや南米諸国は、もともと冬季競技の選手は少ない。それを考えれば、北京冬季五輪は大多数の国の参加しないものとなる。中国政府の、「面目丸つぶれ」は、目に見えている。
ただでは済まないパリとロス
「面目丸つぶれ」の中国政府は、報復に出る。中国政府は、まず直接的報復として、ロス五輪をボイコットしたソ連と同様に、パリ五輪はボイコットするだろう。しかし、それだけでは済まない。ソ連と中国との違いは、「社会主義国」(マルクス主義でいう社会主義とは異なるが、資本主義ではないのは確か)と中国が国家管理型資本主義経済大国であることだ。習近平政権は、コロナ危機での「ひとり勝ち」で自信過剰に陥っており、今の方針を変えることはない。旧ソ連圏は壁の向こうの閉ざされた世界だったが、中国は、世界中に中国製品が溢れていることでも分かるように、世界経済と密接に繋がっている。中国は、経済力を武器にボイコットに参加するようアジア・アフリカ・南米諸国に呼びかけることが想像できる。アメリカの「分断」どころか、世界は協調から分断・対立に進むことになる。
 世界は、中・ロと、西側、それに中立的諸国に分断される。現在でも、これは進行中だが、今後はさらに中・ロと西側の対立は激しくなり、軍事衝突の危険性も高まる。2024年、2028年の五輪はそのような状況下での開催になる。何が起こるのかは予想できない。それが「正常な」オリンピック・パラリンピックと呼ぶことはできないだろうということだけは、確かだ。


 

 
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