イスラエル軍の攻撃を受け、病院で泣き叫ぶ子供たち アルジャジーラより
12月2日、束の間休戦が明け、イスラエル軍による大量殺戮が再開した。その状況をアルジャジーラは「地上の地獄」と表現した。
攻撃の再開から数日で、子どもを含むパレスチナ人が200人以上殺害されたのだから、この「地上の地獄」という表現は決して誇張ではない。まさに、パレスチナ人を全部または一部抹消するという意味でのジェノサイドが実行されているのである。そして「地上の地獄」を創り出しているのはイスラエル政府であり、それを容認しているのがアメリカを筆頭とするヨーロッパ諸国政府である。
主要メディアもガザの「地獄」を報道する
束の間休戦前の11月21日に、米紙POLITICOは、アメリカ政府内に、「停戦になれば、ガザ地区にジャーナリストが大量に入り、イスラエル軍による破壊と殺戮の痕が暴露されることを懸念する」動きがあったと伝えている。Biden admin officials see proof their strategy is working in hostage deal
イスラエル政府を全面支持するバイデン政権にとっては、イスラエル軍の残虐性は隠したいことだからである。
ロシア・ウクライナ戦争では、西側主要メディアは米欧政府に歩調を合わせ、ウクライナに都合が悪い情報を記事にするのをしないか、するとしても小さく扱うという報道姿勢を貫いている。ロシアの侵攻前は、ネオナチの武装勢力アゾフ連隊の記事は多数報道されていたが、侵攻以降そのような記事は一切抹消され、アゾフはいつの間にか、ロシアと戦う「英雄」と報道されているのである。ロシア側はNATOの東方拡大を侵攻理由に挙げているため、それに関係する侵攻直前の、東欧でのNATOの大規模演習も記事にされなくなった。ノルドストリーム2を破壊したのはウクライナなのだが、それも紙面の片隅でしか報道されていない。さらに、ウクライナに都合が悪い情報を挙げるのはすべて、ロシアのプロパガンダと決めつけている。このように、西側主要メディアは米欧政府に完全に歩調を合わせているのである。
しかし、イスラエル軍の暴虐ぶりはあまりにひどく、イスラエル支持を掲げる米欧政府に忖度しようにも、暴虐ぶりはは隠しようがない。西側主要メディアは、パレスチナ人の悲惨な状況を数多く報道せざるを得ないのである。
11月25日ニューヨーク・タイムズは、「ガザの民間人は、イスラエルの集中砲火で歴史的なペースで殺されている」という記事を挙げた。Gaza Civilians, Under Israeli Barrage, Are Being Killed at Historic Pace
この記事は、アルジャジーラと同様にイスラエルによる大虐殺を、アメリカ政府に忖度することなく、そのまま現実として書かれている。記事中の、この期間にイスラエル軍により殺されたパレスチナ人の女性と子どもは、ロシアが侵攻後の21か月で殺害したウクライナ人の女性と子どもの数を上回るというのが、その象徴と言える。
また、10月7日の戦闘後、ガザだけでなく、ヨルダン川西岸地区でも、武装したイスラエル入植者が、パレスティナ人居住者を追い出し、抵抗する者を殺害していることが増加したことも複数のメディアが報道している。
10月7日のハマスによる1200人の殺害と数百人の拘束に、西側主要メディアはその非人道的残虐性を最大限強調する報道を行った。それでもその後は、現実に起きているイスラエルによる大量殺戮を報道せざるを得なくなったのである。イスラエル全面支持のバイデンが、ガザのガザ地区のハマスが事実上運営している保健省が公表するパレスチナ人死者数が、多すぎるという意味の「確信できない」と言った後も、むしろ、公表数字よりも実際の死者数は多い可能性を主要メディアは指摘した。また、ハマスが襲撃の際に、赤ん坊の首を切り落としたと言ったのも、まったくのフェイクだったことも報道した。
バイデン政権のあまりに偏向したイスラエル支持は、異常と言っていい。アメリカ政府国務省内部でも、バイデンのイスラエル全面支持の方針は中東全域を敵に回す恐れがあり、支持できないという100人以上の職員が署名した書簡がバイデンに提出されたという記事も複数のメディアで報道されている。
世界中で、パレスチナに対する支持と即時停戦を呼びかけるデモが頻発し、イスラエル支持の米欧政府以外は、中東だけでなく、特にグローバルサウスの南米諸国政府のイスラエルを非難する声明で溢れている。さらには、アメリカ国内でも世論調査で、即時かつ恒久停戦を支持する意見が過半数を超えている。Voters Want the U.S. to Call for a Permanent Ceasefire in Gaza and to Prioritize Diplomacy
このような動きに慌てたバイデンは、当初の「全面支持」を表に出さず、人道を口にするようになり、民間人犠牲者を減らすようイスラエルに要望するようになった。しかし、犠牲者を出さないようにするためには、イスラエルの攻撃をやめさればいいだけなのだが、バイデン政権は口とは裏腹にイスラエルの大量殺戮支援をやめようとはしない。
イスラエルよりむしろ、アメリカ政府に「殺戮をやめろ」と言うべき
ウォールストリート・ジャーナルは、10月7日以降、アメリカ政府からのイスラエル武器送付が、15000発の爆弾と57000発の砲弾を含め、急増したと報じている。WSJ News Exclusive | U.S. Sends Israel 2,000-Pound Bunker Buster Bombs for Gaza War
ガーディアンは、12月7日に「なぜ米国は、無条件でイスラエルに際限なく武器を供給し続けるのか?」というオピニオンを掲載した。その中で、アメリカは軍事援助が「人権侵害や戦争犯罪に軍事援助を利用する国への軍事援助を監視し、打ち切ることを義務付ける法が法律が複数あるが、 」「イスラエルに対しては、米国が多大な軍事援助を提供しているため、個々の部隊を追跡することは不可能になっている。したがって、法律で義務付けられているように、イスラエルへの軍事援助を提供する前に審査は実際には行われない。」と指摘している。要するに、アメリカ政府は極めて多大な軍事援助をイスラエルに与えているため、その使用がいかに「重大な人権侵害」であろうとも、おかまいなし、ということである。Why is the US still sending an endless supply of arms to Israel without conditions? | Michael Schaeffer Omer-Man
これらのことは、子どもを含むパレスチナ人に対する大量殺戮の多くは、アメリカが提供する武器・弾薬で行われていることを意味している。つまり、アメリカが軍事援助をやめれば、イスラエルはパレスチナ人大量虐殺ができないということである。まさに、イスラエル政府よりむしろ、アメリカ政府に「殺戮をやめろ」と言うべきなのである。
親密な関係を強調するバイデンとイスラエルのネタヤエフ
米欧主要メディアも「西側の二重基準」を認める
かねてから、西側、すなわちアメリカとその同盟国の「二重基準」批判は、アラブ諸国やグローバルサウスからのものだった。「二重基準」とは、西側と敵対する国や勢力には人権抑圧、国際法違反と徹底して批判するが、西側同盟国には同様な行為もそのような批判は一切しない、というものだが、それを西側主要メディアは、「自分たちはそうは考えないが、アラブ諸国やグローバルサウスでは、そのような批判がある」という言外の趣旨で報道してきた。しかし、今回のイスラエルの大量殺戮は、その「二重基準」鮮明にし、西側内部からも、その批判が沸き起こっている。
ガーディアンは11月27日に「ガザでの戦争は西側の偽善に対する強烈な教訓となった。忘れられない。」というオピニオンを掲載した。The war in Gaza has been an intense lesson in western hypocrisy. It won’t be forgotten | Nesrine Malik
この中で「(西側諸国では)人権は普遍的なものではなく、国際法は恣意的に適用される。」 「西側諸国は、自分たちが支持する何らかの世界的なルールがあるかのような、信頼できるふりをすることはできない (直訳)」と書いている。要するに、もはや西側諸国の言う「世界的なルール」など信用できない、ということである。
国際法など多くの人権や人道に基づく世界的なルールは、西側諸国が中心になって創り上げられたものである。そのルールを西側諸国自身が守っていないい。その偽善は、今回のイスラエル・パレスチナ戦争で、より鮮明なかたちであからさまになったのである。