この週末、台風が日本列島を縦断する。今年何度目だろうか。せっかく山陽本線の不通区間も開通の運びとなり、10月を迎えようとした矢先のこと。とにかく新たな災害が再び発生しないことを祈るほかはない。
この天候のおかげで撮影計画がキャンセルとなり、それならばと急遽気になっていた演奏会に足を向けた。いつもの新日本フィルだが、定期演奏会とは一味違った名曲コンサートである。いわゆるクラシック音楽の中でも、一般受けする有名な楽曲が並んだ演奏会。誰でも学校の授業で聴き、TVやスポーツ競技などで耳にしたことのある楽曲ばかり。アントンKも同じで、普段は中々演奏会では出会えない楽曲だった。それこそ、音楽に興味が沸いた中学生時代にレコードに針を落としていた楽曲で懐かしくもある。たまにアマオケの演奏会でも取り上げられ、偶然出会うこともあった。今回の新日本フィルの演奏は、各パートの雄弁さが一層際立ち、今まで積み上げてきた技術力の総決算というべき素晴らしい音色で聴衆に迫ってきた。
前半は、メンデルスゾーンの序曲と、ヴァイオリン協奏曲が奏され、後半はビゼーのカルメン組曲というプログラム。メンデルスゾーンは、緻密な弦楽器の刻みが遠くから近づき、それに続く管楽器群のデリケートな味わいには思いもよらず驚嘆した。続くヴァイオリン協奏曲では、新進気鋭のヴァイオリニストをしっかり支えながらも、随所にオケの光を見た思い。そして後半のカルメン組曲で、それらが本物であることに気が付かされたのだった。ソロパートの多発するこの楽曲において、木管金管の音色のニュアンス、響きの美しさは例えようがない。もちろんコンマス崔文洙氏のヴァイオリンの音色は、いつも以上に情熱的に響き、これを聴いただけでも来た甲斐があったというものだ。ホールにほとんど残響がなく、響きを聴くにはかなり不利になり、細かい音の粗が見えてしまいがちだが、この演奏では粗どころか、全強奏でも響きに統一感があるとでもいうか、ピッチが決まっていたように思う。いやはや、この新日本フィルも上岡敏之氏を音楽監督に迎え、鍛え上げられてきた成果が表れ始めているのだろう。願わくば、アントンKはオケの音色を聴いただけで解るようなオーケストラを望みたいが、今後も大いに期待していきたいところである。
今回の演奏会で唯一残念だったのは、指揮者大友直人氏の演奏解釈だった。昔聴いた印象と何ら変わらず、いったい何が言いたいのか、どう聴かせたいのかが、演奏から伝わらなかったのだ。まるで教科書通りの演奏、奇手を狙わず当たり障りのない解釈とでも言おうか。あのカルメン組曲をもってしても体温が上がらず、平静を装った内容のように思えたのである。音楽会の楽しみの一つは、一期一会の演奏の中で、何が起こるかわからないスリリングな冒険も必要なのではないのか。これではオーケストラの能力を最大限に生かせていないと思えてしまう。宝の持ち腐れに思えてならないのだ。初めて大友氏を聴いてから20年以上は経っているが、演奏に求めるものが全く違いご縁が無いのかもしれない。音楽とは自己表現でもあるはずなのに・・
新日本フィルハーモニー交響楽団 オータムコンサート
メンデルスゾーン 劇付随音楽「夏の夜の夢」序曲 ホ長調
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
ビゼー 歌劇「カルメン」組曲 第1番、第2番
指揮 大友直人
Vn 荒井 里桜
コンマス 崔 文洙
2018-09-30 なかのZERO大ホール