夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

世界各国ではストライキ頻繁。戦わない日本の労働者の賃金は上がらない。

2022-12-25 10:36:38 | 社会


 世界各国で労働者のストライキが頻繁している。今年の秋以降にメディアの記事になったものでも以下のとおりである。
 英国 鉄道、救急隊員 、看護師、 入国審査官 、 教員、 郵便事業運営の「ロイヤル・メール」
フランス 国鉄(SNCF)、パリ公共交通公団(RATP)、各地の空港、石油・ガス生産・販売のTotalEnergies、送電網管理のRTE、保険のAG2R LMondiale、化粧品販売チェーンのMarionnaud、土木業のEurovia、床材メーカー
ドイツ 港湾労働者、金属労組(IGメタル)傘下の電機、自動車、機械産業 による警告スト(産業別労働協約をめぐる交渉に対し、圧力を掛けるために行われる闘争形態 )
ベルギー、スペイン、ポルトガル、ギリシャ  港湾労働者
オーストラリア アップル社の従業員 
アメリカ 鉄道労働組合、板金・航空・鉄道・運輸組合輸送部門(SMART-TD) ニューヨーク・タイムズの労働組合 
韓国 トラック運転手と 貨物連帯(全国運送産業労働組合貨物連帯)

 メディアの記事だけでも、これだけあり、記事にならないものはもっとあるのが自然なので、さらに多くのストライキが世界各国では実施されていると思われる。
 しかし日本では、「東海大の非常勤講師が“異例の”ストライキ実施へ」(静岡 NEWS WEB12/5)とあるぐらいで、ストライキなどは文字どおり「異例」であり、ほとんど実施されていない。さぞかし、日本の労働者は恵まれており、ストライキの必要がないほどの高水準の給与を貰っているのかと思えるが、実態は逆である。

 日本の賃金はOECD平均より低く、近年は韓国にも抜かれているのである。さらに、物価上昇との関連でも、下記のように賃金が物価上昇に追いつかない状況が見て取れる。


賃金が低いのは労働生産性が低いから? 
日本の賃金の低さの原因を、主流の経済学者とメディアに登場する自民党を支える右派評論家たちは、最大の要因を労働生産性が低いからだと説明する。労働生産性が高ければ、その分、企業は収益を上げることができ、賃金も上がると言う。確かに、賃金の決定に生産性は影響すると考えられる。しかし、実際の生産性と賃金上昇を見ると、そうはなっていない。端的な例を挙げれば、韓国の労働生産性は、日本よりも低いが、賃金は日本を超えて上昇しているからである。また、日本の労働生産性のOECDでの順位は1970年から2015年までは20位程度で、2016年に21位、2020年には23位と下げているが、日本の賃金上昇は、1997年前後から止まってしまっている。このことからも、日本の賃金の低さの原因を労働生産性が上がらないことを主要因とするのは無理があることが分かる。



 
労働者は戦わなければ、賃金は低いまま 
 そもそも、労働生産性が高ければ、賃金も高いというのは、儲かっている会社はその分、労働者の給料を多く出せるということを難しく言っているに過ぎない。確かに、そのようなことはある。しかし、例え儲かっていても、経営者が渋ちんならば、自分の取り分は多く、労働者の給料は少なくしたいだろう。渋ちんでなくとも、経営の安定のために、会社の資金を多く蓄えたい(内部留保は多い方が安心)と思う。また、企業の利益は株主の利益に直結しているので、経営者は人間的には渋ちんでなくても、企業利益のために賃金コストを下げることを株主から強いられ、渋ちんにならざるを得ないのである。逆に、儲かっていない会社は、給料を多く出せないが、労働者を確保するために、他の会社の給料相場を見て、「このぐらい出さなきゃ、人は来ない」と、何とか賃金への資金を捻出する。
 もともと、賃金は、労働力という商品の交換で生じるので、その多寡は労働力を生む労働者の生計(生産)費と、労働力商品の労働市場の中で需要と供給に左右されるが、労働者は、賃金で生計を立てているので、多ければ多いほどいい生活ができると、賃金を上げたいと望むし、逆に経営者は、コストを下げるため、賃金を下げたいと望むのである。これらのことは、経済学の賃金論を持ち出さなくても、自明であり、誰の目にも明らかである。
 このように労働者と経営者(マルクスに従えば、資本の擬人化である資本家)の賃金に関する要求は相反するが、一般的に、相反するものは、その両者の力関係で決まる。力が強ければ、その分、要求を通すことができ、弱ければ、強いものに従わなければならない。つまり、その労働賃金は社会全体の労働者と資本家の総体としての力関係で決まのである。一言で言えばそのようなものだ。
 だから、労働者は近代資本主義の成立以来、戦わなければ強くはなれないので、団結して戦いを進めてきたのである。そしてこの戦いとは、社会全体での戦いであるので、例えば、労働者に支持基盤を置く政党が議会で強い力を持てば、最低賃金は上がる。

 日本の最低賃金は、上記のように低いが、これも労働者よりの政党を議会に送り込む力が弱いからである。
 労働者の戦いの象徴的であり中核をなすものは、日本以外で盛んに実行されている賃金引上げ要求のストライキであるが、それを実行できる力が、日本の労働者にはないのである。典型的なのは、戦わない労組の代表である連合は、賃金引上げ要求をするが、ストライキなどの闘争を前提にしない限り、それは経営者に対する「お願い」であって、経営者の「お情け」にすがる以外の意味をもたない。そしてそれは、企業の儲けの「おこぼれを頂戴する」といった程度であり、企業が「大儲けする」という条件を、労働者側が認めたものになっている。だから、労働者が所属する企業の利益に反する運動ができないのである。電力会社の労組が、原発に反対できないのは、そのためである。
 日本の労働運動は、1970年頃まで、総評が解体される前頃は、ストライキも行われた。その頃は、賃金上昇率も高かったが(経済成長のおかげだと、主流派経済学者は説明するが)現在の日本の労働者は、戦う力がないほど力が弱い。したがって、当然ながら、日本の賃金は上がらないのである。
 ちなみに、日本より労働生産性の低い韓国は、賃金上昇率が日本より高いが、労働運動が、右派保守派から罵られる全国民主労働組合総連盟(略称「民主労総」)で見られるように、ストライキを含む盛んな戦を繰り広げているので、経営者側はしぶしぶ賃金を上げざるを得ないのである。
 
ストライキは、欧米ではどう報道されるのか?
 当然なのだが、ストライキは、その利用者の不便である。その時、それをどう報道するのかは、マスメディアの立ち位置による。利用者の不便を強調するのか、労働者の賃金の低さにスポットを当てるのか、である。そしてその立ち位置は、社会の「空気」がどちらに向いているのかに、大きく影響を受ける。
 英国では、看護師、救急隊員、国境警備隊員、鉄道等労働者がストライキを決行しているが、BBCは下記のように
「誰がストライキ? 今週のストライキがあなたに与える影響」(12/18)と報道している。淡々とどこの部門がストライキをやるのか、詳しく報じるというものであり、その是非については、政府・使用者側と労組側の言い分を載せる、という具合である。利用者の意見を報道する場合には、「迷惑だ」と「賃金が低いのだから、ストライキをする気持ちも理解できる」と両方の意見を報道する。ストライキが年中繰り返されるフランスでも、公共放送フランス2も、その是非については、「迷惑」と「理解できる」と両方並ぶ。恐らく、他のヨーロッパ諸国のマスメディアも同様なものと思われる。
 かつて日本で、国鉄労働者が3日間ストライキを決行したが、その時のマスメディアの報道ぶりは、「迷惑」一本槍で、完全に許されないと報道された。恐らく、現在ではもっと、ストライキは「悪」と一方的に報道されるだろう。
日本のマスメディアからは、交通ですら「悪」なのだから、看護師や救急隊員のストライキなど絶対に許されないと袋叩きにされるだろう。
 これは、マスメディアだけの判断で報道しているのではなく、その社会の「空気」がそのようなものであるからである。英国やフランスでは、ストライキは労働者の正当な権利であり、賃金などの働条件改善のための戦いとして、理解できるという社会の「空気」が一定程度あることを示している。逆に、日本では、そのような「空気」はほとんどないのである。
 
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「防衛費増額」に加担してきたマスメディア

2022-12-15 13:56:37 | 社会

「軍事おたく」タレントのカズレーザーが自衛隊に「密着」


 
いつの間にか「軍事力増強」が当然のようになった
 10月12日に公表されたNHK調査で、防衛費増額に55%が賛成、12月12日「防衛力整備水準5年間で43兆円」でも51%が賛成しているという。また、その他メディアの世論調査でも同様に、防衛費の増額に賛成が5割を超えている。近年軍事力を増強すべきという世論は、年々高まっており、ロシアがウクライナに侵攻した今年になって、さらに高まり、もはや完全に醸成されたと言っていい。
 そして、この軍事力を増強すべきという世論を見計らったように、11月22日、「有識者会議」なるものが、「防衛費の増額や相手のミサイル発射拠点などをたたく『反撃能力』の保有を求めた 」報告書を提出した(NHK11/22)。この「有識者会議」とは、メンバーが座長の元外務事務次官の佐々江賢一郎、京大院教授の中西寛、読売新聞グループ本社社長山口寿一、評論家で元朝日新聞主筆の船橋洋一らで分かるように、元高級官僚と右派、タカ派で知られる人物で構成された、政府の方針にお墨付きを与える役目の機関である。このメンバーは、自民党のブレインのようなものなので、軍事力の増強を唱えるのは、当然のことと言える。
 そしていつの間にか、防衛費増額は当然のことのように扱われ、GDP比2%の防衛費が必要、そのための財源はどうするのか、増税でまかなうのか、という議論にまで進んでいる。もはや、軍事力増強は自然で正当なことになり、さらにその財源の確保という次の段階的に進んでしまっている。

作られた「軍事力増強」という世論
 マスメディアはいつの間にか、軍事費という言葉を防衛費に、軍事力を防衛力という言葉に置き換えて使うようになった。新聞紙上でも、「敵基地攻撃能力」を議論している記事ですら、「軍事」という言葉は、一切使わず、ひたすら「防衛」という言葉で貫き通している。これは、「軍事」という重々しく、かつ客観的な言葉よりも、「防衛」の方がソフトであり、さらに、国を守るため、自衛のためという正当性を暗黙の内にそこに付加したいからである。マスメディアは、初めから、政府の方針に沿った表現を選択しているのである。それは、軍事力増強に始めから加担していることをも意味している。
 
 近年のテレビ放映も、もはや、自衛隊という名の軍隊はタブーではなくなった。日テレで2015年から放送されている「沸騰ワールド」という番組がある。その中では、「自衛隊に取り憑かれた」タレントのカズレーザーが、自衛隊の訓練に密着するというシーンを繰り越し放映している。これは、「防衛省は近年、特に若者へのアピールを強めている。SNSの多数のアカウントを駆使し、……26人を『防衛省オピニオンリーダー』に任命したり、自衛隊を紹介するテレビ番組や隊員を主人公としたドラマに協力したりしている」(朝日新聞2022/12/10)ことの表われである。朝日新聞は愚かにも、防衛省が「協力している」と書いているが、積極的に協力しているのは、むしろテレビ局の方である。それは、「沸騰ワード」が自衛隊が兵器である装備を、敵と見なすものを破壊し、殺害するという役割を一切無視し、ひたすら「カッコイイ」ものとしてしか扱わないことで分かることだ。これは一種の兵器の美化であり、その先に戦争があるという想像力を麻痺させる行為である。数十年前なら、こんな放送内容をテレビ局は避けたに違いない。

 2月のロシアによるウクライナ侵略以降、西側世論では軍事力の増強は必要という傾向が著しく強まったことは、否定しようがない。しかし、そこには西側主要メディアのこの戦争の捉え方が大きく影響している。それは、西側には何の落ち度もなく、すべてロシアが100%悪いという報道の仕方である。戦争は2022年2月に突然起こったとし、2014年以降のウクライナ内部でのウクライナ政府軍とロシア語話者武力勢力との内戦などは、一切なかったかなような、また、ワルシャワ条約機構軍の消滅後に、NATOが東欧地域に拡大し、ウクライナもNATO加盟直前にまで行っていたことががロシア側には脅威と感じられた事実はまったく考慮しない、という報道の仕方である。ウクライナ2014年の政権交代時以降の内紛や東部の武力衝突もNATOの東方拡大による危機リスクも、ロシアに侵攻以前には、さかんに西側主要メディアは記事にしていた。これらのことが、プーチンの判断に影響していることは、大いに考えられることだ。しかしそれが、これらについては、西側主要メディアからは一斉に言及されなくなったのである。これは、裁判に例えれば、ロシアという凶悪犯に対し、犯罪に至った動機の解明などはされず、アメリカ西部劇のように「裁判などどうでもいい、悪いロシアをとっとと縛り首にしてしまえ」と言っているようなものである。勿論、そこには弁護人などはいない。
 
 当然のように、それは日本の世論をも動かしている。この西側主要メディアによって作られた構図は、「悪いロシアが攻撃している。さらに、ウクライナ以外にも攻撃してくるに違いない。だから、自分たちを守るためには、軍事力の増強が必要だ」というものだ。それが、「同じ権威主義、独裁国家の中国や北朝鮮も日本を攻撃してくるに違いない。だから、軍事力の増強が必要だ」という構図に連動しているのである。
 日本のメディアは、西側主要メディアに輪をかけて、ロシア悪玉論を展開してきた。新聞では、自民党支持基盤を構成している産経・読売はもとより、朝日新聞などは、アメリカ政府高官の「意見」を頻繁に記事にし、ウクライナ関連記事に登場する「専門家」は、防衛省防衛研究所が最も多く、他は右派・タカ派の大学教員の「意見」を載せる、という具合である。12月14日のロシア関連記事には、この新聞は性懲りもなく、アメリカのネオコンで名高いジョンズホプキンス大のエリオット・コーエンの、ロシア・中国脅威論だけを載せている。朝日新聞もコーエンが、軍事力優先主義のネオコンの論客であることは、理解しているはずだ。それをわざわざ、載せるのである。これらのことは、朝日新聞が社の意見として、口先では、軍事力強化につき走る政府方針を「熟議・説明なし」(12/17佐藤武嗣編集委員)と言いながら、軍事力優先を支持していることを示している。

 ロシアの侵攻以前から、対中国脅威論は、特に台湾問題に絡んで加熱していた。中国は建国以来台湾の「解放」には、武力による手段を放棄したことはないが、それは「建て前」のようなものに過ぎず、未だにそれを実践したことはない。現実に台湾に武力を行使すれば、現政権の支配下にある、米軍の最新鋭兵器も装備する軍と警察など実力部隊と中国軍は衝突することになる。軍事侵攻すれば、中国・台湾双方に多大な犠牲が予想されることは、誰の目にも明らかなことだ。その時は、米軍との全面衝突も覚悟しなければならないだろう。さらに、欧米全体が中国と敵対関係に陥り、それまで自由貿易で築き上げた経済的成果は失われる。そのとてつもないほど「犠牲」と台湾を支配下に置くこととの利益を比較すれば、答えは明らかである。それは、香港に対する対応と大きく異なるが、人民解放軍が駐留し、実力部隊は、北京政府の支配下にある香港との根本的な違いである。香港にできることと台湾にできることはまったく異なるのである。北京にとっては、彼らの言う「台湾独立派」が、完全独立を目指し、韓国や日本のようにアメリカと軍事同盟を結び、米軍を駐留させることが悪夢なのであり、台湾が長い間続けている「半独立」状態は、何が何でも許容できないというものではない。
 また、政党がまったく機能していないプーチン支配下のロシアとは、政策決定の仕組みが完全に異なり、習近平は、9000万人の中国共産党の頂点に立つが、党中央委員、党政治局員、党常務委員を説得しなければ、重大な政策決定は不可能なである。要するに、習近平が、中国にとっての利益を説明しなければ、武力侵攻など決定できないのである。
 このように、中国の台湾への武力侵攻は、極めて可能性が低い。それにもかかわらず、アメリカ発の中国脅威論は台湾問題を絡めて大いに喧伝されてきた。それは、概してアメリカ発のものである。台頭する中国に対し、相対的には経済と政治において衰退しつつあるアメリカの一種の「焦り」からくるもので、それは「偉大なアメリカの復興」という言葉に象徴される。そこには、アメリカの世界への経済的・政治的権益が、台頭する中国に脅かされるという現実がある。
 アメリカとの関係を過大に重視する日本の自民党を中心とする右派層にとっては、台湾有事」はアメリカだけの問題ではなく、日本の問題でもある。それは、戦後日本の復興がアメリカの強大な影響力のもとに、言い換えれば、アメリカの支配下にあって、成し遂げられたことからくるのだが、日本の長期政権を維持する右派層にとっては、経済も安全保障もアメリカと一心同体なのである。それは、日本の「右翼」とメディアが呼ぶ極右勢力が、反共・反中国であり、排外主義でありながら、徹底して親米であることと同じ理由による。
 新聞で言えば、産経、読売、朝日がこのアメリカ発の中国脅威論を振りまいており、それに呼応するかのように、テレビに登場する右派論客が、中国脅威論を語るのである。
 
敵と見なす相手は、悪ければ、悪いほど好ましい
 敵と見なす相手は、悪ければ、悪いほど好ましい。それが、その敵と対峙する自分たちを、相対的に正義とすることができるからである。それは、「自由民主主義」を旗印にするアメリカが、「自由民主主義国」ではあり得ないサウジアラビアなどの中東君主国を非難するのは稀だが(それどころかサウジアラビアには膨大な軍事支援をしている。)、同じように「自由民主主義」のない中国・ロシア・イラン・キューバを常に徹底的に非難する理由でもある。サウジアラビアなどは敵ではなく、中国・ロシア等は敵であるからである。日本でも、戦後の中国建国以来、「一党独裁」は何の変化はないのだが、近年はこの敵の国の「一党独裁」が、マスメディアでは、以前にもまして、いっそう非難をされるようになった。朝日新聞を例に挙げればその報道は、アメリカ型「自由民主主義」だけを絶対的基準に、アメリカ政府の中国批判を100%模したような徹底した中国非難で塗り固められている。そこでは、中国を含む世界の後進地域では、絶対的貧困、つまり世界銀行の「1 日 1.9 ドルで暮らす者」(国際貧困ライン)が 大きな問題であるが、「世界銀行のデータによれば、1981~2015 年において中国は貧困人口を 7 億 2800 万 人減少させた。中国を除くその他の地域では、わずか 1 億 5200 万人 である」(佛教大学共同研究 王 偉)ように、国民にとって極めて重要な要素である生活を目覚ましく改善させた成果などは、完全に無視されている。
 敵は悪ければ悪いほど好ましいことは、日本人の反中国感情を揺さぶる。明治以来、侮蔑の対象であり、「下」に位置していた中国が、経済では日本の「上」に位置するようになったが、これが感情的に愉快なはずはない。それと日本人の中国に対する悪感情の増加は無縁でなく、マスメディアが、「中国は悪い国」と報道すれば、国民感情として「受ける」のである。
 北朝鮮の多くのミサイル試射も、すべて対アメリカ向けであり、日本を直接意識したものでないが、拉致問題と絡み、日本では、「悪い北朝鮮」からの脅威と報道される。
 また、極めて重要なことなのだが、日本の軍事費は2021年時点で、既に世界第9位の相対的軍事大国になっており、政府が目指すGDP費2%ともなれば、世界第3位の完全な軍事大国と化すのである。このことも、マスメディアの報道は極めて稀で、それを知る国民も「極めて稀」だろう。
 
 これらのマスメディアの報道は、「軍事力増強」世論を後押し、その結晶が、近く政府が閣議決定を目指している軍事力強化方針の「安保3文書」である。この「3文書」を京都精華大の白井聡は、「本質はシンプルで米国の意思だ」(東京新聞12/17)と、アメリカの要望であるという「本質」を見抜いている。それは、アメリカ国防省ロイド・オースティンが即座に「敵基地攻撃能力(反撃能力)や防衛費の増額なども『支持する』と明言し、『米国は日本との協力を約束する』と強調した」(東京新聞12/17)ことからも、明らかである。 

強大な軍事力は地獄に突き進む悪循環に陥るだけ
 確かに、中国も軍事力を大幅に増強し、それがアメリカの数分の一に過ぎないとしても、それが周辺国の脅威と映る。強大な軍事力は、敵対関係にあれば、脅威と見なされるのは当然で、アメリカの強大な軍事力は双方が敵対関係にある限り、中国にとっての脅威であり、アメリカ主導の強大なNATOの軍事力もロシアにとっては、脅威なのである。ロシアの場合は、NATOの東方拡大が、プーチンを狂気の「特別軍事作戦」選択に至らしめた一つの要因であることは、明らかである。
 日本のこれ以上の軍事力強化は、中国にとっての脅威の増大であり、それに対し、中国はさらに軍事力強化で応えるだけであり、双方にとっての脅威の増大を招き、「抑止」どころか、戦争への危機は増大する。それは、まさに地獄に突き進む悪循環である。そして、膨大な軍事支出により、増税・国家の借金はの増加をもたらし、社会福祉を減少させる。それは、莫大な軍事支出によって、先進国最低の社会福祉政策しかできないアメリカの現状を見れば、誰の目にも明らかだろう。
 

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中国はゼロコロナ政策をとらなければ、数百万人の死者が出ただろう

2022-12-03 11:28:06 | 社会
 
ゼロコロナ政策の正当な理由
 中国では、ゼロコロナ政策に対する抗議デモが、全土で頻発している。3年近くの、強権的隔離政策に、市民が我慢できなくなったのだ。
 しかし、中国には、ゼロコロナ政策をとらなければならない理由があるのだ。そのことを、西側メディアは一切無視している。

 コロナウィルスの感染蔓延初期には、厳しい行動制限を採った欧米を始め、その他の国も、次第に緩やかな感染対策に移行した。しかし、その犠牲となったのは、例えば、人口3億3千万人のアメリカでの確認された死者数は、110万人に及ぶ。人口2億1千万人のブラジルで69万人、人口14億人のインドで53万人である。人口100万人当りの死者数では、ペルーが最も多く6453人、ついでにブルガリア5557人、ハンガリー5022人であり、アメリカでも3300人となっている。それに対し、ゼロコロナ政策を堅持している中国は、全人口で5233人、100万人当りで4人である。100万人当りでアメリカの825分の1に過ぎない。(以上、Our Wold Data2022/11/29による)
 
 これらのデータは、公式のもので、Covid-19の関連死は、国よって異なり、多くの国で実際の死者数は、はるかに多いものと推定される。特に日本を含めた欧米先進国より、医療体制が劣るアフリカ、南アジア、南米では著しく異なり、その数は数倍に及ぶと考えられる。特に、インドでは、WHOによれば2021年末までに「少なくとも、400万人」と算定している(毎日新聞2022/4/28)。
 
中国の医療体制は脆弱
 感染症Covid-19に対する対策には、行動制限と医療体制とワクチン接種率が重要なものとなるのは言うまでもない。しかし、中国の医療体制は、公表されないが、欧米先進国よりもはるかに脆弱なものと思われる。恐らく、東南アジア並み程度だと推定される。また、公的医療制度も強制加入の都市職工基本医療保険 と任意加入の都市・農村住民基本医療保険 と分かれており、未加入者もかなりの人数に及ぶと推定される。(この点は、アメリカも同様であり、医療保険未加入者の貧困層、非白人の死亡者の割合が異常に高い。100万人以上の死亡者を出した、一つ要因である。)さらには、医療費は、アメリカ以外の先進国と比べれば、はるかに高額なのである。
 ワクチン接種では、延べ34億回実施されているが、60歳以上は86.42% 、80歳以上では65.8%しか接種されていない(中国国家衛生健康委 11/29)。さらに、中国製ワクチンは、欧米のmRNAワクチンと比べ、その効果は低く、オミクロン株に対しては、さらに弱い(香港研究チーム)と思われる。
 欧米よりも厳格な行動制限をした国々の100万人当りの死亡数は少ない。行動制限に加え、健康アプリを市民に強制したシンガポール287人、今夏までゼロコロナ政策を維持した台湾598人、欧米と同様の生活習慣があるなかで、昨年までロックダウンを実施していたオーストラリア619人と、アメリカの3300人と比べれば、それは明らかである。
 これらの国より中国は医療体制の脆弱であり、ワクチン接種が、特に重症化しやすい高齢者に思うようには進まないことを考えれば、中国指導部が選択したゼロコロナ政策は、正当な理由があると考えられる。
 もし、中国指導部が経済を優先させ、欧米なみの行動制限しか採らなければ、14億人の中国では、インドや南米並みの数百万人の死亡者を出したのは間違いない。
 はっきり言わなければならないが、人命の尊重という価値観から見れば、欧米はCovid-19の防疫に失敗したのである。

 欧米のマネが正しいわけではない
 それでも、WHOで緊急事態対応を統括するマイク・ライアンが12月2日、中国が厳格な「ゼロコロナ」政策の緩和をさらに進める姿勢を示したことを「喜ばしい」と歓迎したように、非常に感染力が強いオミクロン株は、ゼロコロナ政策でいくら厳格な制限行動をしたとしても、それをすり抜け、感染者は増加する。それが、現在の中国の感染状況の現実である。ライアンは、同時に
重症化しやすい高齢者を守るなどの対応の重要性を強調したが、それが、「人命の尊重」への手段でもある。
 Covid-19の防疫に失敗した欧米は、感染者の蔓延で多大な犠牲を出したが、その犠牲の上に、ワクチン接種による免疫に加え、多くの自然感染による免疫の獲得により、集団免疫獲得とまではいかないまでも、一定程度の社会的免疫ができたと言える。それに比べ、中国、日本を含む東アジア、オセアニア地域は、そこまでの免疫は獲得していない。その差が、欧米との対Covid-19政策の違いでもある。何でもかんでも、欧米のマネが正しいわけではないのである。
 
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