夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

2024年 アメリカの内乱と没落(1)

2024-01-28 10:49:31 | 社会
2021年 トランプ派による議事堂襲撃

「アメリカは内戦に向かうのか」
 2022年1月にアメリカで"How Civil Wars Start: And How to Stop Them"(内戦の始まり方:それらの止め方)と題した本が出版された。著者は政治学者のバーバラ・F.ウォルターである。日本では2023年に邦訳され「アメリカは内戦に向かうのか」と題され刊行された。
 ウォルターは、内戦と関連する指標として、その国がどの程度民主的か、専制的かを表す指標ポリティ・インデックスがあるといい、それは、その国の位置づけを「完全な民主主義国家」と 「専制国家」 の間で数字化したものである。勿論、これはアメリカ流のあるいは西側先進国の「自由民主主義」による考え方(イデオロギーと言っていい。)に即したもので、当然のことながら異論は存在する。
 このポリティ・インデックスの中間に位置する国を「アノクラシー(anoracy)」と 呼んでいる。そして、その国が「アノクラシー・ゾーン」に入ったときに、最も内戦リスクは高まると言うのである。その国が「完全な民主主義国家」でも完全な「専制国家」でも、内戦は起きにくい。それよりはむしろ政体が流動化したときに内戦は起きると言うのである。それは「内戦リスクの最も高い国は、最貧国でも不平等国でもなかった(...)。民族的・宗教的に多様な国でも、抑圧度の高い国でもなかった。むしろ部分的民主主義の政治社会において、市民は銃を手にし、戦闘に手を染める危険性が高かった」という研究結果に基づいている。 
 重要なのはアメリカの位置づけなのだが、2021年1月の連邦議事堂へのトランプ派の襲撃事件によって、ポリティ・インデックスが下降し、 ウォルターによれば「アメリカは2世紀ぶりにアノクラシー国家へと変貌した 」のである。つまり、アメリカは内戦リスクの高い国になった、ということである。勿論、その理由は議事堂襲撃事件一つではなく、この事件が象徴するように、アメリカ内部の亀裂であり、もはや武力衝突が起きかねないほどの抜き差しならない対立である。

トランプの勝利の大統領選
 11月の大統領選本選に向けて、共和党ではトランプが予想どおりアイオワ州、 ニューハンプシャー州 の予備選で勝利し、共和党大統領候補へ順調な歩みを進めている。
 民主党大統領候補では、現職のバイデン以外に、前回のサンダースのような有力な候補者は見当たらず、前回どおりの二人の争いが確実な模様だ。
 2023年11月のロイター/イプソスの世論調査 では、トランプの支持率が40%、バイデンが34%となっており、また、ブルームバーグと調査会社モーニング・コンサルトは12月の調査では、大統領選挙の激戦州 (アメリカは州によって共和・民主の支持が固定しており、固定していない州が激戦州 である。)7州で、「バイデンかトランプのどちらに投票するか?」で、トランプがバイデンを上回っている。他の世論調査でも同様な傾向にあり、最近の世論調査ではいずれもトランプが優勢となっている。
 さらに、これらの調査は、バイデン政権がガザに対するイスラエルの攻撃の「全面支持」を表明する前に行われており、若年層が多いジェノサイド反対デモで見られた標語「バイデンには投票しない」のように、民主党支持者の中の若年層は著しく「バイデン離れ」を起こしている。
 それらを重ね合わせれば、トランプの勝利はもはやよほどのことが起こらない限り、確実と言っていい。

トランプ大統領の再登場
トランプ派による司法機関襲撃
 1月27日に、トランプによる性的暴行に関係する名誉棄損で8330万ドルの賠償判決が下されたが、トランプはそれ以外にも大統領選挙手続き妨害、機密文書を自宅で不正保管、ジョージア州の選挙結果を覆そうと州政府に圧力等多くの裁判を抱えている。その度にトランプは、「バイデン政権の不当な政治的弾圧」だと訴えている。これらの裁判は本選まで続くが、トランプが共和党の候補として確定した時点で、トランプに不利な判決が出れば、トランプは「不当弾圧」を叫び、それに呼応してトランプ派が裁判を襲撃するのは間違いないと思われる。

トランプの報復
 ロイター(2023.12.27)によれば、トランプは「自身が創設したSNSで 、自身が再選された場合に有権者が最も連想する言葉が『復讐』(revenge)だったことを強調した 。」「トランプ氏自身、再選を果たせば政敵に「報復」(retrubution)すると繰り返し約束して おり」、「捜査や投獄、その他の方法で政敵に復讐すると約束している。 」
 保守系シンクタンク、ヘリテージ財団はトランプ政権元高官と共同で、民主党から共和党への政権移行を前提とした計画書「プロジェクト2025」をまとめた。
 「900ページを超える同書は、「左派分子の戦闘員たち」から米国を救う名目で、次期政権の政策実現に障害となる連邦職員を大量解雇し、保守的な職員と入れ替えることを提案、職員解雇手続きの法的措置についても解説している。」 (共同通信編集委員 半沢隆実2024.1.25) 
 
 トランプは前大統領選で敗北し、度重なる司法からの追求など苦渋の4年間を味わった。そして、その前大統領選も民主党の陰謀だとして敗北そのものを認めていない。それは多くのトランプ支持者も同調している。その怒りは再登場によって、民主党に代表される連邦中央や司法、行政組織に向けられ、それらに対して徹底した攻撃を加えるのは目に見えている。
 
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北「ミサイル発射」 軍事力優先のアメリカがもたらす悪循環

2024-01-19 12:11:47 | 社会

 2024年1月14日、防衛相は北朝鮮が「弾道ミサイルの可能性あるものを発射した」と発表し、15日には北朝鮮は、それが「極超音速ミサイル」だと発表した。とは言っても、正確には「発射」ではなく、試射または、発射実験(英語ではtest launch)であり、海外メディアはほとんど必ず、この表現を使用している。ミサイル発射と言えば、核または通常弾頭の(例えば、ロシアがウクライナに行っている)ミサイル攻撃のことだからである。

 北朝鮮は、2022年頃から長距離ミサイルの試射回数を増加させ、防衛省によれば、2022年に31回、2023年には18回にのぼったという。その度に日本政府は、今回は見送られらたが、全国瞬時警報システム(Jアラート)など を発動して警戒にあたっている。
 しかし、この「弾道ミサイルの可能性あるもの」は、飛行能力は1000キロ以上であることから、隣接する韓国や日本を攻撃するためのものではないのは、誰が考えても明らかである。そして勿論、攻撃対象はアメリカなのである。
 1月15日、北朝鮮のキム・ジョンウン総書記は、韓国との統一はもはや不可能であり、憲法を改正して韓国を「第1の敵国」に定めるべきだと主張した。これは、韓国の現右派政権が強度のタカ派であり、アメリカとの軍事協力を強力に推し進めていることから、交渉する余地はないと判断していることを表しているが、交渉するとすれば、やはり相手はアメリカなのである。
 
世界の軍事衝突には殆ど必ずアメリカが絡む
 近年の大きな軍事衝突は、2022年からのロシア・ウクライナ戦争、昨年にはイスラエル・パレスチナ戦争と、現在も継続し、この両方にアメリカが深く関与している。
 ロシアがウクライナへ侵攻した理由の一つに、アメリカ主導のNATOの東方拡大があり、ウクライナへの軍事支援はアメリカが圧倒的に大量に行っている。また、イスラエルのガザ地区への攻撃をアメリカは「全面支持」し、イスラエルへの武器弾薬供給により、大量殺戮を続けるイスラエルの兵器は多くはアメリカ製である。さらに今年になって、イスラエルの大量殺戮をやめさるためとするイエメンのフーシ派の紅海での商船拿捕に対し、アメリカは英国を従え、イエメン空爆を行った。
 また、アメリカは「悪の枢軸」とイラン、イラク、北朝鮮を名指しし、その中のイラクには、2003年に明らかな虚偽である「大量破壊兵器の保有」を根拠に軍事侵攻を行った。さらに、アメリカ政府は「ならず者国家」といいう言葉を度々使用するが、その中には必ず北朝鮮が含まれている。
 
インド太平洋軍
 そのアメリカは、アジア地域には、2018年にインド太平洋軍と名称変更した陸海空軍、および海兵隊に属する約30万人の統合軍を展開している。司令部はハワイにあり、基地はハワイ、グアム等のアメリカ領土を始め、在韓、在日に置かれているが、世界最強の軍隊である米軍の中でも、対中国・北朝鮮を念頭に北東アジアに兵力を集中させ、核兵器使用も辞さない(アメリカ政府は核先制使用を否定したことは一度もない。)常時臨戦態勢にある即応体制を整えた強大な部隊であるのは言うまでもない。
 
 このアメリカの軍事的プレゼンスに、米日韓の軍事同盟がそれを補強する。2022年8月にキャンプデービッドで行われた米日韓の首脳会合で、日本の外務省は「日米同盟と米韓同盟との間の連携を強化し、日韓米安保協力を新たな高みに引き上げるとの画期的な成果をもたらした」と誇らしげに喧伝した。
 さらに、同年10月の日豪首脳による「安全保障協力に関する日豪共同宣言」は、「緊急事態に際して、相互に協議し、対応措置を検討する」としており、防衛省は「日豪防衛協力は、日米防衛協力に次ぐ緊密な協力関係を構築」 した」と言う。これには、東大の藤原喜一ですら、米日韓豪の「東アジア版NATOの構築」と評している(2022.10.23朝日新聞)。

北朝鮮から見れば
 このような明らかに中国・北朝鮮を敵視したアメリカ主導の軍事同盟は、中国のみならず、北朝鮮にとっても国家存続の脅威と北朝鮮当局が認識するのは、極めて自然である。アメリカはソ連のキューバへの核兵器移送を重大な危機と対応したが、中国・北朝鮮に対しては、核兵器を含む大量破壊兵器で周囲を完全に取り囲んでいるのである。
 アメリカは、実際に「悪の枢軸」のイラクに、イラク側からの攻撃もないにもかかわらず、一方的に軍事侵攻を行った。そして、フセイン政権を倒し、フセインは処刑されている。それを北朝鮮に置き換えれば、北朝鮮のキム・ジョンウンが、国家存続の危機と捉えても、何ら不思議ではない。

軍事力拡大の悪循環
 今回のミサイル試射にも、南山大学平岩俊司は、「アメリカに攻撃力を誇示する狙い」があり、「3月から予定されている米韓合同軍事演習に、ひるむことなく対処していく」(NHK1月14日)ことを見せつけるためだと言う。要するに、アメリカの強大な武力に対する北朝鮮なりの自衛策という見方もできる。
 しかし、この武力には武力で対抗する姿勢が適切なものかと言えば、逆である。武力に武力で対抗すれば、現実の危機はますます増大するからである。
 
 世界にはアメリカに敵視されている国はいくつもあるが、例えば、キューバを例に挙げれば、強大なアメリカの軍事力に武力で対抗する姿勢はまったくない。キューバは、アメリカによるカストロ暗殺未遂を始め、現在でも経済制裁を受けており(アメリカのオバマ政権は経済制裁停止の意向を見せたが、トランプ政権で否定され、外交はタカ派のバイデン政権はそのまま制裁を継続している。)、アメリカからは、完全に敵視されているが、中南米で突出した軍事力は有していない。恐らくは、軍事力でアメリカに対抗すれば、全面戦争というとてつもない大惨事を招きかねないことを「キューバ危機」の教訓から学んだせいもあるのだろう。
 勿論、軍事力で中程度の国のキューバに、アメリカは軍事侵攻する意向は見られない。それは、当然なのだが、キューバがアメリカが安全保障上の脅威ではないからである。
 国際的なの視座から言えば、キューバに対するアメリカの敵視政策は不当なものだと見なされている。2021年には、国連総会で対キューバ制裁の解除を求める決議が日本を含む184か国の賛成多数で採択されていることが、それを裏付けている。このことも、軍事力で対抗しないキューバが、友好国を増加させ、脅威と見なされることはないことを証明している。

 北朝鮮は、アメリカの軍事的脅威に軍事力で対抗する道を選択している。現在では大陸間弾道弾ICBMも所有し、核兵器までも保有している。アメリカはそれに対し、対中国と併せて、日韓豪フィリピン等の周辺国を含めた強大な軍事同盟で対抗している。互いに、相手方の軍事力に対抗して、さらなる軍事力の拡大に突き進んでいる。ここでは、どちらが先に軍拡に走ったかは問題ではない。両者ともに軍拡に走り、戦争への危機を増大させる悪循環に陥っているのである。そしてともに、莫大な軍事費から、国民生活を圧迫している。報道からは飢餓も伝えられる北朝鮮は言うまでもなく、アメリカも社会保障政策では先進国の中で最悪である。
 
 これらの互いに軍事力を誇示した対決が終わるとすれば、北朝鮮の政権崩壊か、アメリカの政策転換である。北朝鮮は、中国にとってはアメリカへの盾となっている役割があり、中国は政権崩壊を望まないので、政権維持政策を採っている。アメリカの方は、民主党左派などが政権につかない限り、強大な軍事力で自国を守るという方針が変わることはない。そしてそれも極めて望み薄である。また、アメリカの軍事力を補強する日本、韓国も、その政策を推し進める右派政権が終わる見通しはない。直接の武力衝突がないだけ、まだましだ、と思うしかない。

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