はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

仙台市博物館「大江戸動物図館」。

2006-10-09 23:58:46 | アートなど
川内の仙台市博物館で開催中の「大江戸動物図館」へ行って参りました。
動物に着目し、江戸時代の資料絵画から人と動物との関係を再考するような、非常に良質の企画展でした。
私は、ほぼ伊藤若冲の「白象群獣図」目当てで行ったのですが、予想外の充実内容にたっぷり2時間以上も居座ってしまいました。

正直、はじめは当惑しました。
第1展示室の入り口付近に、ぞんざいとも言える感じであっさりと若冲の「白象群獣図」があって、まず、そのあまりのあっけなさに虚をつかれました。さらに奥には、明らかに未完成(または習作)としか思えない円山応挙の屏風絵がその旨解説もなく置かれていて『えっ?』と脱力。それですっかりこの展示会をみくびってしまったわけですが、順路を進むにつれじわじわとその全貌がわかってみれば、江戸時代後期の代表的な絵師たちの作品もひととおり揃っていてびっくり。
群獣図と涅槃図と十二支図、お家芸としての絵画、江戸時代のペット事情、珍獣奇獣幻獣、博物誌の中の動物・・・・と様々な切り口から並べられた資料は圧巻。少し説明が不十分だなと感じる部分もありましたが、総じて見ごたえのある展示でした。

特に印象に残っている作品を以下列挙。
まずは、やはり若冲の「白象群獣図」。小ぶりの画面に緻密な升目書きで施された獣たちの細密画。プライスコレクションの「鳥獣化木図屏風」とは若干技法のルールが違っているようです。執拗さと緻密さと生き物らしさという点では、こちらのほうがいかにも若冲らしいなと感じました。見れば見るほど『頭おかしいよこの人!』と 賞賛したくなる過剰な緻密さとデフォルメーション。すばらしい。何度見ても新たな発見のある絵だと思えます。
伝若冲の作はもうひとつ。「鶏図」。力強い躍動感と大胆な構図で雄鶏を描いた墨絵。ぎょろりと見開いた鶏の目がユーモラス。こちらもとても『らしい』作品だなと思いました。
狩野派一門の「牛図」と「馬図」。これ、狩野派の絵師たちが寄せ書きしたという掛軸絵なのですが、寄せ書きしちゃっているところがすごいなと。何十人もの絵師たちが順繰りに書き込んでいる風景を想像すると、なにやら無性に微笑ましくなってしまいました。
北斎の「白蛇と雀図」。鍬の柄に羽根を休める小雀と、それを狙って柄を登る白蛇。一瞬を切り取ったスリリングでドラマチックな画が鮮烈。
森徹山の「寒月狸図」。三の丸尚蔵館で見た孔雀図を思い起こさせる繊細さと静謐さに満ちた画。理屈抜きに好き。
「姫国山海録」。宝暦12年(1762年)に序された、当時のヘンな生き物記録帳。『発熱!猿人ショー』の大路画伯も真っ青な摩訶不思議生物の絵が記録されています。そのユルさたるや、半端じゃありません。描いた人が下手なのか、見つかった生き物が本当にヘンなのか、とにかく強烈。強烈すぎて思わずスケッチしてきてしまいました。スケッチと記憶を元に再現したのが下の絵。P1050128脇書きに「此物在奥陸津軽海邊秋来出食粟穂土人以鎗殺文享保如之事也墓後不見津軽刺史之臣山尾長八郎親看之也」とありました。
P1050129こいつにいたっては、「此蟲出於下総国葛飾郡山岡村永宝寺境内之池其長六尺九寸悪臭甚矣惣身如蝦蟇其聲如雛」だそうで、こんな姿で2メートル以上あって臭くてガマガエルみたいで雛鳥みたいな声で鳴くって一体・・・・・(笑)。
おそるべし『姫国山海録』。ぜひ他のページも見てみたいです。いや、本気で。

最後はすっかり『姫国山海録』に心を奪われるという、思わぬ展開を見せた「大江戸動物図館」。
ひそかに かなりおすすめです。
なお、私の心をかっさらった『姫国山海録』は前期(~10/15(日))のみの展示らしいです。見てみたい方はどうぞお早めに(笑)。


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5 コメント

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>myaさま (aiwendil)
2006-10-22 15:02:04
>myaさま
白猿のモチーフ自体は決して不自然なものではありません。ですが、あの屏風絵の中での配置は少し不自然に思えました。
左を向いた猿一頭だけなら私も白猿かなと納得したと思うのですが、その右側の後ろ向きの猿まで白くするには視認性の問題含めてかなりアバンギャルドだと思えます。
プライスコレクションの「親と子のギャラリー」で見た森徹山「松に鶴屏風」(未完成)を彷彿とさせる空白具合に思えました。
今週は出かけ損なったので、来週あたりリトライしてきたいと思います。
その際はまたこちらでご報告いたしますね。
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aiwendilさん、丁寧なコメントありがとうございま... (mya)
2006-10-20 21:39:56
aiwendilさん、丁寧なコメントありがとうございました。なるほどそういう風に感じる人もいるのか、と参考になりました。技術的なことは僕もわかりませんが、ひとつ共通する視点がありました。それは“一部色の塗られていない部分”です。僕も最初なんでここだけ空白?と思ったのですが、その左にいる猿も同様に色が塗られておらず、あぁ白い毛の猿を画いたのだと思い、そうするともう一方の空白はその白い毛の猿が背を向けているのだ、とその場は納得しました。(この間5分くらいかかりました。)でも、考えてみると白い毛の猿っているのだろうかとも思います。その視点からもう一度じっくりあの屏風を見たいです。aiwendilさんの再見のレポートを楽しみに待つことにします。
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>さとーひろしさま (aiwendil)
2006-10-19 23:26:31
>さとーひろしさま

『姫国山海経』はどうやら、川崎ミュージアムで開催された「妖怪展」の図録に全ページ収録されているのだそうです。
機会がありましたら、ぜひご一見あれ。


>myaさま

はじめまして。ご来訪ありがとうございます!

横浜から仙台へお越しくださったとのこと、私が言うのも筋違いかもしれませんが、わざわざ足を運んでいただきありがとうございます。宮城県民としてちょっと嬉しいです。
内容はあのとおりの充実ぶりなので、もっと県外からたくさんの方々に来ていただいてしかるべき企画展のように思えるのですが、いかんせん、宣伝が不十分なのであの空きっぷり。もったいないなあと思いながら見ていました。
myaさまのような方に来ていただけて、きっと仙台市の方も喜んでいることでしょう。

ところで、お尋ねの件について。
ひとつお断りしておきますが、美術に関して私は何の教育も受けておりません。すなわちズブのシロウトです。加えて日本画を見始めたのもつい最近になってからです。ですので、完全な主観をもって見て、自らの感想を述べています。そこのところを勘案して差し引いて読んでいただければ幸いです。

応挙の群獣図屏風が未完と思えた理由は主に3つです。
まず、感覚的な観点から。
全体を見た瞬間に何か足りない、と感じました。
そして動物たち一頭一頭の筆致が少々ラフだな、と感じました。
次に、物理的な観点から。
大胆で流れるようにおおらかな書き方の部分と、細密に書き込んである部分とが混在していたので、法則性や戦略的な統一性に欠けるのではないかと感じました。
そして、一部色の塗られていない部分がありましたので、わざと配したにしてはあまりにもアバンギャルドなのではないかと感じました。
最後に、比較としての観点から。
私が今まで見てきた数少ない応挙の絵画と比べて、とても緩やかな描き方だと思いました。華やかで柔らかな筆致は変わりませんが、たとえば三の丸尚蔵館で公開されていた「牡丹孔雀図」の緻密さとは大きく異なる技法だと感じました。同じ作者が描いたとするのならば、描くうえで目的とする完成度の段階がそもそも違うのではないかと思えました。

ガラス越しの鑑賞ですし、かなり主観が入っています。しかし、上記のような理由から、私にはあの屏風絵が完成品としての作品だとはどうにも考え難いのです。ただ、未完に思えるけれども、私自身あの屏風絵は好きです(笑)。動物たちを見つめるまなざしが感じられて、とても微笑ましい。
近いうちに後期の展示を観に行く予定ですので、今度は単眼鏡持参で色の塗り方などの細部をもっとじっくり観察してこようと思っています。
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はじめまして。検索中、たまたまこちらに当たりま... (mya)
2006-10-18 09:41:14
はじめまして。検索中、たまたまこちらに当たりました。

仙台の展覧会、僕も若冲目当てで(升目ではこれだけ未見だったため)行ったのですが、aiwendilさん同様、それ以外の作品群にもやられてしまってはるばる横浜から行った甲斐がある展覧会でした。ただ僕の場合は実は応挙の群獣図屏風がとても気に入ったのです。応挙風の端正なフォルムの動物たちがたくさん屏風の中にバランスよく配置され、あたかも動物たちのパラダイスというふうに感じられて、初めて若冲の樹花鳥獣図屏風(静岡のやつです。念のため)を見たときと似たような感動につつまれたのです。

江戸絵画をじっくり見始めてからまだ日が浅いため、これは僕の向学のため、よろしければ参考までに、aiwendilさんがこの作品を“明らかに未完成(または習作)”と感じられた理由を教えていただけませんか。

ちなみにこれ以外では、岸駒の虎(僕は他の江戸時代の画家の描く猫っぽい虎も大好きですが)はやはり印象的でしたし、同じく岸駒のジャコウネコ、狙仙の猿、徹山の狸など毛のふさふさ加減がそのまま写されたような作品にやられました。あと、原在正の眠ってる猫(ほんとにかわいかった!)と。

というわけで、よろしければ教えてください。お願いします。
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奥行きとか気にもしてない感じがいいね。 (さとーひろし)
2006-10-11 00:31:12
奥行きとか気にもしてない感じがいいね。
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