
おじさんたちは静かに揺られ。

My funny Valentine
Sweet comic Valentine
You make me smile with my heart
Your looks are laughable
Unphotographable
Yet you're my favourite work of art
Is your figure less than Greek
Is your mouth a little weak
When you open it to speak
Are you smart?
But don't change a hair for me
Not if you care for me
Stay little Valentine stay
Each day is Valentine's day
Is your figure less than Greek
Is your mouth a little weak
When you open it to speak
Are you smart?
But don't you change one hair for me
Not if you care for me
Stay little Valentine stay
Each day is Valentine's day
彼女の声は,マイルスのラッパに心地よくなじんだ。
歌い終わった彼女に,心の中で拍手を送っていると,
彼女がまっすぐこっちを見て言った。
「好きな音楽を聞けば,その人のことがわかるわ。音楽は,人の心を映すものだから」
MILES DAVISは,次の一曲を吹きはじめる。
そんな僕が,今まで一度だけ自分の興味に後押しされて聴いた曲がある。
スタートは「BERNARD GIRARDIN」
アーティストの名前でも曲名でもない。
お酒の名前なんだよ。そう今飲んでいるこのお酒から話は始まるんだ。
近所の酒屋の若旦那が,「とびっきりにうまい」といういつものせりふで,
冷蔵庫から取り出してくれたのが,これなんだ。
ラベルに楽譜が見えたから,ちょっといいなあ,とは思った。
そう,音楽の好きな人に贈ったり,とかね。
雰囲気はクラシックの楽譜のような,落ち着いた感じでね。試しに買ってみたんだよ。
悪くなかった。上品な感じでね。ラベルのイメージ通りだった。
それで,この楽譜のことが気になったんだ。「何の曲だろう?」って。聴いてもいない曲だけれど,
初めて,その曲を調べてみようと思ったんだ。
意気込んでパソコンに向かったけれど,本当にあっさりと分かってしまった。
「BERNARD GIRARDIN」と,打ち込んでおしまい。
この曲は, 「My funny Valentine 」という名前なんだと,すぐに決着がついた。
かつて、音楽家を目指していたがその夢がかなわず、父のあとを継ぐ
ことにしたというサンドリーヌ。ラベルに印刷された楽譜は、その思
いを残したもので、楽譜の曲は「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。
ベルナール・ジラルダンはどういうタイプのシャンパンかという質
問に対して、「音楽に重ねていうわけではないが」と断りながらも「ア
ッサンブラージュは、ハーモニーをうみだすことです。私のシャンパ
ンの個性は、あたたかみがあり、香りとフルーティーさが印象に残る
ところ」とのこと。 なるほど。
そのあとCDも買った。MILES DAVISという人が物憂い(もちろん悪くないんだよ)ラッパを吹いていた。
僕の調査はわずか1週間ばかりで終わってしまったのだ。
僕はその曲を何度も聴いた。その物憂いラッパを僕は少しだけ好きになったかもしれない。
また,新しい2回目のデートが始まる。彼女が僕の車に滑り込む。
車内に流れるMILES DAVISからいつもとは違う展開が始まる。
「MY FUNNY VALENTINEね。久しぶり。」彼女が言う。
「私はカーメンマクレエの歌も好きよ。」
歌? 歌詞があるのか?
「そうだね。」とりあえず答えながら,「カーメン マクレエ……」と,初めての名前を呟いてみた。
「思い入れがあるのね。MY FUNNY VALENTINE」
「ねえ,今,歌える?」
彼女はちょっと迷ってから,曲の頭を出して静かに歌い出した。
「どんな音楽を聴くの?」
2回目のデートの後半くらいに顔を出すセリフだ。
そら,来た。と思いながら,僕はかねてから,だれかに一度尋ねてみたいと思っているせりふを飲み込む。
「いったい人はどうやって,自分の好きな音楽を決めるのだろうね。」と。
もちろん,今まで一度だってそんふうに言ったことないけれどね。
なにしろまだ2回目のデートの後半だから。日が浅いんだよ。
もちろん1年付き合ったとしても,そんなこと訊かないけれど。
だってみんなは,「人には好きな音楽があるものだ」って信じきってるから。
とにかく僕はそんなとき,こういう風に逃げることに決めている。
「ねえ,君はどんな音楽を聴くの?」
帰ってくる答えはいろいろ。
ビートルズ,サザン,コルトレーン,ハナレグミ,モーツァルト,エンヤ,福山雅治,サイモン&ガーファンクル,フィルコリンズ,ELT,アヴリル・ラヴィーン,中島みゆき,チャクラ,などなど。
ねえ,「チャクラ」なんてグループを知ってるかい?日本人のグループだよ。僕? 僕は彼らのアルバムを2枚持っている。しかも一枚はアナログのLPだよ。どんなって?「福の種を蒔こう~」なんて歌ってるのさ。
僕が好きなんじゃないんだ。僕は今まで一度もだれかの,特定の音楽を好きになったりしたことはない。僕が好きになったのは,「チャクラが好きだった女の子」なんだ。
「おまえはどうしてそんなに節操がないんだ。」
高校の同級生だった長尾ちゃんの顔が浮かぶ。
「なぜ,ハマショーの次がプラスティックスなんだ。おまえには主義,主張,男の意地というものがないのか。」
「音楽に主義主張は持ち込まないんだ」さらりとかわしたつもりだったけれど,本当はオフコース命の長尾ちゃんがうらやましくもあった。
そんなわけで,僕は「誰かが好きな音楽」をとても丁寧に聴く。どんなアーティストだって,デモテープだって,その子のために一曲一曲真摯に聴く。小さな女の子の髪を梳くみたいにね。それに僕は,音楽のジャンルで人をジャンル分けしたりしないんだ。なにしろ好き嫌いがないからね。
だから,僕は「その音楽」とも「その音楽を好きな誰か」ともうまくやっていくことができる。自分のお気に入りの音楽を好きになる男を,乙女は邪険に扱ったりしないものだからね。
そうして時はうまく流れていく。ちょうど11回目のデートくらいまではね。
12回目のデートの時,彼女は白いバスタオルで上手に体を隠しながらもう一度僕に質問する。
「ねえ,あなたはどんな音楽を聴くの?」
僕は嘘をつく。そうしていつも失敗する。僕はついこの間まで,心を込めて聴いていた曲の話をする。お察しの通り,それは前の彼女がとても愛していたアーティストであり,曲である。そうして僕の話は,なぜか完全に,今の彼女を怒らせることになっている。 不思議だ。
男の意地がないからだろうか?
えび天 もち天
ちく天 卵天
カレー
いくつかある巻物(論文)のうち、最上の物を一番上に置いたのだそうです。
他の巻を圧して一番。ゆえに圧巻なのだとか。
ぜひ行ってみて。
うどん家 こむぎ 西区八軒7条東4丁目 火曜休