夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

極右の台頭に、左派は違いを乗り越え団結し、「人民戦線」方式に戻るしかない

2024-07-07 10:21:59 | 社会



急遽決まった国民議会選挙 
 フランスのマクロン大統領が、欧州議会選の敗北を受けて実施したフランス国民議会選挙は、予想通り、マクロンにとっては惨憺たる結果になった。6月30日の第1回投票で、極右の国民連合Rassemblement national:RN は、33.15%の得票率で1位に立ち、2位はフランス左派が結集した「新人民戦線」noubeau Front Populaire:NFPで27.99%、マクロンが構築した党「再生」Renaissance:REを中心とした 与党連合は20.04%と3位に終わったのだ。
 フランスの国民議会選挙は、得票率で過半数を制した候補者がいない場合、12.5%以上獲得した候補者によって第2回投票が行われるが、少なくとも、第1回投票の結果だけを見れば、「惨憺たる」結果と言える。

 そもそも、マクロンの目算は、欧州議会選は比例代表制だが、国民議会選は小選挙区制で、過半数を超える得票がなければ、決選投票で勝敗が決まる。フランスの議会選は、過去において、概ね90%が第2回投票まで進む。そこで、マクロンの党「再生」Renaissance:REを中心とした 与党連合が小選挙区で12.5%以上得票できれば、決戦投票に残れる。極右の支持者は国民の半数に満たないので、極右を嫌う層が与党連合に投票し、十分勝利できる見込みはある、というものだった。
 しかしこの目算は、中道のマクロンだけではなく、左派にも同様の勝利への可能性が見いだされることになる。恐らく、マクロンの中道派は、極右RNに次ぐ得票を予想していたのだろうが、2位になったのは、左派のNFPだったのである。極右RNは、2022年の国民議会選挙で得票率18.7%から今回33.15%へ大きく伸長させた。しかし、左派も、前回より得票率で2.2%、絶対数で50万票増加させているのである。
 マクロンは、左派がこれほど短時間で結集するとは予想していたのだろう。実際、この左派の短期間の結集は、多くのマスメディアや他の政治勢力を驚かせたものだった。今回、左派の中心となっているのは、「不服従のフランス」La France insoumise :LFIなのだが、他の左派、社会党、共産党、環境派、その他の極左少数派とは、絶えず反発しあっていたからだ。
 今回も、LFI内部でさえも、党首級のジャン・リュック・メランション とは、意見を異にする現議員数人を選挙候補リストから外したことが、火種になっている。また、社会党は、中道左派から右派に転向したと批判される元大統領のフランソワ・オランドが候補リストに名を連ねたことも、他の左派から批判を浴びている。
 
極右に対抗するには「新人民戦線」しかない
 左派が台頭する極右に対抗するには、「人民戦線」しかいない。そのことを最左派のメランションから中道左派オランドまでが悟ったのである。
「人民戦線」とは、反ファシズムで左派が結集した、歴史的な1936年のフランス人民戦線のことである。スペインでもファシストのフランコ派に対抗して人民戦線を成立させたが、フランスでは、社会党、急進党、共産党、労働組合、市民運動が大同団結したもので、結果として総選挙で勝利し、レオン・ブルム社会党政権を成立させた。今回には上記の左派に、環境(緑)左派が加わっている。

 もともと、政治的な志向を表す右と左という言葉は、その政治姿勢を一直線上に並べた、ひとつの目安のようなものだ。急進的、直接行動主義的な左右を、極右、極左と呼ぶが、それ自体にいい悪いの価値基準を表しているのではにない。おおよその政治姿勢を、理解しやすいように一直線に並べただけであり、中央に位置するのが中道派なのである。だから、右は右としてのおおよそ同じ志向を持ち、左は左としてのおおよそ同じ志向を持つ。
 本質的な意味で、政治的な立場を表す左gaucheとは、ノルベルト・ボッビオの言うように、何よりも人びとの不平等を許さないことを基本的立場とする勢力または思想のことである。その不平等は、社会構造・システムに起因するもので、第一に社会階級であり(社会階級、または社会システムを問題にしないのがいわゆるリベラルである)、人種、性別、性的指向、その他に関するものを対象としている。その平等的社会への進め方に、さまざまなやり方が考えられ、その違いから多くの党派が存立し、互いに批判を繰り返す状況を生む。
 しかし、この平等的社会への志向は、進め方は異なっていても、方向性は同一なのであり、現にある不平等に対して、共闘の余地は、常に存在する。だから、左派は共闘が可能なのである。それは、かつて日本の社共共闘を日本共産党の宮本顕治は、最終地点が異なっても行く方向が同じならば、同じ列車に乗れる、京都行きも大阪行きも東京から同じ新幹線に乗れる、と言ったが、例えればそのようなものだ。
 

 特にヨーロッパで極右が台頭しているのは、現実のヨーロッパ社会が多くの人びとにとって、生きづらいからである。物価は高騰し、賃金は上がらず、他者との競争は激化し、挙句に地球温暖化で自然災害は頻発する。どう考えても、以前より生活は苦しくなり、このままでは将来は現在より悪くなる、と人びとが考えているからである。一向に良くならない現実に、現行の政治にも、ノーを突きつけたくなる。だから、現政権は軒並み支持を失う。
  極右は、この苦しい現状をある特定の人たちのせいだと言う。アメリカで言えば、極右に属するトランプは、民主党が属する中央のエリート集団のせいで、アメリカはひどい状態になったと言い、ヨーロッパの場合は、最も多いのは、移民のせい、あるいは、異教徒のだと言うのだ。現に移民は増加するばかりで、文化の違いも際立ち、多くの軋轢を生んでいるのは確かなことだ。「昔は良かった」と感じる多くの庶民階層に、極右への支持が増大するのは、自然の流れでもある。
 しかし、極右が政権入りしても、事態が打開されるわけではない。現に、極右のジョルジャ・メローニが首相となったイタリアでは、経済は悪化するなど悪循環から抜け出せない。メローニは、その混乱に乗じて、首相の権限を強化し、議会権限を縮小して、権力集中への憲法改悪に乗り出す始末だ。イタリアでは、労働者を中心とする庶民階層の利益を擁護する、かつて西欧最大を誇ったイタリア共産党は左翼民主党に党名変更し、その後事実上消滅した。そのため、イタリアでは、一定の勢力のある左派が存在しない。そのことが、極右の台頭を抑えられない最大の要因になっている。
 NFPの政権計画は、生活必需品の価格凍結、最低賃金の1,600 ユーロ(月額)への引き上げ、定年年齢の64 歳への引き上げ撤回など、最初の15 日以内に講じるべき緊急措置や、企業の超過利益への課税、環境要素を強化した富裕税を再導入などであり、また、イスラエルのパレスチナ人迫害をやめさせ、中東の平和構築を目指している。これらのことは、極右と競合する支持基盤である庶民階層の生活改善策に集中しており、十分に極右に対抗できる政策である。
 
 現に起きている社会の混乱・悪化を招いている中道政権に取って代わる勢力は、中道より右か左でしかあり得ない。それに気づけば、左派は違いを乗り越え結集するしかない、その結果が新人民戦線なのである。

 7月7日の決戦投票直前の世論調査では、過半数を制する勢力はなく、やはりRNは相対的に第1党になり、NFPがそれに続くと予想されており、恐らくは現実もそのとおりになるだろう。まだまだ、政治的混乱は収まりそうもなく、五里霧中の政治情勢は続くだろう。しかしそれでも、左派が結集し、極右の台頭を抑え込む、それ以外の道はない。




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