はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

<font size="-3">東京遠征8/12。</font>

2006-08-12 23:53:39 | アートなど
本日8月12日は、東京で展覧会2つと芝居を1ステージ観て参りました。

まずは、恵比寿の東京都写真美術館2階で開催中の「中村征夫写真展」。
じつは、この催しのことは現場に行ってはじめて知りました。
ポスターと共通券に惹かれて足を運んでみれば、『海中2万7000時間の旅』という副題が示す通り、海中写真家中村氏の個展。
多角的な視点でとらえた海の写真たちは実に多彩。
まず、ポスターにも使われている写真に不意打ちをくらい、冒頭からノックアウト。ポスターで既に見ているはずなのに、写真原版を目にした瞬間なぜだか思わず涙腺が緩んでしまいました。逆説的な見立てによる意味づけと配置の妙による効果だとは思うのですが、それだけでは説明できない不思議な感動に満ちた写真に思えます。
世界各地の海、日本近海、東京湾、様々な海の様々な生命たちを写した作品群は美しかったり、ユーモラスだったり、グロテスクだったり、神秘的だったり。多彩な生き物たちに焦点をあてた博物誌的コーナーもあり、貴重画像多数。シンデレラウミウシやインターネットウミウシなんて生物がいることを初めて知りました(笑)。海洋生物学視点からも楽しめそうです。
さらに圧巻は、モノクロームのコーナー。原寸大のザトウクジラにはただただ驚嘆。そして、照明の冴えにもただただ感心。光の粒子を物理的に記録する銀塩写真だからこそ再現できる表現というものが確実に存在するのではないかと、そう感じさせる質感豊かな写真群でした。
まだ昼前だというのに観客も多数。子供から大人までさまざまな年齢層が見受けられ、人気のほどがうかがえました。
写真に興味がある方のみならず、海の生き物好きにもおすすめしたい展覧会だと思います。

さて次に、同じく東京都写真美術館の地下1階で開催中の「ポスト・デジグラフィ展」。
デジタル表現の変遷を総覧できるかと足を運んだわけなのですが、その目的を忘れてしまうほどひとつの作品に激しく惚れ込むという思わぬ出会いを体験いたしました。それについては後ほど述べるとして、まずは展示概要を。
まず、地下の無料スペースには、展覧会のコンセプトと導入作品が配置されていました。
3D映像の再生ブース、ハイヴィジョン対応型ディスプレイ搭載パソコンなど、最新の視覚効果技術を示すいっぽうで、円筒鏡を使っただまし絵の作製法を解説する17世紀の図版や、モーフィングの基礎的考えの元となった蛙からアポロンへの変化図版など、視覚効果技術黎明期の歴史的書物を展示。さらに分野毎の歴史を総覧できる年表までが一挙に公開されていました。
巧みな導入だと思います。
有料スペースには、最新デジグラフィ技術の成果として、美術品の情報アーカイブ構築の一例や、3D対応ディスプレイなどが展示されていました。すごいなと思ったのが、入り口すぐ正面にあった3D対応ディスプレイ。これ、厚みや見かけなどはいっけん普通の液晶モニタと変わらないように見えるのですが、映像が流れるとあ~ら不思議。驚くほどの立体感を伴った視覚効果が得られます。よ~く見てみると、スリット型の走査線が細かく斜めに走っており、その配置が立体感の秘密を担っているのではないかと推察されました。しくみをもう少し知りたいものです。
他に、メディア芸術祭の受賞作品上映スペースも。
さらに、デジタル表現に関する歴史的催しの記録、さらには技術や思想のキーポイントを形成してきた論文や成書が時系列順に紹介されていました。
他にも、大画面で河口洋一郎氏の作品が上映されていたり、この催しの感想をgoogle earthと連動させる形で送信する参加型プロジェクトがあったりと、じっくり見るにはとても時間のかかる内容でした。
さて、ところで、今回私がもっともはげしく心を奪われたのが木本圭子氏の「Imaginary Numbers」という作品でした。
会場の片隅にひっそりと配置された壁埋め込み型の黒いディスプレイ。そこに、白い粒子が軌跡を描く作品なのですが、数秒見た時点でその場から動けなくなりました。あまりにも美しく感じられたからです。
複雑で繊細な、しかしどこか規則性を感じさせる粒子の軌跡は、まるで原子のスピンや銀河の生成を再現するかのよう。何らかの数理的アルゴリズムに基づくものではないかと直感しました。
呆けたように見入ることしばし。ドキドキしながらふと脇を見ると、「Imaginary Numbers」の元となった数式とパラメーターが解説されているではありませんか。しかも動画つきで!
こちらも食い入るように見つめることしばし。要素Aと要素Bの分岐式とパラメーターを、5つの集合点でフィルタリングしてやることで、あのような思わぬ美しさに満ちた表現が生まれるとは。納得するやら感心するやら。解説映像の素晴らしさもあいまって、動悸が止まらなくなりました。
この木本氏の作品に関しては未だ興奮醒めやりません。
怖いほどに大好きです。
何らかの数理概念を形にした繊細なモノクロ表現に反応してしまう自らの嗜好性を改めて実感しました。
(木本氏のサイトをみつけました→こちら
(白黒反転していますが、今回の展示に関連した画像が→こちら

内容が内容なだけに、すべての人におすすめというわけではありませんが、この「ポスト・デジグラフィ展」、デジタル技術やCG画像変遷に興味のある向きにはおすすめです。

写真美術館を出ると外は暗雲。恵比寿駅に着いた時点で土砂降りに。
鑑賞に予定よりも大幅に時間を取ってしまったので、慌てて次の目的地 新宿へ向かいました。

さて次に、新宿のシアタートップスで上演中の、親族代表「りっしんべん」15時公演。
嶋村氏、竹井氏、野間口氏からなる3人組のコントユニット"親族代表"のオムニバスコント公演です。
今年の初頭に「3」を観て以来2回目の作品鑑賞。
私自身は まだいまひとつ「親族代表」としての公演個性を把握しきれていませんが、前回同様とにかく演技力の高さに舌を巻きました。また、外部脚本が多いのでコント作品の内容は様々なのに、不思議と統一されたトーンが印象的に感じられました。
作家陣という観点からみると、シチュエーションのたたみかけで話を推し進めてゆく千葉雅子氏、手法と構造から言葉によって状況を構築してゆく小林賢太郎氏、それぞれの作法が如実に現れているようでとても興味深かったです。

観劇後には久々に紀伊國屋書店本店に立ち寄りました。
まずは「美術手帖」別冊の越後妻有アートトリエンナーレ特集を入手。
さらにバイオコーナーで最近の遺伝子工学雑誌を立ち読みし、siRNAとFRET特集に感慨。この分野はほんとうに発展目覚ましい。全力で走らなければすぐに置いてけぼりをくらいます。
最後に1階の文芸新刊コーナーをうろうろしていたら、思わぬところで佐藤雅彦氏の新刊「Fが通過します」に遭遇。"平積み"ならぬ"立て積み"とでも言えばいいのでしょうか、えも言われぬ形容し難い配置で大量に開架されておりました(笑)。
ディスプレイの様子を写真に撮りたくて仕方なかったのですが、涙をのんで自粛。
紀伊國屋書店さんは店頭販売の様子も広報すべきだと思います。だって面白すぎなんですもん(笑)。

昨日の後遺症か、ホテルの最寄り駅を間違えるという大ミスハプニングを最後にやらかしましたが、今日も総じてエキサイティングな素晴らしい1日だったと思います。