夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

西側の「二重基準」は なぜ生まれるのか?(2)

2024-09-01 10:57:00 | 社会

TBSニュースより

 8月9日の長崎の原爆投下から79回目にあたる「原爆の日」の平和式典に、
英、米、ドイツ、フランス、イタリア、欧州連合(EU)は、大使の出席を拒否した。理由は、式典主催の長崎市がイスラエルを招待しなかったことに対し、「イスラエルをロシアと同列に扱った政治的判断があった」から、というものだ。
 しかしこれは、相も変らぬ、米欧の「二重基準」を世界に示したに過ぎない。さすがに、アメリカの対ロシア・中国外交政策には無批判の朝日新聞も、「米欧 いびつな正義露呈」(8月10日)という東大の遠藤乾教授(国際政治)のコメントを全面に出したほどだ。遠藤は「パレスチナ自治区ガザにおける過剰な殺戮を踏まえれば、イスラエルをロシアと同様に招待しないという判断は成り立つ」としているが、そもそも、「政治的判断」だと欧米は批判しているが、ロシア・ベラルーシを招待しないということも「政治的判断」なのである。米欧は、論理的に、まったく成立しない「批判」をしているのである。イスラエルが殺害したパレスチナ民間人は、ロシアが殺害したウクライナ民間人よりも遥かに多いことを考えれば、論理的にも倫理的にも破綻した、批判というよりも難癖のようなものを米欧は押し付けてきているのである。

国民は政府のイスラエル擁護を支持していない
 このように、欧米政府が「二重基準」を改める様子はまったく見えないが、それが国民全体の意思なのかと言えば、そうではない。イスラエルのパレスチナ人攻撃に話しを戻せば、欧米では、イスラエルの蛮行を糾弾し、政府のイスラエル支援に抗議するデモや集会が頻繁に行われているように、日本などに比べて、政府のイスラエル擁護を厳しく批判する国民はかなり多い。それは、欧米政府がイスラエルに軍事支援を行っており、欧米、特にアメリカ製の兵器でパレスチナ人の大虐殺が行われているからである。バイデンは、パレスチナ人の死を悼み、人権を口にするが、軍事支援をやめるどころか、逆に増大させているのである。イスラエルを停戦に導くには、軍事支援をやめると言えば、それで充分なのである。イスラエルは欧米の軍事支援が途絶えれば、軍事行動が大幅に制限されるからである。
 バイデンの後を継ぎ、民主党の大統領候補になったカマラ・ハリスも、ガザの状況について「私たちはこの悲劇から目をそらすことはできない。苦しみに無感覚になることは許されない」とバイデンよりも、パレスチナ寄りの言葉を口にするが、「私はイスラエルの防衛と自衛能力に対し、明確に揺るぎなく積極的に関与している。それが変わることはない」(以上8月29日CNNインタビュー)と、イスラエルがパレスチナ攻撃を正当化する「イスラエルの自衛維」を「断固支持する」姿勢は、変えていない。
 ハリスが、バイデンよりもガザの窮状を口にするのも、民主党支持者の中にはパレスチナ連帯気運が強いので、大統領選を意識してのことだが、民主党であれ共和党であれ、両党の主流派の基本はイスラエル擁護であることに変わりない。
 アメリカの世論調査では、イスラエルがガザ地区で行っている軍事作戦について「支持しない」と答えた人が55%と半数を超え (2024年3月ギャラップ)、「イスラエルへの軍事援助がパレスチナ人に対する軍事作戦に使用されないよう米国は条件を付けるべきであると答えた人は53% (2024年8月シカゴ国際問題評議会 )と、アメリカ政府の政策と一致していない。
 このことは、国策に国民の意思が反映されていないことを如実に表している。

国策に国民の意思は反映されていない
 アメリカのバーニー・サンダースは、「ロシアなどと同様に、アメリカやその他の国も寡頭政治が行われている。一握りの資産家、大金持ちに都合のいい政治が行われている」と、たびたび発言している。実際、「自由民主主義」を標榜する西側諸国でも、富める者はさらに富み、おうおうにして中産階層は下層に転落し、貧しい者は増え続けるという現象は、数十年以上前から進行している。どこの「自由民主主義」国でも、経済が活性化すれば、国民は豊かになれる(トリクルダウン)と称して、政治は産業の振興策に莫大な税金を注ぎ込む。結果は、一部の者が莫大な利益を上げ、国民に回ってくる、そのおこぼれは僅かであり、国民から吸い上げた、大資本・大金持ちの金融資産は膨れ上がり、重労働は加速され、本来あるべき福祉予算が削減されているので、国民の生活は疲弊するばかりである。これらは、新自由主義と呼ばれる事象なのだが、「自由民主主義」国の自由は、1941年にフランクリン・D・ルーズベルトが掲げた「人類の普遍的な四つの自由」の中の「欠乏からの自由」は、完全に忘れ去られている。


「一握りの資産家、大金持ちに都合のいい政治」が「二重基準」を生み出す
 この「一握りの資産家、大金持ちに都合のいい政治が行われている」ことと、西側諸国の「二重基準」は、実は、同じ現象なのである。欧米政府のアラブ世界に対する「玄関口」であるイスラエル擁護は、欧米の国家の政治的経済的利益を守るためなのだが、その国家の利益は、国民の大多数を占める庶民階層の利益とは無縁の、「一握りの資産家、大金持ちに都合のいい」利益に過ぎないのである。端的な例を挙げれば、イラクの独裁者を葬り去ったイラク侵攻では、その後のイラクに派遣されたアメリカの行政支援部隊は、徹底してイラク経済を「自由化」し、欧米資本に利益を与える役割を担ったのである。それは、欧米政府の言う「自由民主主義」国家の利益は、大資本、大企業の利益に結びつくことの証左である。

 ロシア・ウクライナ戦争とイスラエルのパレスチナ攻撃で、西側諸国の軍事産業、国際石油資本は、莫大な利益を上げている。これらの潤沢な資金は、アメリカ議会の産業代表のロビー活動にフルに使われ、外交政策に強い影響力を及ぼす同時に、企業系シンクタンクの財源となり、支配的知的情報にも大きな影響を与え続けている。
 そのことに加えて、多くのマスメディアも、「一握りの資産家、大金持ちに都合のいい」政治のプロパガンダ機能から離れることができない。それは、
マスメディアが利益なくして存続できないことから、経済構造の一部として成立しているので、広告主の意向を無視できないなど、現存する政治経済システムから完全に自由にはなり得ないからである。

 現実に欧米では、バーニー・サンダースを始め、英国前労働党党首ジェルミー・コービン、「服従しないフランス」のジャン・リュック・メランションや社会主義者、多くの急進的左派や平和運動家は、イスラエルへの軍事支援をやめるよう政府に要求している。それは勿論、「二重基準」をやめということなのだが、「二重基準」をやめさせることは、「一握りの資産家、大金持ちに都合のいい」政治をやめさせ、庶民階層の生活を向上させる政治に変えろ、ということと同じことなのである。
 

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