家族の死を嘆き悲しむウクライナの母子 BBC
ロシアのウクライナ進攻から1000日が経過したが、戦争はさらにエスカレートしている。アメリカと英国は、ウクライナに供与した長距離ミサイルのロシア領内への攻撃を許可し、ウクライナはすぐにそれを実行した。そして、当然にもロシア側は報復として、ウクライナへ新型中距離弾道ミサイルを撃ち込んだ。これは、プーチンによれば、秒速数十キロの速さで飛行するので、西側の防衛システムでは迎撃できないという。
ロシアによる侵攻以来の間の死者数は、ロシア・ウクライナともに公表されていないが、双方で兵士と民間人合わせて数万人から10万人以上であり、関連死という味方で言えば、数十万人にのぼるは間違いない。それは、プーチンの愚かしくも残虐な選択と、ゼレンスキーの徹底抗戦方針と西側政府の軍事支援でもたらされたものである。
しかし、今まで和平交渉がなかったわけではない。2022年2月24日から始まった侵攻直後の2022年3月に、トルコのイスタンブール等で和平交渉が行われた。その和平交渉は失敗に終わったが、停戦を妨害したのは、直接的には、英国のボリス・ジョンソンである。その交渉のさなかに、キーウでゼレンスキーにNATO諸国の軍事支援を餌に停戦反対へ誘導したことが、西側メディアでも暴露されている。それは勿論、ジョンソンひとりの考えではなく、ロシアの脅威を軍事力で抑え込みたい米欧政府全体の意図でもある。
もし米欧政府が中立の立場でいれば、それが成功し、停戦が実現した可能性は高い。そして、それら数十万人の死は免れただろう。
現実の戦況はロシア側が優勢であり、西側供与の長距離ミサイルをウクライナが使用しても影響が小さいことは、西側メディアで専門家の意見として掲載されている。ロシア側が使用するミサイルや航空部隊は、西側供与のミサイルより射程距離も航続距離も長く、ウクライナのミサイルの射程距離外に部隊を移動させれば、済むからである。(北朝鮮の派兵も戦況に影響しないことが、専門家の意見として西側メディアに掲載されている。言葉も通じず実戦経験もない北朝鮮兵士は、ロシア軍には足手まといなだけだと指摘されている。これは、むしろ、ロシアの支援を得ることで米日韓の軍事的脅威を減らしたいキム・ジョンウンの意向が反映しているだけということだろう。)
和平交渉しか道はない
米欧の軍事支援を継続しても、実際のウクライナ側の劣勢は際立っている。それは、BBCが11月10日に「ロシアの勢力拡大が加速するにつれ、ウクライナ戦線は『崩壊』する恐れがあると専門家が警告」 という記事を載せたことでも明らかである。
また、一向に好転しないウクライナ国民の悲惨な状況を反映し、ウクライナ国民自身の意識の変化している。11月19日、アメリカの世論調査会社のギャラップが、2024年8月と11月に実施したウクライナでの世論調査を公表している。
これによれば、 戦争開始時には「戦争に勝つまで戦い続けるべきだ」が、73%だったが、今ではわずか38%にまで減少している。2022年2月には、「できるだけ早く戦争を終わらせるための交渉を行うべきだ」が22%であり、2023年になっても、27%だった。しかし最近では52%と、初めて過半数を超えている。
こういった時間の経過とともにウクライナの劣勢が際立ってくる状況を反映して、西側メディアでは、和平交渉を検討すべきという意見がたびたび掲載されるようになった。
ガーディアンは、11月21日「ウクライナ戦争の西側諸国による無謀なエスカレーションは、戦略的利益をもたらさず、さらなる苦しみをもたらすだろう」というオピニオンを載せた。そこでは、「今こそ平和のために妥協すべき時である」と記されている。
さらに同日に「ウクライナ戦争は激化しているのか、それとも終結に向かっているのか?」というオピニオンでは、「トランプが大統領に就任してわずか数週間で、ウクライナ戦争は4年目に入る。その後すぐに、戦争は米国が第二次世界大戦で費やした時間よりも長く続くことになる。何十万人もの人々が亡くなり、何百万もの人々の人生が破壊された。戦闘によってヨーロッパの安全は改善されていない。世界的に見ると、戦争はロシア、中国、イラン、北朝鮮の間の危険な、緊密な関係を助長した。クレムリンは依然として戦争の責任を負っているが、米国、ヨーロッパ、そして世界のために、戦争を終わらせるために真剣な措置を講じ始める時が来ている。」と締めくくられている。
11月17日には、アメリカ国内に大きな影響力のあるニューヨーク・タイムズですら「トランプはウクライナの不可避な事態を早める可能性がある」というオピニオンを載せている。これは勿論、「戦争を1日で終わらせる」と豪語するトランプ大統領の再登場を意識してのものである。そこでは「最終的には和解が必要になる 」として、「次期副大統領のJ・D・ヴァンス氏は、ウクライナに対し、占領した領土をロシアに引き渡し、平和と引き換えにNATO加盟の嘆願を取り下げるよう求めている。」としても、「 トランプ氏はいずれにせよそれを実行すべきだ。 」としているのである。
上記に挙げたものは、日本の和田春樹らの主張する「即時停戦論」
(和田春樹会員をはじめとする有志による声明「ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか」(2022/3/21))ではないが、以前の西側主要メディアでは、あり得なかった論調である。以前の論調は、ウクライナへの強力な軍事支援によってロシア軍を敗退させるべき、というものがほとんどだった。停戦への交渉を持ち出せば、それはロシアを利するだけだ、というものばかりだった。その交渉すべきという主張者を「プーチンの手先」とまで言う論調もあった。最も愚かなのは、ナチスドイツとプーチンのロシアは同じと主張し、1938年の英仏独伊四国首脳のミュンヘン会談になぞらえたものだ。その時の英仏のドイツへの融和策がナチスの侵攻を招いたことを取り上げ、侵略者のロシアには徹底的に軍事力で対抗すべきだというものである。こういう馬鹿げた主張をする者は、その軍事力で対抗することとは、米欧軍が直接的に交戦することだいうことを忘れている。それは、世界大戦以外の何物でもないことを忘れているのである。
ドイツのショルツ首相は、11月15日に2年ぶりにプーチンと電話会談を行った。これには、国内外から批判が浴びせられたが、交渉せざるを得ない方向に向かう変化の兆しには違いない。
徐々に明らかになりつつあるのは、軍事力でロシア軍を排撃させるには、NATO軍の直接的交戦以外にはないことである。勿論、それは世界大戦級の戦争を意味する。その選択ができない限り和平交渉を始めるしか道はないのである。いくら、日本の平和団体のように、国際法違反のロシアを非難したとしても、それだけでは現状は好転しない。(因み、これらの団体は、その後ダンマリを決め込んでいる。あたかも、ウクライナでの戦争は終わったかのように)
世界情勢に絶大な影響力を持つアメリカ大統領にトランプが再登場しても、「予測不可能なトランプ」が何をするか、本当のところは分からない。しかし、情勢に挙げたような影響力の大きい西側メディアの論調は、間違いなくに西側首脳の政策に影響する。主戦論から和平交渉を検討すべきという変化。それは、戦争が継続すればするほど、殺戮と破壊が長引くだけという誰にも否定できない現実を反映しているのである。
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