はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

横浜遠征7/18。(横浜開港博、東京芸大大学院映像研究科メディア映像専攻「OPEN STUDIO 2009」

2009-07-21 02:15:03 | アートなど
久々の単独遠征。メインは恒例となっている東京芸術大学大学院映像研究科のメディア映像専攻展示「OPEN STUDIO」。その他もろもろを組み合わせての遠征です。
今回の「OPEN STUDIO」は二部構成。修士2年(3期生)の習作展示である前半3日(7月18日~20日)と、修士1年(4期生)の課題制作展示である後半3日(7月24日~26日)に会期が分かたれています。
この日は前半、3期生の習作展示を拝見しました。
前回の「MediaPlactice'08-'09」(2期生卒業制作展示、3期生習作展示、卒業生作品展示を兼ねた展示)では作品数が盛りだくさんであったり、体調を崩したりで感想メモが追いつかなかった反省から、まずはざっくり雑感メモを上げてしまいます。

1 深石圭佑氏:「画面出来事の途中」映像作品。
映像に写された被写体の主観・変化がそのまま写している側であるところの映像自体に反映される、という映像作品のシリーズ。 
めがね(近眼)、のこぎり、寝息(部屋、棟)、お湯、たばこ、伝言、耳、目隠し、など。
印象に残っているのが3つ。
・本を読んでいる人物がメガネを外すと、カメラがメガネを外したかのように映像のピントがぼやける。いわば映像の近眼。
・給湯栓から出ているお湯にかざした手がお湯に触れると、脊髄反射で手が引っ込められるのと同時に映像自体がビクっと収縮する。いわば映像の脊髄反射。
・目隠しをされた人物を写している映像。人物が目隠しを外すと、カメラがまぶしがっているように画面がホワイトアウトし、やがて徐々に適正な明るさに戻ってゆく。いわば映像の明順応。
人間の身体特性を映像主体に組み込んだ表現が面白く感じられました。お湯の脊髄反射的映像が好きです。

2 井上泰一氏:「三味線」 インスツルメント作品
 天井から三本のベルトで吊られた電動ドリルを、3Dマウスによって実空間上で操作する、という作品。1月の前作がブラッシュアップされ、操作精度が増した反面、静的な作品に仕上がっていたのが個人的には残念。可能性を感じさせるモチーフであるだけに、エネルギッシュである意味野放図な動的作用と工学制御とのせめぎ合いの中から今後どのような跳躍を遂げてくれるのかが非常に楽しみです。

3 細谷宏昌氏:「脈相」 インスタレーション
 調整中。残念。

4 内村真似子氏:「m a z e」 ビデオインスタレーション
別々の5つのアングルから撮影された、油性ペンで迷路を描く手の映像が、壁に配置された5つの小さなディスプレイで同時に再生されている。
本来、多角的視点は物事や現象の理解を増すはずであるが、その多角的視点が整理なく並列的に提示されることで、かえって現象の把握を混乱させ、物事の理解を難しくしてしまう様子が面白く感じられました。いっけん関連が不明確な5つの映像を同じものだと認識させるためには音が非常に重要な役割を担っているように思え、それも面白く感じました。配置されたディスプレイから垂れて伸びる配線や基盤が剥き出しになっている様子も作品を構成する重要な要素のように思えました。

5 坂本雄祐氏:「rut」 インスタレーション
会場の一角がモニタされており、始点となるフィールドから終点となるフィールドまで鑑賞者の動いた軌跡が自動的にプロットされ、その動線が重層されてゆくシステム。終点フィールドにはモニタ内容を表示したディスプレイと、鑑賞者の動線をプリントアウトするプリンタが設置されており、鑑賞者は、他の鑑賞者たちが通った軌跡の履歴と最新鑑賞者である自分の歩いてきた軌跡を視覚的に比較・確認することになる。
行動履歴の記録であると同時に、他者の痕跡と自らを比較する装置となっているのも面白いと思いました。フィールドの始点と終点が決まっているため、そのフィールドにうまく入らず経路認識されない場合があるのが少々惜しいなと感じました。どのような方向へ発展するのか興味深いところです。

6 荻原美帆氏:「終了展のための習作」 アニメーション
少女と書物・眠りを巡るアニメーションの習作断片。全体の中でどのような位置づけとなる場面なのかが興味を引くところ。

7 姜 旻亨氏:「Sightseeing II」 ドキュメント
港公園内にベンチとオブジェから成る仮設の「撮影ポイント」を設置し、そのポイントに対峙する人々の様子を記録した実験的ドキュメント映像。
設置した「撮影ポイント」が無許可設置物として港湾管理行政の人々に撤去されるまでをとらえた映像であるが、行政の証拠保全行為としての撮影行為が、そのまま別の意味を付与されてしまっているのが強烈に笑可しい。痛快。傍らに使用許可申請書が展示してあるのもまた笑可しい。強権を発動しているはずの撤去行為であるが、見れば見るほど撤去に携わる職員たちがチャーミングに思えてくる。
とても好きな作品です。

8 細谷宏昌氏:「Thinker」 インスタレーション
黒いテーブルの上に置かれた3つの黒い電球。その電球の影の中に明かりが明滅する、という作品。


9 伊藤渉氏:「Storytelling」 ビデオインスタレーション
4つのモニタが背中合わせに配置されており、それぞれ別の映像が流れている。映像に合わせて、手相の解説をしている占い師との会話が流れる。占いとは無関係なはずの、しかしどこか微妙に通じる部分のある「線」にまつわる映像が示されることで、音声は同じであるはずが、4つの映像でそれぞれ異なった印象が立ち上がる。
印象が映像に引きずられてしまう、という現象が新鮮に感じられました。もともとなににでも当てはまって聞こえる占い、という音声素材を、壁のひび=線や、地図上の道や川=線、文字や家系=線、麺(?)、といった映像と重層させて、無理矢理な関係性を付与してしまっているのがとても面白く感じられました。いわば、映像のバーナム効果、とでもいったところでしょうか。そんな中にあって、麺だけが関係性の付与を受け付けていないらしき様子がまた面白い。無理矢理与えた関係性が成り立つかどうかの境界はどこにあるのか、そんなことを考えさせられました。

10 荒木悠:「Deep Search」 ビデオインスタレーション
作家が自ら飲み込んだ人形が、胃内から内視鏡鉗子で摘出される様子を映した内視鏡記録映像を、効果音とともに壁へ投影した作品。
捨て身の、というべきか、自らの内部を物理的に探査するという生命に直結する直裁な手法を用いているだけに、結果的に非常に強烈な表現となっているように思われました。ともすればグロテスクに終始してしまいかねない内容ですが、膝を抱えて座っている人形の形態が別方向への意味を付加し、奥行きのある表現へと導いていたように思えます。奥深くで孤独に沈思する人間のイメージや、物語に登場する鯨に飲まれた人間のイメージを連想しました。印象深い作品です。

11 櫻庭芽生夢氏:「物語の断片」 映像
断片化された映像の小さなフレームを移動させながら重積し、断続したイメージやモチーフの断片から独特の手法で物語を紡いでゆく作品。物語に登場する文筆家と彼自身の物語、そして文筆家の紡ぐ物語が断片化によって錯綜しながら提示されてゆく。断片化されたモチーフを鑑賞者が再構成しながら解釈するトリッキーな内容だと思われました。優れた脚本による芝居の舞台を彷彿とさせる作品のように思えます。

12 田村友一郎氏:「驚異の部屋」 インスタレーション
世界の標本箱に仮託して、収集し観察する側と観察される側の逆転構造を示した大がかりな作品。窓辺に据えられた大きなディスプレイにライブカメラで写したとおぼしきホテルの一室の映像が流れている。傍らの窓からは外へ出られるようになっており、外には立ち位置を示した足型のペイントと、柵に無造作に掛けられた大きな双眼鏡が見てとれる。鑑賞者は双眼鏡を手に取って立ち位置から対岸にあるインターコンチネンタルホテルを眺め、ディスプレイに映っていた部屋を探す。眺め終わって振り返ると、窓のこちら側にホテルの一室を図示した紙が貼られており、そこには「○○○○号室、写真をお渡しします。」と書かれ、ホテルを観察していた鑑賞者こそが逆に観察撮影される側であったことが示される。
この専攻を今まで見てきた中で最も大掛かりな作品です。いっけん見た目は簡素ながら、その実は展示会場という枠を大きく越えて広がる作品世界に思わずニヤリとしてしまいました。前作「Coney Island」を承継しつつ、その作品スケールを軽々と飛び越えてしまった手腕に脱帽。直接は関係ありませんが、池水慶一の「猫はどこへいった?」を思い出しました。
鑑賞者が実際に訊ねて行って写真を受け取ってこそ作品が完成するのではないかとも思え、作品の維持管理運営ハードルの高さが想像されます。果敢な試みに敬意を感じました。


それぞれさまざまな方向性を持った作品が揃っていて楽しめました。3期生の方々の個性に期待するとともに、終了制作へどのようにつながってゆくのか、どんな驚きを提示してくれるのかが楽しみです。




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1 コメント

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Escalator (Musab)
2021-01-28 19:55:38
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