はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

豊田市遠征4/11。(豊田市美術館「ヤノベケンジ - ウルトラ」展、トークイベント「討議、ヤノベケン

2009-04-13 00:35:19 | アートなど
Ultra

長らく滞っておりましたが、久々の更新。

1月には東京芸大大学院映像研究科メディア映像専攻の「media practice 08-09」や上野の森美術館の「レオナール・フジタ展」、日比谷パティオの「テオ・ヤンセン展」などにも行っていたのですが、多忙すぎたり2月に倒れたりなんだりしている間にすっかり季節が変わってしまいました。

久々の遠征、今回の目的は、愛知県にある豊田市美術館の企画展「ヤノベケンジ - ウルトラ」展と、関連トークイベントです。
この企画展は、ヤノベケンジ氏の巨大新作「ウルトラ 黒い太陽」を中心に据えたもの。それに加え、展覧会初日の11日はヤノベケンジ氏と縁の深い美術評論家やキュレーターを交えたトークイベントが開催されるというので、ぜひにと足を運びました。
体調が不安だったため、今回は付き添いつきの遠征でしたが、そこまでしてでも行ってよかったと思わせられるような、たいへん印象深い体験となりました。

ヤノベケンジ氏は現代美術作家として知られる造形家で、タンキングマシーンやアトムスーツプロジェクト、近年では「トらやん」を取り巻く諸作品が有名です。つい最近も六本木ヒルズで、巨大なロボット型作品「ジャイアント・トらやん」が火を噴くイベントがあったことをご存じの方も多いかもしれません。
私は、2007年にたまたま東京都現代美術館の常設展で目にした「太陽の塔乗っ取り計画」のビデオで氏に興味を持ち、霧島アートの森で開催された企画展「トらやんの世界」に足を運んだ際、作家自らのギャラリーツアーでその作品世界にノックアウトされてしまったという経緯があり、それ以来、氏の活動には大きな興味を向けておりました。しかし、それ以降氏の展示スケジュールとはなかなかタイミングが合わず、いろいろ見逃して悔しく思っていた中、今回の企画展はまさに朗報。しかも会場は、2005年の企画展「キンダガルテン」を開催した豊田市美術館。嫌が応にも期待は高まります。こうなればもう行かない手はありません。

展覧会の構成は、氏の過去作品経緯と近年作をキーワードごとに紹介する3ブース、そして新作「ウルトラ 黒い太陽」を据えた巨大な空間、さらに、別室として過去のドキュメント映像等を上映する会場と鑑賞者参加型壁画がある程度で、正直それほど大きなボリュームはありません。
しかしながら、1時間ごとに稼働する「ウルトラ 黒い太陽」のインパクトが絶大で、これだけでも充分見る価値のある内容なのではないかと、個人的にはそう思えました。
昨年各地でぽつぽつと展示されていた「宮の森の白い象」や「ファンタスマゴリア」の実物が見られた感動もさることながら、それらを抑えて「ウルトラ 黒い太陽」ですべてが頭の中から吹き飛んでしまったかのような印象です。

「ウルトラ 黒い太陽」は、大きな黒い突起を持った巨大な鉄の球体作品です。中空で、放散虫やウイルスのようなモジュール構造を持ち、ところどころに直径1メートルほどの円形の穴が開いています。球体の下側4分の1程度が切り取られた形となって、水の張られたフィールドに設置されており、それが、あたかも水の中に浮かんでいるかのような視覚効果を生みだしています。球体の中心にはテスラコイルという高電圧発生装置があり、稼働すると、そこから球体の殻に向けて雷のような放電光が炸裂します。
稼働時には照明が落とされ、大きな重低音が流れる中、コイルの発する高周波と放電時の炸裂音が強烈に響き、見る者に鮮烈なインパクトを与えます。

作品を体験した感想としては、まず、「とんでもないものを見てしまった」という感覚が先立ちました。不安を呼び覚ますような、どこか凶々しい印象を与える一方で、とてつもないエネルギーと超越的な物理作用、自然力を提示されたようで、また、恐ろしいとともに純粋に圧倒的な美も感じられ、目を離すことができなくなる、そんな感覚を惹起させられました。雷を見ているときの感覚に限りなく近いような気もしますが、それよりももっと見る者の根源的な何かをえぐる体験のように思えます。見ていて、そしてその後もしばらく動悸がおさまりませんでした。
後述するトークイベントでも話題に上っていたように、私もこの作品を見て、今までの氏の作品とは異質な何かを感じました。しかしながら、論客の椹木氏や天野氏が述べていた解釈とはまた異なり、自分なりに冷静になって考えると、強烈に感じたのが、この作品はモノでありながらモノを提示していないのだ、ということです。今まで、氏の作品は物体を拠り所にしてそのモノの動きや存在によって何かを提示してきたのではないかと思うのですが、今回の「ウルトラ 黒い太陽」は、物体としての作品ではなく、作品が媒介する『現象』によって何らかを提示しているように思えます。作品が稼働するとき、作品は消え、代わりに作品の引き起こす現象がすべてを担っているのではないか、そんなふうに思えて仕方ありません。
また一方で、今作はある意味で実験装置のようでもあり、形態や意味付けは全く異なりますが、私はなぜかCRENの大型ハドロン加速器実験装置のことを思い出しました。
科学者、特に物理屋さんや機械屋さんにはぜひとも見てもらいたい作品かもしれません。


トークイベントは、今まで数多く見て来たトークイベントの中でも、ちょっと変わった形式のものでした。
「討議、ヤノベケンジ」と題した内容で、美術評論家椹木氏とキュレーター天野氏、今企画展の世話役ツヅク氏がヤノベケンジ氏を囲んで「ヤノベケンジ」について語る、というコンセプトのもとに進行開始されたのですが、しかしながら当のヤノベケンジ氏自身がヤノベケンジについて討議するというのもおかしな話だ、ということになり、椹木氏と天野氏の提案により、矢延憲司が論者のひとりとして第三者のヤノベケンジを語る、という形式をとることに。第三者的に「彼は・・・」「ヤノベさんは・・・」と語り始めながらつい途中から一人称になってしまって自らに突っ込みを入れるヤノベケンジ氏が可笑しくて、ついついつられ笑いをすること多々。気鋭の論者がヤノベケンジ論を展開する中、時折爆笑が沸き起こるという、不思議なトーク空間でした。
興味深い論も多く、いろいろメモを取って来たので概要をまとめたいところではありますが、時間がないのでまずは雑感のみを。

まず印象に残っているのが、豊田市美術館のツヅク氏から語られた今回の展示企画の経緯です。
利用者から絶大なリクエストがあり、たった4年という短い期間を経て再度展示を行うことになったものの、当初は小規模なコーナー展示のみとして企画されていたこと。そこへ降って湧いたような経済危機により、大型企画展の予定が流れて会場が空いてしまい、それを機に今回の規模での企画展に向けて話が動き出したこと。しかし、予算は当初のまま据え置きだったこと。その他、多くの奇跡が積み重なって実現した企画展であること。
企画側の当事者として語るツヅク氏がしきりに『ヤノベさんと仕事をしていると不思議なことが起こるんですよ』と繰り返していたのが印象的でした。

また、ヤノベケンジ氏が語っていた『作家自らが物語との符丁という意味付けを与えて自作について語りすぎることによって作品の解釈の幅を狭めてしまっていたのではないかという危惧を抱いている』という話、そして、あれこれ解釈を展開してゆく論者の中にあって『あまり考えて作っていないですよ』と言い切った氏の言葉も印象的でした。
氏の制作活動は、神話を作り出しつつそれを具現化しているかのような作業という一面を持っているわけですが、その一方で、作り出してしまったものを後づけで物語に当てはめてゆく作業も伴っているのだということを、この言葉は裏付けていることになります。私は個人的に、偉大な作品の核は『降ってくる』ものだと考えているので、この話題には改めて納得させられました。おそらく、氏は降ってきた核からの演繹と帰納を繰り返して作品世界を発展させているのではないかと推察するところです。

もうひとつ印象的だったのが『元々お笑い好きのような性格なのに、チェルノブイリ(アトムスーツプロジェクト)などは深刻過ぎてしんどかった。そこへきて、トらやんはストレス解消だったのかもしれない』『だって、美術評論家がトらやんを語っている状況なんて考えただけでも可笑しいじゃないですか』と語ったヤノベケンジ氏の言葉と、『美術評論家は何故か誰もトらやんを語ろうとしない、なんでなんでしょう?』という氏の疑問に対し『皆それを何となく察知して恐くて触れられなかったんじゃないですか?』と返した椹木氏の言葉です。
このやりとりを聞いて、トらやんが現代美術というジャンルを超えて多くの人に愛されている訳や、自分がトらやんに惹かれた理由に思い当たり、妙に腑に落ちた気分になりました。
おそらく、私がトらやんに惹かれるのは、大王こと後藤ひろひと氏の作品に惹かれるのと同質の理由に依るものと思われます。話は飛躍しますが、ヤノベケンジ氏と後藤ひろひと氏を出会わせてみたらどのようなことが起こるか非常に興味のあるところです。
(時間があったら書き足します)


いろいろ書きましたが、強調したいのはひとつ。
「ウルトラ 黒い太陽」は、見られる機会がありましたらぜひ見ておくべき作品かと。
おすすめです。
(ただし、ペースメーカー装着者は残念ながら見られませんのでご注意を。)

Toyotacitymuseum
豊田市美術館自体も面白い建築物でした。建築好きの方もぜひに。


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5 コメント

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おお、漸く復帰されたようでオメデトウございます... (horirium)
2009-04-19 03:28:33
おお、漸く復帰されたようでオメデトウございます、でよろしいのでしょうか?長らく更新が無く、心配しておりました。
どういうわけかRSSも働かなくなっておりまして、更新が分かりませんでした。(もしかしたら他の読者の方も気がついていないのでは・・・)取得し直して今は正常に作動しているようです。

また、アートに関するいろいろな話が読めそうで楽しみにしております。
今後ともお身体にお気を付けて、ご無理されませんように。




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aiwendilさんはラ・マシン(巨大クモ)はもうご覧に... (えびまよ)
2009-04-30 14:31:58
aiwendilさんはラ・マシン(巨大クモ)はもうご覧になりました?

横浜の町を巨大なクモが信号をまたいで歩いていく姿は
圧巻ですよ。
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久々の更新嬉しいです☆ (tubu)
2009-05-06 06:34:13
久々の更新嬉しいです☆
腰の具合は如何ですか?
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楽しんで来てね~~ (風呂で)
2009-05-26 15:44:04
楽しんで来てね~~

私は泣いて待ちます。(笑)
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こんばんは。 (白片吟K氏)
2009-07-05 22:55:14
こんばんは。
以前うちのブログに紹介してくださった浄水器裁判の判決が判例雑誌に載っていたので、ご報告まで。

神戸地判H21.2.26(判例時報2038 P84)
ざっくり言って、
原告がアヤスイ商売であることを認め、
掲示板への書き込みの違法性自体を認めなかった。
書き込みに違法性がないので、サーバー管理者、お茶の水ともに違法性なし。
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