夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

マスメディアの中国脅威論が「防衛費」増額を産む

2024-12-20 10:25:13 | 社会


防衛」を肯定する国民意識の形成
 マスメディアの報道によれば、「防衛費」と表現される軍事費の増税が与党で議論されている。「防衛」には肯定的だとしても、増税を好ましく思わない国民は当然多数なので、自民党も公明党も慎重にならざるを得ず、「自民、公明両党は13日、防衛力強化のための増税のうち、所得税について増税開始時期の決定を先送りした。政府はことし3税の増税を決めれば、2027年度時点で当初想定に近い1.1兆円の税収が確保できると計算していた。法人、たばこ両税は26年4月からの増税開始の方針が決まったものの、安定した財源確保には課題が残った。 」(日経新聞12/14)という。

 とは言っても、「防衛費」を増額しなければならないとの認識は、国民の間では、もはや多数派となっていると思われる。いわゆる、世論は「防衛費」増額の必要性を肯定しているのである。「防衛費」の増額は、言葉を正しく言い換えれば、軍事費の増額であり、軍事力の拡大である。つまり、日本では(日本だけではなく、西側全体でだが)言わば軍拡路線を肯定する国民意識が、醸成されているのである。 日本国憲法は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」 「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 」「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 」と定めるが、これらは、今や完全に空文化し、一切考慮されない。要するに日本は、軍拡路線を突っ走る方向に向かっているのだが、戦後、平和国家を目指したはずの日本が、なぜこのようなことになってしまったのだろうか?

  この「防衛力」を大きくした方が良いという国民意識は、近隣の大国となった中国を意識したものであるのは間違いないだろう。それは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が現実となったことで、「非民主主義国」中・ロへの警戒心というものが一体になり、さらなる中国脅威論が加速された言っていい。
 それは、日中の相手方に対する感情が極めて悪化していることが根幹にあるのは言うまでもない。NHK(12/2)によれば、日本に「良くない印象」をもっている中国人は87%に上り、中国に「良くない印象」をもっている日本人は87.7%も存在するという事実が物語っている。
 「良くない印象」をもつ国には、警戒心を持つのは自然の心理であり、それは「友好」とは正反対の感情を意味している。中国の経済的・軍事的台頭に対しては、軍事力によって自らを「防衛」するという心理が国民の間に行き渡っていることを意味しているのである。その軍事力が、日本の軍事同盟国であるアメリカに比べれば、遥かに小さいにもかかわらず、である。
 では、なぜこのような「世論」が日本人に間に醸成されたのだろうか?

中国は「悪い国」というマスメディアによる「世論」の醸成
 人は世界で何が起きているのかを知るのは、直接見聞きできない以上、ほとんどはマスメディアを通してである。SNSも直接の「見聞き」から発せられるは、ごく僅かであり、多くは、そのマスメディアの情報に不随して、ああだこうだと発信されるに過ぎない。
 NHKだけでなく、日本の新聞・テレビ等のマスメディアは、『日本に「良くない印象」をもっている中国人』が増大したのは、中国の偏向したメディアの影響だ、と報道しているが、そのことは、実は日本側にも当てはまり、『中国に「良くない印象」をもっている日本人』がほぼ同率に存在するのも、日本側のマスメディアの影響なのである。
 
 アメリカのバイデンが、「民主主義国対権威主義・強権主義国」に世界を分け、ロシアと並んで中国を「権威主義・強権主義国」に分類し、中国との戦いを強調したが、その認識は、日本では、かなり以前からマスメディアで喧伝されていたのである。
 書店には、極右派による中国非難の書籍が山積みに並ぶ。しかし、問題はそのことではない。なぜなら、このような書籍は、反共を旗印とする極右派によって、中国革命後のかなり以前のから、書店には並んでいたからである。問題なのは、日本のマスメディアが、大量に流す中国に対する否定的な報道である。
 大学研究者の、日本のマスメディアの中国報道に関する研究は多くにあるが、そのほとんどに共通している指摘がある。それは、天安門事件以降に日本のマスメディアの中国報道が変化した、というものである。
 桜美林大学教授の高井潔司 は、『日本のメディアの報道フレームが「友好フレーム」から「普遍的価値フレーム」さらには「国益優先フレーム」へと変化し、その結果、報道の内容が大きく変化したことを(2014年「日中記者交換協定50年」でのシンポジウムで)解説した。友好第一から批判一色への中国報道の内容変化は、対中世論の悪化とその相乗作用を引き起こし、日中関係の冷え込みを演出している。 を解説した。友好第一から批判一色への中国報道の内容変化は、対中世論の悪化とその相乗作用を引き起こし、日中関係の冷え込みを演出している。 解説した。友好第一から批判一色への中国報道の内容変化は、対中世論の悪化とその相乗作用を引き起こし、日中関係の冷え込みを演出している。 』と指摘している。
(NHK2014年「歴史を通して考える日中メディアの課題」)

 「報道フレーム」とは、報道姿勢や論調を意味する造語である。、国益優先フレーム」は、「日中友好フレーム」とは、「国交がない中、国交正常化を最優先に、相手国の暗い面よりも友好を第一とした報道」であり、「普遍的価値フレーム」は、1989年の天安門事件以降、「西側諸国の経済制裁、ソ連・東欧の崩壊・冷戦終結、グローバリゼーション」を背景に、「中国の民主主義、人権、軍事力増強」の問題を重視し、西側諸国の「自由民主主義」に基づく普遍的価値の立場からの批判的報道のことである。そしてさらに、日本の「国益優先フレーム」に変化し、現在に至っているという。具体的には、マスメディア、特に新聞は「中国の抱えるさまざまな矛盾に焦点が当てられ、中国の政治体制に対する批判報道であふれるようになった 」ということである。


 日本人の中国に対する嫌悪感の増加は、上記の世論調査グラフで明らかなとおり、「親しみを感じない」層が、1989年以降に増加し、2003年からはさらに悪化していることでも明白である。2003年以降は、中国の経済大国化と時期が一致しているが、2001年の小泉純一郎首相の靖国参拝への中国側からの批判、2004年、2005年の反日デモ等から急激に悪化している。
 これらの事件のマスメディアの報道姿勢は、NHK内部からも指摘されており、「テレビ はニュースやワイドショーでこれらの出来事を繰り返し伝えたが,その多くが事態の推移をセン セーショナルに伝えるのみで、事件発生の原因や歴史的背景などを掘り下げて伝えるものは少 なかった。」(NHKメディア研究部長井暁「テレビは中国をどう伝えてきたか 」)のである。
 
 東京大学社会科学研究所教授丸川知雄は、「巨大化する中国経済ー変化の方向を見誤った日本の中国報道」(新聞研究2018年)の中で、「イメージでなく事実を掘り下げて」と願い、『日本のメディアは、中国経済や「一帯一路」構想など中国の対外的イニシアティブに対して問題点を並べて、悲観的な見通しを語ることが多い。」と言い、「中国に関するネガティブな情報の洪水」が中国を「見誤る」と指摘している。

  このような日本の報道フレームが、日本政府の立場と同様なのは、日中国交正常化が急務だった時期の「日中友好フレーム」、中国が経済大国化し、台頭してくると「自由民主主義」を持ち出し、権威主義の中国批判を強める「普遍的価値フレーム」、さらに日本の国益第一の「国益優先フレーム」に変化していったのは、自民党政権の立場でもあるからだ。要するに、日本のマスメディアは、政府の意向に沿って報道をしているのである。
 上記の高井潔司は、「国際報道をかんじがらめにする中国のメディア規制」と、中国のメディアも国営新華社通信を筆頭に、中国政府の意向に沿った報道のみを繰り返していると批判しながら、「政府の誘導に乗せられる日本のメディア 」と、日本のマスメディアも中国メディア同様に政府の国策に適合した報道を繰り返していると指摘している。
 この中で高井は、『日中対立を 超える「発信力」ー中国報道最前線 総局長・特派員たちの声 』と書籍を紹介し、 その中で『例えば毎日新聞前中国総局長の成沢健一さんは、「確かに反日デモや大気汚 染など注目されるテーマでは衝撃的な場面や深刻な内容について詳しく報じて いる。だが、ストレートなニュースにならない等身大の中国、そして中国人の 姿を伝える機会は非常に限られている」と 書いています』、『共同通信前中国特派員の塩沢英一さんは「尖閣諸島の問題について、日本メディアは「歴史的にも国際法的にも日本固有の領土で、領有権問題は存在しない」との日本政府の立場に立っている。』と引用している。この書籍が「特派員自身、自分たちの報道が中国の全体像を伝えていないと、誠実に認めてい」るとしているのである。

相互嫌悪による戦争への道 
 このような日中の相互嫌悪は、友好よりも対立を生むのは明らかである。双方のメディアによる嫌悪の醸成が、外交を対立、さらに敵対と進ませ、その先には外交の延長としての戦争が待ち構えているのである。
 ロシアがウクライナへ軍事侵攻を始め、1,000日以上の終わりの見えない戦争となったが、それがロシアと欧米との代理戦争であるのは、NATOのロシア不信を前提とした「東方拡大」が大きな要因となったのは否定できないことだ。
 元英国首相で侵攻直後にウクライナへ飛び、ゼレンスキーに停戦を思う止まらせたボリス・ジョンソンはジャーナリストとのインタビューで、素直に「現実を直視しよう...我々は代理戦争を仕掛けているのだ!我々は代理戦争を仕掛けている」と言った。
 ジョンソンは、ロシア・ウクライナ戦争が、「我々の代理戦争」なのだから、ウクライナが必要とする兵器・弾薬を欧州が供給するのを惜しんではならない、と主張しているのだが、代理戦争という言葉を使わなくとも、兵器・弾薬供給を推進すべきだという主張は、欧米の政府、マスメディアでは主流になっている。
 
 この戦争が欧米とロシアの戦争でもあるのは、以前のロシア(ソ連)の友好国だった東欧が欧米化し、軍事的にもNATOに加盟し、ロシアにとっては軍事的防波堤だったウクライナにも押し寄せた。それに対するロシア側が反発する危険性は、多くの冷戦期の西側外交政策者も認めている。その前提にあるのは、相互嫌悪であるのは明らかだろう。この相互嫌悪が、ロシア・東欧の旧体制時代の冷戦期から、現在でも続いているのは、西側メディアが「権威主義」の「悪の帝国」としてロシアを描き、逆にロシアメディア側も徹底した愛国主義と政権支持報道で溢れていることもその証左である。
 欧米のマスメディアでは、ウクライナの妥協を含む和平論を主張すれば、「プーチンの手先」と呼ばれ、ロシアでも、「特別軍事作戦」を批判すれば、「欧米の手先」とされている。それが肯定されるのも、欧米では、ロシアは、一時的に停戦しても、これからも侵略行為をやめる筈はない「悪の帝国」であるという感情に近い認識が幅広く存在するからである。それは、ソ連時代の反共主義やその以前のロシア帝国時代からの欧米側の「ロシア嫌悪症Russophobia(ラテン語)」が、実際には深層心理に根付いていることの証である。そこには、欧州とロシアは、歴史的に中世から対立してきたことがあるのだが、反対にロシア側も「ロシア嫌悪症Russophobia」という言葉をプーチンが多用し、それに立ち向かうことがロシアの正義だと主張していることも「相互嫌悪」の状況を表している。これらの互いに対する嫌悪感が、相互不信、警戒感、相手方への脅威論を生み、この戦争を終わりの見えないものにしているのである。

 このように、「相互嫌悪」は最悪の場合戦争を引き起こす。そして、互いに脅威論が巻き起こる。その備えとして、多くの場合「平和を守るために防衛力が必要だ」という論調が多数を占め、軍事力の拡大にひた走るのである。そこに大きな「役目を果たしている」のは、現実にはマスメディアなのである。

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戦争屋と化した自称「自由民主主義者」たち。

2024-11-30 14:05:22 | 社会

アメリカのATACMSミサイル BBC

圧倒的に多い「自由民主主義国」の軍事費
 2024年4月22日、ストックホルム国際平和研究所SIPRIは、2023年の世界の軍事費を公表した。それによると、世界全体で2兆4430億ドル 、前年比は6.8%増加し、統計を取り始めた1988年以降で最大となっている。現実に、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルによるジェノサイドを含めたイスラエル・近隣アラブ諸国での戦争、スーダンを始め中東・アフリカ諸国での内紛・内戦は鎮まるどころか、激しさを増している。戦争の世紀だった20世紀が終わったが、21世紀も戦争の世紀であることが明らかになりつつある。

 国別の比較で言えば、アメリカが突出しているが、上位15位以内に、所謂西側の9ヶ国が入っており、これら「自由民主主義国」を自認する国が世界の軍事費の70%を占めているのである。これらの国は、国の数で世界の10分の1以下であり、人口でも10分の1以下、経済の大きさでも、4分1程度にしか過ぎないにもかかわらず、である。
 かつて、「軍国主義」という言葉があった。強大な軍事力行使することで、国家の利益を追求する国家のことである。そして、それを推し進めたのは、主に極右のタカ派である。しかし、現在では、軍事力で外交問題を解決しようと企図しているのは、自称「自由民主主義者」たちなのである。

「自由民主主義者」たち
 自称「自由民主主義者」とは、典型的な例を挙げれば、ジョー・バイデンのアメリカ民主党主流派のことであり、ヨーロッパでは、マクロン始め政権についている中道派のことである。日本では、朝日新聞とこの新聞に投稿する「知識人」のことであり、根っからの戦争屋である右派の「自由民主」党に色々な理屈をこねて外交では事実上追随している連中のことである。
 バイデンは世界を「自由民主主義国」と「権威主義・強権主義国」に分け、その戦いを始めようと叫び声を挙げた。それが、「権威主義」のロシアとのウクライナでの代理戦争なのである。ヨーロッパでも、「民主主義」の敵のロシアの侵略から守るため、ロシアとの戦争をエスカレートさせている。2022のロシアの侵攻当初には、ウクライナには、F16を始め、西側最新鋭戦闘機を供与するのを戦争の拡大を恐れて禁止していたが、いつの間にその禁止は解かれている。そして、最近では供与した長距離ミサイルのロシア領内攻撃も許可し、バイデンは国際条約で禁止されいる対人地雷さえもウクライナ供与を許可した。
 この動きは、ヨーロッパではもっと大きく、フランスのマクロン大統領や英国の労働党新首相キア・スターマーは、(英国労働党は、ジェルミー・コービンなど左派を追い出し、ほとんど保守党と変わらない中道派になった。)バイデンより強硬なウクライナへの強力な軍事支援とウクライナへの自軍の派兵まで検討し始めている。
 この動きの背景にあるのは、ロシア・中国・イランなどの「権威主義・強権主義国」は絶対的な悪である、というイデオロギーである。したがって、これらの国との戦争は正義の闘いなのである。イスラエルのパレスチナ人に対する迫害・ジェノサイドは、イスラエルが「自由民主主義国」の仲間なので、自衛権として断固支持される。抵抗勢力のハマスもヒズボラも、「悪の」イランの手先なのだから、その戦争は正義であり、何人パレスチナ人を殺そうが、飢餓に追い込もうが、イスラエル政府は擁護されるのである。
 「自由民主主義国」の仲間に入れたいインドは、「世界最大の民主主義国」であり、首相のナレンドラ・モディがイスラム教徒を迫害しようが、インドの特殊部隊がカナダで、シーク教指導者のハーディープ・シン・ニジャールを暗殺しようが、不問に付されるのである。(因みに、海外ネタはアメリカ経由の日本のメディアは、この事件を片隅にしか報道しない。)
 
  元来、軍事力優先主義は極右の共和党だと思われがちだが、アメリカでは民主党は結党当時は、黒人奴隷制維持の差別主義濃厚な右派であり、共和党の方が今で言う「リベラル」だった。それが、様々変化を経て、極右の共和党、中道右派の民主党に変身したのである。ベトナム戦争は民主党のリンドン・ジョンソンが始め、共和党のリチャード・ニクソンが泥沼化させたのである。また、2003年イラク戦争は、共和党のジョージ・W・ブッシュの戦争である。両党ともに、軍事力による外交問題解決志向が強いのは、歴史的には変わらない。
 参照:サイトJacobin「新たな冷戦の超党派的起源」The Bipartisan Origins of the New Cold War

抑止力という名の軍事力正当化
 軍事力を防衛力と呼ぶようになったのは、最近のことである。英語では、military power の替わりにdefense powerと言い換えられている。各国政府もマスメディアも軍事費という言葉は防衛費に、軍事産業は防衛産業に言い換えられている。今や、「死の商人」という言葉は、完全に死後となっている。
 このようなことが起こるのは、敵と見做す国や勢力の軍事的脅威から自国安全を守るという「抑止」という思想からである。抑止とは、敵と見做す相手に、相手側の攻撃から守る軍事力を維持し、その軍事力を使用する能力と意思を見せつけることである。敵と見做された相手側も同様に、「抑止力」を高めるので、この「抑止力」は高ければ高いほど望ましいことになる。
 そうなれば、果てしない軍拡競争を意味する「軍拡の罠」に陥るのだが、それでも、抑止力の拡大、つまり軍事力の拡大を正当化するのが、相手側を徹底した「悪」と見做すイデオロギーである。まさにそれが、バイデンの「自由民主主義国」対「権威主義・強権主義国」の正義の闘いである。
 
 バイデンは西側諸国を「自由民主主義国」と自画自賛するが、実際に西側諸国で行われている政治は、バーニー・サンダースが言うように、大金持ちと大資本に有利な「寡頭政治」に過ぎない。バイデンの真意は、この「寡頭政治」を守ることであり、外ならぬ台頭する中国に、経済的政治的利益を奪われつつあるのを何とか阻止したいというものなのである。
 
 その政治への庶民階層の不満の現れ、現状の政治への異議申し立てが、アメリカでは「トランプ現象」であり、ヨーロッパ中に吹き荒れる極右勢力の台頭である。勿論、極右は寧ろ、「自由民主主義者」より「大金持ちと大資本」に実際には忠実であるが。
 その極右は、トランプは、「戦争を1日で終わらせる」と言い(実際には、何をしでかすか分からず、「予測不可能」だが)、ヨーロッパの極右、例えばは、ハンガリーのオルバン・ビクトール は、これ以上の戦争拡大は危険だとウクライナへの軍事支援に反対している(したがって、政権やメディアからは「親ロシア派」と呼ばれる。)。
 その理由は、トランプの「アメリカファースト」で分かるとおり、「自国ファースト」であり、「他の国など知ったこっちゃない」という発想からくると思われる。しかし、理由はどうあれ、戦争を終わらせろ、という主張は「自由民主主義者」よりも強いことは確かである。
 結局のところ、「自由民主主義者」たちは、そのイデオロギーから逃れられず、敵対する「権威主義・強権主義国」の「悪」はやっつけろ、という戦争屋と化してしいるのは、間違いないことだ。

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ロシアの進攻から1000日。数十万人の死は、すべて無駄死にか?

2024-11-24 12:32:42 | 社会

 家族の死を嘆き悲しむウクライナの母子 BBC
 
 ロシアのウクライナ進攻から1000日が経過したが、戦争はさらにエスカレートしている。アメリカと英国は、ウクライナに供与した長距離ミサイルのロシア領内への攻撃を許可し、ウクライナはすぐにそれを実行した。そして、当然にもロシア側は報復として、ウクライナへ新型中距離弾道ミサイルを撃ち込んだ。これは、プーチンによれば、秒速数十キロの速さで飛行するので、西側の防衛システムでは迎撃できないという。
 ロシアによる侵攻以来の間の死者数は、ロシア・ウクライナともに公表されていないが、双方で兵士と民間人合わせて数万人から10万人以上であり、関連死という味方で言えば、数十万人にのぼるは間違いない。それは、プーチンの愚かしくも残虐な選択と、ゼレンスキーの徹底抗戦方針と西側政府の軍事支援でもたらされたものである。
 しかし、今まで和平交渉がなかったわけではない。2022年2月24日から始まった侵攻直後の2022年3月に、トルコのイスタンブール等で和平交渉が行われた。その和平交渉は失敗に終わったが、停戦を妨害したのは、直接的には、英国のボリス・ジョンソンである。その交渉のさなかに、キーウでゼレンスキーにNATO諸国の軍事支援を餌に停戦反対へ誘導したことが、西側メディアでも暴露されている。それは勿論、ジョンソンひとりの考えではなく、ロシアの脅威を軍事力で抑え込みたい米欧政府全体の意図でもある。
 もし米欧政府が中立の立場でいれば、それが成功し、停戦が実現した可能性は高い。そして、それら数十万人の死は免れただろう。

 現実の戦況はロシア側が優勢であり、西側供与の長距離ミサイルをウクライナが使用しても影響が小さいことは、西側メディアで専門家の意見として掲載されている。ロシア側が使用するミサイルや航空部隊は、西側供与のミサイルより射程距離も航続距離も長く、ウクライナのミサイルの射程距離外に部隊を移動させれば、済むからである。(北朝鮮の派兵も戦況に影響しないことが、専門家の意見として西側メディアに掲載されている。言葉も通じず実戦経験もない北朝鮮兵士は、ロシア軍には足手まといなだけだと指摘されている。これは、むしろ、ロシアの支援を得ることで米日韓の軍事的脅威を減らしたいキム・ジョンウンの意向が反映しているだけということだろう。)

和平交渉しか道はない
 米欧の軍事支援を継続しても、実際のウクライナ側の劣勢は際立っている。それは、BBCが11月10日に「ロシアの勢力拡大が加速するにつれ、ウクライナ戦線は『崩壊』する恐れがあると専門家が警告」 という記事を載せたことでも明らかである。
 
 また、一向に好転しないウクライナ国民の悲惨な状況を反映し、ウクライナ国民自身の意識の変化している。11月19日、アメリカの世論調査会社のギャラップが、2024年8月と11月に実施したウクライナでの世論調査を公表している。
 これによれば、 戦争開始時には「戦争に勝つまで戦い続けるべきだ」が、73%だったが、今ではわずか38%にまで減少している。2022年2月には、「できるだけ早く戦争を終わらせるための交渉を行うべきだ」が22%であり、2023年になっても、27%だった。しかし最近では52%と、初めて過半数を超えている。 

 こういった時間の経過とともにウクライナの劣勢が際立ってくる状況を反映して、西側メディアでは、和平交渉を検討すべきという意見がたびたび掲載されるようになった。
 ガーディアンは、11月21日「ウクライナ戦争の西側諸国による無謀なエスカレーションは、戦略的利益をもたらさず、さらなる苦しみをもたらすだろう」というオピニオンを載せた。そこでは、「今こそ平和のために妥協すべき時である」と記されている。

 さらに同日に「ウクライナ戦争は激化しているのか、それとも終結に向かっているのか?」というオピニオンでは、「トランプが大統領に就任してわずか数週間で、ウクライナ戦争は4年目に入る。その後すぐに、戦争は米国が第二次世界大戦で費やした時間よりも長く続くことになる。何十万人もの人々が亡くなり、何百万もの人々の人生が破壊された。戦闘によってヨーロッパの安全は改善されていない。世界的に見ると、戦争はロシア、中国、イラン、北朝鮮の間の危険な、緊密な関係を助長した。クレムリンは依然として戦争の責任を負っているが、米国、ヨーロッパ、そして世界のために、戦争を終わらせるために真剣な措置を講じ始める時が来ている。」と締めくくられている。
 
 11月17日には、アメリカ国内に大きな影響力のあるニューヨーク・タイムズですら「トランプはウクライナの不可避な事態を早める可能性がある」というオピニオンを載せている。これは勿論、「戦争を1日で終わらせる」と豪語するトランプ大統領の再登場を意識してのものである。そこでは「最終的には和解が必要になる 」として、「次期副大統領のJ・D・ヴァンス氏は、ウクライナに対し、占領した領土をロシアに引き渡し、平和と引き換えにNATO加盟の嘆願を取り下げるよう求めている。」としても、「 トランプ氏はいずれにせよそれを実行すべきだ。 」としているのである。
 
 上記に挙げたものは、日本の和田春樹らの主張する「即時停戦論」
(和田春樹会員をはじめとする有志による声明「ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか」(2022/3/21))ではないが、以前の西側主要メディアでは、あり得なかった論調である。以前の論調は、ウクライナへの強力な軍事支援によってロシア軍を敗退させるべき、というものがほとんどだった。停戦への交渉を持ち出せば、それはロシアを利するだけだ、というものばかりだった。その交渉すべきという主張者を「プーチンの手先」とまで言う論調もあった。最も愚かなのは、ナチスドイツとプーチンのロシアは同じと主張し、1938年の英仏独伊四国首脳のミュンヘン会談になぞらえたものだ。その時の英仏のドイツへの融和策がナチスの侵攻を招いたことを取り上げ、侵略者のロシアには徹底的に軍事力で対抗すべきだというものである。こういう馬鹿げた主張をする者は、その軍事力で対抗することとは、米欧軍が直接的に交戦することだいうことを忘れている。それは、世界大戦以外の何物でもないことを忘れているのである。

 ドイツのショルツ首相は、11月15日に2年ぶりにプーチンと電話会談を行った。これには、国内外から批判が浴びせられたが、交渉せざるを得ない方向に向かう変化の兆しには違いない。

 徐々に明らかになりつつあるのは、軍事力でロシア軍を排撃させるには、NATO軍の直接的交戦以外にはないことである。勿論、それは世界大戦級の戦争を意味する。その選択ができない限り和平交渉を始めるしか道はないのである。いくら、日本の平和団体のように、国際法違反のロシアを非難したとしても、それだけでは現状は好転しない。(因み、これらの団体は、その後ダンマリを決め込んでいる。あたかも、ウクライナでの戦争は終わったかのように)

 世界情勢に絶大な影響力を持つアメリカ大統領にトランプが再登場しても、「予測不可能なトランプ」が何をするか、本当のところは分からない。しかし、情勢に挙げたような影響力の大きい西側メディアの論調は、間違いなくに西側首脳の政策に影響する。主戦論から和平交渉を検討すべきという変化。それは、戦争が継続すればするほど、殺戮と破壊が長引くだけという誰にも否定できない現実を反映しているのである。
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アメリカ大統領選挙結果に対するバーニー・サンダースの声明全文

2024-11-12 09:29:49 | 社会


 11月5日のアメリカ大統領選では、カマラ・ハリスは惨敗、ドナルド・トランプが圧勝したが、その直後に民主社会主義者のバーニー・サンダースが声明を発表した。この声明は、現在のアメリカ民主党を支配している主流派には、痛烈な批判となっている。
 全文を掲載する。

「労働者階級を見捨ててきた民主党が、労働者階級からも見捨てられたことに気付くのは、さほど驚くべきことではない。最初は白人労働者階級だったが、今ではラテン系や黒人労働者も見捨てられている。民主党指導部が現状維持を擁護する一方で、アメリカ国民は怒り、変化を求めている。そして、彼らは正しい。今日、大富豪が驚くほど裕福である一方で、アメリカ人の60%は給料日前に生活しており、所得と富の不平等はかつてないほど拡大している。信じられないことに、平均的なアメリカ人労働者の実質的なインフレ考慮週給は、50年前よりも今の方が実際に低いのだ。
 今日、テクノロジーと労働者の生産性が爆発的に向上しているにもかかわらず、多くの若者の生活水準は両親よりも劣っている。そして彼らの多くは、人工知能とロボット工学が悪い状況をさらに悪化させるのではないかと心配している。今日、他の国々よりはるかに多くの一人当たりの支出があるにもかかわらず、私たちは依然としてすべての人に医療を人権として保証していない唯一の裕福な国であり、処方薬に世界で最も高い価格を払っている。主要国の中で、有給の家族休暇や病気休暇さえ保証できないのは私たちだけです。今日、大多数のアメリカ人の強い反対にもかかわらず、私たちは過激派のネタニヤフ政権によるパレスチナ人に対する全面戦争に何十億ドルも費やし続けており、その結果、大規模な栄養失調と何千人もの子供たちの飢餓という恐ろしい人道的災害が発生している。民主党を支配している大金持ちと高給取りのコンサルタントは、この悲惨な選挙戦から何か本当の教訓を学ぶでしょうか? 彼らは何千万人ものアメリカ人が経験している痛みと政治的疎外を理解するでしょうか? 経済的、政治的に非常に大きな力を持つ、ますます強力になっている寡頭政治にどう対抗できるかについて、彼らには何かアイデアがあるのでしょうか?  おそらくないのでしょう。今後数週間、数か月の間に、草の根民主主義と経済的正義に関心を持つ私たちは、非常に真剣な政治討論を行う必要があります。お楽しみに。」
出展:Occupy San Francisco(翻訳はグーグル機械翻訳を若干修正した)
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「何をしでかすか分からない男」ペテン師トランプの再登場

2024-11-09 09:28:09 | 社会

NHKより

 事前の世論調査報道を覆して、ドナルド・トランプが47代アメリカ大統領選に圧勝した。さっそくマスメディアでは、トランプが行うであろう政策をまじえて、トランプ評が盛んに掲載されている。政策としては、大統領選で繰り返し訴えた移民強制送還、輸入品への新たな関税の導入、気候関連規制の凍結、連邦保健機関の改革などが行われるだろうということである。それに加えて、多くの批評の中で、言葉に表れているかは別にして、トランプに対する共通した認識は、「何をしでかすか、その時になってみなければ、分からない」という予測不可能性である。

ペテン師トランプの再登場
 それは主に、トランプが、選挙戦で大声で語ったのは、「脱線と誇張と虚偽話、最終盤のトランプ氏演説一段と奔放に」とロイターの記事(10/30)にあるように、相手の候補をこき下ろすためのものが多く、どこまで本心で語っているのか疑わしいからであり、実際には、その掲げた政策の実現可能性は極めて低いからである。
 それは、例えば移民の強制送還でも「巨大な収容所を建設し、前例のない規模で大量国外追放を実施し、国境警備隊員を数千人増員し、軍事費を国境警備に注ぎ込み、1798年の外国人敵対者法を発動して麻薬カルテルや犯罪組織の構成員と疑われる者を法廷審問なしで追放すると誓っている 」が、「不法移民を具体的にどのように取り締まるのか、またその計画に資金をどのように投入するのかという質問には答えていない。 」(POLITICO11/6)し、移民を取り締まる国境警備隊を増加させること自体が困難なことに加え、(POLITICO11/6)移民が低賃金労働者としてアメリカ経済を支えているので、反対する者も多いなど、その実現には、多くの障壁がある。また、「3兆ドル相当の米国製品輸入すべてに10~20%の一律関税を課し、すべての中国製品に60%の関税を課す」(同上)と 言っているが、それは、中国のみならず、EUや日本などの西側同盟国とも「世界的な貿易戦争を引き起こす」(BBC11/6)恐れがあり、アメリカ共和党内からも大反対の声が上がるだろう。

 このように、トランプは選挙で勝つためなら、「何でもあり」の公約をまき散らす、所詮ペテン師なのである。
 
「何をしでかすか分からない男」の最も危険なこと
 トランプの当選で日本の石破茂も含め、世界各国の首脳は電話等で祝意を伝えた。しかし主要国の中で、ロシアのウラジミール・プーチンは、直接祝意を伝えなかった。中国の習近平国家主席が7日、祝電を送ったことと比べれば大違いである。プーチンは、ロシア南部ソチでの国際会議で、質疑に答える形で「私はアメリカ国民から信頼される国家元首であれば、どのような元首とも協力すると言ってきた」(NHK11/8)と述べ 、祝意と対話の用意があるという意思を示しただけである。2016年のトランプ第1期の大統領選勝利には、プーチンは他の国の指導者より早く祝意を表明したことと比べても大違いである。
 西側マスメディアは、プーチンはハリスよりもトランプが好ましいと考えていると報道していたが、実際には、プーチンはトランプの人間性を疑っているのである。
 プーチンが示した祝意に拘わらず、2017年にトランプが大統領に就任してからは、ロシアには制裁を強化し、ウクライナへはジャベリンミサイルを供与したのである。 11月6日、クレムリンの報道官ドミトリー・ペスコフ氏は トランプに対し、「我々が話しているのは、直接的にも間接的にも我が国に対する戦争に関与している非友好的な国だということを忘れてはならない」 (アルジャジーラ11/7)と言ったが、それは、ロシア政府全体のトランプに対する不信感を表している。
 要するにロシア政府は、ハリスの政策は予測可能だが、トランプは予測不可能であり、多くの西側メディア同様に「何をしでかすか分からない男」と見ているのである。

 トランプは、度々「ウクライナ戦争を1日で終わらせる」と豪語しているが、どうやって終わらせるのかについては、まったく口にしない。しかし、トランプはロシアとウクライナは交渉すべきと主張しているが、そのヒントが垣間見えることがある。
 ロイター は6月5日、「ドナルド・トランプ米大統領の主要顧問2人が、大統領選挙でトランプ氏が勝利した場合、ウクライナにおけるロシアの戦争を終わらせる計画をトランプ氏に提示した。計画には、ウクライナが和平交渉に参加した場合にのみ米国から武器が提供されると伝えることが含まれている。同時に、米国はモスクワに対し、交渉を拒否すればウクライナへの支援が強化されることになる、と警告するだろう、とトランプ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官の一人、キース・ケロッグ退役中将はインタビューで語った。」と報じている。
 その後も、西側メディアで数多く報じられているのは、トランプはゼレンスキーとプーチンを交渉のテーブルに着かせようとしているのは間違いないということである。その交渉の条件は「ウクライナは領土の一部を放棄し、一定の軍事力の強化をアメリカは支援するがNATO加盟は諦める。ロシアは、占領したウクライナ東部の一部を返還し、今後の侵攻をしないと確約する、というものになるだろう」という。そして、トランプは戦争をやめさせた勝者として、自らを誇る、というものだ。
 確かに、この推測の信憑性は高い。しかし、この条件は、ウクライナ側が今まで固執し、徹底した抗戦を続けてきた理由の「領土の不可分」を認めないものであり、ゼレンスキーが飲むとは考えられない。アメリカの支援がなくても、ヨーロッパ諸国の支援が増大すれば、戦闘は可能だと主張するだろう。また、この案にヨーロッパ諸国は反対するのは目に見えている。
 和平案が通らなければ、「何をしでかすか分からない男」は、正反対の強力な軍事力の行使を模索する。「力による平和」を合い言葉にしているトランプが選択するのは、交渉がダメなら「力」の行使である。トランプは、バイデン政権がしなかったこと以上の決断するだろう。まず、バイデンが認めなかった、ゼレンスキーが再三要求した長距離ミサイルのロシア深部への攻撃を許可する。また、アメリカ共和党内の強硬なタカ派が主張してきたように、米軍の直接派兵である。ロシアを軍事力で圧倒し、屈服させ、「戦争を1日で終わらせる」。上記のキース・ケロッグは、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、トランプはかつてプーチンに「もしお前がウクライナを攻撃するなら、お前は信じられないくらい激しく攻撃する。モスクワのど真ん中でお前を攻撃してやる」と言ったことがあると語っている。
 このシナリオが、実行された時に起こることは、言うまでもない。核大国同士の世界大戦である。
 「 何をしでかすか分からない男」ペテン師トランプは、本当に何をしでかすか分からない。
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