初読時には何か怪しい雰囲気に、気持ちがざわざわした記憶があったのだが、今回読み直してみたら設定に無理のあるこじつけ的ストーリーで、ちょっと興ざめしてしまった。それでも、やっぱり、よく奇想天外なアイディアをひねり出して来るなぁと感心はしてしまう作品である。
初出 「新青年」博文館 1932(昭和7)年4月号
収録本 「海野十三全集 第1巻 遺言状放送」三一書房 1990(平成2)年10月15日第1版第1刷発行
時代設定 作品発表時と同時代程度
作品舞台 銀座かいわい
登場人物 ・探偵、帆村荘六
・荘六友人
・カフェ“ドラゴン”女給マリコ
・曽我貞一
・神田仁太郎
・漢于仁
・孫火庭
・霊媒師、大竹女史・
あらすじ
飲み屋帰りの探偵、帆村荘六と友人はその日「僕は生きているでしょうか」と尋ねてくる怪しい青年に会う。
意味不明な言葉を投げかけた後、駆け出した青年は麝香の香りのする洋服の上着だけを残して路地に消える。
上着のポケットには痔薬が入っており、事件の匂いを感じた帆村たちは怪青年を追って「カフェ・ドラゴン」にたどり着く。
そこは隣家の二階の屋根がすこし膨れていてカフェの煉瓦壁に迫っていた。
他日、霊媒師の元に曽我貞一と神田仁太郎と名乗る客が現れ、彼らは死んでしまった人間がその自覚なしに生きているつもりの霊魂もあることを目の当たりにする。
一方、青年漢于仁は故郷であるところの浙江省、杭州の郊外に立つ楼台にあって、幽体である我が身を家扶の孫火庭の手配した使用人に世話させていた。
幽体でありながら、食事もし、痔に悩まされるというのは不思議な話ではあったが、ひどくなってきた痔に我慢できず、漢于仁は孫火庭に治療を要請する。
そして、やってきたのが、口が利けず、耳も聞こえないという医師だった。
みどころ
種明かしを聞いてみると多少無理があり、わざとらしい伏線が気にかかるが、全編、主人公の強迫観念的というか視野狭窄的精神のありようが、読者に不穏な心持ちを抱かせ、不可思議な雰囲気の漂うお話である。
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