つづき
ようやく、前半終了というとき、私は自然の木をセットに見立てたところにいた。
何枚か撮影していた時、後ろから声がした。
「フィルムいかがですかー!」
見れば、コ〇カのジャンパーを着た若いおねえさんだった。
ジャンパーから想像するに、コ〇カの社員かもしくは、関連会社の社員なのであろう。
手にさげたバスケットにはフィルムが山のように積んであった。
ここは山全体が公園であるのだが、フィルムが途中でなくなった場合、
入口ゲート近くの売店までいかなければならない。
主催者が我々カメラマンに便宜をはかってくれたサービスなのだ。
彼女たちはバスケットを手にセットを回っていた。
私のいたセットでは、私を含めてだれもフィルムを欲しがっている人はいなかった。
フィルム屋のおねえさんは、次のセットに移る時、チラッとモデルを見た。
やはり同じ女性として、ヌードモデルってどんな人なんだろう、とか
どんなことしてるんだろう、とか色々興味があったのではないのだろうか。
モデルをチラッと見ておねえさんは・・・目を伏せ失笑した。
「こんなことしてまでお金が欲しいの?」
とでも言いたいような感じだった。
モデルだって気がつかないわけがない。
男しかいないところに、突然若い女がやってきたのだから・・・
女性というものは、どうも同性の動きにはかなり敏感なようだ。
モデルはおねえさんの行動を見逃さなかった。
伏せた目を元に戻したとき、モデルはおねえさんをにらみつけた。
「やれるもんなら、あんた、やってみなよ」
とでも、言いたいように・・・・・
職業に優劣はないといっても、やはりヌードモデルであるという
ことはだれだって少し負い目があるものだ。
それにつけこんで、あからさまな軽蔑の眼差しをされれば、
彼女に限らずみんな頭にくる。
自分のような者でも必要とされている、というちっぽけなプライド
が彼女らの宝物なのだ。
だって、今現在我々のなかでは彼女は、輝いているのだから。
あっ、やばい、もうすぐ昼食だ。
急がないと、弁当をもらいそびれるかも。
昼食券付き前売り券を買ったのだが、なにぶんこんな人数だ、
何が起こるかわからない。
急ごう。
私は友人と待ち合わせの場所へと急いだ。
-- つづく --
*2015年 追記
現代のデジカメ時代とは違って、昔は個人ごとにお気に入りのフィルム
が決まっていました。
だから売りに来られても、そうそう売れるものではなかったのです。
私のお気に入りはコダックのエクタクローム100plus(通称EPP)。
コンビニで買えるものではなかったので、ガッツリ買い込んでいきました。
コダックのプロタイプのポジフィルムは13℃以下で保存しなければならなかったので、
冷蔵庫で保存していました。
「写真あるある」で、これでよく女房に怒られた、というのがあります。
フィルムがキムチ臭くなったり、納豆臭くなったんだよなぁ。
今でもプロタイプのポジフィルムの売り場に行くと、棚に冷気が出ていますよ。
フィルムは乳剤という有機物を使っていたので、レシピ通りに作っても、
品質に若干のバラツキがありました(特にコダックは大)。
ハズレは話しにならないくらいの品質ですが、アタリは雑誌にそのロット番号が紹介される
くらい、すばらしかったです。
でも、ほとんどプロが買い占めてしまったので、アマチュアにはまわってきませんでした。
フジはさすが日本のメーカーだけあって、ロットによるバラツキはありませんでした。