2024年4月8日、首相岸田文雄は、国賓待遇で公式に訪米し、10日にはジョー・バイデン大統領と日米軍事同盟の深化を明白にした共同声明を発表した。た。そこでは、日本の軍事費の増大、「敵基地攻撃」能力の保有を「歓迎」し、 「作戦及び能力のシームレスな統合を可能」にするため「それぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と明記されている。この声明は、「未来のためのグローバル・パートナー」 と題され、「自由で開かれたインド太平洋及び世界を実現するために、日米両国が共に、そして他のパートナーと共に、絶え間ない努力を続けることを誓う。 」と記されている。
要するに、東アジアでの主に対中国を念頭に、「自由民主主義」を守るために、米日共同で軍事力の強化を図る、というものである。
「自由民主主義を守るため」の戦争
「自由民主主義を守るために」というお題目は、米日だけでなく、ヨーロッパででも使われる。「自由民主主義を守るために」ロシアと戦うというスローガンが、ウクライナへの強力な軍事支援を行うために使われる。ゼレンスキー自身も「民主主義国家は手を引いてはならない」とNATO諸国の軍事支援継続を要請した。
NATO諸国のウクライナへの軍事支援に最も熱心なのは、概して好戦的なタカ派の多い極右派ではなく、「リベラル」な中道右派・左派である。日頃は好戦的な極右のハンガリー首相のオルバンの与党「フィデス・ハンガリー市民連盟 」、ドイツAfD、イタリアのメローニ率いるFDI「イタリアの同胞」などは、
軍事支援には反対しないまでも消極的であるのは否めない。
アメリカでも、概して中道右派に近いバイデンの民主党主流派政権は、ウクライナへの軍事支援は他のNATO諸国より圧倒的に強力に実施しており、民主党よりはるかに右のトランプの共和党は、ウクライナ支援の予算に反対するなど消極的姿勢が際立っている。
その理由は、アメリカ共和党がウクライナ支援予算を、移民規制のための壁を作る方に回せと言っているように、また、トランプがアメリカ・ファーストと叫んでいるように、概して極右は、自分たちさえ良ければ、他の国などどうでもいい、という利己主義的性格がと強いからだとも考えられるが、最大の理由は、戦争の正当化に「自由民主主義を守るため」という理由付けをしているからである。端的に言えば、このイデオロギー化した「自由民主主義」を最も強く信奉しているのが、西側の中道右派・左派なのである。だから、極右よりも「自由民主主義を守るため」の戦争を、全面的に推進せざるを得ないのである。
この「自由民主主義を守るため」という戦争の正当化の論理が、アメリカにおいて、最も大きく叫ばれたのは、ベトナム戦争である。その論理は、北からの共産主義の浸透を防げなければ、反「自由民主主義」の共産主義は、ベトナムだけでなく、その周辺国に及び、いつかはアメリカにまで到達してしまい、アメリカも共産主義に侵されるというものである。いわゆる「ドミノ理論」であるが、アメリカ軍がベトナムから排除された後も、共産主義勢力はベトナム戦争とは直接無縁の一部の周辺国で政権を奪取したが、それ以上の広がりはなかったのは、言うまでもない。
しかし、この間違いが明らかな「ドミノ理論」が、西側の「自由民主主義者」によって、対ロシアとの戦争には、性懲りもなく使われているのだ。ウクライナでロシアの進攻を阻止できなければ、権威主義・強権主義のプーチンの「ロシア帝国」は、さらに西のヨーロッパ諸国に侵攻し、やがてはヨーロッパ全土が、「ロシア帝国」の進攻にさらされるというものだ。「ドミノ理論」が間違いなのは、歴史が証明しているが、この論理は、ウクライナのロシア軍を軍事力で排撃しても、「ロシア帝国」が軍事的能力を保有している以上、他のヨーロッパ諸国に侵攻しないという理屈にはならず、「ロシア帝国」の軍事的無力化するか、あるいは、プーチンだけでなく、ロシアの民族主義者を打倒することなしには、侵攻はやまないことになる。それには、第二次世界大戦終了時のように、勝者のNATO諸国によるロシアの占領以外に方法はないのである。
そもそも、この「ロシア帝国」の進攻という見方には、2022年以前のウクライナでのウクライナ民族主義者とウクライナ人ロシア語話者の間の、数万人の犠牲者を生んだ紛争が完全に無視されているし、NATOがロシアの国境付近まで拡大し、それがレッドラインを超える脅威だというロシア側の警告を黙視した西側政府の行動を一顧だにしていない。単に、自分たちの敵は「悪魔のようなものだ」と言っているようなもので、それ以外のことは一切考えないという固定化した思考によるものなのである。
なぜ、アメリカは戦争ばかりしたがるのか?
2023年2月、バーニー・サンダースは、英紙ガーディアンのインタビューで、「ロシアでは、寡頭政治が行われているが、同様にアメリカも寡頭oligarchsが動かしている」と述べた。Bernie Sanders: ‘Oligarchs run Russia. But guess what? They run the US as well’
サンダースは、続けて「それはアメリカだけではなく、ロシアだけでもない。ヨーロッパ、英国、世界中で、少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めているのを目にする」と言う。
本来の民主主義では、多くの一般大衆が国の政策に関与し、「人民の、人民による、人民のための統治」が行われるはずである。しかし、現実の政治は、「少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めている」とサンダースは、言うのである。
2014年政治学者のマーティン・ギレンズとベンジャミン・I・ペイジは、英ケンブリッジ大学出版部Cambridge University Press のオンライン論文で、そのアメリカの政治を実証的に分析し、結果を公表している。
その分析の結果として、「経済エリートとビジネス利益を代表する組織グループは米国政府の政策に大きな独立した影響力を持っているが、平均的な国民と大衆ベースの利益団体は独立した影響力はなく、ほとんど、またはまったく影響を与えていないことが判明した。」と記し、「私たちの分析は、アメリカ国民の多数派が実際には政府が採用する政策に対してほとんど影響力を持っていないことを示唆しています。アメリカ人は、定期的な選挙、言論と結社の自由、広範な選挙権(まだ議論があるとしても)など、民主主義統治の中核となる多くの特徴を享受している。しかし、政策決定が強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人によって支配されている場合、民主主義社会であるというアメリカの主張は深刻に脅かされると私たちは信じています。」と結論づけている。
この分析は、「平均的な国民、経済エリート、利益団体の政策への影響」を数値化して調査したものだが、政策決定には、「平均的な国民」は影響力を持たず、「経済エリート、利益団体」に支配されている、ということである。言い方を変えれば、アメリカは形式として様々な民主主義的制度があるにしても、サンダースの言うように、現実の政治は、「少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めている」のである。
経済エリートとビジネス利益を代表する組織グループとは、大資本・大企業であり、中でも、世界で群を抜く大きさのアメリカ軍事産業が、政策決定に大きな支配力を有していることは、想像に難くない。ロシア・ウクライナ戦争によって、アメリカ軍事産業、軍事関連企業、原油価格の上昇で石油業界、穀物輸出業者などは莫大な利益を上げている。この構造が、ウクライナへの軍事支援強化を支え、でき得る限り長期にわたる戦争を継続させる圧力となっていると考えられる。
アメリカでは、軍事部門の民間委託は膨大であり、そこから莫大な利益を得る軍事産業は、政界へのロビー活動も活発に行う。アメリカブラウン大学の調査によれば、兵器メーカーのロビー活動費は、2001年以来25億ドル以上におよぶという。
(「公的資金の防衛業者への回転ドア」Jacobin2024.4.23)
この構造が「平均的な国民と大衆」が望まない戦争へと進む大きな影響力を持つのである。
西側がつくり上げた「国際秩序」
岸田文雄は、アメリカ議会で演説し、「米国は経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくった。自由と民主主義を擁護し、各国の安定と繁栄を促した。」「今日、日本は米国のグローバル・パートナーであり、この先もそうあり続ける。」と誇らしげに語った。しかし、現実のアメリカは、「政策決定が強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人によって支配されている」のであって、それがつくり出した「国際秩序」も、「強力なビジネス組織と少数の裕福なアメリカ人」にとって好都合なものに過ぎないのである。それを岸田は「自由と民主主義」だと言っているのである。
第二次大戦後、何年経過しても、サウスグローバルの国とそこに住む人びとが相変わらず貧しいのは、アメリカが牽引する西側がつくり上げた「国際秩序」によるところが大きい。その「国際秩序」は、豊かな西側が、永久に豊かであり続けることが、暗黙に組み込まれているからである。
経済の面では、1944年にアメリカを筆頭として、連合国通貨金融会議を開催し、ドルを基軸通貨とする固定相場制という国際金融体制をつくりあげ、また世銀IMFと国際復興開発銀行IBRDの発足を決定した 。このブレトン・ウッズ体制は、1973年に変動相場 に移行し、終わるが、基軸通貨としてのドルによる世界への経済支配力は今も強大である。
この自由貿易体制を基本としたアメリカが牽引する西側による経済的世界支配は、資本主義の不均等発展で遅れ、また、戦前まで西側による植民地支配で疲弊したままのアジア・アフリカ諸国も、自由主義経済として、同じ土俵で競争することが求められる。当然のように、それでは、遅れた地域の側に勝ち目はない。それが、グローバルサウスが永続的に「後進国」であり続ける、本質的な理由である。
しかし、「後進国」の側も、そのままではあり得ない。その状況から脱出する努力と西側に対する抵抗は次第に強化されていく。それが、BRICSであり、ASEANであり、アラブ諸国であり、その他のアジア・アフリカ・中南米諸国である。
その中の中国は、自由貿易体制の「恩恵」で、経済大国となったのは間違いない。しかし、その手法は、西側とは異なる強権的国家管理による資本主義である。日本を一人当りGDPで遥かに超えるシンガポールも、形式的は自由選挙が行われているが、野党、主に労働党に対する徹底した抑圧政策を通じた人民行動党による事実上の一党独裁が続いている。中国を超える経済成長率のインドは、首相のナレンドラ・モディによるイスラム教徒の弾圧、野党政治家の逮捕、シーク教指導者のカナダにおける暗殺など、明らかに西側とは異なる強権で国を支配している。このように、経済成長を「誇る」国の多くは、西側の言うところの「権威主義」である。
アメリカによる世界の二分
バイデンは民主主義サミットを開催したように、世界を「民主主義国対権威主義国」に二分している。しかし、この分割はアメリカのご都合主義的であり、その区分けは、アメリカの政治的・経済的利益に合致するか否かで決められている。そこから来る外交政策は、単に対中国・ロシア・イランといったアメリカの利益を阻害する国々を敵視から生まれている。インドのモディ政権は、上記のように民主主義とは極めて疑わしいが、「自由で開かれた」国として、仲間に引き入れたいという願いから、モディ政権を批判することは避けている。ベトナムは中国同様「一党独裁」国だが、中国との対抗から、アメリカの急接近は著しい。そもそも、アメリカはアメリカ民間団体が「独裁国家」とする国々に数多くの軍事基地を置いている。これらのアメリカご都合主義は枚挙に暇がない。
戦争をするためには、大義名分がいる。その「大義名分」が「自由民主主義を守る」なのである。この「自由民主主義を守る」という大義名分には、日頃「リベラル」、「民主主義を語る」ニューヨーク・タイムズなどの影響力の大きな主要メディアも、逆らえないどころか、戦争へ先頭に立つことになる。そのことは、「共産主義に侵食される」というドミノ理論を基にしたベトナム戦争でも、フェイクの「大量破壊兵器」を口実としたイラク侵攻でも、ニューヨーク・タイムズなどのメディアが賛成の論陣を張ったことでも明らかだ。
そして今でも、右派のFOXも「リベラル」のアメリカ主要メディアも、ロシア・ウクライナ戦争では戦争継続の旗を振り、イスラエルのジェノサイドを否定する言説を繰り返している。
バイデンであれ、岸田であれ、「自由民主主義」を唱えながら、自国の民主主義には無関心である。そのことも「自由民主主義」は、戦争の単なる口実に過ぎないことを表わしている。彼らの関心事は、莫大な軍事予算を獲得し、それによる経済効果であるのは間違いないだろう。勿論、それは、福祉関連予算を抑制させ、「平均的な国民」の生活を悪化させる。しかし、国民の生活などは、彼らにとっては、政策の優先事項ではない。そのことだけは、誰が見ても明らかだ。
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