夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ロシアの侵略「自分は死なない高見から、ウクライナを軍事支援する西側」

2022-09-30 08:14:33 | 政治
 
 
 もし、自分も死ぬ可能性が高くとも、ロシア軍をウクライナ全土から排撃するために、戦争を継続しろと西側の人びとは言うだろうか? 
 プーチンの予備役招集命令で、ロシア人男性の国外脱出が続いている。そこには、軍事侵攻そのもののに反対だからという人もいれば、そんなことより、自分が死ぬ(または刑務所に行く)のは、とにかく嫌だ、という人もいるだろう。しかし、西側政府も主要メディアもあまり伝えたがらないが、ウクライナでは、18歳以上の男性の出国は禁止されている。勿論、ロシアとの戦争のためである。ロシア人男性は、国外に逃亡できるが、ウクライナ人男性はできないのである。そのような自由は、ウクライナ人男性にはないのである。ゼレンシキー政権の命令があれば、「お国」のために、ロシア・親ロ派連合軍との戦争に行き、かなり高い確率で死ぬのである。そこには、男女平等などという思想の入る余地はない。
 ロシア支配地域との前線でウクライナ軍が使用している多くの兵器はアメリカ製である。アメリカの最新鋭の兵器と、アメリカの世界一の軍事情報収集システムのおかげで、ウクライナ軍は、アメリカ兵器と比べれば格段に性能に劣る兵器しか持たないロシア・親ロ派連合軍を、一部とは言え、排撃できているのである。それが、この戦争が米ロの代理戦争という性格も持つ理由である。アメリカ国民は、個人的にウクライナ軍に参入している人や秘密裏に潜入しているアメリカ特殊部隊員を除き、どんなに武器を送ろうと死ぬことはない。
 もし、「アメリカ人男性も、率先してウクライナ国籍を取得し、義勇兵として戦争に行け、そうすれば、短期間でロシア軍を追い出せる」とバイデンが言ったとしたら、賛成するのだろうか? 

 朝日新聞は、「ロシア軍撤退が先」と4月に社説に書いた。3月の停戦の気運が完全に消滅した後である。確かに、正論である。ロシア軍が撤退すれば、戦争は終わるからである。しかし、ロシア軍は撤退する意思はまったくない。つまり、この「ロシア軍撤退が先」は、停戦よりも戦争を継続し、ロシア軍を排撃しろという以外は、現実的意味を持たないのである。これは、朝日新聞だけではなく、西側政府も主要メディアもすべてそう主張しているのであり、朝日新聞が特殊ということではない。しかし、日本人も数万人が死ぬ可能性があるとしたら、朝日新聞はこのような主張をするのだろうか?
 
  アメリカのバイデンは当初から、外交交渉など一切見向きもしなかった。西側政府の中では、比較的に停戦への交渉仲介の姿勢が見られたフランスのマクロンも、今はロシア排撃一本槍の流れに呑みこまれている。西側政府のやっていることは、ウクライナ軍事支援とロシアへの制裁だけである。特にアメリカは、物価は高騰しているものの、兵器、石油・ガス、穀物輸出で利益をあげ、戦争継続を全面的に後押ししている。西側の主要メディアも、それを支持するオピニオンとアメリカ政府発の情報記事で溢れている。
 
戦争は自分が死なない限り楽しめる
 人は、戦争映画を楽しむ。あるいは、バーチャル戦争ゲームで戦闘気分を楽しむ。映画を観ているだけ、バーチャルゲームに参加だけでは、絶対に死ぬことはない。だから、楽しめるのである。それと同様な高見から、ウクライナでの戦争を、ああすべき、こうすべき、と言っている。それが、西側政府と主要メディアが戦争を眺めている基本的な立ち位置になっているのは間違いない。
 
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沈みゆく米ロは、流れを変えたいが、台頭する中国は、このままでいい。

2022-09-25 13:43:09 | 社会

 世界で、この三つの大国が、特別に大きな影響力を持っていることを否定する者はいないだろう。そして、過去の超大国の米ロが衰退し、その合間を縫うように中国が台頭していることを否定する者もいないだろう。

プーチンを狂気に走らせたロシアの凋落
 この三国の中でも、特にロシアの衰退が著しい。ソ連崩壊後、経済は壊滅状態となり、その後いくらか持ち直したものの、一般国民の生活は困窮し、ごく一部のオルガルヒだけに富が集中する状況は未だに続いている。
 IMFが公表している名目GDPを見ても、1992年71,603百万ドル(世界順位34位)で、その後微増し、1993年196,277百万ドル、2006年1,060,901百万ドル、2013年2,288,428百万ドル(世界順位8位)まで上昇したが、その後は減少し始め、2021年には1,775,548百万ドル(世界順位11位)と低迷し続けている。それは、インド3,041,985百万ドル、イタリア2,101,276百万ドル、韓国1,798,544百万ドルより小さく、アメリカの13分の1、中国の10分の1に過ぎない。もはや、1億4千万人の国としては、発展途上国に近い。
 政治的な力も、かつて超大国として東欧に大きな影響力・支配力を持っていたが、ほぼ無力と言っていいほどで、安全保障面では、NATOの東方拡大で西側が東欧を吸収したので、ロシア側から見れば、国土の半分を敵に包囲されているように思えるだろう。
 プーチンは、6月9日に「ピョートル大帝は21年間にわたって大北方戦争を展開した。 」、「彼は奪ったのではない、取り返したのだ。 」、「領土の奪還と強化、それが大帝のしたことだ」 、「領土を奪還し、強固にすることは我々の任務だ」 と語り、このことからアメリカのCNNは、プーチンの侵攻目的が「帝国ロシアの復活」であることが明確になったと分析した。 これは、ヒトラーの第三帝国の夢を思い出させる。当時、第一次大戦に敗北し、惨憺たる状況にあったドイツにあって、それを打開するためのヒトラーの狂気と同様な心理が、凋落したロシアのプーチンにも催したと言える。
 それに対して、アメリカを筆頭に西側は、「戦争には平和を」ではなく、「戦争には戦争を」で対応する姿勢を崩さない。第二次大戦では数千万人が犠牲となった。ウクライナ侵略では、既に数万人が死亡しているが、終わらない戦争は、さらに大きくの犠牲者を生むのは避けられない状況になっている。万が一、ロシアと西側の核戦争になれば、第二次大戦並みの犠牲者どころか、地球は放射能で汚染され、人類そのものの存亡の危機に突入することになる。

アメリカも衰退の一途を辿っている
 ドナルド・トランプは、「Make America Great Again(アメリカ合衆国を再び偉大な国に)」 と、度々叫んでいる。そして、それに呼応するアメリカ国民は数多く、トランプを擁する共和党は、政治紙ポリティコによれば、11月の中間選挙で上院は民主党と拮抗するが、下院では過半数の見通しとなっている。これは、多くのアメリカ国民がトランプの「再び偉大な国に」を肯定している、つまり、「偉大な国」は過去のアメリカであり、現在は衰退していると認めているということである。2017年にトランプは、これら現在のアメリカの状況に不満を持つ層を支持にして大統領選に勝利したが、その状況は何ら変わっていないのである。朝日新聞元政治部長の薬師寺克行は、「分裂」と「衰退」──これらが今の米国を象徴する言葉だ 、と評した(Courrier Japon2022.1.31)が、今さら、データを駆使して「衰退」の分析をする必要はないほど、誰が見てもアメリカは衰退しているのである。
 米ロで、トランプの「再び偉大な国に」とプーチンの「帝国ロシアの復活」は共通性があるが、それは偶然なのではない。そこには両者に共通する、衰退する現状を何とか変えなけばならないという焦りがあるからである。そして、この「焦り」から、当然にもバイデンも逃げることはできない。衰退する一途のアメリカの流れを変えなければならないのである。
 
台頭する中国は、今の流れのままでいい
 中国の経済的台頭は、言ってみれば、アメリカ流自由主義貿易の賜物である。中国は、国家管理により、相対的低賃金コストの輸出物を大量に生産し、自由貿易のおかげで、産業資本・金融資本を増大させてきた。その逆に、高コスト・低品質のアメリカ製品は市場から排除され、産業の空洞化を招いた。アメリカの輸出相手国1位はカナダ(約2800億ドル、対中国約1300億ドル、2017年)だが、輸入相手国1位は中国(約5000億ドル、2017年)であることを見れば、それは理解できる。今の流れのままで中国はいいが、アメリカは困るのである。
 そのことが、米中の確執を作り出しているのである。台湾問題を見ても、中国の武力を使ってでも統一するという主張は、はるか以前の中国建国からであり、今、言い出したことではない。それを、近年になって敢えて強調するように持ち出してきたのは、アメリカ側である。バイデンは「一つの中国」政策は変更ないと口では言いながら、ペロシなど年々増している民主・共和両党の台湾独立支持強硬派の動きを黙認している。
 
凋落するロシアは破滅の道を選択したが、衰退するアメリカは?
 NATOという敵に囲まれ、凋落する一方のロシアのプーチンは、狂気に見舞われたとしか思えない軍事侵攻という残虐で愚かな選択をし、結局のところ、ロシアの敵を強大化するだけであり、最悪、西側の武力と経済制裁という攻撃によって破滅するかもしれない状況に追い込まれている。そしてその「破滅」に、アメリカの対応いかんで、世界は核戦争という「破滅」に巻き込まれそうになっている。
 アメリカの方の、台頭する中国を封じ込め、今の流れを変えなければならないという政策は、経済、政治、軍事の三方面から行われている。経済では、環太平洋連携協定 TPPを提唱したが、挫折し、今度は、インド太平洋経済枠組みIPEFという経済圏構想を作り出した。これらは、アメリカ一国では、経済に限れば「世界の工場」と化した中国に太刀打ちできず、多くの国を巻き込む形になっている。しかし、この二つには大きな違いがある。それはIPEFが、「自由で開かれた」というお題目を掲げていることで分かるように、「自由民主主義対専制主義」というイデオロギー的側面を強調していることである。つまり、経済対立に政治を持ち込もうとしていることである。これは、アメリカを筆頭とする西側の結束を固め、中国に対抗するという政治的経済的封じ込め政策としては、今のところ、成功しつつあるように見える。
 これに最も貢献しているのが、ロシアのウクライナ侵略である。ウクライナへの軍事支援によって、アメリカ軍事産業に多大の利益を得させ、さらに穀物、ガスの輸出を増加させたように、経済的利益をもたらしただけでなく、アメリカ政府発信の情報が、さもすべて正しいかのような政治的利益をも、もたらしているからである。今や、西側主要メディアは、ロシアのプロパガンダの反動で、アメリカ政府高官、諜報部門の情報発信を何度も繰り返し報道するようになったからである。それまで、英国のガーディアン、フランスのル・モンド、ドイツの南ドイツ新聞などは、中道左派の色彩があり、アメリカには批判的な記事も多かったのだが、それは一変し、ロシア・中国=悪、アメリカ=正義の記事がほとんどになってしまっている。
 しかし、近年のアメリカの「自由民主主義」は、アメリカの世界に対する経済的収奪と政治的支配という帝国主義的野望を隠す隠れ蓑という役割も持っている。それは、中東のサウジアラビアなど王族「専制支配」国や多くの極右政権をアメリカが支援しているという二重基準に端的に表れているが、「自由民主主義」が、それを持ち出して、批判するかどうかが、相手によって変わるのである。アメリカの経済的利益になれば、黙殺し、利益にならなければ最大限の非難をする、というやり方である。そこでは、実際には、民主主義よりも経済利益が優先しているのである。
 さらには、政治的対立を煽ることは、新冷戦を加熱させ、軍事的対立からの衝突の危機を増大させる。アメリカ政府、中国政府にともに、軍事的直接衝突を避けてはいるが、中国は、「経済規模に見合った軍事力」を目指し、アメリカは、「軍事ケインズ主義」によって、軍事産業のみが世界一の技術と産業規模となっている。両者ともに、軍事産業が巨大規模になり、その行使へのハードルは下がっている。
 また、アメリカは、ロシアがした軍事侵攻という選択を、中国にも台湾軍事侵攻という形でさせ、それを機に、ロシア同様、一気に中国を壊滅させる誘惑に駆られているようにも見える。そのための挑発をペロシやそれに続く議員が台湾訪問という形で実行しているようにも見える。中国側が最も嫌う行為を、わざわざ、実行しているからである。このままでは衰退する一方で、何とかしなければならないというアメリカの焦りが、そこには透けて見える。中国側には、今すぐに台湾を統一しなければならない理由はない。軍事侵攻という選択ならば、今まで、いつでも可能だったからだ。しかし、これまでも、今でも、台湾住民が武力で抵抗するのは分かりきっているから、しないだけである。武力によって中国全土を制圧(中国側の言い方では、解放)できたのは、内戦を経て革命が成功し、その勢いがあったからであり、言うなればその時期特有のもである。
 それでも偶発的なものを含め、双方の軍事的衝突はあり得ないとは言えない。両国ともナショナリズムは高まり、軍事力を前面に出すのを控えるのは難しいからである。特に、アメリカ側のネオコンなどタカ派勢力は、バイデン政権の「弱腰」に極めて批判的である。衰退するアメリカもプーチンのように、正気を失うことがないとは言えないのである。
 


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ロシアの侵略「ウクライナ軍は攻勢に出たが、戦争は継続し、ウクライナ人にはさらなる悲劇が」

2022-09-14 11:28:32 | 社会
 


ウクライナ軍の攻勢
 西側メディアによれば、ウクライナ軍は北東部ハリコフ州のイジウムなど数か所の街をロシア軍から奪還した。ロシア国防省もそれを事実上、認めているので、ロシア軍は劣勢に立たされており、支配地域を縮小させているのは間違いない。
 これは、ウクライナ軍の電撃作戦が成功したのだが、その裏には西側、主にアメリカのウクライナへ供給した兵器システム、軍事訓練、諜報活動があり、それが圧倒的にロシア軍より優れていることを示している。ロシア軍には、弾薬の供給不足と士気の低下が報道されており、このままウクライナ軍は、一定程度ロシアの支配地域を奪還し続けることが予想される。

ロシアは負けるわけにはいかない
 しかし、ロシア側がすんなりウクライナ全土の支配地域から撤退するかと言えば、まったくといっていいほどそれはあり得ない。ロイターは13日、西側軍事匿名当局者の話として「戦争の転機になるか判断するのは時期尚早との見方を示した 」、「厳密に軍事的に考えると、参謀本部が命令した撤退であり、軍の完全な崩壊ではない公算が大きい」 、「ロシア軍が防衛を容易にするために戦線を短縮し、そのために領土を犠牲にした 」と伝えている。要するに、部分的に撤退したが、ロシア軍は今後も支配地域の防衛と拡大を目指すということである。また、アメリカの国務長官アントニー・ブリンケンが、ウクライナ軍の攻勢を喜びながらも、ウクライナにとっては、「困難な冬になる」と言って、西側の軍事支援を維持するよう促したことでも裏付けられるように、戦争はまだまだ継続する、ということである。

 3月の段階では、ウクライナ・ロシア双方に停戦の気運がいくらか見られた。その時は、ウォロジーミル・ゼレンスキーは、ロシア系住民の独立支配地域を認めることを含む「ミンスク合意の地点までロシアが撤退する」ことで、一定の勝利としていたのだが、今では、クリミア半島の奪還まで戦争を辞めないと公言している。勿論それは、西側、特にアメリカの最新兵器の支援を得て、ということである。しかし、ロシアにとっては、ウクライナ全土からの撤退は、それだけでは済まないことを意味していている。ロシアという国家の存続の危機ということを意味しているのである。少なくとも、プーチンとその追随者にとっては、そうなのである。
 ロシア外相のセルゲイ・ラブロフは、1月に「すべての鍵は、NATOがこれ以上、東方に拡大しないことの保証だ」と言ったが、プーチンの軍事侵攻の目的が、ウクライナの軍事的中立化であり、(3月にはゼレンスキーも中立化を容認する意向を示したこともあった。)そのためのゼレンスキー政権の解体であったのは明らかだ。それがほぼ不可能な今は、最低でもウクライナ領土内のロシア支配地域の維持ということになる。ロシアにとって、そこからのさらなる撤退は、ウクライナ全土のNATO化であり、ロシアの国境まで米軍のプレゼンスを許すことになる。元NATO事務総長のアンデルス・フォグ・ラスムッセン は、「この戦争が終わったら、ロシアが二度と侵略できないようにしなければならない。そのための最良の方法は、将来のロシアの攻撃に耐えることができる強力な軍事力をウクライナが持つことで」「ウクライナの同盟国による数十年にわたるコミットメントが必要」(The Guardian13日Long-term military guarantees from west would protect Ukraine – report)と述べている。そのような状況をロシアは受け入れることはできないのである。 
 さらには、西側の多くの政治家や評論家、特にアメリカ政府高官からは、ロシアがウクライナから撤退すれば、それで良しというものではなく、ロシアが二度と軍事侵攻できないところまで、ロシアを弱体化させるべきという意見が数多く出されている。また、バイデンはプーチンを戦争犯罪者であり、戦犯として裁かれるべきだ、とまで言っている。それは、ウクライナを含む西側は、非の打ち所がないほど正義であり、反対に邪悪なプーチン政権は、何度でも侵略行為を繰り返す恐れがある、というロシア悪玉説に基づいている。ロシアの弱体化には、軍事力と経済力が含まれるが、第一次大戦後の対ドイツに対し、勝利した連合軍側の制裁同様に、二度と立ち直れないほどの打撃を与えるということになる。さらには、「戦争犯罪者として裁く」の前提は、第二次大戦の敗戦国並みに、ロシアを占領することが不可欠である。このことを、ロシア側が認識していないはずはない。それは、ロシア側からは国家の存亡の危機と捉えられても、何ら不思議ではない。
 ウクライナと西側にとっては、侵略した側を勝たせてはならない。道義的にも、そのとおりである。しかし、ロシアにとっても負けるわけにはいかないのである。

「核による絶滅の危機」は依然として残る 
 シカゴ大学のジョン・J・ミアシャイマーは、8月17日にアメリカ外交誌Foreign Affairsに「ウクライナでの火遊び」Playing With Fire in Ukraineと題して、ウクライナ戦争の「エスカレーションの結果として、ヨーロッパでの大規模な戦争、さらには核による絶滅さえも含む可能性がることを考えると、さらなる懸念を抱く充分な理由がある」と警告しているが、この「懸念」は、消えるどころか、より深くなっている。この中でミアシャイマーは、ロシアが核を使う場合、「ウクライナ軍がロシア軍を打ち負かし、自国の領土を取り戻す態勢を整えたり」「戦争が膠着状態に陥り、外交的な解決策がなく、有利な条件で紛争を終結させる」ために、「勝利のために核のエスカレーションを追求する」可能性があるとしている。

ウクライナ人にとってのさらなる悲劇
 ミアシャイマーは、ロシアの核攻撃を、ロシアにとって戦局を劇的に有利に転換するために使用する懸念を指摘しているのだが、それはウクライナだけに使用されるということである。それは、その時もアメリカは米ロ直接衝突を避けるために、ロシアには核報復をしてこないだろうと、ロシア側が見ているということである。米ロ直接衝突になれば、アメリカ人に被害が及ぶことになり、ひいては核の全面戦争にもなりかねず、アメリカ政府はそれだけは避けるということである。

 上記の核使用の可能性は高いとは言えないかもしれないが、ロシアは戦局が不利になれば、ほぼ確実に起こるウクライナにとっての悲劇は、かつての大戦やベトナム戦争のように、ウクライナの殲滅というロシア側の作戦である。ミアシャイマーも指摘しているように、ウラジミール・プーチンは、7月に「我々は、まだ本格的な何かを開始していない」と言った。「本格的な何か」について、具体的なことは言っていないが、その意味するところは、ロシアにはまだ余力があり、本格的な戦争は開始していない、ということだと解釈できる。そして本格的な戦争とは、相手国の戦力を完全に無力化することである。
 プーチンは、「ネオナチ」のゼレンスキー政権を打倒し、ウクライナを「解放する」ために「特別軍事作戦」を開始したとしており、ウクライナ全体を殲滅するという作戦はとっていなかった。しかし、ロシアの敗北が予期されれば、そんなことは言っていられない。今まで、行ってこなかった、一晩に10万人を殺害する東京大空襲や、アメリカの枯れ葉作戦のような、徹底した人的被害をウクライナに与え、ウクライナ側の抵抗する気力を失わせる作戦を選択する可能性は大きい。
 その中の一つに、ウクライナのインフラを破壊するというものがあり、実際にそれが開始されたのが、冒頭に挙げたThe Guardianの記事の写真である。ロシアは、ウクライナのインフラを攻撃のターゲットとし、発電所を攻撃し始めたのである。実際に、軍事施設でない発電所や水道施設などは、ミサイル迎撃システムもなく、攻撃はたやすい。さらには、全土に張り巡らされた送電網などは、防衛のしようがなく、簡単に切断可能である。そしてそれは、直接民間人を標的にしていないので、非難も大きくはならないで済む。
 冬が到来するまでに戦争は終わる気配はまったくない。確実なのは、ウクライナ人には、常にロシアの攻撃にさらされる上に、インフラを破壊され、とてつもないほど厳しい冬がやってくるのは間違いない。第一の悲劇は軍事侵攻だったが、第二の悲劇は、生活そのものの破壊ということになるなるのは確実と言っていい。

Anti-Warに戻れ
 世界で「リベラル」はもとより、左派もこの戦争には、単にロシアを非難するか、さもなくば押し黙ったままである。例えば、日本共産党は、最近では、少なくとも赤旗電子版では、この戦争の記事は皆無であり、NATO諸国の軍事支援には言せず、いいとも悪いとも言わない。しかし、このような状況でも、世界の中には、明確にAnti-War反戦を掲げる団体がある。9月11日にはCodePink,Veterans for Peace,World Beyond War ,Peace Actionなどの団体が、「ウクライナに平和を」と世界に呼びかけ、アメリカ主要都市でデモなどの行動を実行している。
CodePink ホームページ
 その主張は、「長期化する戦争を推し進めるのでなく、アメリカ政府と議会は、ウクライナとロシア双方が署名したミンスクⅡの合意に沿った外交的解決策を支持し、ウクライナは(当初ゼレンスキーも是認していた)中立的非ATO圏と宣言し、東部地域には公正な選挙を実施するよう求めるべきだ」というものである。ロシアが悪いという道義的主張だけでは、ウクライナの悲劇は終わらず、世界は、この反戦団体の主張以外には、戦争を終わらせるように仕向けることはできないだろう。
 
 
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旧統一教会「マスメディアが何も報道しないから、知らなかった」という議員がいても良さそう。

2022-09-06 07:59:10 | 社会



いても良さそう自民党議員
「いやあ、本当に旧統一教会の関連だとは知らなかったんだよ。名前も違うしなあ。そりゃ、安倍先生ぐらい、お偉いさんは知っていたと思うけど。我々、下っ端議員はさあ、上の人がやってるんだもの、そんな悪い団体だなんて思わないよ。そもそも、選挙やるには、猫の手も借りたいぐらい人がいるんだよ。例え、1票でも、票は欲しいからね。そこに、お手伝いしましょう、とくれば、誰だって、お願いしますってなるよ。それに手伝ってくれる団体は、共産主義が悪い、って至極当然のことを言ってる。で、選挙手伝って貰えれば、お礼にそこの団体に顔ぐらい出すのが、礼儀だろう。顔を出せば、そりゃ、少しは、相手を褒めるのは、当たり前だよ。勿論、その団体が、昔のあくどいことをやっていた統一教会関連団体だって、知っていたら、選挙は、頼まねえよ。悪いが、遠慮しますって、すぐに断る。確かに今でも、紀藤とか弁護士先生が、旧統一教会被害者の相談にのってる、ってのは、聞いたことがある。だがなあ、あういう弁護士先生がたは、おれたちの間じゃ、共産党の手先、アカの連中、ってことになってるんだ。どうせ、わけのわからない御託を並べてるってことで、信用しないことになってるんだ。
 何~? 選挙応援は、どういう団体か、きちんと調べるべきだ~? 馬鹿野郎! こっちは、忙しんだ。細かいこと、調べてる暇なんか、ねえよ。忙しい間をぬって、おれだって、新聞・テレビのニュースは毎日欠かさず見る。こういっちゃあ何だが、新聞は、産経、読売、朝日は、隅から隅まで、ちゃんと目を通している。世の中、何が起きてるか、ちゃんと読んで勉強してるんだ。だがなあ、ここ10年、20年、そこには、旧統一教会の話なんて、ひと言も載ってなかったじゃねえか。問題にしたのは、安倍先生が打たれた後からじゃあねか。霊感商法だ、合同結婚式だあ、そんなのとっくに終わった昔のことだと思ってたって、当然だろ。特に、そこの、朝日新聞、偉そうなことを、ぬかしやがって。自民党は、教会とズブズブな関係だあ? 何を言いやがる。お前のとこは、旧統一教会のことを書いてたのは、20年以上前じゃねえか。お前のとこが、世界平和統一家庭連合が旧統一教会の後継で、未だにあくどいことをやってるって、書いてりゃ、誰だって、選挙応援を頼みやしねえよ。それを、手のひら返すように、今頃になって、ああだこうだとぬかしやがって。ふざけるな! 馬鹿野郎!」



主要マスメディアと自民は共犯関係にあった 
 旧統一教会が組織として、極めて悪質な勧誘、献金を行い、その後、世界平和統一家庭連合に名称変更し、組織の周辺に多くの関連団体があり、世界日報もその一つであることを、今や、多くの人が知っている。しかし、安倍晋三殺害以前に、その事実を知っていた者は、それほど多くはないはずだ。何故なら、それ以前に、主要マスメディアは、その事実を、あたかも隠蔽するかのように、一切報道していなかったからである。
 多くの人が、その事実を知ったのは、安倍晋三殺害後、旧統一教会が自ら記者会見を開き、やっとテレビ・新聞が、その名前を出し、それから、堰を切ったように、さかんに報じ始めた以後のことだ。それも、「ミヤネ屋」などテレビワイドショーが、鈴木エイト氏や有田芳生氏などの独立系ジャーナリストを出演させ、被害の実態を詳細に報じてから、やっと新聞が書き始め、テレビニュースでも扱う、という有り様である。
 安倍殺害によって、新聞・テレビが旧統一教会を問題にせざるを得ない状況に追い込まれた。そしてこの問題が、新聞・テレビでさかんに報道するようになってから、岸田政権の支持率は、急落した。逆に言えば、それがなければ、支持率急落もなかったことになる。言い換えれば、支持率急落に繋がるような権力側に都合の悪いことは、なるべく言及しなかった、ということである。そういう日本の主要マスメディアの実態に、如実に光が当てられたのである。
 
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