Masterの部屋に、引っ越そうかな。
薔薇色の花壇には、ヤシの木が生えている。
青空のドアを開けて、単眼の双眼鏡で覗く。
キッチンの窓辺には多肉植物たちが、一斉にわたしを振り向く。
山吹色のタイル壁に囲まれ、逆再生の憂鬱を食べる。
リビングには壁いっぱいの、巨大なスケルトンの深海魚。
骨に掛かった薄紫と薄翠のレースカーテンがゆれている。
引越しのさいに穴の空いた靴先から、顔を出した球根は、
溜め息をつきながら今夜も月に求婚している。
Masterの靴下たちは朝からミュージカルの練習。
バスルームを灰色にして下着は湯船を占領している。
歯磨き粉を踏みつけ、虹が噴射する瞬間ウォシュレットが作動、
虹色の雨にオリーブ色のカーペットは歓喜し、神々を讚美する。
歌を歌う。白いフローリングの鍵盤をランプが照らし、
影は黒の鍵盤を器用に作り上げ、言葉の音階を奏でる。
本たちは鳥たちのように羽ばたき窓の外へ飛んでゆく。
蝋燭の灯に、太陽が嫉妬する夢を、闇夜はまた見た。
今夜はよく眠れそう。時間がなくならないうちに、目を醒ます。
ベッドルームは黒い森。物音させないで、入ってくる。息を潜めている。
天井からぽたり、エイリアンの糸を引いた涎。聴かれずに済んだ叫び。
Masterの手が、わたしの痩せた胸に伸びる。
肉の洞窟から顔を覗かせる、知らない過去。
自戒を誓い合った壊滅してゆく海の底の森。
球体の夫婦はもう一度、神殿の地下で結婚する。
もう二度と、離れない為、終熄へ向かう。
Masterの手が、わたしの内部をゆっくり、侵食してゆく。
Young Magic - "Valhalla (Reprise)" X Vinyl Williams (official video)