2021年 トランプ派による議事堂襲撃
「アメリカは内戦に向かうのか」
2022年1月にアメリカで"How Civil Wars Start: And How to Stop Them"(内戦の始まり方:それらの止め方)と題した本が出版された。著者は政治学者のバーバラ・F.ウォルターである。日本では2023年に邦訳され「アメリカは内戦に向かうのか」と題され刊行された。
ウォルターは、内戦と関連する指標として、その国がどの程度民主的か、専制的かを表す指標ポリティ・インデックスがあるといい、それは、その国の位置づけを「完全な民主主義国家」と 「専制国家」 の間で数字化したものである。勿論、これはアメリカ流のあるいは西側先進国の「自由民主主義」による考え方(イデオロギーと言っていい。)に即したもので、当然のことながら異論は存在する。
このポリティ・インデックスの中間に位置する国を「アノクラシー(anoracy)」と 呼んでいる。そして、その国が「アノクラシー・ゾーン」に入ったときに、最も内戦リスクは高まると言うのである。その国が「完全な民主主義国家」でも完全な「専制国家」でも、内戦は起きにくい。それよりはむしろ政体が流動化したときに内戦は起きると言うのである。それは「内戦リスクの最も高い国は、最貧国でも不平等国でもなかった(...)。民族的・宗教的に多様な国でも、抑圧度の高い国でもなかった。むしろ部分的民主主義の政治社会において、市民は銃を手にし、戦闘に手を染める危険性が高かった」という研究結果に基づいている。
重要なのはアメリカの位置づけなのだが、2021年1月の連邦議事堂へのトランプ派の襲撃事件によって、ポリティ・インデックスが下降し、 ウォルターによれば「アメリカは2世紀ぶりにアノクラシー国家へと変貌した 」のである。つまり、アメリカは内戦リスクの高い国になった、ということである。勿論、その理由は議事堂襲撃事件一つではなく、この事件が象徴するように、アメリカ内部の亀裂であり、もはや武力衝突が起きかねないほどの抜き差しならない対立である。
トランプの勝利の大統領選
11月の大統領選本選に向けて、共和党ではトランプが予想どおりアイオワ州、 ニューハンプシャー州 の予備選で勝利し、共和党大統領候補へ順調な歩みを進めている。
民主党大統領候補では、現職のバイデン以外に、前回のサンダースのような有力な候補者は見当たらず、前回どおりの二人の争いが確実な模様だ。
2023年11月のロイター/イプソスの世論調査 では、トランプの支持率が40%、バイデンが34%となっており、また、ブルームバーグと調査会社モーニング・コンサルトは12月の調査では、大統領選挙の激戦州 (アメリカは州によって共和・民主の支持が固定しており、固定していない州が激戦州 である。)7州で、「バイデンかトランプのどちらに投票するか?」で、トランプがバイデンを上回っている。他の世論調査でも同様な傾向にあり、最近の世論調査ではいずれもトランプが優勢となっている。
さらに、これらの調査は、バイデン政権がガザに対するイスラエルの攻撃の「全面支持」を表明する前に行われており、若年層が多いジェノサイド反対デモで見られた標語「バイデンには投票しない」のように、民主党支持者の中の若年層は著しく「バイデン離れ」を起こしている。
それらを重ね合わせれば、トランプの勝利はもはやよほどのことが起こらない限り、確実と言っていい。
トランプ大統領の再登場
トランプ派による司法機関襲撃
1月27日に、トランプによる性的暴行に関係する名誉棄損で8330万ドルの賠償判決が下されたが、トランプはそれ以外にも大統領選挙手続き妨害、機密文書を自宅で不正保管、ジョージア州の選挙結果を覆そうと州政府に圧力等多くの裁判を抱えている。その度にトランプは、「バイデン政権の不当な政治的弾圧」だと訴えている。これらの裁判は本選まで続くが、トランプが共和党の候補として確定した時点で、トランプに不利な判決が出れば、トランプは「不当弾圧」を叫び、それに呼応してトランプ派が裁判を襲撃するのは間違いないと思われる。
トランプの報復
ロイター(2023.12.27)によれば、トランプは「自身が創設したSNSで 、自身が再選された場合に有権者が最も連想する言葉が『復讐』(revenge)だったことを強調した 。」「トランプ氏自身、再選を果たせば政敵に「報復」(retrubution)すると繰り返し約束して おり」、「捜査や投獄、その他の方法で政敵に復讐すると約束している。 」
保守系シンクタンク、ヘリテージ財団はトランプ政権元高官と共同で、民主党から共和党への政権移行を前提とした計画書「プロジェクト2025」をまとめた。
「900ページを超える同書は、「左派分子の戦闘員たち」から米国を救う名目で、次期政権の政策実現に障害となる連邦職員を大量解雇し、保守的な職員と入れ替えることを提案、職員解雇手続きの法的措置についても解説している。」 (共同通信編集委員 半沢隆実2024.1.25)
「900ページを超える同書は、「左派分子の戦闘員たち」から米国を救う名目で、次期政権の政策実現に障害となる連邦職員を大量解雇し、保守的な職員と入れ替えることを提案、職員解雇手続きの法的措置についても解説している。」 (共同通信編集委員 半沢隆実2024.1.25)
トランプは前大統領選で敗北し、度重なる司法からの追求など苦渋の4年間を味わった。そして、その前大統領選も民主党の陰謀だとして敗北そのものを認めていない。それは多くのトランプ支持者も同調している。その怒りは再登場によって、民主党に代表される連邦中央や司法、行政組織に向けられ、それらに対して徹底した攻撃を加えるのは目に見えている。