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ラム肉のグルメ・キャンプで猛暑を撃退!
せっかくのお盆休みに旅行を予定していたが、台風の影響でキャンセルした人も少なくないでしょう。それに今年の夏は暑い。暑すぎるし、湿気も異常です。外出するのも、熱中症の危険があるので命がけ。こんなときは、エアコンの効いた自宅でのんびりとくつろぐのがよろしいかも。YouTubeの動画やNetflixで映画を楽しむのもいいですが、本ブログでは、皆さんに野外キャンプの雰囲気に浸ってもらいたく、ある記事を用意しました。本ブログ編集人が36年前にスポーツ雑誌『FOP』(1987年9月号)に書いたグルメ・キャンプの記事です。
当時、茨城県に4WD訓練施設がありました。パリ-ダカールラリー出場経験もある4WDの第一人者で、世界的にも有名な菅原義正さん運転のパジェロにFOPギャルズが同乗、「恐怖の4WD」を体験。その後、近くのキャンプ施設でグルメ・キャンプを楽しむというのが同雑誌の企画でした。なぜか本ブログ編集人もその企画に携わって、前夜からキャンプ場で料理を仕込み、翌日は菅原さんとFOPギャルズたちとラム肉料理を楽しみました。そのときの様子を本ブログに再掲載しましたので、どうかお付き合いください。(本ブログ編集人・山本徳造)
なんと簡単な試食会のつもりが本格的な晩餐になってしまった
その朝、FOP特別工作隊、別名「仕込み班」は疲労の極致にあった。3名の隊員は、前日から野業の調達とテーブルづくり、そして肉の仕込みといった作業に追いまくられていたのである。
試食も隊員たちの重要な任務であった。オーストラリア産のラムのモモ肉をアイスボックスから取り出す調理主任。その夜の試食はモモ肉のローストに決定。コーディネーター兼雑役担当の隊員が火を起こす。
写真撮影兼アルコール担当の隊員が「仕込み班」用のビールを買ってこないことに気づいた。キャンプ場の近くの酒屋まで缶ビール10本を買いに走る。
ビールをちびりちびりやりながら、肉の塊に塩・コショウをまぶす。オニオン、ニンニク、ニンジンのみじん切りをもも肉にすり込む。
赤々と燃える あとはゆっくと火であぶるだけだ。隊員の表情に余裕が浮かぶ。3人の隊員は美食家ぞろいである。 キャンプの食事はカレーライスという幼い発想とは無縁のグルメなのだ。
野外でのディナーは思う存分豪華に、かつエレガントにやるというのが隊員たちの哲学である。粗末な料理は自然への冒瀆に外ならない。
モモ肉がジリジリと焼ける。 肉汁がしたたり落ちる。 香ばしい匂いが辺り一面に漂う。 ウーン。 胃液が騒ぎ始めたようだ。もう我慢できない。
調理主任が神妙な顔で肉にナイフを入れる。切り取った肉片を口に放り込む。モグモグ。
「う、うめぇ~」
もう法悦の目付きである。
コーディネーター兼雑役、写真撮影兼アルコール担当も競うように肉片を切り取り、口に入れた。
「………!」
「?……!」
2人とも言葉にならない歓喜の声を上げた。
生きていてよかったという思いが3人の隊員の胸中をよぎる。持ち込んだオーストラリア産の辛口白ワインで興奮した舌を冷ます。このワインも極上だ。
モモ肉が小さくなるにつれ、ワインの空瓶も2本、3本と増えていく。
缶ビールはとっくの昔になくなっていた。
午後10時を少し回った頃、2人の来訪者が現れた。日時を間違えて1日早くやってきたのだ。よほ空腹だったのだろう。またたく間にモモ肉が骨だけになってしまった。
それでも宴は続く。白ワイン3本と赤ワイン2本が5人の胃袋に収められた。
▲森の中の食卓に並べられた材料。なんといってもラム肉が今夜の主役だ。夕日を浴びた肉の塊は、威厳と風格に満ち、食卓に君臨する。誇り高いラム肉にすがる野菜、フルーツ、パンは完全に安心しきっているかのよう
気分はもうオージー
翌朝、3名の隊員と2名の民間人の顔はテカテカに脂切っていた。コーディネーター兼雑役なんか、中年の好色おじさんの顔になっている。それほどモモ肉の栄養価が高かったのだろう。
民間人1名は二日酔い。 日頃飲み慣れないワインをしこたま飲んだので胃と肝臓がビックリしたにちがいない。アルコール担当は焼酎を用意しなかったことをくやんだ。
夕刻、4WD ランド北総て恐怖の試乗体験を終えたFOPギャルズがスガワラ先生と一緒にキャンプ地にやって来た。
「エー、また料理できないの」
心ないFOPギャルズが不満そうにいう。
「食べることに参加するのは誰でもできる。このキャンプ地では料理をつくることから参加してもらいたい」
と、調理主任がおごそかに宣告した。
FOPギャル1名が、モモ肉にまぶすタマネギ、ニンニクのミシン切りを自主的に申し出た。調理主任の顔がほころぶ。
残りのFOPギャルズも、パンの切断、皿の準備に取りかかった。それぞれが労働する喜びに満ち溢れていた。 じつに美しい光景である。
「ノドが乾いたなあ」と、スガワラ先生がいった。「この炭酸水もらうよ」
「あっ、それ駄目です!」
コーディネーター兼雑役が叫んだ。
「フルーツ・パンチに使うんですよ、先生」
「あっ、そう」
スガワラ先生は悲しそうな顔をして、伸ばした手を引っ込めた。
「それよりも先生、いいオーストラリア・ビールがありますから」
と、コーディネーターが、 アイスボックスから缶ビールを取り出した。
ビール好きなオージー (オーストラリア人)が泣いて喜ぶといわれる 「XXXX」(フォーエックス)である。 クイーンズランド州パーセントのシェアを誇るオーストラリアの代表銘柄だ。
もどかしそうに栓を引っ張るスガワラ先生。そしてイッキにノドに流し込んだ。
「う~ん。 最高よ」
スガワラ先生のこの一言が、 いつの間にか集まってきたグルメ・キャンプ参加者にパニックをもたらした。 アイスボックスに何本もの手が伸びる。缶ビールの栓が次々に引き抜かれた。あちこちで悲鳴に似た歓声が上がる。 みんな、気分はもうオージーだ。
調理主任がモモ肉に塩コショウをし、FOPギャルがミジン切りにしたニンニク、タマネギをすり込む。 ついでに白ワインをぶっかける。 しばらく寝かせてから、モモ肉に付着したニンニク、タマネギを適当に振り払う。
木の枝に突き刺されたモモ肉が火の上に乗せられた。参加者の目がモモ肉に集中する。
「みなさーん」
コーディネーターが注意をうながした。「これからフルーツ・パンチをつくりますのて、よーく見て下さい」
FOPギャル名が赤ワインを手にする。 調理主任の手には、先ほどスガワラ先生が飲もうとした炭酸水が握られていた。2人の目の前にパンチ・ボールが置かれている。
コーディネーターが氷の魂りをボールに放り込んだ。赤ワインと炭酸水が氷の上に注がれる。これで8割がた出来上がったも同然。缶詰のフルーツカクテルをガバッと入れて、かき回すと立派なフルーツ・パンチである。
参加者の間から拍手が起こる。感動のあまり涙ぐんでる人もいたらしい。
スガワラ先生は、
「僕もいろんな国に行ってるけど、こんな旨いフルーツ・パンチは初めてですよ」
と、ホメちぎる。
調理主任は、カレーピラフづくりに取りかかった。ベーコンと野をサッと炒め、米も加えて炒める。そしてスープストックを入れて炊くだけだ。あまりの手際のよさに賞賛の声が飛ぶ。
1時間後、すべての料理がテーブルの上に並べられた。鉄板で焼かれたラム・ステーキ、カレービラフ、そして切り取られたモモ肉のロースト。
テーブルの上は、オーストラリアそのものである。 カリフォルニア産のキーウィも友情出演。キャンプの食事で、こんな贅沢が許されてよいのか!
さあ、食べよう。 さあ飲もう。
ワインのコルクが勢いよく抜かれる。 肉料理には赤ワインという常識をたまには無視しよう。この夜のワインは、オーストラリア産の白て決める。
甘口の「グリーノック・ソータン」をチビリチビリとやるFOPギャルズ、やや辛口の「サリンジャー・ホワイト・バーガンディー」と「リムニー・シャプリ」をグイ飲みするスガワラ先生以下男性参加者。
テーブルの上の肉がワインと一緒に参加者の胃の中に流し込まれた。 ロウソクと月あかりの下で催されている野外グルメ・パーティは、さながらローマ帝国の晩餐のようである。
誰もがしゃべり、食し、飲み、そして森の香りを満喫した。 肉の残りを自宅に持って帰ろうと企んていた調理主任は、翌朝、何も残ってないのを知って肩を落とした。コーディネーター兼雑役は、重責を果たして、ホッとした。
キャンプ中の事故も2件だけ。 FOPギャル1名が水たまりに足を取られて転び、白いパンツを台無しにしたのと、男性参加者1名が崖から落ちただけである。うん、よかった、よかった。(文・山本徳造)
▲心ゆくまで火にあぶられたモモ肉の香りが森を支配し、参加者の胃液をセクシーに刺激する
▲鉄板の上で、ラム肉のステーキもつくっておく。 大きくカットしたニンジン、ピーマン、タマネギも焼こう
▲フルーツパンチをFOPギャルに注ぐ筆者
▲フルーツパンチがあればパーティーも本格的だ。赤ワインとソーダをパンチボールにそそぎ、フルーツカクテル(クリングピーチ缶詰)を加えるだけ
▲カレーピラフのつくり方もじつに簡単。鍋にバターをひき、ベーコン、タマネギ、ニエンジン、ニンニク、ピーマンのミジン切りとシメジをサッと炒める。そのあと、サラダ油かオリーブ油を加え、米と一緒に5分ほど炒め、スープストックとカレー粉を流し込む。あとはフタをして炊き上がるのを待てばよい
▲すべての料理が食卓に並んだ。まずは乾杯といこう。この夜の宴は、夜中の2時すぎまで続いた。胃腸の弱い人は1人もいない(左から4人目が筆者)