夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

新総裁の正体がばれるまで、最低3か月かかるので、自民党は総選挙に勝てる?

2021-09-10 10:25:51 | 政治

 菅首相の、突然の総裁選不出馬発言で、自民党内は喜々とした空気に包まれている。何しろ、内閣支持率は低下する一方で、このままでは、自民党は衆院選の議席数をどこまで失うか分からない、という状況だったのだ。そこに、不人気の元凶が、自分から辞めてくれるというのだ。直前までやる気満々だったのが、「ぎゃあぎゃあ言うなら、辞めてやる」とばかりに、衆院選以降の首相の椅子を投げ出したのだ。特に衆院選の当落線上の自民党候補にとっては、これほど喜ばしいことはない。それは次の総裁は誰でも、「不人気の元凶」より評判が下がることはない、という思いからである。
 
 さっそくメディアは、自民党の党内事情に過ぎない総裁選を、競馬の勝ち馬予想のように、面白おかしく書き立てる。今まで不人気政策を実行してきた首相を支えてきた面々にもかかわらず、各々の個性を強調し、あたかも菅政権とはまったく異なることを考えを持っている人物のように描いている。

 基本的な政策は新自由主義で皆同じ
 菅内閣の不人気の原因が、コロナ対策に失敗したことが最大の要因であることに異論は見られない。すべてが「後手後手」に回ってことは、自民党支持者でも認めざるを得ないだろう。では、なぜ対策が「後手後手」に回ってしまうのかについては、多くの意見は、菅政権が「無能」だからというものである。しかし、「無能」であるとは、効果的な対策を打てないことを単に意味しているだけで、なぜ、効果的な対策を打てないのかの説明にはならない。中国を含め、諸外国で実行された対策が、日本では、なぜ選択されないのか? それは、自民党が一時的にも新自由主義を放棄できず、その政策を強力に推し進めているからである。

 諸外国で実行されたコロナ対策は、①感染予防のための行動規制 ②陽性者を早期発見するためのPCR検査の拡充 ③医療体制の強化 ④ワクチンの早期接種である。勿論、これはWHOの指針とも合致しており、世界標準とも言える。これに真っ向から反対したのは、世界的には、アメリカのトランプ、ブラジルのボルソナロ、ベラルーシのルカシェンコぐらいが目立ったが、実際には日本政府も、この同類だった。(ワクチンについては、日本も遅ればせながら、今年になって接種に力を入れた。)
 これらの対策の実行を阻害するのが、新自由主義なのである。

 地理経済学者のデヴィッド・ハーヴェイは著書「新自由主義」で、新自由主義を端的に表している。それは、「何よりも、強力な私的所有権、自由市場、自由貿易を特徴とする制度的枠組みの範囲内で、個々人の企業活動の自由とその能力とが無制約的に発揮されることによって人類の富と福利が最も増大する、と主張する政治経済的実践の理論である」。これは、国家の政策として「個々人の企業活動の自由とその能力」を最大限引き出すことが最優先されるということでもある。つまり、この方針に反するものは、排除ないし、優先順位は大きく下がるということである。その排除するか優先順位が下がるものに該当するのが、上記のコロナ対策なのである。

 日本政府だけが、新自由主義から離れることができず、「生命よりも経済」を優先した
 ①の行動規制が新自由主義に反するのは、最も分かりやすい。個人の行動規制は経済活動を抑制し、「個々人の企業活動の自由」を制限して実行される。もとより、新自由主義の理念が、個人の自由を重視する「自由主義」に忠実なフリードリヒ・ハイエクなどから発展したことからも理解できるように、個人の行動のいかなる規制も、原則は「悪」として認識されるのである。(日本の場合、所謂「リベラル勢力」も、個人の自由を絶対視しているので、行動規制には反対している。)
 ②と③は、公的部門を「企業活動」に開放するという新自由主義の視点から、公的医療体制の民営化を推進してきたことに起因する(保健所の削減、公的病院の病床削減が数十年実行されている)。②は、一般にPCR検査は行政行為として行なわれ(日本では行政検査と呼ぶ)、そのためには、公的医療施設と人員の拡充が必要で、それは新自由主義に反する。③も、一般にコロナ治療をするためには大規模の公的病院・施設が必要だが、日本には公的施設が2割しか存在せず、現状では収容能力が不足しているので、医療スタッフを含め、公的施設が必要だが、それも②と同様に、新自由主義に反する。
 ④のワクチンについては、その必要性の認識が遅れたためである。欧米が、ワクチンの確保に動き出した2020年の夏に、日本政府はGoToキャンペーンを実施しているのである。これも、企業活動を後押しすることが最優先される新自由主義の表れである。
 
 新自由主義は、日本に限らず世界中で進行中の政策である。しかし、コロナ危機においては多くの国では、スラヴォイ・ジジェクが「今は、誰もが社会主義者のようだ」と言ったように、規制を強め、医療体制を拡充し、国民に対する公的救済措置を講じることで、新自由主義を一時停止したのである。企業(資本)の後押し政策優先を一時的に停止し、経済が麻痺したとしても、人々の生命と健康を優先したのである。しかし、日本政府だけが、新自由主義から離れることができず、「生命よりも経済」を優先したのである。
 
 この新自由主義に忠実な安倍・菅政権を支えてきたのが、自民党総裁選候補者たちである。
 最近になって、その一人、岸田文雄は、「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」(毎日新聞9月8日)と言い出した。新自由主義政策の結果である「格差」を問題視し、具体的には、「高所得者層への課税適正化や企業に賃上げを促すための税制優遇策」や「 子育て世帯の負担を軽くするための住居・教育費支援の拡充や、医療・介護・保育にかかわる人の所得向上 」に取り組むと述べた、という。
 一見、近年の自民党政治の転換のようにも見える。
 岸田には常に「決められない人」という人物評がつきまとうが、2020年、初めての著書「岸田ビジョン 分断から協調へ」を出した時に、 東京工業大・中島岳志 は岸田を評して「スタンスやビジョンが一定せず、権力者の顔色をうかがう風見鶏だ」 と言った(東京新聞2020年9月12日)。この岸田に対する評価は的を射ていると言うべきだ。岸田は、安倍政権の森友問題について、9月2日に「国民が納得するまで説明を続ける」 と強調したのだが、7日には「再調査等は考えていない」と言ったのだ。まさに、「スタンスやビジョンが一定せず、権力者の顔色をうかがう風見鶏」という言葉にぴったりな豹変ぶりである。
 風見鶏の岸田が「新自由主義的政策を転換する」と言ったのは、単に「受け狙い」なのか、新自由主義をまったく理解していないか、どちらかであるが、恐らく両方だと思われる。「新自由主義的政策を転換する」とは、全面的な自民党の方針転換になるからだ。安倍をはじめ自民党内有力勢力は、そんなことを許すことはあり得ない。もし、岸田が本気ならば、社民党か共産党に行くべきなのだ。

 なぜ日本だけが、コロナ危機においても新自由主義から離れられないのか、という疑問が湧くが、その答えは、新自由主義に抵抗する勢力、つまり左派が著しく弱いからである。例を挙げれば、アメリカのバイデン大統領は、2022年度会計年度に、大規模な社会保障制度の発足、気候変動対策への大規模投資 、雇用確保、無償教育の拡大を中心とした6兆ドルの予算案を提示した。さらに、これには、企業やキャピタルゲイン、富裕層への増税 も含む。これには、上院共和党幹部のミッチ・マコネル院内総務は「社会主義者の白昼夢」(英BBC)のようだと批判したが、それはこの方向性が新自由主義からの転換になるからだ。この予算案を民主党左派のバーニー・サンダースは「労働者階級の勝利」(サンダースtwitter)と評したとおり、バイデンが党内左派に押されてのことである。アメリカでは、既に、左派(いくらか中道寄りだとしても)が政権内に存在するのである。だから、このような予算案が提示されるのである。日本は、自公、維新の「明白な」右派が圧倒的に強く、それにメディアも強く影響を受けるので、アメリカのような方向性を示すことは不可能なのである。

 正体がばれるまで、最低3か月かかる
 傲慢な河野太郎であれ、優柔不断な岸田であれ、極右の高市早苗であれ、誰が総裁となっても、新自由主義を邁進するのは変わらない。新自由主義の邁進は、コロナ危機にあっては、特に国民生活を破壊する。例えば、新総裁に誰がなっても、感染収束がまったく見えていない状況でも、感染拡大を生むだけで、経済効果が疑わしい、GoToキャンペーンなど「経済優先」政策を打ち出すだろう。
 1年前の菅政権発足時は、内閣の支持率62%もあった。新首相に、「何か、いいことをしてくれるだろう」と期待するからである。それが、3か月後には、支持率と不支持率が同率となった。「いいこと」がなさそうだと分かるのに、3か月かかった、ということである。恐らく、今回も同じことが起こる。新首相の正体がばれるまで、最低3か月はかかる、それを繰り返す。日本では、この循環が何度も繰り返されるのである。それが、日本の「現代史」である。
 
 


 
 
 
 
 
 

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1 コメント

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自民党総裁選 (平忠人)
2021-09-18 18:19:49
申し訳ありません。私には、三か月待たないで、共同記者会見その場で分かりました(正確には分かってました)100歩いや10000歩譲っても、野田聖子が「森友再調査」明言したことに少~し期待するぐらいですな・・後の三人はとっとと政界から去って欲しい!!特に高市!!
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