はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

【Report】札幌遠征3/31, 4/1。(TEXTネタバレ含)

2007-04-04 23:47:50 | アートなど
(*この記事は後半に「TEXT」のネタバレを含みます。)
先週末の3月31日(土)と4月1日(日)は、札幌で芝居を3ステージ観て参りました。
一時は危ぶまれていた旅程ですが、あちこち移動と徹夜でなんとか調整。
ギリギリで実現しました。

観てきたのは、かでる2・7で上演されていたラーメンズ「TEXT」31日13時公演、18時公演および4月1日13時公演。
予期していたとおり、非常に札幌らしい盛り上がりでした。
そればかりか、札幌のおおらかさ効果で公演ツアー最後特有のお祭りムードに拍車がかかり、さらにそこへ、とんでもなく珍しいハプニングが加わる顛末。適切な対応で上演続行したものの、公演中に演者が故障した舞台は初めて観ました。
2004年の札幌ラーメンズライブにおける『箱馬に足をガ~ン』事件といい、2005年のALICEにおける『小林ティーチャーご乱心』事件といい、けっこう何かが起こる札幌。
しかし今回の類い稀な事件も、北海道民の皆様方は大きな包容力で暖かく受け止めていたように思います。
ビバ・札幌。

詳細は以下のネタバレ記事に譲りますが、回を重ねるごとに作品のゆらぎの幅が大きくなってゆく様子が、観ていて興味深く思えました。


以下、ネタバレ。

2月3日および3月17日と比べてみると、総体的に、ALICEの時ほど激しい台本変更はなかったようです。
1つ目のコントへのディティール付加、3つ目のコントの著しいゆらぎが印象的ですが、コントの意味が変わってしまうほどのゆらぎはなし。TEXTとして意味を固定されていた公演であったと思えます。

いろいろ書きたいことは多いのですが、とりあえずメモ的に、事件について2つと、新たに気付いた点2つ。

○事件1 ゴールデンボール号、後肢故障
31日の夜公演で、珍しいことに小林氏が足を故障するというハプニングが起こりました。
4つ目のコント「条例が出た」の うやうや条例 後の暗転時に何らかの事故があったらしく、ミュージカル条例以降の小林氏は左足に加重できなくなっていたように見受けられました。そのまま動きの少ない「ジョッキーと馬」のコントまで進めていましたが、最後のコントの前に「やめないからね。」と小林氏登場。片桐氏と並んで事情説明するに、『小林が右膝を痛めた』とのこと。『動きが鈍くなるけれども最後のコントはどうしても見せたいので、申し訳ないが本来よりもアクションが落ちた状態で観ていただきたい』と請う小林氏に会場拍手。
『じゃ、はじめます』という小林氏。はっとして慌てて裏へ新聞を取りに走る片桐氏に会場和やかな笑い。
誤植の『忍』ネタでひざまづく場面では、ぎこちない動きに対して会場からは心配のどよめきが上がり、それに対して『おおっ、心配されている!』と喜んでみせる小林氏。
最後まで演じきり、そのままカーテンコールで再度事情説明。
曰く、『歳なので膝にきちゃって』『いつもだいたい30分程度でなおるんですけど』『がんばってなおします』等々。
翌4月1日の楽公演では、小林氏自らが開演前アナウンスで諸注意とともに『昨夜の公演で小林が足を痛めました。それゆえ、動きが少々鈍うございます。』と笑いをとりつつ事情説明。それを除けば公演そのものにはとりたてて影響はありませんでした。

観ていた感じた点が二つ。
その1。ご本人は不本意かもしれませんが、条件付きでの上演続行は非常に適切な判断のように思えました。元々大きな動きを要求しないコントなので、本来の価値は損なわれていなかったと思います。強いて言えば、ミュージカル条例だけが真価を発揮できていなかったのではないでしょうか。
その2。ご本人は右膝を故障箇所と申告してらっしゃいましたが、左足負重性の跛行でしたので、獣医師としての見地からは左足首か左股関節のどちらかに故障があるように見受けられました。見ていててっきり、左足首を『ゆっくり捻挫』したのかと思っていたので、ご本人の説明には少々驚きました。気になります。

○事件2 鞭、折れる
4月1日の楽公演で、ジョッキー馬坂の鞭が折れるというハプニングが起こりました。
『苦行』のシーンで振り回されるうち、持ち手の柄の部分からポッキリ折れて馬の背後へ飛んでゆく鞭。
会場大喜び。途方に暮れながらも、折れた鞭で様々なネタを連発する片桐氏。『最後だからもういいや』と開き直ってみたり、余裕です。その後、アドリブを連発しながらお祭り騒ぎのうちに5つ目のコント終了。
ジョッキーがすべてをかっさらってゆくかのような、強烈な印象を残したハプニングでした。
エンドトークによれば、51公演中鞭は3回折れたのだそうで、『そのうち1回はよりによって収録の日だったんですよね。おかしくってしょうがない。ぜひ映像に残したい』と小林氏。
映像化に期待です。


○気付いた点1 二つ目のコントは順列組み合わせ構造
二つ目の「同音異義語」のコントは、2人の演者が演じる並列した2つのシチュエーションで『同じ文字列が同時に別の意味を担う情景』を4つのユニットとして提示していますが、この4つのユニットはそれぞれ同音異義語が意味として成立するベクトルを変えていった順列組み合わせ構造を持っていることに気付きました。
片桐氏をA、小林氏をBとするなら、
ユニット1 A←B
ユニット2 B←A
ユニット3 A=B
ユニット4 B→←A
という方向性が見受けられます。
単独で成立する発話と、意味重複のある発話の位置関係を見ると非常に面白い構造になっていて、観ながら気付いてエキサイトしてしまいました。
なお、この構造発見については、詳細記事をのちほどJSRブログへ投稿予定です。
興味のある方はどうぞ気長にお待ちください。

○気付いた点2 5つ目のコントは『引用』がテーマ
5つ目の「ジョッキーと馬」のコントは、いっけん、ジョッキーの奔放ぶりを主体に据えた、父さんやギリジンの系譜をなぞったセルフオマージュコントとしての理解が先に立ってしまい、解釈が容易ではないと思います。
私もジョッキーの魅力のせいで、今まで冷静な視点で観ることができていなかったのですが、今回の鑑賞でふと重要な台詞のことに気付きました。
劇中、ジョッキーはしきりに『ものの本によれば』という言葉を繰り返します。
ジョッキーはそのたびに間違った解釈を開陳するわけなのですが、この『ものの本によれば』という引用解釈行為がじつはこの5つ目のコントのテーマなのではないかと思えます。
じつは、TEXTという英単語には、「聖書から引用した聖句」という意味があります。(参照「Oxford English Dictionary」)
コントの最後でジョッキーは『ものの本とは、モノホンのものの本のことである。モノホンのものの本とは、台本のことである。全部台本どおりじゃー!』と宣言します。
となるとつまり、ジョッキーの誤った引用は『台本』という『聖書』からの引用句であり、それはすなわち「TEXT」である、ということなのではないかと思えるのです。
初見時、私はこの5つ目のコントだけが「TEXT」という作品としては異質ではないかと考えていたのですが、今回のこの解釈をもってようやく腑に落ちました。
興味深いです。
なお、この「5つ目のコントのテーマは『引用』説」についても、のちほど詳細をJSRブログへ投稿予定です。
興味のある向きは、どうぞ気長にお待ちください。


追記: 今回の観劇で個人的に最もツボだったのが、31日夜公演のジョッキー馬坂が放った『光学迷彩』というネタ。
『保護色』の代わりに放った言葉でしたが、ジョッキーの黄金に輝くジャケットを光学迷彩に見立てていることで、私にとっては妙に納得。会場のウケはいまひとつでしたが、わたくし個人的に、これには異様にウケてしまいました。
ちなみに光学迷彩とは、迷彩模様ではなく光を使って物体を透明にして見え難くするという未来の技術。SFで考案されたアイデアで、近年ですと「攻殻機動隊」などでおなじみでしょうか。
ちなみにこれ、日本の研究者が実際に具現化しています。(詳細は→こちら (動画あり))
私は数年前に日経サイエンスの表紙裏を見て度肝を抜かれました。
来てるな、未来!
いつかぜひ実物を見てみたいものです。

追記2: 「条例が出た」のコントを観ていて、笑いと悪意についての問題が再燃。異質な文化への悪意が笑いの方向性とあまりに一体化していて気付かれ難いけれど、ある意味で、このコントが「TEXT」の中で最も悪意の顕著なコントかもしれない、と感じました。

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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
>savaさま (aiwendil)
2007-04-15 14:08:48
>savaさま
はじめまして。ようこそお越しくださいました。
光学迷彩情報、すっきりしていただけて光栄です。
ハンコは、降ってきちゃった絵柄を野放図に具現化しております。お褒めに預かり恐縮です。

ラーメンズの公演作品については、私はどうやらかなり変わった見方をしているようです。
どうしても構造や表現手法が気になってしまい、演者は二の次。容貌に至っては気にかけてすらおりません。
これも空間記憶主体の認識特性由来と考えております。

解り難い言説を吐くことが多かろうとは思いますが、気が向いたときにでも覗いていただけると嬉しいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
返信する
初めてコメントさせていただきます。 (sava)
2007-04-08 01:01:29
初めてコメントさせていただきます。
savaと申します。
4/1札幌公演後に、さわらさんと共にお話に加えさせていただきまして、非常に楽しかったです♪

理数系オンチな私、「光学迷彩」なんて言葉知りませんでした。迷彩なのに保護色?と、このアドリブだけが???だったのでスッキリ!
「ものの本によると」も、言われて初めて気づきました!ジョッキー・コントは競馬場・馬券への軽い伏線なだけじゃなく、ちゃんと「TEXT」的要素を持ったものだったんですね。私はてっきり、ファンサービスコーナーというか週刊誌の袋とじページ的なアレかと思っていました。

御礼を申し上げるのが遅くなってしまいましたが、いただいた素敵なハンコの絵は、「TEXT」チラシと組み合わせて愛用のスタバのカップに入れて楽しもうと画策中です。本当にありがとうございました?
返信する
>さわらさま (aiwendil)
2007-04-08 00:02:12
>さわらさま
コメントありがとうございます。
今回の「TEXT」は構造解析のしがいがあるコントが多いのではないかと思えます。
以前からラーメンズのコント作品は顕著な幾何的構造を持っていましたが、最近の公演では殊に構造の面白さが際立つ作品が増えてきたように思います。
そこへきてこの「TEXT」。
興味深いことこの上なしです。

同音異義語のコントについては先ほど構造図をJSRブログのほうへアップしましたので、どうぞご笑覧ください。
ただ今絶賛風邪引き中につき、ジョッキーの引用については、いましばらくお待ちいただければと思います。

条例コントは、じつは、異質な文化への蔑視が根底にあってはじめて成立する笑いだと思われます。
短歌条例あたりはまだ自らの文化を笑った自虐性が緩衝となっているのですが、ハリウッド条例とミュージカル条例については完全に外部の文化を笑ったもののように思えます。ある意味では談合的な笑いであるとも捉えることができ、私にとっては素直に笑えない部分があってちょっと複雑です。

「光学迷彩」では、片桐氏の引き出しの多さに驚きました。
小林氏からは絶対に出てこない類いのネタに思えます(笑)。

>pecoさま
わっ、恐縮です。
奔放に気付いちゃったり思いついちゃったりしております。
今後とも生暖かく見守っていただければ幸いです。

>畝山@代表さま
先日はありがとうございました。
わざわざお越しくださって恐縮です。
なるほど、15条が適用されると法人格にも著作者人格権がが付与されるのですね。
とすると、私の疑問は振り出しに戻ってしまいますね。
法人格における著作者人格権の承継はどのような取り扱いになるのでしょう。分割および合併によるものだけが認められることになるのでしょうか。でも、第2条第6項の記述を見ると、必ずしも法人格がなくともこの法律では法人とみなされるわけですから、法人格のないみなし法人に付与された著作者人格権の承継はどのように捉えるべきなのでしょう。
なかなか難しそうです。
返信する
この前は、ペンギンさんのところで、原則論として... (畝山@代表)
2007-04-07 04:23:04
この前は、ペンギンさんのところで、原則論としての著作者人格権を書いてしまいましたが、一つだけ例外がありました(但し、大変議論が深い)。著作権法15条です。「最初から」著作者人格権が法人に帰属する例がありました。黒澤映画問題で思い出しました。訂正かつお詫びを申し上げます。
返信する
またコメントすみません。 (さわら)
2007-04-06 21:57:29
またコメントすみません。
条例コントの悪意、言われてみれば確かにそのとおりです。
鯨のときのアカミー賞の時に私はその類の悪意を強く感じ、居心地が悪くあまり見ないコントなのですが、言われて初めて気がつきました。そんな匂いがします。
悪意が悪意として分断されていないような溶け込み方をしている気がします。

あと、光学迷彩!
私も凄くウケていたのですが、あれは最近の理系技術に興んでいる人の方がよりウケると思ったのです。だってあの光り方・・・!(笑)
返信する
aiwendilさん、あなたはつくづくすごい人だ。 (peco)
2007-04-05 21:21:54
aiwendilさん、あなたはつくづくすごい人だ。
目からうろこです。
返信する
やったー!すっきりしたー! (さわら)
2007-04-05 00:31:52
やったー!すっきりしたー!
と、喜びました。こんばんは、さわらです。
順列組み合わせ構造は、「モヤッ」としながらうすらぼんやり考えていたのですが、とってもスッキリです。分かりやすいです。続報を尻尾を振りながら待とうと思います!
ジョッキーの「引用」についても同様です。ああ、楽しみです!!
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