あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

半身の星

2018-04-20 23:19:03 | 随筆(小説)
目を閉じた、目蓋の裏の闇のなかに、二つのimageが重なり、一つの像を結んだ。
前にわたしは、列車に自ら飛び込み、線路際に横たわった上半身だけの男が、気絶から目を醒まし、必死に起き上がろうとするも力尽き、息絶える映像を観たことがある。
それは信じられないほどに悲惨な光景で、観るに堪えないものであったが、わたしはそこに人間の生きようとする底力を、感動せずにはおれなかった。
彼の切断された痛ましいその断面からは、内臓がはみ出し、腸(はらわた)が悲しくも地面に蚯蚓か蛇のように伸びていた。
彼は両肘を着いてずるずると、上へ少し移動しながら起き上がろうとするも、地面に腸がへばりついていた為、彼はほんの少し身を起こすことも、できずに死んだのである。
わたしは腹から腸を垂らし、胸の前にしっかと手を組んで、御祈りしている中空に浮かび上がった彼の像と、中空に浮かび上がった一つの根を垂らし自転する不思議な像とが一つとなるimageを、確かに現(うつつ)に近い次元空間のなかに観たのである。
彼はほんとうに酷(むご)い死に様であった為、神は彼の最期の様子と形象を一つの星として造形し、彼の傷みを慰めようとしたのではないか。
彼はきっと今でもなお、祈り続けているに違いない。
一つの器官を垂らし、目を幼なごのように瞑ってくるくると静かに何もない空間を自転しながら。














列車を待つ。

2018-04-20 19:37:17 | 
睡眠薬一瓶を、70℃のアブサンで飲み干し、線路上にて、転た寝をする。
時間は宵も過ぎた、七時半過ぎ。
虫の音は、天のみ遣いたちの子守唄。
草の先は、わたしの頬を母のように懇ろに撫で、肌寒い風は火照った躰を冷ます。
想い遺すことのないこの世は、なんと清々しい。
もうすぐわたしを迎えに来てくれる列車には、懐かしい愛する人たちが乗っている。
わたしもその列車に、やっと乗れるときが来た。
列車はわたしに到着するために、迎えに遣って来る。
眠るわたしを、父と母は、どうじに起こす。
列車はわたしに停まると、もう何処へも行かない。
終着し、共に列車のなかに、身を横たえる。
わたしたちは、ひとつの列車であったことを想いだし、やっと、本当の安らぎのなか、鼓動を忘れ、深い深い眠りに就く。
引き裂かれ、跡形もなくした古い乗り物からわたしは降りて無垢となり、ひとつの列車を今夜も、線路上にて待つ。