
G7外相会合
2025年3月14日、G7外相会合は、「ロシアに停戦求める共同声明 」を発表した。しかしG7は、昨年までロシアの進攻に対しては、「ウクライナ及びその正当な防衛に対する我々の政治的、軍事的、財政的、経済的及び人道的支援は、引き続き揺るぎない。 」(2024年9月G7外相会合)としていたのである。勿論この、「支援は」、「揺るぎない」とは、主にロシア軍を排撃するためのウクライナへの軍事支援のことである。さらに、「ロシアがウクライナの全領土から 」「即時に、完全に、かつ無条件で軍を撤退 」する場合にのみ、「終結する 」と繰り返し言ってきたのである(同上)。それ以外の停戦交渉は、「ロシアを利するだけ」として反対してきたのである。まさに、手のひらを返したように、「ロシアに停戦を求める」に変わったのである。なぜ、このように変化したかと言えば、答えは極めて簡単である。2025年1月に、G7の盟主アメリカの大統領が、軍事支援一本槍のバイデンから、「1日で戦争を終わらせる」と豪語したトランプに変わったからである。それは、G7と言っても、アメリカ政府がすべてに決定権を持つことを如実に表している。(勿論、その中の日本政府の外交方針はアメリカに異論を挟むことはあり得ず、問題外である。)
しかし、ゼレンスキーに渋々承諾させたアメリカの停戦案も、「30日間の停戦」というだけで、具体的には明白にはなってはいない。停戦の行方そのものが、ロシアの回答待ちとなっていて、和平に至るのかどうかも、現時点ではわからない。
梯子を外されたヨーロッパ
そもそも、ロシア・ウクライナ戦争は、アメリカ国務長官マルコ・ルビオがFOXニュースで、「これは、ウクライナを支援するアメリカとロシア間の代理戦争a proxy war だ」と語ったとおり、アメリカが大きく関与した戦争なのである。
ロシアのプーチンは、ウクライナの軍事的中立化と「ネオナチ政権」の変更を要求しているが、NATOをロシアの近隣諸国まで拡大し、(ゼレンスキー政権そのものが「ネオナチ」とまで言えないが、)親西側で、ウクライナ民族主義を鼓舞し、ロシア語話者との紛争を進めた政権を資金的にも支援してきたのは、アメリカ政府なのである。特に、ウクライナで、ビクトリア・ヌーランドアメリカ国務次官が盛んに親米政権の樹立に奔走したことや、バイデンの次男がウクライナ企業での利権に深く関わっていたことでも分かるとおり、2014年の「マイダン革命」(武力による政権奪取)以前から、 アメリカは自国の利益のために多額の資金を投じ、ウクライナで工作を行ってきたのは歴史的事実である。
この「アメリカとロシア間の代理戦争」に、ヨーロッパはアメリカに追随してきたのである。それは確かに、ヨーロッパの片隅で行われている戦争であり、ロシアと接するヨーロッパにとっては、自分事である。当初は、ドイツのシュルツ首相やフランスのマクロン大統領は、電話会談などで直接プーチンと交渉し、外交による解決を探る動きもあり、ウクライナへの軍事支援でロシア軍を駆逐する方針だけを支持していたのは英国とバルト三国などだけだった。しかし、2022年4月の和平交渉が頓挫してからは、アメリカのバイデン政権に習い、徐々にドイツ、フランスも軍事力による解決だけを求めるようになったのである。
結局、アメリカ主導の軍事力よる解決方針に追随したヨーロッパは、アメリカのトランプによって梯子を外されたのである。
ゼレンスキーと支援するリベラル派の悔し紛れ
それでも、なお現時点での停戦に不満を持つゼレンスキーは、「モスクワは停戦を阻止するためにあらゆる手段を講じている」 と、プーチンを非難してやまない。そこには、停戦を阻止したいが、自分からは言えず、ロシア側のせいでできないとしたい、ゼレンスキーの本音が透けて見える。
同様に、今まで和平交渉に反対してきたヨーロッパ政府を強く後押ししてきたリベラル派メディアは、悔し紛れに、「キーウの同盟国は、プーチンの罠に嵌ってはならない」などと主張している。これは、リベラル派を代表する英国紙「オブザーバー」の社説である。
それによれば、「ホワイトハウスにいるプーチンの友人」であるトランプは、「この男は正直な仲介者ではない。ウクライナやヨーロッパの友人ではない。」のであり、 「プーチンとの悪い合意」をしようとしているのである。そして、プーチンの停戦合意とは、ロシア側だけの利益であり、それは「プーチンの罠」だと言うのである。
この社説は、手っ取り早く言えば、停戦に反対しているのである。それを遠回しに言っているだけである。プーチンは、仲介役のトランプの顔を立て、停戦そのもを壊しはしないだろう。トランプを怒らせれば、何をするか分からず、アメリカ軍を直接投入し、ウクライナにいるロシア側を壊滅させることもあり得るからである。その時は、世界大戦を覚悟しなければならないだろう。その代わり、ゼレンスキーには不満だが、トランプだけを承諾させる案を提示すればいいのである。現実の停戦交渉は、その方向に動いており、それを「プーチンの罠」だと言うのは、停戦に反対していることにほかならない。そして、現実はゼレンスキーが満足する停戦になることはあり得ず、「それがなければ、ウクライナは戦い続けなけれなならず、英国は今までどおり支援し続けなけれなならない」と、永遠の戦争支援を主張し続けている。
ロシアの軍事から3年が過ぎ、その間に、ウクライナ人もロシア人も、それに参戦した外国人含め、数十万人が死に、数え切れない人々が傷ついた。それでも、プーチンは当初の主張を強め、戦争を簡単には止めない。そして、対抗する西側も、特にリベラル派は、人間の生命を犠牲にしてまでも「正義」を振りかざし、自分たちの間違いを認めない。それは、遠くから見続けるグローバルサウスや中国、インドにとっては、自滅の道を進みつつある姿としか写らないだろうが。