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海野十三「くろがね天狗」

2017-08-19 23:12:56 | 

今月は珍しく時代小説の短編。といっても、やはり海野の世界です。

初出 「逓信協会雑誌」 1936(昭和11)年10月

収録本  「海野十三全集 第4巻 十八時の音楽浴」三一書房 1989(平成元)年7月15日第1版第1刷発行

時代設定 江戸時代

作品舞台 旗本、国賀の屋敷かいわい、市中広域に面妖な辻斬りが横行する

登場人物  ・岡引、虎松 
      ・旗本、国賀帯刀 
      ・国賀の友、高松半左衛門 
      ・半左衛門一子、高松半之丞 
      ・帯刀の愛娘、お妙 
      ・若侍、千田権四郎

あらすじ

岡引の虎松は旗本の国賀帯刀より国賀の朋友、高松半左衛門一子、高松半之丞の出奔後の行方探索を打ち切ってもよいとの沙汰を得る。

半之丞は帯刀の愛娘、お妙を恋敵の千田権四郎に奪われた失意のあまり屋敷を出たまま杳としてその行方がしれなかったのである。

その頃市中では夜な夜な不可解な辻斬が出没し、懸命な捜査が行われていたが、半之丞探索打切を皮切りに晴れてお妙を妻とした千田権四郎は朋輩のやっかみ半分、辻斬り退治の先鋒として担ぎ出される。

しかし、くろがね天狗と噂されるようになった謎の辻斬りの剣の腕は尋常でなく立ち合った辻斬りに家中第一の武芸達人である権四郎もあえなく殺られてしまう。

その後も殺戮は続き、どうやら、黒装束の下に、鉄の鎧を着込んでいるようだと見られた謎の怪人に鉄砲も使われたがまったく歯がたたず、住民は恐怖のどん底に落とされる。

そのうち、くろがね天狗はお妙を横取りされた半之丞ではないかという噂が立ち始めたが、岡引の虎松は権四郎がくろがね天狗と対戦していた時に少し離れた場所で半之丞と会っており、それはありえないと否定するも、果たしてそれではくろがね天狗の正体とは。

みどころ

珍しく舞台を江戸に持ってきた時代小説ではあるが、海野らしいSFガジェトが盛り込まれた不思議物語である。
テレキネシス(念力)のアイデアが描かれた作品で、本体が弱った状態で果たして念力だけが独立して作用し得るものかどうか疑問はあるのだが、殺人狂という殺伐としたテーマを扱っているにもかかわらず、暗く深刻にならないのは、そうした理屈を超えた娯楽性重視のサービス精神が発揮されているせいだろう。
自分の意のままに疾走する自分の分身の機械人間の姿は爽快である。
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