コバケン(小林研一郎)のマーラーというと、脂っこい熱烈なマーラー演奏であることは容易に想像がつく。朝比奈隆が他界した後、新たな音楽を求めてコバケンに聴き入り、数々の演奏会に足を運んだ身としては、当たり前の話なのだが、今日のマーラーは、いずれの体験をも飛び越えていき、思いのほか充実した時間を持つ事ができた。
「炎のコバケン」と言われて随分と時間が経つが、やはり彼の演奏会は一種独特だ。好き嫌いがはっきり分かれる部類のもの。アントンKにとっては、当然好きな内容だ。彼が作曲家を志していたことにも起因することだろうが、楽曲の解釈において、主義主張が激しく、そういった意味では独自性が物凄く高い。だから、好みが合うかということが重要になってくる。彼は、どちらかというと、レパートリーは少なく決まった楽曲を繰り返し演奏して行くタイプ。そしてやはり彼の演奏は、CDなどの録音で聴くよりも、実演で接した方が何百倍も心に伝わってくる。それはコバケンが即興性が高く、自分の気分が乗ってくると、会場全体が彼の炎に包まれたように燃え始めるからだ。こういった演奏だから、聴衆も選ぶだろうし、楽曲もまた選ばれてしまう。アントンKのよく聴くブルックナーなどは、この手の演奏には合わず、今までも??という事がままあった。しかし、ロシアもの、特にチャイコフスキーなどは、定番通りベストマッチだと断言できる。
さてコバケンのマーラーは如何なものか?
今までは、第1~第3・第5・第8と全てのシンフォニーではないが実演に触れてきた。特に第1や第5における解釈、情熱は好みであり、何度聴いても惚れ惚れしてしまうが、今日の第2番「復活」も過去の経験から言えば、熱い内容で好みであった。今から12年前に今日と同じ組み合わせで、第2を聴いているが、今日の演奏は、それよりもさらに音楽が大きく、深くなっていることがわかった。曲の解釈それ自体は、あまり変化はみられないが、細かいところを言うと、各パートのニュアンスや表情までコバケンの匂いがして、より譜面を深く読み込んでいるのがわかる。スケルツオにおける木管楽器の強調や、第4楽章の歌手とオーボエの対話が特に印象に残る。そして何と言っても終楽章の取り分けコーラスがピアニッシモで入ってくるところからの展開が絶品であり、鳥肌が立ちっぱなしであった。ここでは、金管楽器群、特にトロンボーンのトップ奏者の好演が目立ち、コーラスに合わせて低音部をしっかりと支え、かつ頂点を目指すコバケンの大きな溜めにもしっかりとついていき、どこまで楽曲が大きくなるのか少し怖くなったほど。オルガンとの合奏部分は、以前の演奏より、さらにテンポは遅くなり、力づくの箇所も皆無で心から感動出来たことが幸いであった。
こういった演奏会のあとは、とても幸福感に満たされるが、それと同時に疲労感も襲いかかり、抜け殻になったようでもう何もしたくなくなってしまう。今日のこの演奏を明日への糧にして・・・、とコバケン自身が話をしていたが、今日の響きを誇りに想い、自分自身に展開できたら有難いものだ。
添付写真は、12年前の演奏のCD化されたもの。
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2014(H26)-11-01 東京:サントリーホール
マーラー 交響曲第2番「復活」 ハ短調
小林研一郎 指揮
日本フィルハーモニー交響楽団
ソプラノ 市原 愛
アルト 山下牧子
合唱 東京音楽大学