夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「G7」と言っても、アメリカ政府だけが決定権を持つ

2025-03-16 16:47:15 | 社会

G7外相会合

 2025年3月14日、G7外相会合は、「ロシアに停戦求める共同声明 」を発表した。しかしG7は、昨年までロシアの進攻に対しては、「ウクライナ及びその正当な防衛に対する我々の政治的、軍事的、財政的、経済的及び人道的支援は、引き続き揺るぎない。 」(2024年9月G7外相会合)としていたのである。勿論この、「支援は」、「揺るぎない」とは、主にロシア軍を排撃するためのウクライナへの軍事支援のことである。さらに、「ロシアがウクライナの全領土から 」「即時に、完全に、かつ無条件で軍を撤退 」する場合にのみ、「終結する 」と繰り返し言ってきたのである(同上)。それ以外の停戦交渉は、「ロシアを利するだけ」として反対してきたのである。まさに、手のひらを返したように、「ロシアに停戦を求める」に変わったのである。なぜ、このように変化したかと言えば、答えは極めて簡単である。2025年1月に、G7の盟主アメリカの大統領が、軍事支援一本槍のバイデンから、「1日で戦争を終わらせる」と豪語したトランプに変わったからである。それは、G7と言っても、アメリカ政府がすべてに決定権を持つことを如実に表している。(勿論、その中の日本政府の外交方針はアメリカに異論を挟むことはあり得ず、問題外である。)
 しかし、ゼレンスキーに渋々承諾させたアメリカの停戦案も、「30日間の停戦」というだけで、具体的には明白にはなってはいない。停戦の行方そのものが、ロシアの回答待ちとなっていて、和平に至るのかどうかも、現時点ではわからない。

梯子を外されたヨーロッパ 
 そもそも、ロシア・ウクライナ戦争は、アメリカ国務長官マルコ・ルビオがFOXニュースで、「これは、ウクライナを支援するアメリカとロシア間の代理戦争a proxy war だ」と語ったとおり、アメリカが大きく関与した戦争なのである。
 ロシアのプーチンは、ウクライナの軍事的中立化と「ネオナチ政権」の変更を要求しているが、NATOをロシアの近隣諸国まで拡大し、(ゼレンスキー政権そのものが「ネオナチ」とまで言えないが、)親西側で、ウクライナ民族主義を鼓舞し、ロシア語話者との紛争を進めた政権を資金的にも支援してきたのは、アメリカ政府なのである。特に、ウクライナで、ビクトリア・ヌーランドアメリカ国務次官が盛んに親米政権の樹立に奔走したことや、バイデンの次男がウクライナ企業での利権に深く関わっていたことでも分かるとおり、2014年の「マイダン革命」(武力による政権奪取)以前から、 アメリカは自国の利益のために多額の資金を投じ、ウクライナで工作を行ってきたのは歴史的事実である。
 この「アメリカとロシア間の代理戦争」に、ヨーロッパはアメリカに追随してきたのである。それは確かに、ヨーロッパの片隅で行われている戦争であり、ロシアと接するヨーロッパにとっては、自分事である。当初は、ドイツのシュルツ首相やフランスのマクロン大統領は、電話会談などで直接プーチンと交渉し、外交による解決を探る動きもあり、ウクライナへの軍事支援でロシア軍を駆逐する方針だけを支持していたのは英国とバルト三国などだけだった。しかし、2022年4月の和平交渉が頓挫してからは、アメリカのバイデン政権に習い、徐々にドイツ、フランスも軍事力による解決だけを求めるようになったのである。
 結局、アメリカ主導の軍事力よる解決方針に追随したヨーロッパは、アメリカのトランプによって梯子を外されたのである。

ゼレンスキーと支援するリベラル派の悔し紛れ
 それでも、なお現時点での停戦に不満を持つゼレンスキーは、「モスクワは停戦を阻止するためにあらゆる手段を講じている」 と、プーチンを非難してやまない。そこには、停戦を阻止したいが、自分からは言えず、ロシア側のせいでできないとしたい、ゼレンスキーの本音が透けて見える。
 同様に、今まで和平交渉に反対してきたヨーロッパ政府を強く後押ししてきたリベラル派メディアは、悔し紛れに、「キーウの同盟国は、プーチンの罠に嵌ってはならない」などと主張している。これは、リベラル派を代表する英国紙「オブザーバー」の社説である。
それによれば、「ホワイトハウスにいるプーチンの友人」であるトランプは、「この男は正直な仲介者ではない。ウクライナやヨーロッパの友人ではない。」のであり、 「プーチンとの悪い合意」をしようとしているのである。そして、プーチンの停戦合意とは、ロシア側だけの利益であり、それは「プーチンの罠」だと言うのである。
 この社説は、手っ取り早く言えば、停戦に反対しているのである。それを遠回しに言っているだけである。プーチンは、仲介役のトランプの顔を立て、停戦そのもを壊しはしないだろう。トランプを怒らせれば、何をするか分からず、アメリカ軍を直接投入し、ウクライナにいるロシア側を壊滅させることもあり得るからである。その時は、世界大戦を覚悟しなければならないだろう。その代わり、ゼレンスキーには不満だが、トランプだけを承諾させる案を提示すればいいのである。現実の停戦交渉は、その方向に動いており、それを「プーチンの罠」だと言うのは、停戦に反対していることにほかならない。そして、現実はゼレンスキーが満足する停戦になることはあり得ず、「それがなければ、ウクライナは戦い続けなけれなならず、英国は今までどおり支援し続けなけれなならない」と、永遠の戦争支援を主張し続けている。
 
 ロシアの軍事から3年が過ぎ、その間に、ウクライナ人もロシア人も、それに参戦した外国人含め、数十万人が死に、数え切れない人々が傷ついた。それでも、プーチンは当初の主張を強め、戦争を簡単には止めない。そして、対抗する西側も、特にリベラル派は、人間の生命を犠牲にしてまでも「正義」を振りかざし、自分たちの間違いを認めない。それは、遠くから見続けるグローバルサウスや中国、インドにとっては、自滅の道を進みつつある姿としか写らないだろうが。

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欧州リベラル派は、軍事超大国を目指す

2025-03-11 17:54:43 | 社会


 EUのフォン・デア・ライエン委員長は、ヨーロッパの防衛力を強化する目的で、最大8000憶ユーロ、米ドルで8700億ドル、日本円で125兆円の軍事資金を確保する計画を発表し、ヨーロッパは、”an era re-armament”再軍備の時代を迎えたと言った。これは単年度の計画ではないので、単純には比較できないが、EUのGDPが2023年で15.5兆ドルなので、優に5%を超える規模である。これを日本と比較すると、その異常な大きさが分かる。

 日本の軍事費GDP比率は2024年で1.6%であり、2025年予算で2%程度となるが、アメリカは3%に引き上げろと要求している。しかし、EUの同GDP比率は、現在で1.9%程度で、それを3%以上、5%を目標に引き上げることを目指している。この規模をを比較すると、日本が「大軍拡」なら、ヨーロッパは「超大軍拡」を目指していると言える。

 アメリカは、軍事費GDP比率3.4%で、西側が敵視する戦争中のロシアは、軍事費がGDP比率は6%を超える戦時経済体制を確立しているが、中国は、1.5%程度である。中国の場合、西側からは「実態を反映しておらず透明性を欠いているという指摘 」が度々あるが、、軍事に関連する費用がどこまでなのかは曖昧であり、どこの国も軍事費はなるべく少なく公表する傾向があるのは同じである。いずれにしても、ヨーロッパは、アメリカ並みの軍事超大国を目指すと宣言しているのである。

リベラル派は、軍事優先主義に舵を切った
 元来、リベラル派は、国際間の課題を軍事力よりも外交で解決するスタンスをとっていた。むしろ、軍事力の増強は、保守派・右派のタカ派が主導していたのである。アメリカでは、民主党より共和党が、ヨーロッパでは中道左派も中道右派も、それより右に位置するナショナリズムを強調する右派が軍備の増強を主張していたのである。しかし、2002年のロシアによるウクライナ侵攻以降は、その立場が逆転した。
  
 リベラル派は、ロシアは強くはなく、西側がウクライナへの軍事支援を増大すれば、ロシア軍を破ることができると言って、軍事支援を増加させた。そして同時に、ロシアはウクライナへの侵攻の次には、さらにヨーロッパを侵略できるほど強大だと言って、ヨーロッパの軍事力強化を主張するのである。同じ口が矛盾することを言っているのだが、その矛盾にすら気づかないふりをしているのである。


 リベラル派という言葉は、マスメディア用語であり、学術的な定義があるわけではないが、この言葉は、西側の中の、事あるごとに「自由」を持ち出す政治的な勢力の立場を表している。「自由で開かれた」という言葉がその典型であるが、アメリカ民主党主流派を筆頭に、ヨーロッパ、日本、オーストラリア等の、政権をほぼ掌握している政党、それを擁護する知識人その他の評論家が、それに属する。時として、極右・保守派と対立する立場を表し、性差別に反対し、多様性の重視、移民差別に反対の立場をとり、一定の平等主義に立脚しているが、社会的・経済的システムに由来する一切の不平等にも反対する左派とは立場を異にする。主に中道右派・左派の政党がここに属するのだが、近年は、この両派の違いは著しく縮まり、英国の例を挙げれば、現在の政権党である中道左派の英国労働党は、中道右派の保守党と政策の違いは極めて少ないように、政権に着けば、その差はほとんどなくなる。
 
 そもそも、東西冷戦期で、緊張緩和デタントを始めに進めたのは、リベラル派である。西ドイツのSPD社会民主党のウイリー・ブラントは、1969年に首相に就任すると、積極的なソ連、東欧圏との接触を図る東方外交を展開した。彼は、1970年の西ドイツ・ポーランド国交正常化条約を締結すると、同年にソ連と武力不行使条約を締結した。そのドイツ社会民主党も、概ね、対ロシアを念頭に、大幅な軍事費の増額には賛成している。さらにドイツでは、かつては平和主義を標榜していた緑の党は、キリスト教民主・社会同盟よりも、対ロシア強硬派に転じ、「軍事力による平和」を主張する急先鋒になっている。
 
リベラル派と右派は、合同で軍事超大国を目指す
 アメリカでは、極右に属するトランプは、ウクライナでの和平交渉を進め、アメリカの『軍事予算を半分に減らそう』 とまで言っている。ハンガリーの極右ウルバン首相は、ウクライナへの軍事支援に反対し、外交交渉による解決を主張している。とは言っても、それらは極右や保守派の一部であり、他の多くの極右や保守派は、軍事力の増強を主張を止めたわけではない。ドイツの場合は、キリスト教民主・社会同盟は、今でも、社会民主党CDU/CSUは、SPDより軍備増強に積極的であるし、英国保守党は、労働党のスターマーの軍備増強を指示している。極右のドイツのための選択肢AfDも、イタリアの極右メローニ首相も、EUのフォン・デア・ライエンに合わせて軍事増強を支持している。

 要するに、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、アメリカでもヨーロッパでも、中道リベラル派が、それまで極右の専売特許だった軍事優先主義に大きく舵を切ったのである。彼らは、常に「自由社会を守る」ためと称して、外交交渉よりも、徹底した軍事力による解決を主張するようになったのである。

 極右から中道リベラル派までが、軍事優先主義に傾く中で、唯一左派だけは、それに反対している。



 それは、ウクライナはこれ以上戦争を継続しても、人命の損失と国土の破壊が増大するだけであり、和平を実現し、国の再建を最優先しなければならないかえらであり、ヨーロッパ自身もこれ以上の軍事支援も、軍事超大国化も、社会の破壊をもたらすだけだからである。政治評論家のジャナン・ガネシュは、フィナンシャル・タイムズに「ヨーロッパの戦争国家化は、福祉国家を削減する」と論評した。福祉削減以外に、軍事超大国化は不可能なのである。
 
 さらには、そこには、カネの亡者のトランプの思惑通りに動くヨーロッパの姿がある。ヨーロッパの軍需産業はアメリカより遥かに小さく、軍事超大国化は、アメリカからの兵器輸入にさらに頼ることになり、軍事産業による雇用の創出も見込めず、ただ単に、軍事費が大幅に増加するだけだからである。ストックホルム国際平和研究所 によれば、世界の武器輸出の43%をアメリカが占め、ヨーロッパが最大の輸入国だからである。それは、アメリカの軍需産業に莫大な利益をもたらすだけなのである。
 それは、トランプの狙いどおりである。トランプは、アメリカの軍事費削減を進めているが、それはアメリカの税金を使わずに、ヨーロッパの税金で、アメリカの軍需産業を潤すという意味である。それは、日本に対しても、軍事費を増大させ、アメリカ製の兵器を輸入を迫る狡猾なやり方と同じである。
 そしてそれは、アメリカのトランプの高笑いをも、もたらすに違いない。
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欧州主流派の偽善 

2025-03-05 16:17:12 | 社会


 トランプのゼレンスキーへの激怒で、アメリカは、ウクライナのゼレンスキーの意向を無視したロシアとの和平に前向きで、ウクライナへのへの軍事支援を縮小させることが濃厚になった。
 それに対して西側主流派は、欧州首脳を筆頭に、国際法違反のロシアの侵略による占領を放置したままの和平には反対し、「ゼレンスキーを擁護する」意向を次々に表明している。
 ここで言う西側主流派とは、中道左右両派、リベラル派の政権や主要メディアに登場する「専門家」や知識人のことである。したがって、極右に属するトランプやそれを支える共和党強硬派、ハンガリーの極右オルバン、そしてその反対側にいる急進左派の「不服従のフランス」やドイツ左派党などは含まれない。
 西側主流派の中には、ロシアに対して和平を持ち掛けことはは、ナチスドイツへの融和策を決めたミュンヘン会談に等しいと言う者までいる。それは、ロシアをここで破らなければ、いずれヨーロッパ全体がロシア全体主義に侵略されるという意味である。だから、ここで妥協してはならない、ということである。ミュンヘン会談を持ち出しないその他の主流派も、国際法違反のロシアと戦争することは、民主主義を守るための戦争であり、そのためにウクライナへの軍事支援を継続しなければならない、という論理では同じである。
 しかし、現状でのウクライナへの軍事支援だけでは、ロシア軍を排撃するこはできず、ウクライナ軍は負け戦を強いられている。トランプは、ゼレンスキーの会談決裂後、一切のウクライナ軍事支援を停止したが、この措置は、ウクライナ軍の負け戦は、さらに悪化することを鮮明にしつつある。
 
 この事態に、英国首相スターマーやフランス大統領マクロンは、欧州結束を呼びかけ、ゼレンスキーを擁護し、ウクライナ支援を継続すると表明したのだが、自分たちだけでは力不足なので、やむを得ず、一時的、または部分的な停戦案を検討し、アメリカに提案する道を選んだ。これは、提案とは聞こえがいいが、内実は、アメリカに「どうかお願いだから、ウクライナ支援を継続して欲しい」という懇願である。

正直なトランプ、偽善で固まる欧州首脳
 カネの亡者のトランプは、今までにウクライナ支援のために使ったアメリカの莫大なカネを、ウクライナの希少金属資源で払えとゼレンスキーに迫った。これ以上、ウクライナのためにアメリカのカネを使いたくはないと言う。
また、ゼレンスキーに「お前は、第三次世界大戦を賭けている」と非難した。お前らのせいで、アメリカを巻き込む世界大戦寸前の危機に陥っているという非難である。だが実際には、これらのことは、トランプが外交上では、今までない「非常識な」正直さを表している。
 トランプのアメリカファーストは、すべてアメリカにとって実利があるかどうかであり、西側主流派が言う「民主主義を守る」という、一見聞こえのいい、抽象的イデオロギーはどうでもいいのだ。

 しかし、欧州主流派が「民主主義を守るため」の戦争だと言うならば、欧州は最低でも、アメリカの抜けた支援の穴を埋める軍事支援を行う、現在の数倍の軍事支援を行うと宣言しても良さそうなものである。そのためには、欧州が大幅な軍事費の増額で、借金まみれになろうとも、社会保障費が大幅に削減されようと、「民主主義を守る」ことが優先されるので仕方がない、と言うべきだろう。
 また、ロシアのプーチンをヒトラーに例えるなら、第二次世界大戦並みの戦争を覚悟し、モスクワを、ドレスデン空爆や、東京空襲のように、壊滅させる、と言い放つべきだろう。
 しかし、現実の政策は、EUと英国を合わせても、アメリカの半分以下の軍事支援しかして来なかったのである。そこには、ウクライナが破壊されても、自分たちはなるべく傷つきたくないという利己心が隠されている。

 欧米政府(バイデンのアメリカを含む)は、対ロシアにだけ、自由民主主義や国際法を持ち出す。しかし、数万人のパレスチナ民間人を殺害し続けるイスラエルには、非難するどころか、軍事支援を行い、虐殺を手助けしている。いハマスやヒズボラがテロ組織だから、それを支援するパレスチナ人は殺害されれも仕方がない、という論理である。しかし、ロシアのプーチンもイスラエルのネタニヤフも、ICCから逮捕状が出ている人物である。現にパレスチナ人には、安全に生活する「自由」もなければ、イスラエルの抑圧で自治権の行使も満足にできず、「民主主義」どころではない。西側主流メディアには、ウクライナへの軍事支援で「自由で民主主義的な国際秩序を守れ」という社説や意見が度々登場するが、イスラエルのパレスチナ人虐殺を黙認しているのは、「自由で民主主義的」な欧米政府なのであり、「自由で民主主義的な国際秩序」なるものは、既に欧米政府には守られていない。

汎欧州安保の模索以外に解決策はない
 朝日新聞は、2010年10月7日付けで、「ロシアのNATO加盟を――汎ヨーロッパ安全保障秩序の確立を」という記事を載せている。チャールズ・クプチャン/ジョージタウン大学教授(国際関係論) の論考である。これは、今ではアメリカ政府の外交政策を擁護する立場が鮮明なForeign Affairs誌に掲載された論考であるが、当時は、朝日新聞が掲載しているように、西側主流派にも
ロシアを含めた安全保障を構築するという考えがあったことを示している。2008年には、当時ロシア大統領だったドミトリー・メドベージェフが「全欧州安全保障フォーラム」を提唱している。これは、「ヨーロッパを形づくっているNATO、EU、CIS、CSTOというすべての組織がまとまって、さまざまな問題の解決に向けた試みに参加できればと考えている。そうした汎ヨーロッパ的なフォーラム を形成」したいという意向がロシア側にもあったのである。このメドベージェフは、大統領は連続3期禁止というロシア憲法のため、連続2期のプーチンの代わりに大統領になった人物であり、これがプーチンの意向であることは間違いない。それは、当時もプーチンが政府内で絶大な権力を掌握していたからであり、それは今でも続いている。
 
 そもそも、東西冷戦時から、政治体制、地理的位置、経済体制に関わりなく安全保障を追及する取り組みはあったのである。1972年に全欧安全保障協力会議 CSSE、その後継の1990年の欧州安全保障協力機構OSCEも、ソ連・ロシアを含めた欧州全体の安全保障を追及するものである。
  
 そこには、政治体制に関わりなく平和共存を求める思想があった。西側の「自由民主主義」に反すると言えば、ソ連の「共産主義」は、プーチンの権威主義以上に、「自由民主主義」に反する。それが、今では「平和共存」どころか、世界大戦前夜のように、欧州はいつでもロシアと戦争ができるほどの軍事力を持とうとやっきなっているのである。EUのフォン・デア・ライエンは、ウクライナを「鋼鉄のハリネズミ」に変えるとまで言う始末である。

 バイデンは、「民主主義国」対「権威主義国」の闘いを推し進めたが、それが乗り移ったかのように、欧州は、中国を含めた「権威主義国」ロシアとの闘いを強調している。そこには、敵対する相手の脅威を異常なまでに誇張する、徹底した相手側の「悪魔化」がある。これでは、平和共存など不可能であり、相手側の壊滅、西側からは「権威主義国」の壊滅以外の解決法は見いだせない。たとえそれが、戦争にまで至らないとしても、莫大な軍事費の圧迫で国内の経済・社会は混乱を極め、国際機関は対決の場となり、世界的な危機である地球温暖化対策、保健対策、アフリカなどの国の貧困対策は後回しにされる。
それは、自滅の道としか言いようがない。

 2003年3月14日、イラク危機に際し、フランスのドミニク・ド・ヴィルパン外相は、米英の武力行使論に反対した。彼は、国連安全保障理事会で、「戦争と占領、そしてそれに伴う残虐行為を知っている、地雷のような大陸であるヨーロッパの古い国・フランスからのメッセージだ。」 「国連というこの殿堂において、我々は理想と良心の守護者でありたい。我々の責任と名誉にかけて、平和的な武装解除を優先すべきだ」と演説し、会場全体の拍手を浴びた。
 欧州は、今こそ、この精神を思い出すべきなのである。
 


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首脳会談決裂 ゼレンスキーは現実を直視しなければならない

2025-03-01 16:55:19 | 社会


トランプを激怒させたゼレンスキー 
 2月28日に行われたトランプ・ゼレンスキー会談は、ゼレンスキーがトランプを激怒させたことで、ゼレンスキーは退出させられ、あっけなく幕を閉じた。
 副大統領のヴァンスが「平和への道、繁栄への道は外交に取り組むことかもしれない」と述べた後、ゼレンスキーが数年間のロシアの侵略行為に言及し、プーチン大統領について「誰も彼を止められなかった」と述べた。 ヴァンスが「一体どんな外交を言っているんだ? 」、「(我々の外交は)あなたの国の破壊を終わらせるようなもの(をやっている)」と畳みかけると、それを納得しないゼレンスキーに、ヴァンスは無礼だと激怒した。
 さらに、ゼレンスキーが「戦争中は誰もが問題を抱えている、あなたもそうだ。しかし、あなたには素晴らしい海があり、今はそれを感じないかもしれないが、将来は感じるだろう」と言い、トランプが戦争の侵略者と交渉する際の道徳的危険を理解していないと示唆した。 そして「ロシアをなだめれば、戦争はあなたに降りかかるだろう。」 と言った。
 すると、それに激怒したトランプは、「我々がどう感じるか指図しないでくれ。君にはそれを指示する立場にない」とトランプ氏は声を大にして言った。 トランプは苛立ちながら、「我々はこの愚かな大統領を通じてあなた方に3500億ドルを与えた」 、「君たちは勝てない、これは勝てない」とトランプは語った。さらに、トランプはゼレンスキーに最後通牒のように、「我々のおかげで君たちが無事に終わる可能性は十分にある」 、「態度を変えなければならないので、交渉は難しいものになるだろう」 と告げた。そして、怒りが収まらにトランプは、大統領執務室からゼレンスキーを追い出した。

 対等な立場で臨んだゼレンスキーのトランプへの態度は、トランプとの首脳会談に臨んだ他のアメリカ同盟国首脳とは大きく異なっていた。徹底したトランプへのご機嫌伺いに終始した日本の石破茂がその典型だが、 フランスのマクロンも英国のスターマーも、多かれ少なかれ、トランプを怒らせないように、機嫌を取る努力をしていた。それに比べてゼレンスキーは、元喜劇役者の素人政治家ぶりが露呈したのかもしれないが、余りに率直に自己の考えを押し通そうとした。

決定的となったアメリカの軍事支援大幅縮小
 以前からトランプは、ウクライナ軍事支援は欧州がやればいいと言っていたが、ウクライナの資源獲得に成功すれば、その見返りにいくらかは軍事支援をしてもいいとは、思っていただろう。しかし、資源獲得協定もできず、激怒しただけで終わった会談からは、思っていた以上にウクライナ軍事支援を激減させることが決定的となった。
 会談崩壊後ゼレンスキーは、「アメリカの支援に感謝している」とツイートしたものの、トランプへの謝罪は拒否した。FOXニューでこの論争は「双方にとって良くない」とも認めたが、後悔しても遅い。

 これに対するロシアの反応は、安全保障会議の副議長のドミトリー・メドベージェフ元大統領が、ゼレンスキーを「傲慢な豚」と呼び、「大統領執務室できちんとしたお仕置きを受けた」と語ったように、ロシアの主張に近い和平交渉が、米ロで進んでいることに余裕をもって見守っている。
 
 ウクライナ支援の立場を変えていない欧州諸国首脳は、ハンガリーの極右オルバンを除き、ほとんどがゼレンスキー擁護を表明した。それは、アメリカの支援が途絶えたとしても、欧州はウクライナ軍事支援を継続するという意味である。それでも、英国のスターマーやフランスのマクロンは、和平交渉が成立した後の、「平和維持部隊」に自国の兵士の派遣を、既に表明していた。アメリカの軍事支援なしで、現在のウクライナにロシア軍を押しとどめるほどの軍事力を、欧州が提供できないのを見通してのことである。渋々でも、トランプの和平交渉を見守るしかないのを理解しているのである。
 アメリカ抜きの核兵器を除いた欧州側の軍事力が、ロシアに勝っているのは間違いない。しかしそれは、欧州軍が派兵され、ロシア軍と直接戦闘に陥った場合のことである。2024年に、ロシアの砲弾生産量は、米欧のウクライナ向け生産能力の3倍に達していると報道されている。アメリカを含んだこの数字は、欧州はさらに少ない砲弾を含む武器・弾薬しかウクライナに供給できないことを示しており、アメリカなしでは、到底、ウクライナ軍のロシア軍との戦争を支援できないことは明白なのである。

トランプに従わざるを得ないゼレンスキーと欧州
 ゼレンスキーも欧州首脳も、渋々、トランプの和平交渉を待つとしても、肝心の和平交渉自体は、2月18日のサウジアラビアでの米ロ高官会議でも、何も明らかになってはいない。ロシア側の要求は、現支配地域の維持とウクライナの軍事的中立化が基本になっているのは、ロシアのラブロフ外相の発言でも明らかだが、和平後のNATO加盟国軍のウクライナ駐留も拒否している。余裕のあるロシア側は、さらに都合のいい条件を出し、自分の意向を貫きたいトランプはそれを飲むかもしれない。
 それは、ゼレンスキーにとっても欧州にとっても、受け入れがたいものだ。しかし、それでもトランプに従わざるを得ない。欧州は、ウクライナに関する限りロシアに対抗し、抑止能力としての軍事力を持っていないからだ。ロシアは、GDPの6.7%を軍事費に注ぐ戦争経済体制を確立しているが、欧州は2%前後に過ぎない。トランプやNATO事務総長ルッテの要求どおりGDP3~5%に引き上げるのには、数年どころか、社会保障の崩壊や国家債務の増大、社会混乱から中道リベラルの言う権威主義体制に成りかねず、不可能に近い。

 この戦争は、国家は生存のために際限のない拡張行動を採ることが求められるという攻撃的リアリズムを主張するシカコ大学のジョン・ミアシャイマーの言うとおり、「ウクライナは初めから勝てない戦争」という様相が鮮明になりつつある。その「現実」を、ゼレンスキーも欧州指導者も、トランプの前任バイデンも直視しようとしなかった。国際法違反(アメリカ政府も度々国際法違反を繰り返しているにもかかわらず)の侵略者プーチンは、負けなけれならなないと呪文のように唱えるだかけだった。今になって、その「現実」が、彼らに重くのしかかってきているのである。
 
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カネの亡者対戦争亡者 トランプ対ゼレンスキー

2025-02-22 12:14:01 | 社会


 これは直接的には、トランプが「2022年のロシアの侵攻はウクライナのせいだ」という発言から始まったものだが、それ以前の、米・ロによる和平交渉がウクライナ抜きで行われたように、ウクライナの頭越しで交渉が行われることへのゼレンスキーの焦燥と怒りが表面化したものである。
 
 勿論、「戦争を終わらせる」と豪語するトランプが、ウクライナ国民の生命と生活を重視する平和主義者というわけではない。「戦争を終わらせる」のは、アメリカが莫大なカネを使ってウクライナを支援しても一文の得にもなりそうもない、というカネの亡者の発想からである。

 トランプがゼレンスキーに腹を立てているのは、上記の「提案」をゼレンスキーが拒否したからだ。その怒りから、相手を攻撃するためには、どんな嘘も平気でつく。それがトランプ流のレトリックであり、「ロシアの侵攻はウクライナのせいだ」も「ゼレンスキーの支持率は4%」もレトリックであり、トランプ自身がそのことを信じているかどうかも疑わしいので、発言の真偽を確かめる必要性はない。

 片や、ゼレンスキーは、国民が何人死のうと何が何でもロシアをやっつけてやるという戦争亡者と化している。ウクライナ国内では、逃げ惑う男性を徴兵担当局員が無理やり引き連れる様子が西側メディアでも報じられている。それは、恐らく、ロシアの侵攻直後にあった和平交渉を蹴り、徹底抗戦に転じたことを間違いだったと認めたくないからだろう。ウクライナはその後の3年間で、さらに領土を失い、とてつもないほど人的物的被害を被っているからである。
 しかし、ゼレンスキーが戦争亡者と化したのは、好き好んでそうなったわけではない。ゼレンスキーが「徹底抗戦」を決意したのも、欧米の支援が約束され、「勝利の見込み」が感じられたからである。また、その時の和平交渉時に、(恐らくは、和平を潰すために、敢えてこの時期に報道された。)ロシア軍による「ブチャの大虐殺」が大々的に報道され、西側全体とウクライナ国民の怒りが燃え上がったことにもよる。
 勿論、相手側のプーチンも最悪の戦争亡者と言うべきだろう。2022年以前のウクライナにおいて、キーウの親ロシア派政権は「マンダイン革命」で壊滅し、ウクライナのロシア語話者は、アゾフ連隊で名高いウクライナ民族主義勢力に弾圧された。ウクライナには、NATO加盟も動きがあった。しかし、それはウクライナ軍事侵攻の正当化には、微塵もならない。あくまでも、本格的な戦争開始を命令したのはプーチンである。この戦争亡者は、かえってNATOの脅威を増大させ、ロシア国民を死に追いやり、困窮化させる選択をしたのである。
 
欧米の戦争亡者たち
 この戦争の長期化は、戦争亡者は何が何でも軍事力でロシアをやっつろという欧米首脳が、軍事支援を約束し、ゼレンスキーを焚き付けた結果である。
その意味では、プーチンだけでなく、欧米政府もそれを支える主要メディアも戦争亡者と化しているのである。
 この戦争亡者の特徴は、自分たちを100%正当化し、対立する側を徹底的に最悪なものと決めつける、即ち悪魔化することで、戦争への道を突っ走ることにある。それによれば、プーチンは、ロシア帝国の拡大を目指しているので、ウクライナ侵攻で、ウクライナの壊滅をたくらみ、それだけでは終わらず、いずれヨーロッパ全体に軍事進攻を仕掛けてくる、ということになっている。だから、欧米はウクライナに最強の軍事支援が必要で、ヨーロッパも軍事費はGDP5%を目指した軍事強化をしなければならない、ということである。そこには、極めて薄い根拠しかない。そもそも、ロシアのウクライナ軍事侵攻は、数万から15万人程度の兵力で行われた。他の戦争では、湾岸戦争連合軍65万、イラク戦争アメリカ軍26万であり、この二つとも、イラクの軍事占領を目指してはいない。それより少なくとも兵力では、イラクより大きな軍事力を持つウクライナを占領できる兵力には、遥かに不足していることが分かる。第二次世界大戦のポーランド占領に投入されたドイツ軍は150万である。そのことから、プーチンはウクライナ占領など意図しておらず、単にキーフの政権を親ロシア派に変えるためだった考えるのが妥当である。要するに、デタラメな側近の情報から、ウクライナ国民の多数は、ネオナチ派の民族主義政権に圧迫されているので、ロシア軍と呼応しネオナチ派を倒してくれると、愚かにも思い込んだのである。

 振り返れば、プーチンの帝国拡大の意図など、2022年侵攻以前には、ほとんど叫ばれたことはなかった。それが、侵攻以後、それ以前に西側メディアで度々報道されたウクライナ国内の紛争も、「アゾフなどの危険な民族主義者」もは消し去られ、問題が2022年に何の脈絡もなく始まったかのように、「悪魔のプーチン」の大合唱に変わったのである。
 和平交渉を模索する意見は、すぐさま「プーチンの手先」と非難される。
ロシアの2022年の10月、ウクライナの戦争終結へ向けた協議を行うよう促すアメリカ民主党内左派による動きがあったが、それもロシアを利するという非難に合い、簡単に封じられた。
 
 ロシアはヨーロッパ全体に侵攻してくるに違いないという主張は、ベトナム戦争にも使われた一種のドミノ理論である。民主主義国が、ベトナムで共産主義者に負ければ、共産主義者はさらに侵略を進め、やがてはアメリカまで攻め込んでくるというものである。ここにも、対立する相手の悪魔化があるが、それが馬鹿げていたことは、歴史が証明している。
 
 確かに、プーチンはICC国際刑事裁判所から逮捕状が出ている国際法違反の犯罪者である。その意味では、軍事侵攻に反対しウクライナ支援を行うことは道徳的規範を重視したものである。それが、極右よりも、リベラル中道派に軍事支援強硬派が多い理由である。しかしこの道徳的規範の重視は、イスラエルにはまったく用いられない。逆にイスラエルに抵抗するパレスチナ武装勢力を悪魔化することで、イスラエルのジェノサイドをも正当化し、イスラエルへの軍事支援をやめようとしない。そこには、イスラエル政府は欧米の仲間であり、それと対立するパレスチナは、「悪」と見做す欧米の本性がある。

戦争亡者はいずれ敗北する
 日本も同様だが、いつの間にか、マスメディアでは、軍事militaryという言葉は、すべて防衛defenseに置き換わった。軍事費は防衛費に、軍需産業は防衛産業と呼ばれるようになった。核兵器も、国防省や防衛省と呼ばれる省庁で管理されていることで分かるとおり、「防衛」には核兵器すら含まれる。既にに軍艦、戦艦は護衛艦となったが、その内、戦闘機は防衛機、戦車は防衛車両と呼ばれるのかもしれない。「軍艦マーチ」も「防衛マーチ」と名前が変わるのかもしれない。ここには、戦争亡者による戦争の正当化への国民への刷り込みがあるのだが、誰も気づこうとはしない。
 
 しかしそれでも、戦争亡者の政権が長続きすることはない。アメリカでは、戦争亡者のバイデンからカネの亡者のトランプに変わった。ヨーロッパでも遅かれ早かれ、戦争亡者の政権は姿を消すだろう。軍事費の著しい伸長は、国民を疲弊させ、社会を混乱に陥れるからだ。アメリカ同様に、自分たちファーストのカネの亡者の極右に、政権はとって替わるだろう。勿論、その時は、国民生活の疲弊が治まるどころか、ますます困窮するばかりなのは目に見えている。
 
コメント
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