はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

<font size="-3">メディアアートづくし。(文化庁メディア芸術祭+α)</font>

2006-02-26 23:56:56 | アートなど
東京遠征2日目。本日は展覧会を2つと、オープンスペースアートを一点観て参りました。
まずは、昨日に引き続き、恵比須の東京写真美術館で開催されている「文化庁メディア芸術祭」。
本当は原美術館で「オラファーエリアソン 影の光」をもう一度見ようと思っていたのですが、とても混んでいるらしいという情報なので予定を変更し、こちらへ足を運びました。
朝一番で行ったので、昨日見られなかった3階および2階の展示をじっくりと見ることができました。
3階のアート部門にはとても面白い作品がたくさんあって大満足。とりわけ印象に残ったのが、大賞をとったAlvaro CASSINELLI氏の「Khronos Projector」と村上史明氏の優秀作「spyglass」。
「Khronos Projector」 はスクリーンに映し出された映像が、画面に触れることで部分的に時間を変えてゆく装置です。スクリーンの静止位置を現在として、そこから未来の画像を奥に、過去の画像を手前に重層してあるので、スクリーンをたわませると、その部分だけ画像の時間が行ったり戻ったりするのです。スクリーンのたわみは波のように伝播しますので、触るたびに画面全体が影響を受けます。まるで時空が歪んだかのような映像が展開するわけです。時間軸を奥行きという物理的な位置情報に担わせた結果、驚きと示唆に満ち、かつ非常に美しい作品が出来上がったものと思われます。きっと一度体験したら忘れられないほどの印象を残すでしょう。作者の手腕に脱帽です。
「spyglass」は、望遠鏡を模したヴァーチャルマシン。覗き込んで見ることで風景が360°見渡せるだけでなく、手元のレバーを回すことで遥か遠くの風景を引き寄せることができます。見るという行為、そして、水平線の向こうまでをも見たいと望む人間の欲求を綺麗に体現した作品だと思いました。
本来のコンセプトとは関係ないのですが、わたくし、この「spyglass」を体験して真っ先に連想したものがありました。クラフト・エヴィング商會の「クラウド・コレクター」に登場する『望永遠鏡』です。「spyglass」はまさしく『望永遠鏡』だなあ、と思ったのです。『望永遠鏡』とは、水平線の向こうをどこまでもどこまでも永遠に見通せる望遠鏡。地球を一周して、最後には望永遠鏡を覗いている自分の背中までが見える、という架空の望遠鏡です。作中での吉田伝次郎氏の口癖「いや、ホントの話。」という言葉が聞こえてきそうでニヤニヤしてしまいました。
 他にも、正式な作品名は忘れてしまいましたが、太湯氏という方の「π円札」(π円のお札。ものすごく長~い。背景に細かく延々とπの小数点以下数字が記載されている。)、「Virtual Brownies」(テーブルの上の紅茶缶が勝手に動く。モニタを通して見ると、ブラウニー(妖精)たちが缶を動かしているのが見える。)、「control」(棒状の照明器具が無音で点滅している。ヘッドホンを装着すると、切れかけた蛍光灯のようなザップ音が聞こえる。音を聞くことで、点滅する明かりが切れかけた蛍光灯に見えてしまう。『音が映像を規定する』ことを体感させる作品?)などが印象的でした。π円札は個人的に大ヒット。大好きです。
 エンタテインメント部門とアニメーション部門では、それぞれ「芝浦アイランド3LDK広告映像」と「浮楼 -eight women, one life-」が印象的。どちらもジャンルを越えた美しさ・面白さがあると感じました。
 ところで、図録を見ながら面白いことに気付きました。
 この芸術祭においては、商用作品をエンタテイメント部門、芸術作品をアート部門として分類しています。言うなれば楽しませるための商品がエンタテインメント部門に、消費とは離れたところで個的な表現を追求した真面目作品がアート部門、ということになるようです。しかし展示を振り返ると、私にとってはエンタテインメント部門よりもアート部門のほうが格段に面白かったのです。多種多様なアート作品とくらべると、出来上がった『商品』は、なぜかどうしても精彩を欠いてしまう、そんな印象を受けました。本来楽しませるための『商品』と真面目なはずの『作品』との、楽しさの逆転現象。これはひょっとすると、エンタテインメント部門で紹介されていた現存の『商品』たちがinterestを欠いているからではないか、そんな気がしました。つまり、こういうところが、佐藤雅彦氏の言う『エンタテインメントからインタレストへ』の表現における大切さを実証しているのではないか、そんな気がしてとても興味深く思えました。


 さて次は、メディア芸術祭とタイアップする形で横浜の馬車道近くにあるBankART studio NYK で開催されている「Electrical Fantasista」。少し遠い場所でしたが、メディアアートばかりを集めた企画が面白そうだったので足を運びました。鈴木太朗氏の作品を見てみたかったのも大きな動機のひとつです。
行ってみれば観客は私1人だけ。実際に触ったり体験したりする作品が大半でしたが、おかげで待ち時間もなく作品ひとつひとつをじっくりと味わうことが出来ました。特筆すべきは会場中を埋め尽くした突起のある白いウレタン。カーペットのように床一面に敷き詰められています。ほんのちょっとだけ草間禰生的(笑)。そんな会場へは靴を脱いで入ります。歩き回っても足の裏に優しい質感、まったく疲れません。入り口で荷物やコートを預けられるので、身軽に作品を楽しむことが出来ます。腰を落ち着けたければ、座っても膝をついても寝転がっても大丈夫。それほど広くはない会場でしたが、もてなしの心に満ちた不思議に面白い企画展でした。
 作品数自体は多くありませんが、コマ撮りアニメ体験マシーン、そして、自分を対戦相手にテーブルホッケーができるゲームなど、普段体験できない面白さが満載です。面白いモノ、不思議なモノ好きにはオススメ。
 ひとつ残念だったのは、調整不調の作品があったこと。児玉氏の「モルフォタワー」と鈴木氏の「風の通る路」の調整が難しいようでした。「モルフォタワー」のほうは在廊中に直してくださったので存分に楽しむことができましたが、「風の通る路」は一部照明装置に不具合が。一部ユニットが不自然に点滅してしまい、せっかくの作品の繊細な呼応性が損なわれてしまって残念でした。物理的要件に支えられているメディアアートの弱点を、図らずも体験したようで興味深かったです。


  最後に観たのは、東京丸ビルのブルームバーグショールームに設置されている岩井俊雄氏の作品。
大きなタッチパネルに触れることで、音と光(LED)が呼応する装置です。「floating music」を彷彿とさせるような、とても楽しい作品。私好みです。静電気を検出して認識しているらしく、手が乾いているとなかなか反応してくれないのが唯一の難点。私はマフラーを帯電させて手に持つ裏技で、過剰なほどのセンサリングに成功、数種類のプログラムを盛大に遊んで参りました(笑)。
存分に遊んでからソファーで他の人のプレイを眺めていたのですが、見ているだけでも面白い。参加と観賞、2つの意味で楽しめました。
もしもこの装置が青色LEDが普及してからの作品だったらどれだけ綺麗なものになっていたか、夢想するとちょっとくやしいです。
メディアアートづくし。今回もたいへん有意義な東京遠征でした。


ところで余談。
横浜から東京へ向かう電車に、大勢のイタリア人の方々が乗車してきました。
新橋を東京と勘違いしたらしく、近くの日本人に『トウキョウ?』と訪ねる1人。
応えて『ノー、ノー、新橋。』と答える日本人女性。
するとイタリア人の方々は呼応するように『シンバシ!』『シンバシ?』『シンバシ!』『シンバシ!』『シンバシ!』
笑いをこらえるのがたいへんでした(笑)。



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
>はるもちさま (aiwendil)
2006-03-04 10:34:20
>はるもちさま

はじめまして。
ようこそお越しくださいました!
メディアアートは、思わぬ面白さ、興味深さや感動と出会えるので大好きなのです。

入賞ばかりが価値ではないとは思いますが、ぜひ色々な人の目に触れられるようがんばってください!
はるもちさまの作品と出会える日がくることをひそかに楽しみにしています(^^。
返信する
初めまして、トラックバックさせていただきました。 (はるもち)
2006-02-28 03:49:39
初めまして、トラックバックさせていただきました。
アート部門のほうがエンタテイメント部門より面白かったというご感想、とても心に響きました。自分達もVRコンテストへ作品を出品したことがあるのですが、基本的に採算性度外視でやっているから、ただ純粋に楽しんでもらいたいから、という理由で作っているので、そう思っていただけるようにがんばろうと思います。
返信する
>ざらえもんさま (aiwendil)
2006-02-27 07:19:01
>ざらえもんさま

おお、そうだったのですか!
「DIGITAL ART FESTIVAL 東京2005」もとても行きたかった催しなので、出品が重なっていると聞いて嬉しいです。
「Khronos projector」はあんな作品ですから、一度見たら忘れられませんよね。けれど、形容し難い(笑)。鑑賞者泣かせです。

ところで、取り急ぎ情報提供。
28日(火)16時からのシンポジウム「アートとテクノロジーの融合 -その未来-」に、岩井俊雄氏がパネリストとして出演しますよ~。
岩井氏の今後のスタンスが聞けるのではないでしょうか。非常に興味深し。
そして、3月2日(木)18時からのシンポジウム「デバイスアートシンポジウム テクノガジェットはアートになり得るか」には、明和電気の土佐社長、八谷和彦氏、クワクボリョウタ氏、モリワキヒロユキ氏などの豪華メンバーが集結!
アーティストのつくる商品とアート作品との境界について話し合う模様です。う~ん、聞いてみたい。
興味がおありで機会がありましたらぜひ!

なお、講演関係は1時間ほど前から整理券が配付されるようですので念のため。
返信する
最後まで読んで『シンバシ!!』に大笑いさせても... (ざらえもん)
2006-02-27 01:31:59
最後まで読んで『シンバシ!!』に大笑いさせてもらいました(笑)

文化庁メディア芸術祭は映像だけじゃないのですね。
aiwendilさんが感動された作品、去年12月に「DIGITAL ART FESTIVAL 東京2005」で私が感動したやつですよ!!
私は感動しすぎて上手くレポができなかったのですが、さすがaiwendilさんちゃんと文章で再現していらっしゃる。
そうかぁ、あの作品をまた見ることができるのですね。うれしいー!!

ブルームバーグは静電気で反応するのですか?
そんな事とは知らずに、思い切り画面をバンバンとやっていましたよ(笑)
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