【連載】腹ふくるるわざ（61）
ヒゲソリ
桑原玉樹（まちづくり家） 
「もったいない」
ひげをそりながらふと考えた。
「このヒゲソリ。もう２か月は使っているなー」
実はこのかみそりは、ゴルフ場で勝手に頂いてきたものだ。10数年前だろうか。ある日、ゴルフのプレーが終わった後の風呂上り。洗面台に使い捨てひげそりがあることに改めて気が付いた。
普段、夕方にはひげを剃らないが、試しに使ってみた。なかなか具合が良い。２枚刃でヘッドには滑らかさを出すためのスムーサーも付いているうえに上下に首振りもする。こんなにそり心地がいいのを使い捨てにするのは「もったいない」。
ということで、持ち帰って翌日使った。「まだまだ使える」と使い始めたが、次のゴルフに行くまで、ゆうに1か月は当初のそり心地を維持している。そんなことからゴルフに行くたびに風呂でヒゲソリを無断拝借することが常習化した。
私のヒゲソリ歴
思えば、ヒゲソリを始めたのは何歳の時だろう。20代半ばにシックの替え刃式スーパーⅡを使い始めたことは記憶している。以来50代まで30年間は同じ種類をひたすら使っていた。
ところで旅行や出張に行くと旅館やホテルには使い捨てヒゲソリがあった。50年前には１枚刃で滑らかさを出すスムーサーもついてなかったし、首振りもなかった。そのためカミソリ負けして口の周りはヒリヒリしたものだ。何度使ってもその度にカミソリ負けするので使うのは止めた。
その思い出があるので、ゴルフ場の使い捨てヒゲソリもおそるおそる使い始めたのだが、こんなに剃り味が向上しているとは、思いもしなかった。以来、10数年ゴルフ場風呂場のヒゲソリを無断拝借しては自宅で使い続けている。
▲私のヒゲソリ履歴。若いころは①、旅行先では②、そして今は③
古代のヒゲソリ
古代人はどうしていたのだろう。検索したら、相当昔からヒゲソリはあったようだ。石器時代には黒曜石、貝殻、サメの歯のヒゲソリが、また古代エジプトでは金や銅、青銅器のヒゲソリがあったという。
日本には538年に僧侶の剃髪のための法具として伝わったので、文字通り「髪剃り（かみそり）」と呼ばれるようになったとか。
▲古代のヒゲソリ
中世ヨーロッパでは床屋は外科医を兼ねていた。床屋が客のひげを剃っていたが、客も怖かっただろう。床屋の赤青白の縞模様がグルグル回る看板（サインポール）の起源には「瀉血説」というのもあるが、赤青白は動脈と静脈と包帯を表すという説もある。
床屋の過失による流血騒ぎもあったことだろう。私も床屋の親父の震える手でひげを剃られるのが怖くて息をひそめて時間が過ぎるのを待っていた。最近では格安床屋に行くのでその恐怖を味わうことは無くなった。
替刃は80％が１か月以上使っている
さて私は、使い捨てヒゲソリですら１か月は使うが、一般的にはどうなのだろう。ヒゲソリメーカーである貝印㈱のホームページによると、こう記載されている。
〈鋼製刃の場合はサビやすいので毎回取り換えてください、ステンレス刃の場合は一概に何回と限定することはできません（２日で替えられる方、1ヶ月持たせる方色々です。）〉
〈あるアンケート調査によれば、８割以上の人が最低でも１ヶ月は替刃を変えずに使用しているということになります。これは理想の替刃交換サイクルでしょうか。〉〈条件がさまざま異なるので、一概に正解とは言い切れませんが、貝印㈱では「２週間」を目安に替刃交換を推奨しています。〉
私はケチな方かと思ったが、そうでもないようだ。メーカーが勧める２週間より長いが、人並みでちょっと安心した。ところで、私と同じように「もったいない」とゴルフ場の使い捨てヒゲソリを愛好する方はいないだろうか？
▲替え刃交換の頻度。貝印㈱のHPにあるデータを元に作成
【桑原玉樹（くわはら たまき）さんのプロフィール】
昭和21（1946）年、熊本県生まれ。父親の転勤に伴って小学校７校、中学校３校を転々。東京大学工学部都市工学科卒業。日本住宅公団（現（独）ＵＲ都市機構）入社、都市開発やニュータウン開発に携わり、途中２年間ＪＩＣＡ専門家としてマレーシア総理府のクランバレー計画事務局に派遣される。関西学研都市事業本部長を最後に公団を退職後、㈱千葉ニュータウンセンターに。常務取締役・専務取締役・熱事業本部長などを歴任し、平成24（2012）年に退職。現在、南山小学校区まちづくり協議会会長、印西市まちづくりファンド運営委員、社会福祉法人皐仁会評議員、「しろいダーツの会」会長。
