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日産とホンダの経営統合の衝撃 【連載】頑張れ!ニッポン⑯

2024-12-26 05:30:39 | 【連載】頑張れ!ニッポン

【連載】頑張れ!ニッポン⑯

日産とホンダの経営統合の衝撃

 

釜原紘一(日本電子デバイス産業協会監事)

 

 

想定を超えた両社の統合

 日産とホンダが経営統合するとのニュースには正直なところ少々驚いた。元々自動車メーカーが多すぎると感じてはいたが、ナンバー2とナンバー3が一緒になるとは想定を超えるものだった。背景に台湾の電機大手「鴻海」が日産の買収を検討している事があると伝えられているが、さもありなんと思う。
 日産の時価総額(1兆1717億円)が企業の規模から見て非常に少ない事に目を付けられたのか。一般に日本企業の時価総額が少なく、うかうかしていると買収される恐れは十分あるのではないか。
 セブンイレブンもカナダのスーパー大手から買収提案を受けている。他の企業もいつ何時買収されるか分かったものではない。買収されずに済んでいるのは企業の事業に興味が無いからで、魅力を感じたら外資はためらうことなく買収に動くだろう。
 さて、日産は最近業績不振で経営立て直しに思い切った手を打たなければならないと言われていた。だが、日産に限らず、日本の自動車メーカーは100年に一度と言われている動乱期にあり、将来の展望に大いに不安があると言わざるを得ない。        

▲日産本社(ウィキペディアより)

▲ホンダ本社(ITMEDIAより)

 

ソフトウエア定義型車両の遅れ

 今や自動車の世界は、従来のガソリン・エンジン車からEV(電動車)へと切り替わる事による「パラダイムシフト」が起こりつつあるのではないか。トヨタは世界一の生産数を誇っているが、この変動期をうまく乗り越えられるだろうか。
 米国のテスラや中国のBYDがEV市場の先端を突っ走っており、日本勢が彼らに追いつけるか心配だ。トヨタは燃料電池車の開発なども手掛けており全方位作戦とか言っているが、そんな余裕があるのだろうか。

▲テスラのEV(MENSDRIP.comより)

▲BYDのEV(CARSCOOPS.comより)


 最近は中国を除き世界的にEV市場に急ブレーキがかかっているが、中長期的にはEVが自動車の主流になって行くことは間違いないだろう。EVは自動運転化との親和性が大きいと言われており、自動運転車などの開発においてはソフトウエアの比重が大きくなると見られている。
 だからグーグルやアップル、ソニーなどが自動運転をにらんで自動車市場への参入を表明したのだ。もっともアップルはその後撤退を表明したが。実はこのソフトウエアが日本の弱点であり、従来から指摘されている所であるが、改善の兆しが見られない。

 自動車ではSDVへの遅れが深刻だと半導体OB仲間のある技術者が言っていた。SDVとはSoftware Defined Vehicle (ソフトウエア定義型車両)のことである。これは自動車が従来のハードウエア中心の設計からソフトウエア中心の設計に移行する概念を示すものだ。
 車の多くの機能や特性が、部品などのハードウエアではなく、ソフトウエアによって制御、定義されるようになる。そして、そのソフトウエアにより車の新機能やバグの修正が無線を通じて可能だという事である。
 このことをOTA(Over-The-Air)でソフトウエアを更新するという。ソフトウエアによって車の性能や機能を変更・拡張ができると言うものである。日本勢も必死に開発強化をしているようだが、先行しているテスラ等の海外メーカーとの差を縮めるのは容易ではない。

安すぎる日本の技術者の給料

 大手の動きの他にベンチャー企業による自動運転技術の開発が期待されるところである。しかし、ベンチャーの開発では国内の規制がネックになっているとの話もよく聞く。自動運転開発で色々な試験が国内では規制されているので、ベンチャー企業の中にはわざわざ中国に出向いて試験をしている所もあるようだ。
 規制の為、日本では自動運転車はまだ一般道を走っていないが、中国や米国では既に一部地域では自動運転のタクシーが走っていると伝えられている。日本での動きは全ての点において遅いと言わざるを得ない。
 今回の日産とホンダの統合も異例の速さで進んでいるとの事だが、こんなのは世界水準では普通の事ではないだろうか。ドッグイヤーは何も半導体業界に限った話ではない。先端分野はみなドッグイヤーで物事は進んでいるのだ。
 ソフト開発の遅れはすぐには解決できないし、エンジニアはすぐには育てられない。インドあたりから優秀なソフトエンジニアをスカウトすればいいと思うのだが、日本のような給料の低い国には優秀な人材は来ないだろう。
 話が飛ぶが、日本の技術者の給料の低さは海外では驚きを以って話題になるらしい。ある半導体開発部長が言っていたが、アメリカ人と話していると「何故そんな安い給料で働いているの?」と驚かれるらしい。
 その人の仕事内容から見てもっと多い報酬を得ていると思っていたらしい。日本企業の人事制度ではエンジニアだけの待遇改善は難しいだろうが、何とかしないと優秀な人材が日本から出て行って仕舞わないかと心配だ。
「いや既にそれは起こっている、優秀な人材は既にアメリカ、シンガポールなどに出て行っており、日本に残っている人はポンコツばかりだ」
 そう極論する人もいる。まさかとは思うが、政治家やテレビのワイドショーのコメンテイターを見ると、「本当だー」と思ってしまう。

 

【釜原紘一(かまはら こういち)さんのプロフィール】

昭和15(1940)年12月、高知県室戸市に生まれる。父親の仕事の関係で幼少期に福岡(博多)、東京(世田谷上馬)、埼玉(浦和)、新京(旧満洲国の首都、現在の中国吉林省・長春)などを転々とし、昭和19(1944)年に帰国、室戸市で終戦を迎える。小学2年の時に上京し、少年期から大学卒業までを東京で過ごす。昭和39(1964)年3月、早稲田大学理工学部応用物理学科を卒業。同年4月、三菱電機(株)に入社後、兵庫県伊丹市の半導体工場に配属され、電力用半導体の開発・設計・製造に携わる。昭和57(1982)年3月、福岡市に電力半導体工場が移転したことで福岡へ。昭和60(1985)年10月、電力半導体製造課長を最後に本社に移り、半導体マーケティング部長として半導体全般のグローバルな調査・分析に従事。同時に業界活動にも携わり、EIAJ(社団法人日本電子機械工業会)の調査統計委員長、中国半導体調査団団長、WSTS(世界半導体市場統計)日本協議会会長などを務めた。平成13(2001)年3月に定年退職後、社団法人日本半導体ベンチャー協会常務理事・事務局長に就任。平成25(2013)年10月、同協会が発展的解消となり、(一社)日本電子デバイス産業協会が発足すると同時に監事を拝命し今日に至る。白井市では白井稲門会副会長、白井シニアライオンズクラブ会長などを務めた。本ブログには、平成6年5月23日~8月31日まで「【連載】半導体一筋60年」(平成6年5月23日~8月31日)を15回にわたって執筆し好評を博す。趣味は、音楽鑑賞(クラシックから演歌まで)、旅行(国内、海外)。好きな食べ物は、麺類(蕎麦、ラーメン、うどん、そうめん、パスタなど長いもの全般)とカツオのたたき(但しスーパーで売っているものは食べない)

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