ジュズダマ

 家の近くを流れる疏水の両岸には、桜並木とつつじのほかにも、紫陽花、クチナシ、オシロイバナ、秋になったら「くっつき虫」にして遊ぶ種をつける草、ツユクサ、そのほか見たことがあるけれど名前を知らないたくさんの草花が所狭しと生い茂っている。
 その中にジュズダマが生えていないかと、ここに引っ越してきた頃から、私は疏水の横を通るたびに、目を凝らして草木のあいだを探していた。水辺に生える植物だから、疏水はいかにもジュズダマが生えていそうな雰囲気なのである。
 ジュズダマはイネ科の植物で、硬いビーズのような実ができる。実の中心を通っている芯を取り除いたら穴ができるから、本当にビーズみたいである。昔、実家のそばの、田んぼと小川のあいだの小さな土手に生えていた。秋に茶色く色づいた実を取って、糸を通し、母に首飾りを作ってもらった。その土手には、今はもうジュズダマは生えていなくて、彼岸花だけが、赤く咲いている。
 うちの子供は男の子だから、ビーズ遊びなんかしないと思うけれど(いや、まだ幼稚園児であまり男女差がないから、面白がってやるかもしれない)、どんぐりを拾って集めたりするのが好きだから、きっと喜ぶと思う。何より、私自身が懐かしくって、もう一度ジュズダマの小さな粒粒を取ってみたい。
 そう思って、疏水沿いを歩いていたら、このあいだ、とうとう見つけた。毎日のように通っているのにどうして今まで気づかなかったのだろうと思うくらい、大きくて立派なジュズダマだ。大人の背くらいの高さがあって、ひょろひょろした葉のあいだに、黒っぽい実がなっているのが見えたが、生えている場所が悪かった。疏水のちょうど真ん中の水の中で、もちろんどちらの岸からも届かない。取ろうと思ったら、急な土手を下りていって、水の中に入っていかなければならない。
 いつか、長靴を履いていって、取りに下りようと思うのだけれど、いまだ果たせていない。きょうも、まだ実がついているのを確認しながら、指をくわえてジュズダマの横を通った。
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