猫、タヌキ、アライグマ

 私の実家でも猫を飼っているが、猫のほかにも、家の周りをうろうろしている動物がいる。
 まずはタヌキ。山も家から遠くないけど、家の裏の休耕地になった畑に住んでいるらしく、ときどき庭に姿を現す。今年の夏の、風が少し爽やかだった日に、次男を抱っこしてベランダに出ていたら、庭の芝生の上にタヌキが寝そべっているのが見えた。こちらに気づいているのかいないのか、敏感な野生動物のことだから気づいているのだろうけれど、顔を向こうに向けたまま、じっとしている。ためしに「タヌキ」と呼んでみたが、振り向きもしないし、猫がよくするように耳さえも動かさない。置物みたいに固まっている。それまでのタヌキにまつわる話を聞くと、割合警戒心が強いようなのに、耳が遠いのかしらとか、逃げたいけれど、二階から注目されて怖くて動けないのかなとか、いろいろ向こうを向いたまま微動だにしないタヌキの心情を推し量ってみたが、当然わかるわけもないから、そのうち根負けして、部屋に入ってしまった。
 それから、アライグマである。こちらは、一度父が夜に、タヌキよりひとまわり大きなシルエットと縞縞の太い尻尾を見たくらいで、あとは痕跡ばかりである。外猫用の水が毎朝汚れているのは、アライグマが夜中に何かを洗っているのだろう。庭のホースが引っ張られていたり、庭履きのサンダルがあちこちに転がって、爪のあとが残っていたりする。
 このあいだの晩、実家にいたら、父が、「隣の○○さんとこのあいだを、何かががさがさ動いている」と言った。母が、タヌキじゃないの、と聞くと、もう少し小さい感じだと言うので、じゃあ外猫のペロンちゃんでは、と言うと、ペロンだったら出てくるはずだと言う。
 その話はそれで終わったのだけれど、家に帰るとき、私が玄関の扉を開けたら、庭の中ほどから、何か黒っぽくて少し小さいものが、すごい勢いで門の外へ走って出て行った。あんまり慌てたので、門のすき間にからだをぶつけたらしく、大きな音がした。
 たぶんタヌキだろうと父は言う。翌朝庭に落ちた柿の実がきれいになくなっていたらしいけれど、あの黒い小柄なからだと、そそっかしい動き、私は黒い子猫じゃなかったかしらと、ちょっと期待を持って考えている。
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