前音楽監督だった上岡敏之氏が新日本フィルに帰ってきた。コロナ禍で海外からの渡航に制限がかかってから数年が経つが、ようやく最近になって海外オーケストラの来日も相次いで行われる状況に変わった。上岡氏もそんな影響を諸に受けてしまったお一人なのだろう。スケジュールが白紙となり、ファンとしてもどこか尻切れトンボの感が拭えないでいた。でも、こうして今回新日本フィルの指揮台に立つマエストロが見られる幸せをアントンKもしみじみ感じたのであった。
今回の演奏会は、モーツァルトとベートーヴェンのコンチェルトが並び、後半のメインがブラームスの第2交響曲というゴージャスな内容であり、現状のアントンKには少々刺激が強すぎるか、と感じながらの錦糸町訪問と相成った。
さて、今回の演奏会の感想を書き残せば、一番の印象は指揮者とオーストラ、そして我々聴衆との一体感がそこここで感じられたことであろう。楽曲が進むにつれ、その印象は増していったし、プレーヤーもそれを感じたのか、終演後のやり切ったという笑顔が見られ、拍手が止まず指揮者上岡氏を再び呼び戻した聴衆の熱い想いが感じられた演奏会になったのである。
コンチェルトのソロパート人も素晴らしい演奏で、フルートとハープの響きがあそこまで美しいと思わず、ハープがメロディを奏でてオケに伝える個所などは絶品に思えた。ピアノコンチェルトは、田部京子らしい繊細な音色の連続であり、スケールは小さいが響きを大切にしたガラス細工のようなベートーヴェンに感じた。
そして後半のブラームスでは、いよいよ指揮者上岡氏の独壇場となったのである。全楽章に渡り彼の上岡節と言われる独自性が見て取れ、ある程度予想して挑むアントンKをいとも簡単に飛び越してしまうのだから、とにかく鑑賞していて楽しいのである。第一楽章で言えば、VlaとVcに出る第二主題の扱いに舌を巻いた。主題後半の下降音形のスラーを無視して、同じく記載されているテヌートで奏していたのである。こうすることで、ただでさえ哀愁漂うブラームスの世界がより際立って現れて、アントンKには初体験となったのだ。この奏法は、この後どの楽器でも一貫していて、まるで違う雰囲気の違いにアントンKは驚嘆した。楽章が進むごとに、指揮者の感情や深い想いがオケの音色に乗り移っていったかのように、激情したかと思えば、暖かな光が溢れ出すようなスケールの大きな演奏になり、ついに終楽章を迎えたのであった。ここでの指揮者上岡氏は、感情むき出しでオーケストラを煽りまくり、コーダまで突っ走った。その熱量たるや尋常ではなく、オケとの激しい対話もここにいる全てを包み込んでしまうくらいの熱量を以って終結部を迎えたのであった。ここには、自宅で冷静に配信などで聴くような音楽は無く、(実際生中継されていたと聞いている)、一期一会の「音楽魂」が我が身に降りかかった気持ちになったのだ。
もちろん、今日のコンマスも崔文洙氏。その音楽に向かうエネルギーたるや目を見張るものが常にあり、毎度勇気を享受しているのである。この数ヵ月の間も、彼の音楽を絶えず聴きどんなに癒され勇気を貰ってきたことか・・・そしてこの日の熱演ぶりもアントンKの心に響きわたったのであった。
新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉
モーツァルト フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K299
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番 ト長調 OP58
ブラームス 交響曲第2番 ニ長調 OP73
指揮 上岡 敏之
フルート 上野 星矢
ハープ 山宮 るり子
ピアノ 田部 京子
コンマス 崔 文洙・伝田 正秀
2022年10月15日 すみだトリフォニーホール