宮沢章夫『きょうはそういう感じじゃない』これが最後のエッセイになるのかと思うとさみしい。
その喪失を埋めてくれる津村記久子。『水車小屋のネネ』も人気だが、彼女の良さがにじむ『うどん陣営の受難』を。
さらにこの系譜を継ぐ者として永井玲衣『世界の適切な保存』を挙げたい。『水中の哲学者たち』は哲学エッセイなのに穂村弘も香る。去年出会った期待の人。
穂村弘『短歌のガチャポン』『しびれる短歌』この人の言葉遣いが好き。
短歌と言えば初谷むい『わたしの嫌いな桃源郷』 グッモーニン人生どうでも飯田橋人生どうにか鳴門大橋 徳島の人はどう感じるでしょうか。
そして、岡本真帆『水上バス浅草行き』 ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし 傘の周りの風景が立ち上がります。
原田ひ香『口福のレシピ』『ランチ酒』『古本食堂』お酒と食べものを書くのが本当にうまい。もうこの人の本は全部読もう。
食べものつながりで坂井希久子『たそがれ大食堂』現代小説もうまい。
山本文平『本売る日々』しみじみと良い。
「夜と霧」という素敵なバーがありますが、そのつながりで読んだ諸富祥彦『フランクル夜と霧』が心に響く一冊でした。
伊藤亜紗『「利他」とは何か』土井善晴『料理と利他』 中島岳志『思いがけず利他』利他はなかなかに興味深いです。
ヨシタケシンスケ『メメンとモリ』『日々憶測』鈴木のりたけ『大ピンチずかん』『しごとば』が楽しい。
矢部太郎は大家さんも良いし『プレゼントでできている』もおすすめ。
まど・みちお/ましませつこ『くまさん』ありがとう
2023年 良い年でありますように
そして このブログもどうぞよろしくお願いいたします。
昨年の読書からピックアップ
平田オリザ『わかりあえないことから』『22世紀を見る君たちへ』時に未来のことも考える。
寺地はるな『ビオレタ』寺地作品で一番笑えます。『今日のハチミツ、あしたの私』も良い。
ヨシタケシンスケ『みえるとかみえないとか』 『手の倫理』を書いた伊藤亜紗と「そうだん」して作られた本。
夏川草介『本を守ろうとする猫の話』古式ゆかしい文章と古本屋とファンタジー。
原田マハ『旅屋おかえり』原田ひ香『三千円の使いかた』どちらの原田さんも良かった。
金間大介『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』今の大学生への共感とエール。
宮田珠己『日本全国津々うりゃうりゃ』デビューの頃の椎名誠をやや斜めにしたような味わい。
『だいたい四国八十八カ所』を読んでお遍路さんへの憧れが募る。
堀江敏幸『オールドレンズの神のもとで』堀江さんの本を読むと眠くなるという人がいるが、これは短篇集なので心配ない。
森見登美彦『四畳半タイムマシンブルース』森見さんのお話は、事件が起こらないと不満をもらす人がいるが、
この作品は、上田誠の戯曲『サマータイムマシン・ブルース』とのコラボになっており、ちゃんと事件が起こるので心配ない。
短歌が豊作でありました。
斉藤斎藤『渡辺のわたし』責任ある地位の男と呼び出して詰め寄っても詰め寄っても支店長
本多真弓『猫は踏まずに』ぶらんこの真下の土は削られる運命だけどあきらめちゃだめ
木下龍也『オールアラウンドユー』『あなたのための短歌集』 雪だったころつけられた足跡を忘れられないひとひらの水
2022年 良い年でありますように
2021年 私が楽しく興味深く読んだ本です。
「新章 神様のカルテ」夏川草介 医師としてお忙しい中、新しい作品を紡いでくれたことに感謝です。
「春情蛸の足」田辺聖子 食べ物を上手に書くことへの憧れ。小川糸の解説がまたいい。
「エール!3」伊坂幸太郎他 働く女性のオムニバス。三部作。
この本に出てきた「リーダーを目指す人の心得」コリン・パウエル(米国務長官だった人)の本も読んでしまった。こうやって読書がつながるのはとても楽しい。
「和食の歴史」原田信男 相変わらず食べ物の本ばかり読んでいますが、これは中々ためになる本でした。
「蕎麦湯が来ない」せきしろ×又吉直樹 おなじみの二人の自由律「授業の時はやさしい顧問」なんにもすることがない昼下がりに。
「松尾芭蕉 おくのほそ道」長谷川櫂 この本を読んでから3年生の授業がしたかった。まだチャンスはあるかな。
「なずな」堀江敏幸 この人の本をよむと眠くなる人は多いが、この本はいけるかも。子育て日記。
「居酒屋ぜんや」坂井希久子 江戸のおいしいもの。
「水を縫う」寺地はるな 去年の高校入試に頻出した1冊。「大人は泣かないと思っていた」「夜が暗いとはかぎらない」もいい。入試に出したくなる文章。
ちなみに説明文では「知的創造の条件」吉見俊哉がたくさん出題された。関係者はびっくりしたろうな。
「烏に単は似合わない」阿部智里 横浜の先生のオススメ。子どもたちにも薦めたい。
「天涯の海」車浮代 お寿司を支えたミツカンのお話。又左衛門が大河にならないかな。
食べ物のうまいまずいをとやかく言う人の少ない時代に、
とやかく言う人の話。
小川糸の解説がいい。
自分で料理を作るのも楽しいけれど、やっぱりこういう時は、誰かに作ってもらった方が嬉しい。
作ってくれる人が親しい人なら、そこには愛情がたっぷり入るから、それが心の栄養にもなる。
本当に美味しい物をいただくと、体中の細胞が一つ残らずバンザイをするのだ。
自分は今生きているのだ、ということを百パーセント実感できる。
今すぐ、そんな生きる喜びを味わいたい。
食べるという営みを大事にするということを
作家は掬い取って文章にする。素晴らしい。
内田百閒の『御馳走帖』を読む。
蕎麦屋は近所の中村屋で、別にうまいも、まづいもない、ただ普通の盛りである。続けて食ってゐる内に、段段味がきまり、盛りを盛る釜前の手もきまってゐる為に、箸に縺れる事もなく、日がたつに従って、益うまくなる様であった。うまいから、うまいのではなく、うまい、まづいは別として、うまいのである。
たかが盛りの一杯や二杯の為に、何もそんな事をしなくても、ここいらには、名代の砂場があるとか、つい向うの通に麻布の更科の支店があるではないかなどど云われても、そんなうまい蕎麦は、ふだんの盛りと味の違ふ点で、まづい。八銭の蕎麦の為に五十銭の車代を払って、あわてて帰る事を私は悔いない。
おいしい をしみじみと考える。
文章が私を思わぬところへ連れていってくれるときに、私はまだ大丈夫だと思う。
本を読むという功徳が、私に近しくあることが私を安堵させるからだ。
うまい、まづいは別として、うまいのである。
百閒先生には、まだまだ遙か遠いけれど。
2020年 良い年でありますように
「神様のカルテ」夏川草介 今年一番の出会い。ご自身も医師である作者の病院を めぐるお話。いつか舞台の信州へ行きたい。
森見登美彦の香りもあって。無印.2.3.0という順番で刊行されています。
「このあいだに なにがあった?」佐藤雅彦 今年の小学校教科書に載ります。子どもが喜びます。
「れんげ野原のまんなかで」森谷明子 穏やかな図書館のお話。俳句甲子園を題材とした「春や春」もいいです。
「なつみはなんにでもなれる」ヨシタケシンスケ 今年一番の絵本。保育士を目指す学生に読み聞かせました。
「日本の同時代小説」斎藤美奈子 現代小説の歴史を読みます。青春の読書が蘇ります。「文庫解説ワンダーランド」もふざけていて楽しい。
「悩ましい国語辞典」神永曉 辞書編集者の苦悩が胸を打ちます。
「配色アイデア手帳 日本の美しい色と言葉」桜井輝子 時間にゆとりがあるときにぼんやりと眺めるのにいい本です。
「人工知能の核心」羽生善治 羽生さんはとても熱心にAIのことを研究されています。心の通ったAIの本としてぜひ。
「カーヴの隅の本棚」鴻巣友季子 ワインと翻訳のお話。大人の文章。同じ時代にワインを飲んできた人の心を揺さぶります。続編「熟成する物語たち」も。
「高校生と考える21世紀の論点」穂村弘 土井善晴ほか 教科書とは違った魅力の教科書のような本。古川日出男の文章も久方ぶりに堪能。
「とにかくおうちに帰ります」津村記久子 冒険小説もあり。この人の力の脱けた感じが好き。
この1年、本ブログをご愛顧頂き、まことにありがとうございます。
昔には考えられなかったほど、たくさんの方がご覧くださっていて嬉しいです。
来年もカレーを食べながら、東京に通います。
今年同様、良いご縁に恵まれますように。
2019年 良い年でありますように
昨年読んで、良かったと思う本です。
「算法少女」遠藤寛子 背筋がしゃんとする本。数学の先生はぜひ。
「BAR追分」伊吹有喜 近頃はこういう温かい本がいいんだなあ。
「勇者たちへの伝言」増山実 阪急ブレーブスを覚えていますか。砂川のいわた書店で教えていただいた一冊です。
「具体と抽象」細谷功 物事の道理がわかる一冊。
「おいしそうなしろくま」柴田ケイコ 今年一番笑った絵本。家族でゆっくり読みましょう。
「バー・リバーサイド」吉村喜彦 こういうBARでお酒を飲みたい。
「夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業」
もしあなたが俳句を指導する立場の人ならば必読です。もと中学校の国語の先生。親近感。
「桜前線開架宣言」山田航 穂村弘以降の歌人が満載。近代短歌を教えてるあなたに。
「ゴールデンカムイ」野田サトル
停電の時、この漫画を一気読みしました。日が落ちて暗くなり、本が読めなくなっていく。そういえば昔はよく停電したなあ。「いとしいたべもの」森下典子 六十前後の人々はしみじみと読めますよ。
「ダイオウイカは知らないでしょう」西加奈子&せきしろ 穂村さんも登場して得した気分。千乃さんのお薦め。
「ヤッさんⅢ」原宏一 場内は豊洲に移って立派になりました。でもヤッさんの舞台は今も築地です。また築地で飲みましょう。
1970年以降に生まれた歌人の短歌集。
大松達知 松木秀 しんくわ 岡崎裕美子
見えますか 食べ物を出しっぱなしのテーブル あれが北海道です 雪舟えま
信長の愛用の茶器壊したるほどのピンチと言えばわかるか 笹公人
面白い人がたくさん。
2018年 良い年でありますように
「蚊がいる」穂村弘 新聞の連載で穂村さんを見かけたという人もいるかも。
あの時代に同じ札幌の空気を吸っていたと考えると、思い入れも一入。
「羊と鋼の森」宮下奈都 羊と鋼はある楽器を表しています。北国の味わいも。あとは読んでのお楽しみ。
「台所のラジオ」「電球交換士の憂鬱」吉田篤弘 この人と同じ時代に生きている幸福。しっくりくる日本語。
「絵巻じたて ひろがるえほん かわ」加古里子(かこさとし、は男性)昨年のリンドバーグに続く値の張る絵本。
一度目は普通に読みます。いつかは広い部屋で、全部広げて読みたい本です。
「閉店屋五郎」原宏一は築地を舞台にした「ヤッさん」の著者。男の哀愁感じます。
「食卓一期一会」長田弘 筆頭の「言葉のダシのとりかた」に始まって料理好きがワクワクするような詩がいっぱいです。
「都市と野生の思考」鷲田清一 山極寿一 日本の頭脳といえる二人の対談。
難しいことを易しい言葉で述べるってこういうことなんだろう。
「長くなるのでまたにする。」宮沢章夫 この人の文庫本を少しずつ読んで笑いを噛みしめる。
周りにあんまり人がいないときに。
「アンソロジー カレーライス!!」池波正太郎ほか 著名な作家がカレーにみせる執着が頼もしい。本の紙までカレー色。
本年も当ブログをご贔屓に。