夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「結局、中国はコロナ危機をうまく乗り越えたようだ」

2023-03-26 16:45:40 | 社会

 
COVID-19による100万人当り死者数(Our  World in Data 2023.3.21)
アメリカ  3296(人)
ブラジル  3249
英国    3102
アルゼンチン 2867
フランス  2502
ドイツ   2037
オーストラリア  743
韓国    659
日本    593
フィリピン 573
ニュージーランド 499
タイ    473
インド   374
中国    85

 上記に表は、COVID-19による関連死も含めた主要各国の累計死者数である。このデータは、各国の公式統計であり、専門家は、実際にはこの数字より2~10倍も死者数があるのではないかと見ている。医療制度の整った先進国は、実際の死者数はこの数字に近く、医療制度の弱い国はさらに多いのではないか、という見方をしている。例えば、インドは最大で10倍程度の死者を出しているのではないか、というようなことである。
 しかしそれを考慮しても、概して欧米と南米は桁違いに死者数が多く、アジア太平洋地域は少ないということが分かる。特に中国は、その中でも極めて少ない。

 この差は、医療体制の水準による影響があり、人びとのコミュニケーションの取り方に関係する生活習慣(キス、抱擁の習慣のあるなし)、住宅の密集性、マスクに対する好悪(アジアでは、普段からマスク着用者が多い)などが影響していると思われるが、何よりもCOVID-19に対する各国の対策の違いが決定づけている。
 そのことは、欧米の生活習慣や文化がありながら、ニュージーランド、オーストラリアでは、欧米に比べ著しく死者数が少ないことが証明している。ニュージーランドは、2020年の早期に入国制限を厳格に制限し、検査を徹底して行ったし、オーストラリアは、欧米が2020年内に解除した都市のロックダウンを、2021年まで継続して実施していたのである。
 さらに、最も厳しいロックダウンを実施した中国が極めて少なく、大統領のボルソナロが、「COVID-19などただの風邪だ」と言い、中央政府が制限措置採らなかったブラジルでは死者数が多いことも、それを裏付けている。

結局、中国は最小限の犠牲で乗り越えた
 3年間にわたり厳しい制限措置と徹底した検査を実施した中国は、2022年10月にそれまでのゼロコロナ政策を転換し、都市封鎖と全員検査政策を取りやめた。西側メディアは、その影響で、直後の1か月で6億人が感染し、「死者が100万人にも及ぶだろう」という香港大学の研究者の予想を大きく報じて、大混乱ぶりを伝えた。
 中国政府は、死者数を2023年1月末で約8万人としたが、これには、中国政府は関連死を統計から外しているというような実態ははるかに死者者は多いはずだという報道が、特に日本の主要メディアから報道された。
 しかし実際には、混乱は2~3か月ほどで収まり、死者数も100万人からははるかに少ない犠牲者数で終わっていると思われる。それは、中国政府の公式報道がどうあれ、中国には在留邦人が10万2000人(外務省 2022年10月時点)もおり、感染者と死者数が日本のメディアのいうとおり膨大なものになれば、在留邦人にもかなりの感染者と死者が出るはずであり、それは日本側にも伝わるからである。しかし、そのような情報はどこにもない。

 1月27日に春節が終わると、日本のメディアに中国のCOCID-19の状況に関する報道は、ほとんど見られなくなった。日本のマスメディアの中国に関する報道は、「悪い話し」がほぼ100%なので、報道がないということは、中国の状況は悪くなってはいない、という推測ができる。
 その極めて少なくなった報道の中でも、経済界は中国の状況が自分たちにも大きく影響するので、ビジネス誌では状況が垣間見える情報を載せている。
 例えば、日経ビジネス(Web)が、2月9日の「誰も予測できなかった中国感染大爆発後の急展開」と題し、瀬口清之キヤノングローバル戦略研究所研究主幹のインタビュー記事を載せている。
 そこには、感染爆発が「春節の連休に、帰省客を媒介として新型コロナウイルス感染が都市から農村に拡大する事態への懸念でした。医療基盤が脆弱な農村で、基礎疾患を抱える高齢者に感染が広がれば医療崩壊となりかねません。けれども、この懸念は杞憂(きゆう)に終わったことがほぼ明らかになりました。  」と記されている。
 この情報が、現実の状況を比較的正確に反映していると考えられるのは、「1月21日から始まった春節の7連休の前後に、中国で活動するエコノミストや企業経営者からヒアリング 」したものからの情報だからでる。
 
 厳しい行動制限は、COVID-19以外の疾病者を増加させ、その他の疾患への医療も制限され、COVID-19以外の疾患数は増加する。しかしそれでも、COVID-19の死者数と同数のその他の「副反応」による死者数が増加するとは考えられず、「副反応」の死者数はCOVID-19によるものよりはるかに少ないい。もしそうでないとしたら、中国だけでなく、世界中で実施された行動制限は、一切必要なかったことになるからである。
 さらには、死者数の問題だけでなく、COVID-19による後遺症患者は、あまりその数が報道されていないが、英紙ガーディアンによれば、英国だけでも100万人以上いると報じている。感染者が多ければ多いほど、後遺症で苦しむ人は多く、最大数の感染者が確認されているアメリカでは、数百万人に上るだろう。
 付け加えれば、確かに他の国より中国は厳しい行動制限を実施したが、中国のゼロコロナ政策は、都市のロックダウンが中国全土で3年間継続して実施されたわけではない。中国の衛生当局は、ロックダウンよりむしろ、徹底したPCR検査、抗原検査に重点が置かれていたからだ。その徹底した検査体制で、ひとりでも陽性者が出れば封鎖、一定期間でなければ、封鎖を解除するという政策が実施されていたのである。最も早く感染が蔓延した武漢でも、半年後には、封鎖が全面解除されている。
 結局、中国はコロナ危機をうまく乗り越えたのである。

人命か、個人の行動の自由か
 近代的価値の中でも、自由の優先度は高く、個人の自由は最大値尊重されるべきだと多くの人は考える。感染症に対する行動の自由制限が、多くの国で最小限にすべきと主張されたのも、そのためである。だから、中国のゼロコロナ政策は、批判の的となったのである。 結果として、コロナ危機をうまく乗り越えたとしても、中国の政策は単純に称賛されるべきではないのは、言うまでもない。
 しかしメディアの報道をよく見てみると、行動の自由制限の批判の中で、最も強く主張したのは、ボルソナロの例のように、あるいは多くの陰謀論者がそうであるように、右派に属する立場の者たちである。それは、アメリカで民主党より共和党、中でも共和党内の相対的右派・保守派が、COVID-19への検疫的政策に批判的だったことでも分かる。概して言えば、世界の政権与党勢力で中道右派より中道左派の政権の方が、例えば、ニュージーランド労働党政権のように、相対的には厳しい制限措置を選択したのである。概して、右派より左派の方が、厳しく行動を制限したのである。
 その理由としては、右派が特に個人の自由を尊重しているのではない。行動制限は経済活動を著しく妨げるので、経済的利益、特に企業の利益を優先する傾向がある右派は、経済活動の「正常化」のために、行動制限は利益を失わせるからである。それはアメリカの銃規制と類似している。共和党は民主党より銃規制、つまり個人の銃を所有する自由を強く主張する。それはたびたび「人民が武器を保持し携帯する権利は奪われない」という憲法修正第二条を根拠として主張される。しかし、共和党がそれだけ憲法を尊重しているからではない。憲法は反対を主張する「武器」として使用しているに過ぎず、真の理由は、銃産業が共和党に多くの献金をし、利益を共有しているからなのである。
 
 自由には様々な自由があり、様々な意味を持つ。ある人の自由は、別の人の自由を奪う。このようなことは、いくらでもある。銃を所有する自由は、おうおうにして、他人の生命の自由を奪う。感染者の行動の自由は、他人の健康に生きる権利・自由を奪う。無定見に自由はいいこと、とはいかないのである。行動の自由は感染を拡大し、多くの人の健康を損なう。この合理的、正当的理由がある限り、行動の自由は、合理的、正当的な手法で、言い換えれば最大限人びとの合意の下で、制限されるべきなのである。
 
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西側全体のアメリカ化(強大な軍事力と貧弱な社会保障)が進む

2023-03-19 08:45:37 | 社会
2021年各国軍事支出(ストックホルム国際平和研究所SIPRI)

 2022年11月22日、NATOのストルテンベルグ事務総長は加盟国の軍事費の目標を現在のGDP比2%から引き上げる可能性があると述べた。 勿論これは、ロシアによるウクライナ侵攻が長引くことに対する対応である。NATOは、2014年以降のウクライナの内紛から、それまで減少傾向にあった軍事費をGDP2%を目標にするように決めていたが、その目標をさらに引き上げる意向を表明したものである。

軍事力増強に突き進む西側
 ここには、西側諸国全体に軍事費の増額を要求するアメリカの意向があるのは言うまでもない。ここで言う「西側」とは、アメリカの軍事同盟国であり、NATO加盟国、カナダ、オーストラリア、日本、韓国などの国のことである。それらの国に、前大統領のトランプが、アメリカファーストから単独での莫大な軍事予算の負担を嫌い、同盟国にも相応の負担させると明言していたのだが、バイデンも「民主主義国対専制主義国」の戦いという名目で、各国に軍事力増強を要求し、莫大な軍事予算を同盟国全体で負担するという方針を継承したと言える。
 NATO加盟国で、軍事費GDP2%の目標といっても、超えているのは英国(2.1%)、フランス(2.0%)、ポーランド(2.2%)等の東欧諸国などで、ドイツ(1.4%)、スペイン(1.4%)、イタリア(1.6%)は2%を下回っている。しかし、ドイツが2022年6月に1千億ユーロの特別資金を軍事費に拠出する法案を可決し、GDP2%を超えることが明確になったように、NATO加盟国すべてで2%を超える軍事予算を目指すようになった。ストルテンベルグ事務総長は、それをさらに上げる目標を表明しているのである。
 また、現在NATO非加盟国のスウェーデンもフィンランドもNATO加盟を目指しており、北欧も軍事力増強、軍事費の増大は避けられない。
 太平洋地域のアメリカの軍事同盟国では、ロシアの侵攻以前より、中国の脅威が喧伝されていたが、ロシアと中国を同じ専制主義と見なすことから、軍事力の強化がいっそう強まっている。
 3月13日、バイデンは、Aukusの三国軍事同盟に基づき、アメリカ、英国とオーストラリアの原潜協定を発表した。オーストラリアも軍事費は2021年でGDP比率1.98%だったのだが、アメリカから原潜を購入し、インドに次いで7番目の原潜保有国を目指すなど、軍事費は増大し、2%を超えるのは確実となっている。
 中でも特に日本は、海外メディアも「平和主義(pacifism)の放棄」と報道しているように、これまでの「専守防衛」をかなぐり捨て、軍事費率GDP2%超を目指し、さらなる軍事力の強化に突き進んでいる。


西側全体の社会のアメリカ化
 ロシアによるウクライナ侵攻で決定づけられた西側全体の軍事力増強は、単に軍事力の問題にとどまらず、社会構造全体の変化をも含んでいる。西側全体の社会のアメリカ化である。

 第二次大戦後、アメリカが「自由社会」をモットーに「自由」な競争社会を目指してきたのとは異なり、北欧を中心にヨーロッパ諸国や日本では、資本主義システム内で、経済成長を図りながら、社会福祉を充実させることを理想としてきた。それは、資本主義システムでの「自由」が、強者の「自由」を大きくさせ、弱者をより弱める不平等の拡大をもたらすからである。束縛のない「自由」だけでは、富める者はさらに豊かに、貧しい者はさらに貧しくなるからである。アメリカでは「リベラル」がもてはやされるが、ヨーロッパ諸国では「リベラル」は、右派の標語と見なされることも、それを物語っている。
(右派の標語としての「自由」は、良心の自由、言論の自由、集会の自由、結社の自由 というフランス革命で表現された近代の価値としての自由は、実際には重視せず、本音は競争における自由が強調され、富を持つ者と持たない者が、強い者と弱い者が「自由」に競争し、当然のことながら、前者の圧倒的な勝利を保証する、というものでしかない。)
 イデオロギーで言えば、ヨーロッパ諸国では社会民主主義が浸透し、スウェーデンを例に挙げれば、中道左派の社会民主主義党(SAP社会民主労働党)が政権与党となり、さらに左に位置する共産党や労働者党が、閣外協力などで支え、高度な社会福祉国家を形成してきたのである。その他の国でも、ドイツ、英国を始め、社会民主主義政党と保守政党が政権交代を繰り返すなど、高度な社会福祉体制は一定の制度として定着してきたのである。
 そしてその高度な福祉国家の前提は、限られた財源の中で、軍事予算を低く抑え、福祉予算を増加させることであるのは言うまでもない。

 ヨーロッパ諸国と比べ、アメリカは社会保障制度は貧弱と言える。
厚生労働省「社会保障制度等の国際比較について 」(2013年データ)

 貧弱な社会保障に対し、アメリカの軍事費は世界全体の軍事費の40%を占め、GDP比率でも3.2%程度である。これは、軍事費のGDP比率では2000年以降のEUの平均が1.5%程度、日本1%未満、NATO非加盟のスウェーデン1.28%(2021年)と比べると、著しく軍事費だけが突出していると言える。
 このことは国の政策に優先順位を表していると言っていい。アメリカは、共和党も民主党も、社会福祉よりも軍備を優先しているということである。近年ようやく、民主党内にバーニー・サンダースなどの左派が進出し、社会福祉の充実を訴えているが、まだ、その力は大きいとは言えない。
 
 1990年代以降の新自由主義の影響で、ヨーロッパ諸国でも市場経済優先から公的部門の縮小が徐々に進み、高度な社会福祉制度は後退しつつある。経済成長の鈍化が税収の伸びを鈍化させ、社会福祉を維持する多額の財政負担に耐えられなっているからである。そこに、軍事予算を増加させる軍事力の増強という選択を迫られれば、社会福祉は必然的にさらに後退することになる。要するに、強大な軍事力と貧弱な社会保障というアメリカ化が、西側全体に及ぶことになるのである。
 日本でも、岸田政権は、NATO並みの防衛費(軍事費)GDP2%を目安に軍事力増強を図ろうとしているが、財源の捻出は極めて困難な状況となっている。このまま軍事力増強に走れば、増税と同時に社会保障費の減額は絶対に避けられないのは明らかである。

西側の混乱と地盤沈下
 ロシアに対する制裁から燃料費が高騰し、それを主要因とするインフレが世界的に進んでいる。賃金はそれに追いつかず、必然的に生活困窮層の増加が世界で蔓延している。それに対する庶民階層の怒りは、多くの国で抗議デモやストライキの形で現れている。特に、左派が一定の勢力を持つヨーロッパ諸国では、その運動が活発化している。フランスでは、政府の年金開始年齢の引き上げ案に抗議するデモとストライキがかってない規模で続いている。これも、生活の困窮化が根底にあり、おさまる気配はない。ドイツでも英国でも賃上げを要求する労働者のストライキが続発し、政府と企業側は、鎮静化に躍起となっている。
 西側各国の中央銀行は、インフレ対策として金利の引き上げ策を選択せざるを得ないが、それは当然に景気の後退をもたらすのは、「経済学の教科書」のとおりである。

 IMFが20223年2月に公表した2023年の実質GDP伸び率は、西側が多くを占めるの「先進国・地域全体」では1.2%、その他の「新興市場国・発展途上国」では4.0%となっている。その内訳は、ユーロ圏0.7%、英国ー0.6%、アメリカ1.4%、日本1.8%であるのに対して、中国は5.2%、インドは6.1%である。
 「新興市場国・発展途上国」の内、アジアは5.3%、中南米・カリブ諸国1.8%、中東・中央アジア3.2%、サブサハラアフリカ3.8%、南アフリカ1.2%となっている。
 これを見れば分かるとおり、世界経済の牽引役は、中国、インド、アジアであり、それは中東・中央アジア、サブサハラアフリカと続き、西側先進国の経済は、相対的に低調だと言える。
 

 2023年2月23日、国連総会はロシア非難の決議案を採択したが、賛成が141ヶ国となり、西側は大多数の国が賛成したと自賛した。しかし、ロシアに対する制裁に参加しているのは主に西側だけであり、アジアも中南米も中東もアフリカもほんのわずかな国しか加わっていない。ブラジルの新大統領のルーラは、ロシアの侵攻を非難はするが、バイデンからのウクライナ軍事支援を拒絶し、ロシア制裁には加わらない姿勢を崩していない。ルーラは、大統領就任以前からロシア非難と同時に、侵攻にはウクライナのゼレンスキーや西側にも責任があると明言しているのである。恐らく、これが西側主導のロシア制裁に加わらないアジア、中南米、中東、アフリカの政府と人びとの思いを代表していると思われる。もはや、欧米の言いなりにはならない、という強い意思である。それは、西側は経済の低迷とともに、世界を支配する政治力も衰退しつつあることを示している。
 
 ヨーロッパ諸国では、概ね中道派が政権を担っているが、庶民階層の窮乏化から、ストやデモの続発は左派の勢力拡大を招くと同時に、それに反発する極右の勢力拡大も促す。それは、政治的な混迷とともに、経済の低調をさらに加速する。
 
 日本では、政権与党の保守派を中心に、明治以降の欧米崇拝から根底では抜けきれず、欧米に追随する姿勢が基本にあり、西側の一員であろうともがき続けている。特に、アメリカに追随する姿勢は第二次大戦後から変わらずに続いている。

 西側の衰退・アメリカ化は、社会変革への胎動
 世界的には、経済的、政治的な西側の地盤沈下は止まらない。そしてこの地盤沈下は、アメリカ化という公的部門の縮小を伴う庶民階層の窮乏化を意味している。それは、1970年代終盤以降の新自由主義の進展の果てにあり、富める者はさらに豊かになり、貧しい者はさらに貧しくなるという窮乏化であり、政権の権力側は、それを是正する社会保障制度をも後退させようとしている。しかしそれらを人びとはおとなしく受け入れるかと言えば、それは絶対にあり得ない。庶民階層の窮乏化は、庶民階層の抵抗を生むからだ。社会の矛盾は、社会変革の胎動につながる。
 アメリカでは、政権与党の民主党内にサンダースやエリザベス・ウォーレン、オカシオ・コルテスらの左派が現れ、一定の影響力をもつ。このように、公然と社会主義者を自認する議員が国政議会に出現することなど、過去にはなかったことだ。かつてアメリカでは、共産主義者や社会主義者は、悪魔(devilまたはevil)と同義語だったからだ。その自称社会主義者とそれを支持する人びとが、民主党の大統領候補選を争い、一握りの富裕層に有利な制度を変えろと公然と主張している。
 ヨーロッパ諸国でも上述したとおり、ストやデモが頻発しているが、それが収束する気配はない。
 
 西側は、世界的に見れば、確かに一定の民主主義を実現してきた。そしてその民主主義は、代議制という意味以外にも、人びとが抵抗し、要求を突きつける勢力を拡大させてきたのも事実である。それが高度に発展した資本主義システムを、もう一つの(alternativeな)システムへ変革していく勢力であるのも、間違いないだろう。

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バーニー・サンダースの新刊「資本主義に怒ってもいい」

2023-03-08 10:03:20 | 社会


 2月21日、バーニー・サンダースの新刊<It’s OK to be Angry About Capitalism >「資本主義に怒ってもいい」が、アメリカで出版された。日本語版はまだないので、読みたい人は、アマゾンで英語の電子版を購入するしかない。

 何が書いてあるのかは、サンダースが自らを民主社会主義者と公言してはばからないので、アメリカの民主社会主義者に聞くのが手っ取り早い。そこで、アメリカの民主社会主義誌"Jacobin"の、この著作に関する解説を要約する。
 因みに、ここで言う「民主社会主義democratic sosialism」とは、実際には資本主義の改良に過ぎない社会民主主義ではなく、あくまで社会主義を目指すが、その社会主義は、ソ連や中国といった「現実にあった社会主義」とはまったく異なる、民主主義を基本に置く社会主義という意味である。その意味では、マルクス主義に極めて近い、または、マルクス主義の一つの解釈とも言える。
 Jacobinはその”about us”によれば、「政治、経済、文化に関する社会主義者の視点での、アメリカの左派の主要な声であり、紙版は四半期ごとに発行され、購読者数は 75,000 人、Web の読者数は月間 3,000,000 人を超える」メディアである。一つの党派や運動組織の機関誌ではなく、社会主義者、左派の意見交換や社会へのアピールを目的としており、掲載される記事は、すべて記名入りであり、そこから議論されることを前提にしている。

 
 記事は「バーニー・サンダースの新刊からの8つの学び」と題され、重要なポイントを8つ取り上げている。意訳すると以下のようになる。

1. 資本主義経済システムが問題
 「ここ数年で米国に定着した超資本主義経済システムは、制御不能な貪欲と人間の品位に対する軽蔑によって推進されており、単に不当ではありません。それはひどく不道徳です。 」
 (超資本主義uber-capitalisimeとは、 サンダースは、飽くなき利潤追求による人間にとって著しい弊害をもたらすものになった資本主義というような意味で使用しており、資本主義を超えたシステムsupercapitalismとは異なる。)
2. 世界を変える要求をもっとしていい
「私は人々に、手に入れたものに満足するように、あるいは決して得られないものがあることを容認するようにとは言いません。私は人々にもっと要求するように言います。 」
3. 不平等の問題は体系的である
「アメリカの寡頭制との戦いは、(そしてそれを助長する金権政治への対応は)、人格とは関係ありません。不平等は個人の問題ではありません。これは社会システムの危機です。 」
4.すべての人にメディケアを提供することは、私たちの時代の中心的な要求です
「多くの場合、アメリカ人は、すべての場合において普遍的なメディケアプログラムに基づいた堅牢なメディケア制度を備えた国で人々が享受する安全性と、その制度への帰属意識を欠いています. 私たちの多くが絶望の病に屈するのも不思議ではありません。 」
5. 労働者の味方か、上司の味方か
「あなたはどちら側ですか?最近では、スターバックスやアマゾンなどの企業は、銃を持った凶悪犯を雇っていません。代わりに、反組合のコンサルタントや世論調査員、政治的につながりのあるロビイスト (その多くは民主党員) を雇って、組合の組織化を妨害しています。しかし、基本的な前提は変わりません。あなたは労働者と組織労働者の側にいるか、そうでないかのどちらかです。 」
6. 新しいテクノロジーは、所有権と支配権の古い問題を解決しない
「仕組みは変わったかもしれませんが、経済エリートと労働者階級の間の不均衡は変わっていません。 」
7. 民主主義社会はすべての人に平等な教育を要求する
「歴史的に、進歩主義者は教育論争の最前線に立ち、無料の公教育を確立し、すべての生徒に学校を開放し、都市部と農村部に優れた学校を建設し、それらに十分な資金を提供するために戦いました 。」
8. 来るべき闘争に妥協点はありません
「超資本主義の飽くなき貪欲と、労働者階級の公正な取引との間には、妥協点はありません。私たちが地球を救うかどうかについて、妥協点はありません。私たちが民主主義を維持し、すべての人を平等に保護する社会を維持するかどうかについて、妥協点はありません。」

 このサンダースの新刊の内容は、今までのサンダースの主張と変わるものではない。そのことは、サンダースが問題にしてきたものが、今までの彼の闘いの努力にもかかわらず、まったくと言っていいほど、解決していないことを意味している。
 サンダースは、特にアメリカのメディケア、教育、労働組合運動を問題にしているが、それは他の先進国と比べ、その問題については、アメリカが著しく劣っている現実が、一向に改善しないからである。公的な医療保険がないため、医療保険に入れない国民が1000万に以上存在し、経済的理由からまともな医療を受けられない。また、教育の公的支出、労働者に不利益な労働組合の法整備は、OECDの中でも最低と言っていい。
 それらの理由が、サンダースは、実は資本主義そのものにある、と言っているのである。だから、「資本主義に怒っていい」とサンダースは言うのだ。
 
 寡頭制はロシアだけでない。アメリカも寡頭政治家が動かしている
 サンダースは、この著作へのインタビューで「私が言いたかったことの 1 つは、もちろん、オリガルヒがロシアを運営しているということです。しかし、それだけだと思いますか? 寡頭政治家は米国も運営しています。それは米国だけではなく、ロシアだけでもありません。ヨーロッパ、英国、世界中で、少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めているのを見ています。世界的に寡頭制になっています。 」と言っている。(英紙ガーディアン)。
 サンダースのこの指摘は、完全に的を射ている。バイデンは、対ロシア・中国を「民主主義対専制主義」の戦いだと言う。しかし、バイデンの言う「民主主義」の先頭に立つアメリカは、労働者を中心とする庶民階層にとっては、先進国の中では最低の医療制度、教育制度、労働法しか有しない。「民主主義」と言いながらも、現実の社会は「少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めている」のが実態なのである。
 それは、バイデンの言う「民主主義」が、「人民による統治」という本来の意味とは別であり、単に敵と見なす国を攻撃するための口先だけの道具に過ぎないからである。
 その原因は恐らく、第一に代議制の選挙が、どこの「民主主義国」でも60%程度の投票率の中の、40%程度の得票率で与党が形成され、有権者に対する絶対得票率は24%程度に過ぎないという理由によるだろう。24%しか代表しない勢力が、裕福な少数者に有利な政策を実行しているという現実があり、悲観した貧しい庶民階層はますます選挙から遠ざかる傾向があるからである。
 また、「言論の自由」といっても、カネと権力のある側が、主要メディアから自分たちに都合のいい情報を大量に流し、それに抵抗する側の情報はかき消されてしまうという実態があるからである。
 第二次大戦後、世界的には民主主義の一定の前進があったが、21世紀は新自由主義の蔓延とともに、民主主義も形骸化しているのである。
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