目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

山岳気象予報士で恩返し

2013-12-05 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

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『山岳気象予報士で恩返し 「山の天気屋さん」の毎日は、ヒヤヒヤ・ドキドキ』猪熊隆之(三五館)

竹内洋岳氏にヒマラヤの気象情報を提供していたことで有名になった猪熊氏の著作。最初のほうに出てくるお天気の話は、なるほどとうなづきながら勉強も兼ねて読んでみた。

たとえば、数値予報モデルがどんなものか。全球モデルは20Km四方を格子状に区切って、その1つの格子の中の気象のあらゆるデータの平均数値を算出し、周囲との数値を比較することで予報を行う。地域ごとの予報精度を上げるためには、メソモデルと呼ばれる5Km四方の数値を採用する。ただピンポイントの天気予報をするためには、それだけでは足りない。あくまでも格子の中の平均値なので、高度差が激しい山間部では、的外れな予想になってしまう。そこで地形をきちんと考慮に入れ、自分が雲になったつもりで、水蒸気の動きを予想すると猪熊氏はいう。ちょっと想像してみると楽しそうだ。

白馬や大雪山系の気象遭難の話も出てくる。山小屋の間隔が空いていることや、その地域特有の気象が影響していると書いている。さらにどんどん読み進めていくと、彼の自伝になっていく。大学山岳部での経験、そして、人生を変えた富士山での滑落事故。開放性骨折をやって、25時間後に救出される。開放性骨折というのは、骨が皮膚を突き破って外部に出てしまった状態だ。この状態のまま長く放置すると、感染症になってしまう。彼は、この事故の10年後によもやの感染症を発症し、慢性骨髄炎になってしまう。

この病について、私はまったく何の知識も持ち合わせていなかったが、知れば知るほど恐ろしい病だ。骨が細菌によって破壊され、組織を壊死させてしまう。患部から噴火するかのように膿が出る。痛みを伴うそうした症状が出るたびに病院の厄介になり、仕事を休まなければならない。痛みで仕事どころではなくなるのだ。しかし彼は最先端の手術を2度受けて、絶望の淵から這い上がった。

気象の話ももちろん興味深かったが、慢性骨髄炎の話のほうに私は強く引きつけられた。電車で骨髄炎を患っているので席を譲ってほしいといったら、キレられたエピソードや、ラッシュアワー時に突き倒され、だれも見向きもせず通り過ぎていったことなども書かれている。震災のときに日本人の態度は世界から賞賛されていたけれども、普段の生活では、こんなことが起きているし蔓延しているのだ。

そんなことにはめげず負けずに彼は、この病を抱えながらでもできる仕事を探っていく。結果子どものときに興味をもっていた気象の世界に入ることを決意する。でもそこには大きな関門が待ち受けていた。気象予報士という資格取得だ。この関門を通過しないことには、仕事として気象を語ることはできない。でもやり遂げるんだね、彼は。幾多の努力の末にこの最難関の試験に見事パスする。

その後猪熊氏は、2011年の手術以来骨髄炎の再発はないし、同年に起業した山岳専門の気象予報会社「ヤマテン」も順調だ。このまま骨髄炎が再発することなく、猪熊氏がさらに気象の世界で、活躍されることをお祈りしたい。

山岳気象予報士で恩返し
クリエーター情報なし
三五館
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