アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

渾身の「レニングラード」~井上 道義

2024-11-20 21:00:00 | 音楽/芸術
 ミッチーことマエストロ井上道義は、今年で現役引退を宣言しているが、いよいよ押し迫ってきた今週、新日本フィルとの最後の公演を鑑賞してきた。ベートヴェン、ブルックナーを始めとしたドイツものを中心に長年鑑賞してきたが、最後は井上氏の十八番とも言うべきショスタコーヴィッチ、それも最も過激に感じる第7交響曲となった。
 演奏そのものの感想は、やはり想像していた通り凄いものがあり、全身全霊で楽曲に向かう姿勢に感動すらしたが、何より指揮者、オーケストラの意思疎通が完璧と言えるほど一つになっていて、集中力が目に見えるようで、聴衆にもそれがビンビン伝わってきた。楽曲の出だしからオケの鳴りが良く、すぐに引き込まれたが、全体を通して精神的な気高さは一貫していたように思う。約80分の長い楽曲も、あっという間に感じるくらい心を持っていかれていたアントンKだったが、最後の音が消えて、終演した時の井上氏とコンマス崔氏との安堵の表情が良かった。長い年月をともにして、ここにやり終えたというような安堵の表情が忘れられない。この演奏会は、普段とは違う空気が流れていたように思えるのである。
 マエストロ井上道義氏、昔と何ら変わらずお元気で、お茶目な身振りも相変わらずで楽しい。これぞエンターテイナーそのものなのだが、おそらく来年からも何か自分の中でお考えがあるのだろう。きっと我々ファンを喜ばせる何かを持って再び現れるのではないか。期待して待つことにしたい。
 
第659回 新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会
ショスタコーヴィチ 交響曲第7番 ハ長調 OP60  「レニングラード」
 
指揮   井上 道義
コンマス 崔 文洙・伝田 正秀

2024年11月18日 東京サントリーホール



兵庫でマーラーを聴く新たな人生~カーチュン「悲劇的」

2024-11-14 13:00:00 | 音楽/芸術
 アントンKが今注目している指揮者カーチュン・ウォンがマーラーを振るというので、勢いに任せて兵庫まで足を運んできた。管弦楽は、兵庫芸術文化センター管弦楽団といって、この文化センターのホール開設に合わせて出来たオーケストラで、アントンKも過去東京遠征公演に出向き鑑賞した覚えがある。
 さて、今回は定期演奏会ではマーラー第6交響曲一曲のみが演奏され、3日間連続しての演奏スケジュールだった。(2024-11-8~9~10)アントンKは、スケジュールの都合から最終日を選び鑑賞したが、結論から言ってしまえば、新進気鋭の若手中心のオケではあるものの、やはりこの大曲を3日間続けることの厳しさは聞き手に伝わってきてしまった。90分にわたるドラマは、全体的には指揮者の意図が明確にオケに届いていたと思われるが、時に緊張がほぐれる場面、力づくになってしまう場面に遭遇したのである。特に第4楽章でのパフォーマンスは、この楽曲の鑑賞においては避けて通れない訳だが、fffが汚く音楽的でないため耳にうるさく感じてしまった。もちろんハンマーを打ち鳴らすポイントでは、舞台奥にひな壇を作り、豪快に鳴らしていたが、それに負けじと金管楽器郡がこれでもかと轟音を掻き立てていたのである。座席による差があるかもしれないが(2F正面)、結構響きはデットで残響が短く感じ、オケの鳴りは必要以上に思えたのである。
 指揮者カーチュン・ウォンにとって、今回の第6交響曲は初めてとのこと、譜面こそ置いていたが堂々と自信に満ちた表現は、聴衆を圧倒し楽曲の確信に触れていたように思うが、今回の演奏で云々いうことはせず、前日や初日の演奏の方がさらに理想的だったに違いないと思いたい。昨年の第5に続けて3回目の兵庫芸術文化センター管の定期演奏会だったらしいが、日フィルとの音作りがあまりにも良かったため、少し落胆を隠せないでいる。今後はさらに新たな演奏を聴かせてくれると信じて新幹線に乗った。
 思えば、マーラーを聴きに関西まで行くなんて今までになかったことで、時代は移りつつあることを実感した次第。関西と言えば、ブルックナーというくらい、アントンKには根付いてしまっているが、生誕200年の年に新たな気持ちになるのも何かの縁を感じている。
  第155回 兵庫芸術文化センター管弦楽団定期演奏会
 マーラー  交響曲第6番 イ短調 「悲劇的」
 指揮 カーチュン・ウォン
 
2024-11-10     兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

CDに聴くカーチュン・ウォンのマーラー

2024-10-22 21:00:00 | 音楽/芸術
 この夏から話題にしているカーチュン・ウォンという若手指揮者。シンガポール出身でまだ30代だから、指揮者界でなくても若手となるだろう。世間の評価に踊らされて、一度彼のブルックナーを鑑賞するためホールに足を運んだのが運の尽き。予定には無かった半月後に演奏されるチャイコフスキーまで聴いてきた。そして来月は関西で演奏されるマーラーに行こうとチケットを手に入れたのである。
 長年音楽鑑賞をしてきて、ここまで聴いてみたい衝動に駆られる音楽家は、指揮者界で括れば、かつて音楽の道しるべとしてきた朝比奈隆以来のことかもしれない。
 彼の指揮で楽曲を聴くと、それまでアントンKの中に積み上げてきた楽曲のイメージが、さらに広がりを見せ、新たな発見、響きの世界を提示してくれるのだった。一言で言えば、実に面白い演奏なのである。たとえば、今回生演奏で聴いた楽曲は、録音も含めれば何十何百と聴いてきた楽曲のはずだが、まだ耳にしたことがないパッセージが全身に届き、そのたびにチキンスキン(鳥肌)がたち身体に電気が走る。なかなか出会えない演奏なのである。経歴を調べてみると、2016年にマーラー国際指揮者コンクールで優勝とあったので、やはり彼自身においてもマーラーの作品は特別な存在のはずで、是非ともカーチュンのマーラーには触れておきたいと思った次第。来月は関西に出向いてマーラー(第6交響曲「悲劇的」)を鑑賞してこようと思っている。
 その下調べではないが、今回同じマーラーでも第5交響曲のCDを手に入れて立て続けに毎日聴いている。2年前の定演のライブ録音のようだが、やはりアントンKがバーンスタイン、テンシュテット、インバル、そして若杉などで積み上げてきた第5の演奏とは、一味ともふた味とも違い、実に面白く新しい発見が多い。オケが日本フィルで、この録音では演奏が荒い箇所もあるが、そんな微々たることなど問題にならないくらい大きな演奏内容に感じている。緩急の自由度は凄まじく、グリッサンドの強調は聴いたことがなく、聴いているアントンKが燃えてくる。特に第二楽章後半の極端にブレーキをかけた後のTrbの雄叫びは聴いたことがない。そして何より感動的なのは、ロンドフィナーレのコーダの部分で、テンポを大きく動かして巨大な響きを構築しており、長年アントンKの理想としていた演奏がここにあったのだ。
 いずれ来月の演奏会も書き留めておくつもりだが、来年に向けてさらにどんなレパートリーを聴かせてくれるのか楽しみでならない。


カーチュン・ウォン~新時代のチャイコフスキー

2024-09-21 21:00:00 | 音楽/芸術
 相変わらず蒸し暑い東京から横浜みなとみらいへと急ぐ。先々週に続いて、話題の指揮者カーチュン・ウォンの演奏会に行くためだ。前回のブルックナーを鑑賞して思ったのは、アントンKがもう40年以上ブルックナーの交響曲に触れてきた中とは別の、今まで積み重ねてきた鑑賞の良し悪しを根底から覆すというか、全く新しい感覚が生まれ、今までこれぞブルックナートーンとしてきた響きそのものが、新しく生まれ変わったような発見が散見できたということだ。当日の演奏は、もちろん素晴らしいものだったが、同時にこの指揮者で色々他の楽曲を鑑賞してみたいという衝動に駆られたのである。今まで散々聴いてきた楽曲でも、新たな世界へと導いてくれる気がしたのである。クラシック音楽の醍醐味は、まさにその演奏行為によるものであり、何十何百と繰り返し聴いてきたお馴染みの楽曲であっても、新しい光が射し、新たな発見が生まれることにあるからなのだ。
 今回のメインプロは、チャイコフスキーの第4交響曲だったが、まさにアントンKの感が的中し、なかなか聴くことが出来ない演奏に巡り合ったのであった。冒頭のHrn四重奏からして、極端に重厚明解な重奏でホールを満たし、少しずつテンポを揺らしてTrpへ引き継ぐなど、最初から聴き所に溢れていたと言える。主部に入ってからも意欲的な解釈は新鮮だったが、どこかオケが荒く、指揮者に着くことだけに必死になっているので、時に響きが固く鋭角的に聴こえてしまった。それでも、弦楽器群の主張は流石で、明確な指揮者の要求を満たしているように聴いていた。ピッチカートの鋭い主張の要求は、その最たるもので、もちろん第3楽章での妙技には聴いていて圧倒された。フィナーレのコーダ前、TmpのトレモロがPPで始まり、音楽が膨れ上がって来る過程での、低弦の刻みは、今まで聴いたことがなく、一音ごとに大きくなる刻みは恐怖さえ感じるくらい。まるで別の楽曲を聴いているかのようだったのだ。そして順番が逆になったが、前半に演奏されたゲルハルト・オピッツのブラームスの第2コンチェルトは、ドイツ正統派のお手本とでも言うべき演奏で、その響きの中に安心して身を置くことが出来たが、個人的には、この第2はもっと雄大でゴツゴツしたイメージを持っていたためか、全体的にピアノの響きが物足りず、それに合わせたオケの響きも今一つに感じてしまった。きっと指揮者カーチュンがかなりソリストオピッツに合わせた結果なのではないだろうか。そんな印象を持った。
 やはりこのカーチュン・ウォンという指揮者は、単なる若い新人指揮者だけでは済まされない独特の個性を備えていると感じている。まだ、ブルックナーの第9と、チャイコフスキーの第4しか聴いていないが、今後マーラーはもちろんのこと、ベートーヴェンなどの熟知された楽曲をどのように演奏するのか、とても興味をもった次第。今後ますますに楽しみになってきた。

日本フィルハーモニー交響楽団 第400回横浜定期演奏会
ブラームス ピアノ協奏曲第2番
チャイコフスキー 交響曲第4番 ヘ短調

指揮        カーチュン・ウォン
ピアノ  ゲルハルト・オピッツ
コンマス 田野倉 雅秋

2024年9月21日 横浜みなとみらいホール
 


話題の二つの公演へ~ブルックナー生誕200年

2024-09-09 09:00:00 | 音楽/芸術
 今年2024年は、A.ブルックナー生誕200年に当たる年で、世界中でブルックナーの演奏会が多く開催されている。日本でも近年比較的落ち着いてきていたブルックナー演奏も、今年はいつになくたくさん取り上げられていて、アントンKも嬉しい悲鳴を上げている。
 ここでは、今月になって聴きに行った中から注目すべき演奏会を備忘録も兼ねて記述しておく。
 まず高関 健氏のブルックナー第8交響曲の第一稿の演奏会。彼の演奏会は前回ちょうどコロナ真っ只中の4年前だった。高関のブルックナーは、この時も第8番を鑑賞したが、今回は新全集版を使用した同じ第8でも第一稿で演奏されるとのこと。ホークショー校訂版の演奏で、今回がおそらく世界初の演奏らしい。第8の第一稿そのものは、今の時代珍しい楽曲ではなく、一般的な第二稿よりは演奏回数が少ないだけで、CD録音も複数発売されているし聴く気になればいつでも鑑賞できるが、今回の新全集でどんな差異があるのかが聴きどころになる。アントンKの印象では、譜面を見ていないので何とも言えないところだが、細かなアクセントやボーイングによる差異は聴けたが、おおよそ今までの第一稿と変わりなかった。知らないフレーズや新たな小節の追加はおそらく無いと思われる。演奏そのものも、オケの東京シティフィルが大健闘しており、記録性の高いこの演奏会にきっちり付いて来ていた印象を持った。ただブルックナー演奏という観点からの印象となると、少し感想は異なってくる。音色や響きそのものが楽譜から離れず、まとまりはよいがスケールが小さく箱庭的な音楽に聴こえてしまう。情熱的な部分、枯れて切ない部分が聴こえないのだ。高関氏独自のブルックナー解釈は、とても分かりやすい演奏だが、そこまでに留まってしまい、アントンKにとってはずいぶんと薄味に感じてしまうのだ。常に譜面を探求して、その当時の歴史を紐解き、数々の演奏記録にまで踏み込んで研究を重ねている高関氏だが、誰よりも楽曲の背景を理解していても、必ずしも感動的な演奏には結びつかないことを今回再確認した気分なのである。
 そしてもう一つの演奏会、シンガポール出身の若手指揮者カーチュン・ウォンのブルックナーの第9交響曲だ。

カーチュンは2016年にマーラー国際指揮者コンクールで優勝して以来、急速に頭角を表してきたらしく、今や日本フィルの常任指揮者に任命されている。アントンKも雑誌やSNS等で、その存在は認知していたが、なかなか演奏に触れる機会がなく、今回のブルックナーが初の味見となった訳だ。
 で、その演奏だが、アントンKにとっては強烈なブルックナー演奏だった。プログラムが第9交響曲のみというのも気に入ってホールへ向かったが、舞台に現れてからの集中力が凄まじい。オーラとまでは言わないが、カーチュンから発せられる気が聴衆を包み込んでいることが解るくらい。指揮台に上がってから指揮棒を下ろすまでの間がここまで長いのはいつ以来だろうか。ホール内の音を無にしてから、PPで弦楽器が入って緊張の度合いが半端ない。アントンKにも久々の感覚だった。そして出てきたHrnの雄叫びといったら想像を絶し、ウィーンフィルかと聞き間違うくらいの分厚い響きをブチかましたのである。感心したのは、ただ分厚い大きい響きというだけではなく、常に弦楽器をはじめ、特にベースを基本に重心が低く、音色がバランスされているので、響きが飽和しないことだった。テンポは遅く、オケの各声部が明確な主張をもって音色を作り上げている。特にアントンKには、1mov.の第二主題が印象的であり、かつてのシューリヒト=VPO盤を思い起こさせた。カーチュン自身の指揮ぶりも印象的で、何をどうしたいのか明確に大袈裟にジェスチャーするので、見ているだけでも引き込まれてしまうのだ。スケルツォでの集中と爆発。アダージョでの隔世観。特に後半の不協和音後のパウゼの長さ。カーチュンはすでにブルックナーをも手の内にしているのかもしれない。日本フィルも大健闘であり、こんなに響くオケだったか?とイメージが変わるほど。
 とにかくまだお若い(1986年生まれ)カーチュン・ウォンという指揮者だが、アントンK自身衝撃を未だに受けている状態が続いている。彼の指揮でまた別の楽曲を鑑賞したいが、こんな気持ちにさせてくれる指揮者っていつ以来だろうと嬉しい気持ちで一杯になっている。

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 NO.372定期演奏会
 ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調(第一稿・ホークショー校訂版)
指揮   高関 健
コンマス 戸澤 哲夫
2024年9月6日 東京オペラシティコンサートホール

日本フィルハーモニー交響楽団 NO.763 東京定期演奏会
 ブルックナー 交響曲第9番 ニ短調 
指揮   カーチュン・ウォン
コンマス ロベルト・ルイジ
2024年9月7日 サントリーホール