はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 太陽の章 その47 しばしの別れ。そして女たち

2023年02月01日 09時53分30秒 | 英華伝 臥龍的陣 太陽の章


夏侯蘭はそのまま藍玉《らんぎょく》に背を向けると、隠れ家に置いていた自分の荷物をとって、樊城へと旅立った。
そうだ、あのひと、樊城への道のりはわかっているのかしら。

追いかけようと思ったが、嫦娥《じょうが》に声をかけられた。
「藍玉、わたしは屯所へ行こうと思う。おまえはどうする」
「もちろん、ご同道させていただきます」
「では、支度をおし。麋竺さまもご一緒されるそうだから。
それと阿瑯《あろう》に留守番を頼まないといけないね」

嫦娥というひとは、よく気の付くひとだと藍玉は感心する。
女たちが興奮しきっているのに対し、あくまで冷静だ。
どんな浮ついた空気にも同調せず、流されない。
だからこそ、逆に女たちは嫦娥を信頼しているのだ。

藍玉は、かんたんに身支度をすると、女たちの大群に目を白黒させている阿瑯に言った。
「悪いけれど、ちょっと留守にするわ。いい子で留守番できるわね?」
「もちろん。おれ、いい子にしているよ」

大きくうなずく阿瑯は、つづけてこんなことを言った。
「夏侯蘭のおじさん、行ってしまったね」
「そうね、ちょっと寂しいわ」
「おれもだよ。せっかく仲良くなったと思ったのになあ」
「でもね、なんだかこれっきりじゃない気もするのよ。
あのひとにまたどこかで会えそうな予感がしているの。わたしの予感はよく当たるのよ」

阿瑯は、へえ、と目を見開いた。
「それじゃあ、あんまり寂しくないね、ちょっとだね」
阿瑯のことばに藍玉は声を立てて笑った。
それから、夏侯蘭がさいごに浮かべた笑みを思い出し、また笑った。

笑うのが下手なひとだった。
またきっと、どこかで会えるだろう。
感傷的にはならない。
藍玉は自分の勘を信じていた。



太陽がはっきりと、その全貌を東の空から現したとき、部将のひとりが、息をきらせて陳到たちのいる屯所へ駆け込んできた。
何事かと陳到が問いただすと、こんなことを言った。
「女たちが、群をなして、こちらにやってまいります!」
「女だと、どこの女たちだ、わけがわからぬ。どういう意味だ」

陳到は屯所を出て、城市の大路を見遣った。
すでに城門でおこった騒ぎをよそに、いつもの朝の顔を取り戻しつつある町に、まるで似つかわしくない一群が、繁華街の一角から、ぞろぞろとやってくるのが見えた。
日の高さのなかにあって、その派手な姿が、むしろ哀れを誘う、夜の女たちである。

いや。
彼女らが単独ならば哀れと見えようが、それが数十人の行列ともなると、哀れどころではなく、じつに壮観であった。
女たちはみな、流行の服や髪型で全身を装っている。
しかし奇妙なことに、彩りも派手で、白粉の匂いをぷんぷんさせているにもかかわらず、賑やかにおしゃべりするでもなく、怒号をあげるでもなし、むしろ夜の商売用の陽気さを胸にしまって、全員が全員、よそ行きの顔で、屯所へやってくるのであった。

徐々にやってくる女たちの一行のなかの顔ぶれを見て、陳到は、おのれの策があたったことに、満足の笑みを浮かべた。

女たちは、衆目を一身にあつめつつも、堂々と大路を歩いてきた。
そうして、屯所の前でぴたりと足を止める。
だれかが
「一斉に、妓楼のつけの集金か?」
と冗談を飛ばしたが、笑うものはひとりもいなかった。
女たちの目はどれも真剣であった。


つづく


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さて、またもや鼻炎アレルギーをこじらせている、わたくし。
寝ているときに肩を冷やしたのがよくなかったようです;
鼻炎がひどいと生活の質が落ちる、落ちる!
みなさまもお気をつけくださいませね。



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