夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ウクライナ戦争「アメリカの狙いどおりに、長期戦が進む」

2022-04-23 09:19:05 | 社会
ポーランドの米軍基地で演説するロイド・オースティン米国防長官
 
 ロシアによる軍事侵攻から、2か月近くが経過したが、ウクライナ戦争は終わりの見えない長期戦に突入している。3月初旬には、ゼレンスキーがウクライナの軍事的中立を提起し、フランスのマクロン、トルコのエルドアンらが、仲介し、いくらか停戦交渉の動きはあったのだが、そこに、ウクライナのブッチャでの住民虐殺等の極悪非道のロシア軍ぶりを強調する報道があり、一気にロシア憎しが強まり、停戦交渉は行き詰まりになった。その間も、NATOはアメリカを筆頭に大量の武器をウクライナ側に供給し、ウクライナ軍の戦闘力を強化を図り、今も続々と重火器類の提供・そのウクライナ兵の操作訓練を含む軍事支援を続けている。
 3月下旬頃から、ロシア軍はキーウ(キエフ)などの北部から後退し、東部に戦力を集中させる方向に転換し、この地域の占領を目指すようになった。それに対し、NATOの武器支援を受けているゼレンスキーは、徹底抗戦の方針を貫いている。

アメリカの利益
 このような流れの中で、世界で最も影響力の大きいアメリカは、最も被害が少なく、利益まで得ている。第一に、誰でも分かることだが、アメリカの軍事産業は、ウクライナへの大量の兵器の供給により莫大な利益を得ている。
 西側のアメリカ同盟国は、日本も含めすべての国で軍事予算を増加させているが、その兵器の調達先の多くは、最新鋭兵器を供給できるアメリカ企業である。この戦争が終わったとしても、西側各国は軍事予算増加の方向は変化しないので、アメリカ軍事産業は、長期にわたり莫大な利益を見込める。勿論これは、紛争地に武器を供給し、人の死により利益を得る「死の商人」と同じである。 さらに、経済的利益としては、インフレによる庶民階層の生活苦があるとしても、ロシアの原油、天然ガスの代わりに、それらの産出国であるアメリカが輸出量を増やせば、莫大な利益を生む。
 しかしより重要なのは、西側同盟国の軍事的同盟関係を強化できたことが、アメリカの最大の利益である。アメリカの超大国としての力は軍事力によって担保されてきたが、年々、その力は弱まってきた。その典型的な例が、アフガニスタン撤退である。それを盛り返す手段は、中国に経済力で追いつかれようとしているアメリカには、やはり軍事力以外にはない。(これは、言葉を替えれば、帝国主義的野望である。)ヨーロッパで言えば、NATOの結束により、他の国より圧倒的な大きなの軍事力を有し、盟主であるアメリカに従属させることができたのだ。比較的に平和主義を貫いてきたドイツですら、軍事予算をGDP2%以上に増加させざるを得ず、より深くNATOに組み込まれていくことになる。ヨーロッパ諸国の安全保障政策は、独自色を失い、アメリカ主導の政策が採られることになるのである。
 対ロシアのアメリカ同盟国の軍事力強化は、当然のように、対中国にも向けられる。アメリカ政府や、日本だけでなく西側の右派が(いわゆるリベラル勢力一部も同様だが)、ロシアと中国を「専制主義」と結びつけることに熱心なのは、対ロシア・中国との軍事的対応を強化するためである。(日本では、産経新聞など極右ジャーナリストが最も熱心である。)
 この対中国の軍事力強化も増大しつつある。2021年9月に米英豪は、軍事同盟のAUKUS(オーカス)を構築したが、4月5日には極超音速兵器の開発などで協力すると発表した。また、日米安保の強化も着々と進んでいる。これらの動きに、ウクライナ戦争でのロシア100%悪玉論(ロシアだけが悪いのであり、それ以外は問題にしてはならないという論調)が後押ししているのは明らかである。
 さらには、ウクライナ戦争での報道は、ロシアのからのものはすべてプロパガンダとされ、情報発信は、圧倒的に「アメリカ政府高官による」ものであり、あたかもそれが、ロシアものとは逆に、正しいものとして扱われている。西側に都合が悪い真実は、すべてロシアの侵略を正当化するもので、言ってはならないものという圧力がかかるようになった。これは、右派だけでなく、リベラルや左派の間にも広まり(朝日新聞の「論座」の意見欄がその典型)、ロシア100%悪玉論以外は、プーチンの味方として扱われている。(これには、第1次大戦中、ドイツ社会民主党が軍事予算の増額に賛成したことを、レーニンが、左派が戦争に賛成するはずはないと、信じなかったことが思い出される。)例を挙げれば、ロシアが主張するウクライナのネオナチ勢力は、それがウクライナ全土を支配しているというのは「プロパガンダ」であり、それをもとにした侵略の正当化などは、完全なこじつけだとしても、ウクライナに極右民族主義武装集団が存在しているのは紛れもない事実である。その主要なものであるアゾフ連隊は、軍事侵攻前は西側でもネオナチの疑いがあり、危険な組織として認識されていた(日本の公安調査庁も認めていたが、最近、その記述を慌てて削除した。)が、今は主要メディアでも、一切、言及されない。これらのことは、アメリカ政府の主張は、すべて正しく、それに反する言動は間違いだ、という風潮が作り上げられている証左である。これほど、アメリカ政府が外交政策を推し進めるにあたり都合がいいことはない。
 
停戦など眼中にないバイデン政権
 4月12日、バイデンは「ロシアがウクライナでジェノサイドを行っている 」と発言したが、翌日にフランスのマクロンは、この発言に慎重な姿勢を示し、「国の指導者は使う言葉に注意を払うべきだ」、「強い非難の言葉を使うことは戦争終結の助けにならない」と言った。これほど、アメリカ政府とフランス政府の方針の違いを表す事象はないだろう。(勿論、アメリカの「飼い犬」の英国ボリス・ジョンソンがアメリカに追従したのは当然である。)マクロンは、ジェノサイドと相手を最大限に非難すれば、交渉などできるわけはなく、停戦を実現させるのを妨げると言っているのである。それに対し、バイデンが停戦を実現させる気はないのが、明らかになったのである。
 バイデン政権は、昨年末からロシアの軍事侵攻を予言していた。それを内心期待していたとは、さすがに考えられないが、侵攻が開始された以上、何がアメリカの利益か、検討したはずである。フランスのマクロンやドイツのショルツ、トルコのエルドアンなどがプーチンと交渉を重ね、成功しなかったとしても、和平協定への努力の姿勢は見せた。しかし、バイデンはプーチン非難だけで、和平に努力する素振りさえ見せず、採った政策はウクライナへの大量の武器の供給と経済制裁だったのである。このことは、上記に挙げた利益は、短期に戦争が終結すれば少なく、長期戦になればなるほど、この利益が増大すると判断したことの表れだと解釈できる。そうだとすれ、アメリカにとって狙いどおりの長期戦になったのである。
 
バイデンの目論見どおりに戦争は進むのか?
 4月21日、CNNオピニオン欄にコロンビア大学教授のジェフリー・サクスJeffrey Sachsの「和平協定が、ウクライナでのロシアの戦争を終わらせる唯一の道」という論考が載った。
 その主旨は、アメリカの方針である経済制裁とウクライナへの武器供与だけでは、戦争を終わらせる可能性は極めて低く、唯一和平協定だけが、その解決策だというものである。
 経済制裁は、①ロシアに経済的苦痛をもたらすが、ロシアの政治や政策を変更させる可能性は低い。②制裁は回避されやすい。③世界の多くの国(人口で70%を占める)は、この動きを支持していない。④世界経済全体を傷つける。⑤ロシアの原料輸出量を減らしても、価格上昇から収入は減らない。⑥地政学的に、ロシアはNATOの拡大に反対しているが、中国のように、ロシアが受けている安全保障上の脅威を理解する国もある。
 NATOのウクライナへの武器供与は、ロシア軍に大きな打撃を与えるが、その間にウクライナ側も甚大な被害を被り、ロシア軍を撤退させることまでは、不可能。よって、ウクライナを救うことはできない。むしろ、ロシア側は、核兵器の使用を含めた攻撃を激化させる危険性すらある。
 世界の多くの国々は、ロシアとのNATOの代理戦争ではなく、平和を望んでいる。
 ロシアは侵攻前に、NATOの拡大停止などの要求リスト示したが、NATO,特にアメリカは完全に無視した。今こそそれを、NATOの譲歩を含めて再検討し、交渉のテーブルに着くべきである。ウクライナへの軍事支援と経済制裁は、和平協定実現を目的として行われるべきだ。

 以上が要旨だが、極めてまともな論考である。このような、アメリカの政策を批判した論考が、西側主要メディアに載るのは珍しい。しかしこれは、2か月経過しても、今の西側のやり方では、ロシアは軍事侵攻を止める気配さえ見せないことへの真摯な分析である。ロシア100%悪玉論から、軍事力での対応と制裁以外は眼中になくなった西側主要メディアへの批判でもある。
 日本でも、3月15日、和田春樹東大名誉教授などロシアや東欧の政治や歴史研究を専門とする学者 14名が「憂慮する日本の歴史家の訴え ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか」という声明を出したが、朝日新聞を始め、ほとんどすべての日本の主要メディアは(日本共産党の「赤旗」も含め)言及することなく、無視した。それは、その要旨がロシア100%悪玉論ではなく、歴史的な考察からの和平協定を進めるものだったからである。
 しかしそれでも、4月中旬発行の岩波「世界」5月号では、ロシアだけが一方的に悪という論調とは異なる論考を載せているなど、感情的に「ロシアをやっつけろ」というだけでは戦争は終わらないことに気づき始めた意見が散見されるようになった。これらの動きは、上記のCNNに載った論考とも共通している。当分の間、バイデンやNATO諸国首脳の方針は変わらず、プーチンも侵攻を緩めることはないだろう。しかし、世界の多くの国々は、ロシアとのNATOの代理戦争ではなく、平和を望んでいる。西側首脳もプーチンもそれを無視できない日は来る。始まったものはいつかは終わる。それを世界の多くの人びとは望んでいるのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ、今そこにある危機「ロシアへの憎悪のあまり、NATOは全面戦争へと突き進む」

2022-04-10 11:25:48 | 社会
 
ウクライナ兵に破壊されたロシア軍戦車が道端に横たわる

長期戦は避けられない
 アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、「4月5日下院軍事委員会の公聴会で、ウクライナの戦闘が数年間に及び、長期化する可能性がある」と言った(朝日新聞4月7日)。恐らく、この見通しは現実になるだろう。
 ロシア軍は、ウクライナ東部地域の占領・支配は、軍事侵攻の最低限の目標としているし、ゼレンスキー政権は、それを絶対に容認しないからだ。ゼレンスキーが容認しないのは、NATO諸国からの軍事支援は今後もさらに増加し、ウクライナ軍は強化される一方で、反撃能力は十分あると見通せるからでもある。プーチンもゼレンスキーも、どちらも絶対に譲れない戦争が起きているのである。
 西側は経済制裁を強化しているが、経済制裁で政権が崩壊したのは、歴史上、南アフリカ共和国だけである。政権が崩壊するのは、それにとって替わる勢力が存在しなければ、不可能なのである。南アには、現政権のANCがアパルトヘイト時代も、かなりの勢力を有し、とって替わりうる勢力として存在していたのである。イランも北朝鮮もキューバも長年政策を受けているが、とって替わる勢力が存在しないので、政権は崩壊しない。ロシアも同様に、「反体制」勢力はナワリヌイなど存在するが、小さすぎて政権を倒すほどではない。制裁によって、逆に、プーチン政権は世論調査で明らかなように、ナショナリズムの高揚から支持を増大させており、政権は崩壊などしないし、戦争遂行の方針を転換することもない。プーチンはかつて、北朝鮮の核ミサイル開発を、どんなに制裁を受けようとも「草を食べてでも」止めることはないだろう、と言ったが、それはロシアも同じことだ。ロシアもウクライナも、自分たちが認める勝利まで、戦争を止めることはない。

 西側メディアは、ロシア軍による民間人殺戮などの「極悪非道ぶり」を強調し、ロシアの軍事侵攻前には報道された、NATOの東方拡大のロシア側の反発への懸念やアゾフ大隊などウクライナ民族主義者によるドンバス地方でのロシア系住民に対する虐殺疑惑(真偽は不明)などは、ほとんど報道されず、報道する場合はすべてロシアのプロパガンダとして扱うようになった。
 停戦交渉は、それらのロシアへの憎悪をかきたてる報道だけが強調されれば、その「極悪非道」のロシアと交渉するという行為は、意味のないものとみなされる。プーチンは今やヒトラーらに例えられているが、ヒトラーと交渉しようなどと考える者はいない。プーチンと何度か直接会談を行ったフランスのマクロンも仲介役のトルコのエルドアンも、ロシアを非難せざるを得ず、中立的立場を放棄することになる。中立的でないものは、仲介に立てないので、停戦交渉など不可能なのである。
 
 上記に挙げたアメリカのミリー統合参謀本部議長は、朝日新聞には掲載されていないが、実は次のことも発言している。
 このインサイダー紙によれば、ミリーは「米軍をウクライナに派遣することが、プーチンの侵略を阻止する唯一の方法である可能性が高い 」と言っている。しかし、「ロシアとの武力紛争のリスクがあるため、そうすることに反対している 」と米軍がロシア軍と直接交戦するの第3次大戦の始まりの恐れがあると言っている。
 つまり、交渉によって戦争が治まることなどあり得ず、軍事力でロシア軍を敗北させない限り、侵略は止められないが、極力、欧米とロシアの直接的交戦はしたくない、ということである。そこで、NATOは、着々とウクライナへの軍事支援だけを行っているのである。したがって、ウクライナ軍はますます強化され、東部の占領のみに方針を変えたロシア軍と互角の戦いを進めることになる。だが、米軍の圧倒的な軍事力は使用できないので、侵攻しているロシア軍を壊滅できず、いつ終わるか分からないに戦争になるということである。
 このロシアの侵略戦争が長期化すればするほど、ロシアの「極悪非道ぶり」は報道されるので、ロシア軍に対する憎悪は極限まで増すことになる。そもそも、世界中どこの軍隊も、他国に侵攻すれば、民間人を殺戮する。国連は、20年間のアフガニスタン戦争で民間人4万6千人が殺害されたと推計している(東京新聞2021年9月29日)。その多くは、アメリカによる通常の空爆やドローン攻撃による「巻き添え」によるものである。空爆で粉々に吹き飛ばされ、焼き殺されるのは、ウクライナでもアフガニスタンでも同じであるが、「巻き添え」で殺害するのは、さほど非人道的とは見なされない。ウクライナとの大きな違いは、死ぬのが欧米人かアジア人か、である。それが西側メディアでは、大量に報道されるか、小さな扱いになるかの大きな違いとなって現れる。西側メディアでは、国によって命の価値は大きく異なるのである。
 

終わりのない戦争は、NATO・ロシア戦争へ
 今のところ、ロシア軍もNATO軍を直接攻撃していない。NATOもウクライナに派兵するのは抑制している。しかし、戦争が長引けば、そうはいかない。ロシア軍を苦しめているのは、NATOの軍事支援であるから、ロシアは業を煮やし、既にウクライナに入っているアメリカなどの、西側兵器の取り扱いをウクライナ兵に訓練する軍事顧問団を攻撃する可能性は高い。また、ロシア軍が撤退したウクライナ西部にはNATO軍を派遣される可能性もあり、それもロシアの攻撃対象となる。その時は、NATO諸国の人間が殺される。また、ポーランドなどウクライナへの軍事支援を橋渡ししている地域への部分的な攻撃の可能性もある。そうなれば、ただでさえ「戦争をやめさせる」よりも、明らかに「ロシアを罰する」に向かっている西側世論は、ロシアへの憎悪は一層高まり、一気に「戦争やむなし」に傾く。それに押されて、ロシアと直接交戦しないというNATO軍の抑制が効かなくなるだろう。「ロシアによって始められた戦争であり、責任のすべてはロシアにある」と全面戦争に突き進む。無論、それでも核戦争は避ける。核戦争は、モスクワもワシントンも壊滅させるので、プーチンもバイデンも、その側近も、政権を支える連中も、自分だけは死にたくないからである。
 しかし、これは、世界大戦ではない。第1次も第2次も、アジア・アフリカも戦場になったが、この戦争の戦場は欧州と北米だけである。NATO対ロシアの戦争なのである。それは、中国、インド、南ア、ASEANの多くの国、アフリカ、南米などの国々が、西側に完全には同調せず、中立を保つ理由でもある。アメリカのバイデンは、関ヶ原の合戦の家康のように、東軍につくか、西軍につくか、返答しろと迫るが、アジア・アフリカ・南米の諸国は、内心は、「関わりたくない」に違いない。世界経済は混乱し、経済的困窮は避けられないが、今まで何度も世界中で戦争をひき起こしてきた欧米の、「世界戦争」に巻き込まれるよりはマシなのである。
 

 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシアの侵略「ネオナチのアゾフ連隊がウクライナ側でロシアと戦闘しているのは事実」

2022-04-01 17:25:38 | 社会
 
 西側メディアも、ウクライナのネオナチ武装勢力の存在を無視できなくなったようだ。アゾフ連隊のことである。最近になって、ウクライナのマウリポリのロシア軍による攻撃に、このアゾフ連隊がウクライナ側の戦闘員として公然と姿を現したからだ。
 日本のテレビでも、テレビ朝日が「アゾフ連隊司令官が語る」と3月27日になって放送した。日本のテレビ局は国際問題になると、アメリカ政府の広報のようなことしか報道しないので、テレビ朝日も軍事ジャーナリスト黒井文太郎なる者を登場させ、根拠も示さず、この組織が「ネオナチと言うのは、ロシア側のレッテル貼りで、極右だがネオナチではない」と、言わせている。ロシアが言うのだから、すべてウソだという論理である。

 アゾフ連隊とは
アゾフ連隊が何者であるのかは、ロシアでも西側でもない報道が公平と言えるので、カタールのアルジャジーラの3月1日の説明を見ると分かりやすい。
「ウクライナの極右アゾフ連隊とは、何者?」という記事である。
 この中では、まず、「極右のネオナチグループは拡大し、ウクライナの軍隊、街頭民兵、政党の一部になった。」とネオナチだと明言している。そして
 ①2014年5月に、超国家主義者であるウクライナの愛国者ギャングとネオナチ社会民族会議(SNA)グループからボランティアグループとして結成された。 
②クライナの東部地域であるドネツクで親ロシアの分離主義者と最前線で戦った。 
③ウクライナ政府は自国の軍隊が弱すぎて親ロシアの分離主義者と戦うことができず、準軍組織のボランティア部隊に依存していることを政府が認識していたため、この部隊は2014年にウクライナの内務大臣から支援を受けた。(アゾフ大隊英語Azov battalionとも表記される場合もあるが、それより上の連隊regimentと記すのは、ウクライナ軍に編入され、規模が拡大したからである。)
④ウクライナのオリガルヒによって私的に資金提供された 。
⑤国連人権高等弁務官事務所(OCHA)による2016年の報告書は、アゾフ連隊が国際人道法に違反していると非難した。
⑥2019年10月、マックス・ローズ議員が率いる米国議会の40人の議員が、アゾフを「外国のテロ組織」(FTO)として指定するよう米国国務省に求める書簡に署名した。2018年4月、エリッサ・スロットキン下院議員は、他の白人至上主義者グループを含む、バイデン政権への要請を繰り返した 。
⑦2016年、Facebookはアゾフ連隊を「危険な組織」に指定したが、ロシアが侵攻を開始した2月24日、Facebookはその禁止を覆し、アゾフを称賛することを認めた。
 以上が主な内容だが、どう読んでもアゾフ連隊は、少なくとも「危険な組織」であることは間違いない。これも、ロシアのプロパガンダだと言う人のために、1865年にアメリカで創刊された週刊誌The Nationの記事を挙げる。
2019年2月のものだが、「ネオナチと極右はウクライナで3月に(大規模活動を始める)」と題し、ナチズムを信奉する集団が活動し、その中心がアゾフ連隊であることが詳述されている。
 さらに英国のガーディアンも
Azov fighters are Ukraine2014年9月10日「アゾフ大隊はウクライナの最大の武器であり、最大の脅威である可能性」
Neo-Nazi groups recruit Britons to fight in Ukraine2018年3月2日「ネオナチは、ウクライナで戦いに英国人を募集」
とアゾフ連隊が、ネオナチと密接な繋がりがあることを認めている。
 
 しかし、これらの指摘は、2月24日のロシアによる侵略の後は、西側メディアから手のひらを返したように消えてなくなる。アゾフ連隊は、ネオナチという「危険な組織」から変化し、ロシア軍と戦う英雄として称賛されるのである。ロシア軍と戦う者は、白人至上主義のナチの信奉者であっても、英雄として描かれるのである。敵の敵は、味方というわけである。この論理は、チリのアジェンデ政権を壊滅させたように、数多くの社会主義政権を転覆させるために、軍事独裁政権を支持してきたアメリカ政府の政策を彷彿させるものである。

 ロシアによる侵略を1ミリたりとも正当化しないが
 勿論、言うまでもなく、これらの「事実」はロシアによる侵略を1ミリたりとも正当化しない。プーチンは、ウクライナがネオナチに支配されていると言うが、プーチン政権自体が、ネオナチどことろか、ナチスそのものように、戦争に反対する人びとを弾圧する体制を作り上げてきたのである。むしろ、プーチン自身がヒットラー化しているのである。
 また、極右ナショナリスト武装集団は、ウクライナよりもロシア国内の方が数多く存在するのは、多くの報道で明らかなことである。
 プーチンは、ウクライナがネオナチに支配されているので、解放するために「特別軍事作戦」を決定したと、ウクライナのネオナチ勢力を侵略を正当化する口実に使った。或いは、プーチンは、側近から上がってくる情報を基に、本当にそれを信じているのかもしれない。
 ウクライナのネオナチ勢力は、先のガーディアンやその他の記事で書かれているように、アゾフ連隊全体がナチ信奉者というわけではなく、創設者のアンドリー・ビレツキー も議員選挙で落選し、ウクライナ政権に対する影響力は大きくはない、というのが実態だと思われる。
 しかし問題は、上記のガーディアンの記事には、アゾフ連隊と繋がるネオナチに近い極右は、欧米で戦闘志願者を募集し、勢力を拡大していると記されている。それに欧米各国は神経をとがらせている。それは自国内に極右武装勢力など、許されることではないからだ。日本に置き換えれば、街宣車に乗る「右翼」が、自動小銃や対戦車ロケット砲で武装し、なおかつ自衛隊に編入されているということである。通常の法治国家で許される存在ではない。それがウクライナでは、(ロシアでは非公然で、公式には存在しないことになっている。)公然と活動が認められ、自国の軍隊に編入されているのである。
 英国BBCは、2014年3月7日「ウクライナ革命と極右」という記事を配信している。
 この記事は、2014年のウクライナのマイダン革命は、極右はごく一部の勢力であり、革命の全体的な勢力は一般市民だという主旨で書かれている。しかし、「右派は少数派で、決定的ではないが、彼らは特大の役割を果たした。」「運動の中核の略称であるマイダンのテント、バリケード、護身術部隊の中に集中し ていた。」とも書かれている。要するに、極右集団は、最も目立つところにいたのである。
 また、これらの部隊が、西側が「親ロ派」の「分離独立地域」と呼ぶ東部のロシア系住民支配地域で戦闘の正面に立っていたのも多くの西側メディアが認めている。こらの極右集団は、言うまでもなく、ウクライナ民族主義の集団であり、ロシア人を嫌悪する排外主義者である。この存在をロシア系住民が恐怖にかられるのは、当然のことである。もう一度、日本に置き換えれば、在日コリアンにヘイトスピーチを繰り返す極右集団が武装しているようなもので、今以上に、在日コリアン側が恐怖心を抱くのは想像しやすいだろう。
 確かに、プーチンが言うように、ウクライナ全体がネオナチに支配されているのではない。しかし、2020年1月にはロシア語の広告使用を禁止され(ウクライナ、ロシア語広告禁止 影響力排除狙いか:東京新聞 TOKYO Web、),
公文書もロシア語が排除されるなど、日頃からのロシア語話者に圧力があり、ロシア語話者にとっては(すべてのロシア語話者でないとしても)ウクライナ民族主義者の極右集団は恐怖であることや、これらの部隊が東部ロシア系住民に対して、虐殺行為を行ったとしても、それは想像できることで、何ら不思議ではない。そのことが、ロシア側の民族主義者や極右集団を刺激し、しいてはプーチンが侵略という狂気に至る一つの遠因になったのは、間違いないことである。
 
 軍事力強化が進む
 日本を含めた西側主要メディアは、ロシアの侵略以降、これらの事実に触れるのを避けている。すべてが、ロシアのプロパガンダの扱いになっている。それは恐らく、ロシアの侵略が正当化されるのを避けるためと思われるが、事実は事実として認識しなければ、戦争が何故引き起こされるのかが、分からなくなってしまう。
 西側メディアのウクライナ戦争情報は、ほとんどすべてと言っていいほど、アメリカ軍情報機関から、アメリカ政府高官を通じて流されている。それを、「ブリンケン国務長官は」というように、出処は流しているが、情報自体は疑いのないものとして扱っている。これでは、暗黙のうちに、ロシア=ウソの情報で悪、アメリカ=正しい情報で正義、と人びとに植え付けているのに等しい。
 ロシアが悪いというだけの問題の単純化は、戦争へのリスクを下げる努力をないがしろにし、「悪い奴はやっつけろ」「そのための軍事力強化」という意識しか生まない。ヨーロッパ諸国はNATOの結束と強化に動いている。それが日本では、対中国との関係で、軍事同盟である日米安保の強化や改憲の動きを後押しし、核武装肯定にまで及ぶ恐れは、十二分にあるのだ。
 
  
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする