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「現代のマルコ・ポーロ」がやって来た(その2)【連載】呑んで喰って、また呑んで㉛

2020-02-05 11:07:30 | 【連載】呑んで喰って、また呑んで

【連載】呑んで喰って、また呑んで㉛

「現代のマルコ・ポーロ」がやって来た(その2)

●日本・東京

山本徳造 (本ブログ編集人)  

 

 バーのカウンター席で泣き出したセルジュである。私に「言ってないこと」とは何なのか。うー、早く聞きたい。
「何?」
「………」
「何なんだ、早く言えよ!」
 気の短い私がせかした。
「オレ、人を殺したんだ……く、く、くっ」
「えーっ!」
 あわやウイスキーの入ったグラスを落としそうになった。ほんとに驚かしてくれるではないか。
「仕方がなかったんだ」とセルジュは自分に言い聞かせるように言葉をつづけた。「オレが撃たなかったら、
殺されていたよ」
 何があったというのか―。
 セルジュの話はこうだ。
 彼が日本に来る3年ほど前のことである。セルジュはパリの歓楽街、ピガールのバーでバーテンとして働いていた。小さな店なので、客を接待するのは彼一人である。ある夜、北アフリカ出身の男が店に現れた。いつもの常連客で、セルジュとも親しい。
 が、その日の男はかなり酔っぱらっていた。泥酔状態と言ってもよい。いまにも倒れそうなくらいにふらついていたので、
「もう呑まずに、帰った方がいいよ」
 とセルジュは男にすすめた。
「何! 『帰れ!』だと。オレに命令するのか、この野郎!」
 カウンターを拳骨で叩く男の目は怒りに燃えていた。そんなに怒るのは初めてである。何か嫌なことでもあったのだろう。そうセルジュが思って、男の肩に手を回して入り口のほうに誘導しようとした。
「何するんだ!」とセルジュの手を振りほどいて男が叫ぶ。「オレは帰らない!」
「いいから今日は帰りな」
「いやだ!」
 そう言うがいなや、男は上着の内ポケットから何かを取り出した。ピストルである。
「冗談だろ。そんな物、しまいなよ」
 が、男の目は座っていた。危ない。とにかくピガールは治安があまりよろしくないので、セルジュも護身用に22口径のピストルを、いつでも取り出せるようにベルトに挟んでいた。男がセルジュにピストルを向けた。数秒後、男は床にもんどりうって倒れた。撃たれると思ったセルジュが、男よりも先に撃ったのである。
 警官が駆けつけ、男の死亡が確認された。その界隈ではよく起きるトラブルなのか、セルジュの正当防衛とみなされ、無罪放免となった。無罪放免となったセルジュだが、人を殺したという事実が彼を苛めた。店を辞め、しばらく部屋に籠る日々がつづく。それも無理はないだろう。セルジュはバーで、こんな話もしてくれた。
 当時のフランスは徴兵制が敷かれていたので、セルジュも若い頃に陸軍に入隊する。しかし、彼は根っからの平和主義者だったので、その主張を態度で表すことにした。訓練でライフルを持って整列したとき、ライフルの銃口に花を一輪挿したのである。

 上官に叱られたどころか、軍法会議にかけられて営倉に放り込まれたという。だが、人を撃ち殺したという罪の意識を持つのはいいが、そんな生活をいつまでもつづけていると、廃人になってしまうのがオチだ。前を見よう!
 こうしてセルジュはバイクで世界一周の旅に出た。故郷のノルマンディーを出発して2年目に辿り着いた日本は、よほど居心地が良かったのだろう。結局、1年間も住みついて、日本をあとにした。数カ月後、セルジュから絵葉書が届く。ニューカレドニアからである。楽しくやっているらしい。
 確か、アラスカの氷原をバイクで走破するとか言っていたが。だから、私が某タイヤ・メーカーに「いい宣伝になりますよ」と掛け合って、氷原でも大丈夫なタイヤを無償で貰ってきてあげたのに。どうやら氷原とは正反対のニューカレドニアで沈没してしてしまったようだ。もう40年以上前の話である。今頃、どこで何をしているのやら。

 


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