タマ対トラ

 曲がり角の向こうから、猫のにゃあ、にゃあと鳴く声が聞こえてきたので、誰が鳴いているのだろうと思ったら、次には、ギャーッというけんかの声と同時に、道が曲がって消えていくその先から、かきむしられた毛の塊がふわふわとたくさん風に乗って飛んできたので、あわてて生垣の角の向こうへ駆けつけたら、ちょうど私の足音を聞いて、取っ組み合っていたタマとトラが分かれたところらしく、トラはそのまま、まっすぐな小道を駆け足で逃げて行った。
 タマはと言えば、すっかり怖気づいてしまい、実家の塀の上に駆け上って、やっぱりけんかの声を聞いて家の中から飛び出してきた父がいくらなだめても、なかなか降りてこなかった。飛び散った毛の模様を見てみたら、タマの白と茶色が混じった毛のようであった。
 少し前から、外猫用のえさを大きな茶トラの雄が食べに来るようになって、タマとしょっちゅう衝突するようになっていた。タマは弱いから、体のあちこちにけんかの傷を作ってくる。今までのように、家の中でずっと寝ていればいいのだが、縄張り意識があるのだろう、引き止めてみても、にゃあにゃあ鳴いて、外へ見回りに出て行く。負けるとわかっていてもトラに立ち向かっていく、そんなタマのうしろ姿は、今まで食べて寝るだけだったタマの株をちょっと持ち上げた。
 あるときは、けんかをして帰ってきたタマの首輪がなくなっていた。首輪のあった場所には、新しい引っ掻き傷が出来ていたから、トラにとられたらしかった。今頃、トラがタマのピンク色の首輪をつけてるんじゃないかなどと冗談を言って笑ったけれど、いつかタマが追い出されてしまうようなことがあっては困るから、トラにはかわいそうだけれど、余分に外猫用のえさを置くのはやめにしようかという話になった。
 その後、外へ出て行ったタマが一晩帰ってこなくて心配したりしたのだけれど、あるときを境に、急にタマは外回りをやめてしまった。トラとのあいだで決着がついたようであった。弱いなりにも縄張りを守って、駄猫の汚名を返上したタマだけど、もうすっかり以前のタマに戻って、ほぼ一日中、家の中でごろごろしている。そんなやる気のないタマに、父も母もひと安心である。
 ただ、この前の雨の夜に、トラがずぶ濡れになりながら、外の皿に残った十粒ほどのキャットフードを食べに来ていたらしく、タマの敵とはいえその姿がかわいそうで、今度はこちらを心配して、どこかタマと争わないところに、えさを出しておこうかと協議している。


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