※
夏侯蘭はそのまま藍玉《らんぎょく》に背を向けると、隠れ家に置いていた自分の荷物をとって、樊城へと旅立った。
そうだ、あのひと、樊城への道のりはわかっているのかしら。
追いかけようと思ったが、嫦娥《じょうが》に声をかけられた。
「藍玉、わたしは屯所へ行こうと思う。おまえはどうする」
「もちろん、ご同道させていただきます」
「では、支度をおし。麋竺さまもご一緒されるそうだから。
それと阿瑯《あろう》に留守番を頼まないといけないね」
嫦娥というひとは、よく気の付くひとだと藍玉は感心する。
女たちが興奮しきっているのに対し、あくまで冷静だ。
どんな浮ついた空気にも同調せず、流されない。
だからこそ、逆に女たちは嫦娥を信頼しているのだ。
藍玉は、かんたんに身支度をすると、女たちの大群に目を白黒させている阿瑯に言った。
「悪いけれど、ちょっと留守にするわ。いい子で留守番できるわね?」
「もちろん。おれ、いい子にしているよ」
大きくうなずく阿瑯は、つづけてこんなことを言った。
「夏侯蘭のおじさん、行ってしまったね」
「そうね、ちょっと寂しいわ」
「おれもだよ。せっかく仲良くなったと思ったのになあ」
「でもね、なんだかこれっきりじゃない気もするのよ。
あのひとにまたどこかで会えそうな予感がしているの。わたしの予感はよく当たるのよ」
阿瑯は、へえ、と目を見開いた。
「それじゃあ、あんまり寂しくないね、ちょっとだね」
阿瑯のことばに藍玉は声を立てて笑った。
それから、夏侯蘭がさいごに浮かべた笑みを思い出し、また笑った。
笑うのが下手なひとだった。
またきっと、どこかで会えるだろう。
感傷的にはならない。
藍玉は自分の勘を信じていた。
※
太陽がはっきりと、その全貌を東の空から現したとき、部将のひとりが、息をきらせて陳到たちのいる屯所へ駆け込んできた。
何事かと陳到が問いただすと、こんなことを言った。
「女たちが、群をなして、こちらにやってまいります!」
「女だと、どこの女たちだ、わけがわからぬ。どういう意味だ」
陳到は屯所を出て、城市の大路を見遣った。
すでに城門でおこった騒ぎをよそに、いつもの朝の顔を取り戻しつつある町に、まるで似つかわしくない一群が、繁華街の一角から、ぞろぞろとやってくるのが見えた。
日の高さのなかにあって、その派手な姿が、むしろ哀れを誘う、夜の女たちである。
いや。
彼女らが単独ならば哀れと見えようが、それが数十人の行列ともなると、哀れどころではなく、じつに壮観であった。
女たちはみな、流行の服や髪型で全身を装っている。
しかし奇妙なことに、彩りも派手で、白粉の匂いをぷんぷんさせているにもかかわらず、賑やかにおしゃべりするでもなく、怒号をあげるでもなし、むしろ夜の商売用の陽気さを胸にしまって、全員が全員、よそ行きの顔で、屯所へやってくるのであった。
徐々にやってくる女たちの一行のなかの顔ぶれを見て、陳到は、おのれの策があたったことに、満足の笑みを浮かべた。
女たちは、衆目を一身にあつめつつも、堂々と大路を歩いてきた。
そうして、屯所の前でぴたりと足を止める。
だれかが
「一斉に、妓楼のつけの集金か?」
と冗談を飛ばしたが、笑うものはひとりもいなかった。
女たちの目はどれも真剣であった。
つづく
※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます(^^♪
そして、ブログランキング及びブログ村に投票してくださっているみなさまも、大感謝です!
さらには、たくさんのサイトのウェブ拍手ありがとうございました(*^▽^*)
とても励みになります!
お返事は、今週末に更新する近況報告にてさせていただきますv
さて、またもや鼻炎アレルギーをこじらせている、わたくし。
寝ているときに肩を冷やしたのがよくなかったようです;
鼻炎がひどいと生活の質が落ちる、落ちる!
みなさまもお気をつけくださいませね。
夏侯蘭はそのまま藍玉《らんぎょく》に背を向けると、隠れ家に置いていた自分の荷物をとって、樊城へと旅立った。
そうだ、あのひと、樊城への道のりはわかっているのかしら。
追いかけようと思ったが、嫦娥《じょうが》に声をかけられた。
「藍玉、わたしは屯所へ行こうと思う。おまえはどうする」
「もちろん、ご同道させていただきます」
「では、支度をおし。麋竺さまもご一緒されるそうだから。
それと阿瑯《あろう》に留守番を頼まないといけないね」
嫦娥というひとは、よく気の付くひとだと藍玉は感心する。
女たちが興奮しきっているのに対し、あくまで冷静だ。
どんな浮ついた空気にも同調せず、流されない。
だからこそ、逆に女たちは嫦娥を信頼しているのだ。
藍玉は、かんたんに身支度をすると、女たちの大群に目を白黒させている阿瑯に言った。
「悪いけれど、ちょっと留守にするわ。いい子で留守番できるわね?」
「もちろん。おれ、いい子にしているよ」
大きくうなずく阿瑯は、つづけてこんなことを言った。
「夏侯蘭のおじさん、行ってしまったね」
「そうね、ちょっと寂しいわ」
「おれもだよ。せっかく仲良くなったと思ったのになあ」
「でもね、なんだかこれっきりじゃない気もするのよ。
あのひとにまたどこかで会えそうな予感がしているの。わたしの予感はよく当たるのよ」
阿瑯は、へえ、と目を見開いた。
「それじゃあ、あんまり寂しくないね、ちょっとだね」
阿瑯のことばに藍玉は声を立てて笑った。
それから、夏侯蘭がさいごに浮かべた笑みを思い出し、また笑った。
笑うのが下手なひとだった。
またきっと、どこかで会えるだろう。
感傷的にはならない。
藍玉は自分の勘を信じていた。
※
太陽がはっきりと、その全貌を東の空から現したとき、部将のひとりが、息をきらせて陳到たちのいる屯所へ駆け込んできた。
何事かと陳到が問いただすと、こんなことを言った。
「女たちが、群をなして、こちらにやってまいります!」
「女だと、どこの女たちだ、わけがわからぬ。どういう意味だ」
陳到は屯所を出て、城市の大路を見遣った。
すでに城門でおこった騒ぎをよそに、いつもの朝の顔を取り戻しつつある町に、まるで似つかわしくない一群が、繁華街の一角から、ぞろぞろとやってくるのが見えた。
日の高さのなかにあって、その派手な姿が、むしろ哀れを誘う、夜の女たちである。
いや。
彼女らが単独ならば哀れと見えようが、それが数十人の行列ともなると、哀れどころではなく、じつに壮観であった。
女たちはみな、流行の服や髪型で全身を装っている。
しかし奇妙なことに、彩りも派手で、白粉の匂いをぷんぷんさせているにもかかわらず、賑やかにおしゃべりするでもなく、怒号をあげるでもなし、むしろ夜の商売用の陽気さを胸にしまって、全員が全員、よそ行きの顔で、屯所へやってくるのであった。
徐々にやってくる女たちの一行のなかの顔ぶれを見て、陳到は、おのれの策があたったことに、満足の笑みを浮かべた。
女たちは、衆目を一身にあつめつつも、堂々と大路を歩いてきた。
そうして、屯所の前でぴたりと足を止める。
だれかが
「一斉に、妓楼のつけの集金か?」
と冗談を飛ばしたが、笑うものはひとりもいなかった。
女たちの目はどれも真剣であった。
つづく
※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます(^^♪
そして、ブログランキング及びブログ村に投票してくださっているみなさまも、大感謝です!
さらには、たくさんのサイトのウェブ拍手ありがとうございました(*^▽^*)
とても励みになります!
お返事は、今週末に更新する近況報告にてさせていただきますv
さて、またもや鼻炎アレルギーをこじらせている、わたくし。
寝ているときに肩を冷やしたのがよくなかったようです;
鼻炎がひどいと生活の質が落ちる、落ちる!
みなさまもお気をつけくださいませね。