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日々感じた心の軌跡と手作りの品々のコレクション

「ある異邦人の死」

2016-05-04 21:44:24 | 
月に一度の本読みの会。4月は16日が例会日だったのに、ちょうど東京行きと重なってしまい、パスさせてもらったのですが、一応、課題図書は読んでおこうと目通しました。
徳島の作家、佃實夫さんの芥川賞候補になった作品です。
若い人は知らないだろうし、読まないだろうなと思います。何しろ、本そのものが手に入らないし、県立図書館でも持ち出し禁止の本なのです。
たまたま本読みの会主宰者のTさんの蔵書にあったので、借りて読むことが出来たんですが、本は昭和47年の発行です。古い!
かくいうわたくし自身もこの本を読んで、まぎれもなく古い人間なんだなと思い知らされました。

“ある異邦人”とはモラエスのことなんですね。
ポルトガル出身の文筆家で、徳島の女性と一緒になって、骨を徳島に埋めたというごく簡単な情報だけは頭に入ってましたが、この小説は、いわば老人小説になるんじゃないかと思います、晩年のモラエスの孤独と悲哀を静かにしかし、たわみのない筆致で書き込んでいます。

おヨネとコハルという同棲した女性との関係もロマンチックな要素はあえて透明化され、追想の中から老人を見守り、何の手出しもしない幻影として寄り添っているだけです。
ただ、史実なのかは分かりませんが、おヨネ亡きあと、彼女の姪のコハルがモラエスの身の回りの世話をする女中として住み込んでいるんですが、コハルには愛人がいて、その愛人の子を二人も出産しているんですね。コハルの母親はモラエスの子と思いたかったようですが、小説ではモラエスはそんなコハルに気がそがれて手を出していないとしてます。

文中、「睦仁天皇」に拝謁という箇所で(え~と、昭和天皇は“裕仁”だから、大正天皇?明治天皇?)と明治天皇とすぐには分からなかったものの、反魂丹?薬か、信玄袋?どんな袋だ?とすでに過去の風景に溶け込み始めているそれらの言葉に、しかしわずかに心あたりありとして反応してしまう自分がいたのでした。

マカオ港務局副司令を経て、外交官となり、のち、ポルトガル領事館の総領事であったモラエスは、日本に関する書籍を何冊も著し、十分にインテりジェンスのある人物としてのイメージを抱いていたのですが、「ある異邦人の死」では一人の無力な老人の姿が抑制の効いた筆で残酷なまでにリアルに描かれています。

自由の利かなくなった身体をもてあまし、糞尿にまみれて、自ら孤立、孤独の淵へと追い詰められていくのです。
現代でもそうした状況がないことはないと思いますが、時代の暗さ、田舎に限らず、無知で容赦のない小市民、の姿は過去の自分の記憶として思い当たります。

幸せな死に方があるものかどうか、どう生きたってそれが保証されるわけではないでしょうが、今、とりあえず自分のできることを精一杯やっていくしかないというのが、結論です。
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