【緊急インタビュー】
コロナウイルスの闇に迫る!
アンソニー・トゥー博士(コロラド州立大学名誉教授)
Dr.Anthony Tu/台湾名=杜祖健
聞き手/構成■山本徳造(ジャーナリスト、本ブログ編集人)
中国・湖北省の武漢市は人口約1100万人の大都会だ。しかも、中国大陸のほぼ中央部に位置する。この大都会で新型コロナウイルス肺炎が発生した。中国だけに留まらず、瞬く間に世界中に広まり、なおも拡散を続けている。世界保健機関(WHO)は1月31日、コロナウイルスの流行を受け、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。遅きに失したWHOの宣言だが、これを受けて日本政府は同月31日、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を防ぐために、過去2週間以内に湖北省に滞在歴のある外国人の日本への入国を拒否することを決め、2月1日から適用することに。アメリカ政府も1月31日、国内での感染拡大を防ぐため、公衆衛生上の緊急事態を宣言するとともに、感染拡大を防ぐ新たな措置を発表した。それによると、過去14日以内に中国を訪れた外国人は、アメリカ国内に親族がいる場合を除き、アメリカへの入国が禁止される。また、過去14日以内に中国・湖北省を訪れたアメリカ人は、帰国後14日間は隔離され、検疫が義務づけられる。世界的に航空会社の間で中国を結ぶ便の欠航を決める動きが加速し、アメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空の米大手3社が相次いで中国便の欠航を発表した。株価も暴落し、世界経済にも深刻な影響を与えつつある。中国の国家衛生健康委員会(NHC)は2月1日、コロナウイルスでの死者は46人増えて259人に、新規患者も2102人増え、中国の患者は1万1791人となったと発表した。しかし、この数字はあくまでも中国側の発表である。実際はゼロが1つどころか2つも少ないという声も。はたしてコロナウイルスはどこで発生し、どんな決着を迎えるのか。世界的な毒物研究の権威で、オウム真理教によるサリン事件解決に大きく貢献したコロラド州立大学名誉教授のアンソニー・トゥー博士(台湾名=杜祖健、カルフォルニア在住)に、緊急インタビューしてみた。
▲オウムの化学者、中川死刑囚に面会し本を出版
Q 今、世界中を戦慄させている新型肺炎コロナウイルスですが、その発生源についてさまざまな憶測が飛び交っています。中国の生物兵器を研究している元イスラエル軍情報官のダニー・ショーハム氏が、今回のコロナウイルスは「中国科学院武漢病毒研究所」から流出したと言っていますが。
杜博士(以下=杜) 私がアメリカ政府の依頼で生物兵器の情報を集めていたのは、1984年から2007年までの話です。その期間なら、各国の生物兵器の事情をよく知っていました。けど、今は分かりません。
Q 博士は武漢病毒研究所に行かれたことはありますか?
杜 漢口・漢陽・武昌の3都市が合併して今の武漢市になったんですが、漢口は昔から毒素の研究が盛んだったところです。私は1989年に中国科学院武漢病毒研究所に招かれて講演する予定でした。ところが、天安門事件が起きたので、結局、行くことができなかった。
【天安門事件】1989年4月、中国共産党の胡耀邦・元総書記が死去した。改革派指導者だった胡氏を追悼しようと北京の天安門広場に多数の学生・市民が集まったことがきっかけになって、民主化を求める大規模な運動に発展する。鄧小平率いる党指導部は「動乱」と断じ、6月3日夜から4日未明にかけて人民解放軍を投入して広場を武力で制圧、多くの死傷者が出た。当局は死者を319人と発表したが、2017年に機密指定が解除されたイギリスの外交文書によると、死者は少なくとも1万人に上る。
Q 武漢病毒研究所はBSL-4(バイオセーフティーレベル4、「レベル4」とも呼ばれる)、つまり致命的レベルのウイルスを扱うことができる研究所と言われていますね。
杜 私が2005年に北京の生物兵器研究所で講演したときには、やっとBSL-3が出来たばかりでした。武漢病毒研究所でBSL-4の研究設備が完成したのは2015年です。今なら一番危険な研究はできるわけです。ただ、私が中国に最後に行ったのは2005年なので、最新の中国事情はよく分かりません。おそらく、アメリカ政府は詳細を把握しているでしょうけど……。
【BSLとは】生物学的安全レベルのことで、1から4までのランクがある。ラボの作業員や環境に潜在的な脅威を与える可能性がもっとも低いのがBSL-1で、成人に感染する脅威がほとんどない。BSL-2は、中程度の健康被害を引き起こす病原生物または感染症生物(ウマ脳炎ウイルス、HIV、黄色ブドウ球菌)に関連する薬剤を扱う。BSL-3は、吸入することで重篤か致死的な病気を引き起こすウイルスや細菌(黄熱病や西ナイルウイルス、結核)を扱う作業を行っている。そして、エボラ出血熱のような潜在的に致命的な感染因子を扱い、その生体封じ込めることができる研究施設で、厳しいレベルのBSL-4に指定される。ちなみに、日本で最初のBSL-4ラボは1981年に建設されたが、安全上の理由から2015年まで低リスクの病原体のみで運用されていた。
【武漢病毒研究所への警告】中国国外の科学者たちは2017年、危険なウイルスが実験室から逃げる可能性があると警告していた。ラトガース大学(ニュージャージー州)の分子生物学者、リチャード・エブライト氏は、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスは北京の「高レベルの封じ込め施設」から何度も流出していたと指摘する。
Q 今回のコロナウイルスが生物兵器だという可能性はあるのでしょうか?
杜 クロム・バイオセーフティ・バイオセキュリティ・コンサルティング(メリーランド州)の創始者、ティム・トレバン所長の話によると、今回の武漢での事件は生物兵器と関係がないと言っています。
Q トゥー博士も生物兵器ではないとの考えですか?
杜 そうですね。生物兵器は「兵器」としてあまり有用ではない。生物にとっては、どこが国境か分からないからです。つまり、どんどん生物兵器の感染が広がると、標的だけではなく、使用した側も感染してしまうかもしれない。だから、生物兵器を大量につくるのはどうでしょうか。兵器としては価値がないのは確かですから。
もし大量に使う場合は、使う方が前もってワクチンや抗毒剤を準備しないといけません。天然痘は伝染力が強いので生物兵器として使われる可能性が高いといわれています。だから、どの国もワクチンを準備している。また炭疽菌はアメリカで実際に使われ、被害が大きかった。それで特殊な場合にかぎって、生物兵器が使われる可能性が大です。化学兵器は効果が局地的ですが、つくるのがたやすいので、すぐに使える。大量に使えば、これも大きい効果を出すのです。
Q 生物兵器はともかく、コロナウイルスが武漢病毒研究所から流出したという可能性は?
杜 私個人の憶測ですが、武漢病毒研究所で少量のコロナウイルスを培養していて、それが何らかの原因で外部に流出したことは考えられないことではありません。
Q 過去に生物兵器の研究所から毒物が流出した例は?
杜 旧ソ連でありました。スべルドロフスクの事故が有名でしょう。生物兵器研究所から炭疽菌が漏れて大被害が出たんです。
【スベルドロフスクの惨事】旧ソ連時代の1979年4月、モスクワの東1400キロにあるスベルドロフスクの生物兵器研究所で炭疽菌の漏出事故が発生、周辺住民 96 名が感染、うち66名が死亡した。事故発生当初、ソ連政府は炭疽菌が家畜由来だと説明していたので、野良犬がすべて住民たちによって撃ち殺されたという。
Q 旧ソ連や中国以外で同じような事故は起きていますか?
杜 台湾の国防部(国防省)が管轄する国防医学院予防医学研究所には、最新設備のBSL-4があります。この研究所でSARS(重症急性呼吸器症候群)を培養していたんですが、これが外部に漏れる事故が起きた。2003年に中国でSARSが大流行した後のことです。幸い事故直後にすぐにコントロールできたので、大きな被害に至りませんでした。
【台湾のBSL-4】台湾には研究所国防医学院予防医学研究所を含め2カ所のBSL-4ラボが存在する。
Q そういう事故があったとは知りませんでした。
杜 一般の台湾人も、この事故のことを知らないでしょう。しかし、私はこの研究所に何回も足を運んだので知っているのです。予防医学研究所が正式の名称ですが、実際は生物兵器研究所です。内政部(内務省)にもよく似た名前の研究所が汐止にある。日本が統治していた頃、台北帝国大学に付置された熱帯医学研究所でした。戦後は私の父(杜聡明)が所長になっています。もちろん、この研究所は軍事とはまったく関係がありません。
▲杜聡明博士
【杜聡明】杜祖健博士の父親。台湾で初めて博士号(医学博士・京都大学)を取得した医学者で、「台湾医療界の父」と呼ばれる。戦後は国立台湾大学医学院教授などを歴任後と、高雄医学大学の設立にも参画して台湾医学の発展に大きく貢献した。
Q そうでしたか。いろいろと興味深いお話を伺いました。有難うございます。
(このインタビューは2月1に行われました。)
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