早川、創元、サンリオ、この3社のSF文庫本がウチにどれだけあるだろう、
でも、性懲りもなく買って読んでしまうのが、幼い頃から罹病した本の虫病の症状であるから仕方ない・・
この本は、石油資源が枯渇し、カロリー企業という、セブンシスターズに取って代わり、
穀物メジャーを内包した新たな、そしてより強力な世界企業たちが支配する、
(ステレオタイプな)温暖化後の地球上で、伝統と自前の遺伝子資源である種子バンクのおかげで、
カロリー企業の影響の少ないとある国でのお話しである。
上昇した海面の影響による洪水から、堤防と、聖なる排水ポンプで守られた都市で、象から遺伝子改造された使役動物によって得る物理的エネルギーを、海藻から抽出した物質等による効率の高いゼンマイに貯め、動力源としている、そんな社会のなかで、日本の企業によって生み出された人造生物、”ねじまき(遺伝子改造された人造クローンみたいなアンドロイド)”は、違法ではあるが、場末の歓楽街で、人間に混じって密やかに暮らしている。
タイトルにもなっているエミコは、そんな”ねじまき”のひとりであり、造られた当初の所有者から捨てられ、いまは、ブレードランナーのプリス的な役割で生活している。
だから、いくら原題がThe Windup Girlだからとはいえ、ねじまき少女はいただけない。
”ねじまき少女”というタイトルの所為で、場末で身を売るエミコに対して不要な憐憫がかき立てられてしまう。
Girlという単語には、女性一般を示す意味もあるのだから、”ゼンマイ娘”とでもすべきだったかとは思うが、モー娘。以降、”娘”という語尾には変なニュアンスが付加されてしまっているので、しょうがないかなとも思う。
この本までの作品含めての作者の未来観だとは思うが、遺伝子改変によるバイオハザード、温暖化による海面上昇、都市の水没等、現代アメリカの、エコロジー主義者のテーゼが、結構鼻につく雰囲気があり、各SF賞を総なめにしたというのが、斜めに納得できるような感じでした。
ただ、この本で描かれている、高い堤防と高貴なポンプで、やっとのことで水没から逃れている都市って、タイのバンコクなのです。